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10,ドラゴン肉で焼肉パーティー!…と、一人?焼肉。

最終防衛拠点。

あの惨劇の後、すっかり周囲は暗くなり砂漠に静寂が訪れていた。五万の死体は全て血の一滴までもきれいに回収されあの出来事が嘘かのように何もなくなっていた。

魔界の砂漠は夜は静かで星空がとてもきれいなのだが、今宵に限り最終防衛拠点にて静寂が破られていた。

「かんぱーい!!」

何度目の乾杯であろうか。すでに出来上がったカルラが勢いよく樽ジョッキを掲げ叫んだ。

他のメイドたちもカルラに続く。

最終防衛拠点は簡素な砦となっており、防壁の内側にある中庭も簡素ではあるが約千人いるメイドが余裕で入れるほどの広さを有していた。本来では武器や物資を置くスペースなのだが、それらはすでに撤去され焼肉会場と化していた。

鉄板や網がいくつも設置され、焚火で熱されていた。鉄板と網の上にはマッシュドラゴンの切り身が所狭しと並べられ、じゅうじゅうと心地よい音をさせながら焼かれている。

中庭の奥のほうに骨だけになった30メートルはあるマッシュドラゴンがよこたわっていた。


獣人、吸血鬼、サキュバス、ハーピイ、etc

多種多様な種族の混成部隊であるシュラハ直轄部隊。同時に魔王のメイドでもある。

そんな彼女らもマッシュドラゴンの焼肉を前にとても上機嫌である。

マッシュドラゴン自体は竜族の中でも中の下といった中位種であり特別強いというわけではない。

だが、食用としてみれば様々な種族…動物も含めて最上級の美味さを誇る肉なのだ。

それだけに希少で貴重。魔界や人間界でも存在自体はしているが滅多にお目にかかれるものではない。

だがほぼ竜族しかいないドラゴンキングダムでは貴重でもなんでもないので一兵士としての扱いである。

そんなマッシュドラゴンをまるまる一体分を使用しての焼肉パーティー。

否が応でも気分が上がろうもの。

解体された肉が山のように積み重ねられていたがどんどん減っていく。

それはすべてメイドたちの胃袋に収められていく。

「それにしても、シュラハ様がマッシュドラゴンをここまで贅沢に振る舞うとはねー。

確かに10体くらいいたけど、全て魔王様に献上を!とかいいそうなのに」

一人のメイド、頭に獣耳を生やした豊満な体。言葉とは裏腹に上機嫌に焼肉

を頬張る。

「意外っちゃ意外だけど、全部保存してもってところはあるんじゃね?それと自分も

食べたいからとかー?あはは」

一人のメイド、背中に蝙蝠のような翼を生やしたスマートな体。彼女も上機嫌に

酒を煽る。

「にしてもさー。あたしだったら隠れて独り占めしちゃうけどなー。こんなおいしいの

分けたくないやん?」

一人のメイド、病的な色白肌に鋭い八重歯が見える。変わらず上機嫌にグラスワインを

楽しむ。


「やっほー!みんなでシュラハせんせーの悪口ですかー?言っちゃいますよー?」


3人のメイドがぎょっとし振り向くと誰もいなく、視線を下に向けると

カボチャ頭の少女?が首を左右にふりながらちょこんとたっていた。

被り物と一目でわかるカボチャ頭から紫のロングヘアーがでてきている。一メートルほど

の小さい矮躯。彼女もメイドであり護衛軍の一人だ。彼女のメイド服はハロウィン仕様に

カスタマイズされていた。

3人はほっと胸をなでおろす。

「もージャックさん脅かさないでくださいよー。それに悪口なんて言ってないじゃないですか」

「むしろ褒めてまっせ。この肉滅多食えないからねー」

「にょほほー。冗談にょろー。そんなことよりシュラハせんせーはどこかわかりますかー?」

機嫌よさそうに左右に顔を振りながらしゃべるジャック。もっともカボチャの被り物で表情は見えない。


「先輩なら屋上で一人焼肉してるっすよー。らんらん」


新たな登場人物にジャック以外のメイドが少しだけぎょっとする。

カルラだった。左手に多量の肉が盛られた皿と右手にはでかい酒瓶が握られている。

カルラは現在護衛軍No.2だ。まあ部下達とは良好関係にあるがやはり、交流が比較的少ない部下達ではいきなり

の登場となると少し驚いてしまう。

そんな様子を察するとカルラは口を尖らせる。

「もー。無礼講とは言わないっすけどそんな驚かないでくださいっすよー。傷つくなー」

