12,魔界孤児たち(妖狐属、キクコの場合)+智天級冒険者と銀髪
孤児院。職員室。
「がー!!またまけた!!!」
マオーが大量のトランプカードともにテーブルに突っ伏せる。
「おほほほ!マオーは相変わらずゲームセンス皆無ねえ。じゃあ今日も料理係はマオーね!」
相変わらず色っぽい服装で見えてしまいそうなミニスカートで足を組み、マオーを見下すヴァニラ。
「はーあ、まあーしゃーない」
トランプをかたし、職員室を後にする。言葉とは裏腹に動きは軽快だった。
孤児院の仕事は魔界孤児の教育や世話。牧場や畑の経営と寄宿舎の維持だ。経営者であるマオーは
元々この仕事が好きでやっているので、孤児院経営の一つである料理は別に苦ではないし、むしろ
望むところであった。
それでもあえてヴァニラとゲームで料理係を決めているのは、単純に戯れであることと、あともう一つ。
ヴァニラはマオーが冒険者として活動している間、代わりに孤児院経営を行っている。
と言ってもヴァニラの場合、使い魔を召喚して代わりにやってもらうので自分が働くことはない。
つまりマオーがいてもいなくてもヴァニラは特に何もなく遊んでいるだけである。
ただ、最近は孤児たちに修行をつけているらしいが。
炊事場。
気合を入れつつ、入場するともうすでに先客がいた。
「あ、今日もご主人ですか?はずれですねえ、あはっ」
入場するなり、ずいぶんなご挨拶をされた。随分な挨拶ではあったが笑顔でいる先客。
白い割烹着を着ていて、全体的に和風テイスト。金髪の足先まで届く超ロング。炊事場だからか
三角巾を頭に巻いて、そこのサイドから大きい獣耳がはみ出している。
そして何より目立つのが金色のもふもふとした大きな尻尾。それも3本。
背が天板に届かないので踏み台にちょこんと立っており大変可愛らしい。
振り向いた無邪気な笑顔は大変に素敵でかすかに見える八重歯とも牙ともいえるものが
可愛さを増長させる。
この子の名はキクコ
「だからご主人って呼ぶのはやめなさいって言ってるだろうに。それとはずれっていうな。
俺だって傷つくんだよ一応」
キクコの頭をぽんぽんとなで、流し台で手を洗い出すマオー。
「でもご主人だし、それに私的にはあたりですよ?」
うふふと子供のわりに上品に笑う。
キクコがマオーをご主人というのは種族特性があった。
キクコは妖狐である。
妖狐は主従関係に重きを置く種族であり、拾われた上に養ってくれているマオーはキクコにとって
ご主人様と言える。最初ご主人様と呼んでいたが、マオーに流石に本気でやめてくれといわれ
悲しそうにご主人と様なしで呼ぶようになった。まあ種族本能によるものなので、しかたない
ところもある。とはいえご主人様と呼ばれる(しかもこんな子供に)のはなんかすごい背徳感と
いうかやばい感じがすごい、なによりくすぐったすぎる。
だがしばらくの間ふさぎ込んでずっと悲しそうな表情でいたのがいたたまれなくなり、じゃあかわりに従者と
してマオー専属の料理補助をしてくれといったら。
ちぎれんばかりに尻尾を全力で振りながら、うれし泣きをしていた。今の上品な笑顔が嘘なほど崩れた笑顔だった。正直ドン引きしたマオーだったがまあそういう種族なのだからと飲み込む。
その後、朝昼晩全てマオーが来る一時間以上前に炊事場にきて準備をしている。そのためマオーは予め献立をキクコに教える必要があった。しかしマオーは実際にある食材を見てから献立を考えるタイプだったしそれとそんなに早くきて下ごしらえしなくてもと言いかけたら、案の定絶望的なオーラを発したのですぐに取り下げた。
…まあ本人が望むなら仕方ない。
キクコがはずれといったのは、マオーの料理技術が普通だからである。いや普通だからいいのではないかと考えるのが通常だが、この場合比べる対象のレベルが段違いなのだ。
マオーがゲームに勝った場合、ヴァニラの召喚する使い魔が料理をするのだがこれがプロレベルなのだ。
理由として長年ヴァニラの下で従者的なことをしてたせいらしい。それが理由で食事の時間にあからさまに使い魔が作った料理の時だけ子供たちのテンションが高いのだ。しかもゲームでほぼマオーが負けるため使い魔の料理はレアリティがありより一層となるのだ。マオーの料理も決してまずいわけではなかったが差は歴然だった。最初マオーはショックだったがそれならそれで使い魔に料理番をしてもらおうと考え