あわてて三人のメイドが否定すと、ジャックがフォローを入れる。

「こんな時にでも気配殺して近づいてくるカルちゃんが悪い」

ジャックがそういうとにひひーと笑い

「ああ、癖になってんだ。音消して歩くの」

と冗談ぽく返すカルラだった。

「率直にきもいよそれー。そんなことよりシュラハせんせーなんで一人焼肉なのー?」

さらっと酷い事をいわれてサイレントに傷つきながらも返答する。

「…なんかみんなで気兼ねなく楽しみなさいなだって。こっちとしてはそのほうが気を遣うって

感じなんすけどねー」

「じゃあーシュラハせんせーにゴマすってこよーっと」

とてとてと建屋に向かって走り出すジャック。

「あー!!わちきもこれから行く気だったのに抜け駆けすんなー!!ってかいくなら肉か酒瓶

どっちか持ってくださいっすよー!!らんらんー!!」

慌ててジャックの後を追うカルラ。


「なんだかんだシュラハ様のことすきよね、あの人たち…」


残されたメイドの一人がつぶやいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


拠点屋上へと出るための扉。

先に扉の前でジャックが止まっていた。カルラは少し後に追いついたが違和感を感じた。

(らんらん、わちきのことを待ってくれてた…?いやーそんなたまじゃないと思うんすけど)

思いながら。扉の前で止まっているジャックに近づき声をかける、かけようとした。

どうしたんすかー?と発する直前、カルラもフリーズする。

扉越しからシュラハの声が聞こえてきた。聞きづらくて内容まではわからないがとかく楽しそうな

声色だった。

今まで聞いたことないくらいに…。

「…らんらん、もしかしてヴァニラねえとか遊びにきてるんすかね…」

思わずひそひそごえにになるカルラ。それもそのはずでシュラハは一人のはずなのだ。シュラハ以外は

拠点内で宴会の真っただ中だし、となると思わぬ来客が考えられる。

例えば。元四天王とか。

だと考えると…緊張が走る。ヴァニラねえは好きだし面識もあるしだけどやはり少し構えてしまう。

他の四天王ならなおさらだ。

「それはないんじゃないかなーあってもルクレツイアさまとかー?そもさん四天王以外の可能性

もあるしー、大体シュラハせんせーってヴァニラさまのこと嫌いなんでしょー?」

カルラとは裏腹に何ともなさそうに答えるジャック。というか不思議そうしていた。

(確かに先輩はヴァニラねえのこと、ことあるごとに嫌い嫌い言ってるんすけど…なーんか

逆にのろけっぽく聞こえるんすよねー。先輩って本当に嫌いなら話題にもしないってタイプだし。

まあ、そんなふうなことほのめかしたら殺されかけたんでもう言わないすけど)

「どうしたの?カルちゃん」

余計なことを思いだしているとジャックがこちらを覗いていた。カルラはジャックと旧知ではあるが

ジャックのカボチャ頭の奥にある瞳が不気味と感じていた。

なんか全てを見透かされそうな感じだ。

カルラは少し慌てながら

「た、たしかにそっすねー。ところでらんらん、少しだけドア開けて覗いてみないっすか?

ちょっと悪趣味っすけど、四天王とか旧友やらが着てたら邪魔しちゃ悪いし…」

誤魔化すようにそう提案してみた。

「だったらこのまま覗かず退散しろってはなしなんだけどー。興味あるシー

カルちゃんが覗くなららんたんも覗くー」

と、まんざらでもない返答が返ってきた。

しかもしれっと自分のせいにするところ見た目のわりに狡猾だ。いや子供の容姿からなのだろうか。

しかしま、シュラハの知人とか、護衛軍以外には魔王や四天王しかあった時がないので単純に

興味が勝った。


恐る恐る扉を少し開ける。




「魔王様!!ここのお肉が食べごろですよ!…え?私のことはいいからもっと食べなさい?

もーそうやっていつもご自分をあとまわしにして…。魔王様もお酒ばかり飲んでいたらお体に

触りますよ」

拠点屋上。

シュラハは七輪を前に焼肉をしていた。戦闘前とは打って変わってとても幸せそうだ。

この世の春ともいえるほどに。

「今度はちゃんと食べてもらいますよ!あーこことかいい感じに…あー!??ヴァ、ニ、ラ~!!!

それは魔王様に捧げるお肉だったのにー!!ああー!!?ルクレツィア!!!あんたまで!

ベアトリーゼ!あんたも黙ってないでなんか言ってやりなさい!」

シュラハはそう発狂しながらもそんな状態を楽しんでいるようにも見えた。

「…まったく、そもそもあなたたちは魔王さま側近としての自覚が……魔王様?」

シュラハの目に映る魔王はそんなシュラハたちの様子を見てとても愉快そうに笑っていた。

そんな魔王の笑みをみてシュラハもなんだかうれしくなり自身も笑い出した。

とても幸せそうに。


普通であれば、これはとても微笑ましい状況であろう。

しかし普通ではなかった。





「あちゃー…ちゃ、ちゃあ、これは…一段と拗らせてるっすねー」

隙間を覗くカルラが目を覆いながら唸った。

「…シュラハせんせーなにやってんの?一人でさ?」

ジャックは素直な疑問を口にした。


実際は。


シュラハの周りに存在したものは七輪と焼肉用に切られた肉しか存在しなかった。

つまりシュラハ一人である。

四天王、まして魔王など存在してなかったのだ。

一人で騒いでいるのである。

本来であれば異常な光景だが、いや異常な光景ではあるのだが、当の本人がとても幸せそうなのだ。

むしろカルラとジャックが幻覚をみせられてシュラハ一人にしか見えないようにさせられていると

勘違いしてしまいそうになるほどに。

「…らんらん。楽しそうにしてるし、わちきらは失礼したほうがいいっすね」

見てはいけないものを見てしまったとおもったカルラだった。ここに来る前に空の玉座に話しかけている

シュラハをみたことはあったが、あれはまだなんというか魔王様に敬意というかそういうのが感じられた…

というより『わかっていてやってる感』があったから特に何も感じなかったが。

あの光景は『ガチ感』が強く伝わってくる。

カルラは自分ができることはそっとしておいてあげよう。だった。

「…」

カルラがそっと扉を閉めようとするとジャックが無言でそれを制止した。

「…らんらん?…ちょ!!?」

次の瞬間、勢いよく扉を開けジャックはとてとてと自分の世界に入っているシュラハに近づいて行った。

酒瓶と肉皿でりょうてが埋まっていたカルラはジャックを咄嗟に止めることができなかった。

(…ていうかよくあんな状況で近づけるっすねー)

呆れ半分感心半分といった感じで呆然とするカルラだった。


「シュラハせんせー!シュラハ!せんせ!」


ジャックがすぐ近くにいたのにも関わらず気づかないシュラハに大声量で叫ぶ。


「…?………あら…ランタン。なにかあった?肉が足りないならこれ持って行っていいわよ?」

ようやく気付いたが、心ここにあらずといった感じで返すシュラハ。

全く減っていない肉皿と七輪には焦げた肉が数枚置かれていただけであった。おそらくは

妄想に夢中だったのだろう。

しかし驚くべきは。本来であれば死ぬほど恥ずかしいところを見られたはずなのに特に何とも思ってない

というか、むしろ妄想が解かれて物寂し気にしている。

「…せんせー。こういう事いうのはあれだけど、こういう場でぼっちで盛り上がってるのは

どうかとおもいますよー?こんな可愛い部下ほっといて酷い上司ですー」

カボチャの被り物で表情は見えないが、不満そうな声を出しているのはわかる。

それはただ単に子供の嫉妬かのように。

そんな様子をみて、少しだけぽかんとして、すぐにほほ笑むシュラハ。

「…そうだったわね。こっちきて座りなさい。まるこげになっちゃったわねえ…新しいの焼きましょう」

気持ちを切り替えるように丸焦げになった肉を一瞬で平らげ、新たな肉を七輪に並べるシュラハ。

「カルラ!!なにやってんの!はやくこっちきて酒をつぎなさいな」

「うえ!!?はいっす!!」

遠巻きで眺めていたカルラもとっくに気づいていたシュラハであった。妄想しつつも、周囲は

常に警戒している。

カルラは慌てて七輪に近づき三人のグラスに酒を注ぐ。

「…あなたたちも、大概、物好きね。わたしのことは気にせずみんなで楽しんでていいのよ?」

言葉とは裏腹に機嫌よさそうに注がれたグラスを弄ぶシュラハ。

「そういうわけにもいかないっすよー。ほらマッシュハートもってきたっす!先輩も

食べてください!」

カルラが持ってきた肉皿。それにはマッシュドラゴン最高部位、マッシュハートの切り身が

盛られていた。シュラハの脇に置かれていた肉皿は、いわゆる安めの部位の切り身ばかりであった。

これはシュラハが自分で選別してもってきたものだが、部下にいい部位を譲ったためであることは

想像に難くない。

ただそれは。

側近であるカルラにとってもどうようで自分以下たちだけでこれを消費するのはさすがに心苦しい

ものがあった。無論シュラハの心中は理解している。

とはいえ部下達にも自分と同じ胸中でいるものも少なくないわけで、シュラハにもマッシューハートの

一部をもっていくことにした。つまりは折衷案。中間管理職とは大変なのであった。

トングで次々と肉を並べるカルラ。七輪からいい匂いと煙がたつ。

「あーでも、建前だけじゃないっすよねー?だよねーらんらん…って」

「おいしーにょーホヒー♪」

ご機嫌に首を左右に揺らしながら、マッシュミートだけを次々と頬張るジャック。

七輪のマッシュミートがほぼなくなる。

「らんらんさー。先輩にも少し…」

止めようとしたカルラを静かに手で制止するシュラハ。

「いいのよ。…いいの、つぎつぎ焼いてあげて。私はこっちので十分」

そういいながら、通常の肉を食べるシュラハ。実に穏やかな表情だ。

「…はいっすー」

カルラもつられるようにほおを緩ませながら、新たに肉を七輪に並べた。


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