ヴァニラにそれを言ったら
「追加料金取るわよ?」
と一蹴された。ただでさえ高い金で雇っているのでこれ以上は現状無理だ。
まあ、テンションが上がらないだけで普通にマオーの料理も食べてくれていたのでそこは子供たちの
優しさに感謝した。それとキクコがマオーの料理を手伝うようになってからというもの、比較的
に味が向上した。これも種族特性なのか、教えずとも淡々とそつなく作業するキクコはぐんぐん
料理の腕が上達していった。
今ではもうキクコがほぼメインでマオーがサポートというか、雑用をする感じである。
と、ここでマオーが雑談代わりに疑問を聞いてみる。
「キクコ。俺が冒険者業やっているときは使い魔がいつも飯作るんだろ?毎回離れる際に惜しんで
くれるのはうれしいけど、こと飯ってことだけ見れば悪くないよな」
毎度のことだがマオーが出稼ぎに行く際、漏れなく子供たちに止められる。無論本人たちも
無駄とわかっていても止めたくなるのだ。中には泣き出す子も少なくない。それはマオーにとっては
喜ばしいことだが、その反面いい加減少し慣れてほしい気持ちもあったがそれは贅沢な悩みというもの。
「そんなこと言わんでくださいな。みんなご主人にそばにいてほしいんですよ。あと使い魔さんが
毎日作ってるわけじゃないですよ。私と半々って感じかな?」
特大寸動鍋でぐつぐつスープを煮込み、お玉でそれをかき混ぜながら答えるキクコ。相変わらず子供ながら丁寧な言葉選びだ。それにしぐさも妙に大人っぽい。これも種族特性なのか。
「俺がいない間もキクコが作るときもあるのか。別に使い魔に任せていいんだけどな。一応ヴァニラには
給料払っているから、遠慮しなくていい」
マオーがキクコの隣で包丁でサラダ用の野菜を切りながら答える。
「ん~私が好きでやってますから。皆さんも別に私が作ったやつでもいいよと言ってくれてるし…あはっ」
また上品かつ可愛らしい笑顔をみせる。
鍋のスープがいい感じに煮あがり火を弱めるキクコ。ぴょんと踏み台から降り、棚から皿を取り出す。
「なんだったらずっとゲームに負けていいんですよー。ご主人とお料理、楽しいです♪」
機嫌よさそうにまた寸動鍋の前にぴょんとのり、スープを盛りつけ始めるキクコ。キクコが当たりと
いった理由は今の言葉通りであろう。
そんな上品で可愛らしいという不思議な両立を兼ねそえるキクコを見てマオーは思わず
「キクコは将来いいお嫁さんになるよ。俺が保証する」
と言ってしまう。
するとキクコは顔を真っ赤にして
「あ!あの!?主従同士は結婚はだめで…!!ああ…でもご主人には逆らえないから…ああ私はどうしたら」
といきなり慌てるキクコを見てあぶないと、アツアツのスープが盛られた皿をもった手を落とさないようにとさっと支えるマオー。
「…あ」
顔は真っ赤なままだが少し冷静になり
「…ごめんなさい。ご主人」
と謝るキクコ。
「?なにあやまってるんだ。急に変なこと言った俺が悪かった。ほら、スープは俺がよそうからキクコは
他のことをしてくれ。なーに、よそうだけなら俺だってキクコにまけんぜ?」
にいと笑いキクコの代わりにスープをよそい始めるマオー。
「…ご主人て他の子にもこういうこと言ってるんですか?」
赤い顔のまま、俯いて問うキクコ。
「こういうこと?別に?俺は思ったこと言ってるだけだ」
特に何ともないといった感じで答えるマオーをみて、大きく目を開いたキクコはそうかこんなかんじで
他の子も誑かしてるのかと思い
「…ご主人は女ったらしです」
と聞こえないようにつぶやいた。
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「今ダーフォンについたわ。ん?ええ、勿論依頼は達成したわよ。少し疲れたからここで一泊するわ。
じゃね」
ダーフォンの街の入り口。魔物対策のため大きな門がある。そこに独り言をする女が一人。
素人が見てもわかるほど高級な黒色ローブを纏い彼女の脇に開かれた魔術書が浮いている。黒いとんがり帽子を目深にかぶっている。
正確には独り言をしているのではなく、下位魔法『通信』にて離れた仲間と通信していたのだ。
魔術書がパタンと閉じると通信の魔法が切れる。
小柄でスレンダーなので少女と形容しそうになるが成人している。出で立ちからわかるように
彼女は魔術師だ。魔術書に魔法を込めるタイプ。
門の前で警備に止められる。
「すいませんが通行証を…」
めんどくさそうにローブから腕をだす。
「ん」
腕に巻かれた金色での螺旋腕輪が目に入る。ギルドと智天使型の刻印入りだ。
「!!?失礼しました!どうぞお通りください!」
慌てて敬礼する警備。それもそのはずでこの魔女の腕に巻かれた金色螺旋腕輪は智天級の冒険者の証。
つまりこの魔女は智天級の冒険者なのだ。ちなみに螺旋腕輪は証の一つであり、ネックレスタイプや
指輪タイプもある。どれにするかはその人の趣味となる。
これがあればほとんどの国はフリーパスである。それほど世界における智天級冒険者の力は広く認められている。
座天級以下ではこうはいかない。一般と同じく手続きが必要だ。ただ、座天や主天だと審査が通りやすい
またはスキップできる項目が増えたりする特典があった。
その他にも智天級は様々な面で優遇されており、座天級以下にとってあこがれの的だ。
(さて、久しぶりにきたしギルドの様子でも見てみるかしら?どうせ碌なのしかいないんだろうけど
まあ、掘り出し物ってこういうとこにかくれてるかもだし)
賑やかな街並みを楽しみながら歩いていたが、そういえば久しぶりなのでギルドの場所を忘れてしまった。
そこで辺りを見渡す。それなら冒険者っぽい奴に聞けばいい。シンプルな考えだった。
(…!見つけた!)
銀髪の青年。後ろ姿でスマートな体系だがしっかりとした大きめの背なので男だとわかる。
軽装で腰にショートソードを二本ぶら下げている。
恰好もそうだが、歩き方が一般人のそれではない。一見普通に歩いているだけに見えるが同業者だからこそわかる足運び。
魔女は青年を冒険者と確信し、声をかけた。
「ねえ!そこの銀髪の人!!」
そこそこ大きな声であったため青年以外の人も魔女に注目したが、銀髪ではなかったのですぐに喧騒にまぎれた。
目的の青年は立ち止まり周りを見渡し、自分以外に銀髪がいないことが分かり振り向いた。
魔女は青年に近づきながら言う。
「あなた、冒険者でしょ?ギルドまで案内してくない……!!?」
そう言いったあと魔女の表情が一気に強張った。
魔女の声で振り向いた銀髪の青年。恐ろしく冷たい表情をしていた。魔女は背が低めなので銀髪を若干見上げる形になるのだが、逆に若干見下ろす形になる銀髪。
その目は見下すといったものでもなく、単純に心の底から興味がないといった表情と目つき。
智天級の魔女であり天才の中の天才でもあった彼女は、羨望のまなざしで見られることはあってもこんな目で見られることはなかった。女としても顔つきは可愛い寄りの美人なのでどっちにしてもこんなことは
初めての事だった。
とはいえ。
いくら見たこともない冷たい表情をされたとしても、百戦錬磨である魔女が固まることはない。
ただ、この銀髪の表情は異質で、冷たい+人間味を感じない…言わば化け物が人間の皮をかぶってるかのように思えた。見た目だけでは美青年としかいえないが、智天級の冒険者の嗅覚がそれを感じさせた。
そんな魔女の様子を察したか、銀髪の冷たい顔が一瞬はっとした表情に変わり両手で自身の顔を
ぱちんとたたき、目を閉じてそしてゆっくりと開いた。するとさっきまでの表情が嘘のようにおだやかにかわり
「ああ、その通りですよ。しかし残念ながら今日僕はギルドに行く予定がないので…どうかしました?」
銀髪の返答に自分の表情が険しくなっていることに気付いた。魔女は慌てて表情を戻し
「なんでもないわ」
とこたえる。
「ああでも、案内はできませんがここからあと少しです。この道をまっすぐ歩いて突き当りを左に
曲がってあるけば看板があるのですぐわかりますよ」
銀髪は魔女の進むべき方向を指さした後、それじゃあこれで。と、この場を去ろうとする。
さっきまでと気配は大分変ったが、目の前の魔女には引き続きまったく興味がない感じなのはかわらない。
普通、魔女も魔導士としての恰好をしているので同じ冒険者なら多少は興味を持つものである。
しかも、高級な魔導士装備をしているにもかかわらず、そのうえ美少女なのに。
様々な感情が魔女に押し寄せ去ろうとする銀髪に思わず聞いてしまう。
「ねえ!あなた名前は?」
すでに背を向け歩きだしている銀髪は振り返りもせず
「別に名乗るほどのものじゃないので」
といい、さっていった。




