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ドラゴンクォーターと吸血鬼女王(クイーン・ヴァンパイア)

どこまでも広がる草原と青い空。そこにポツンと存在する古びた寄宿舎。小鳥たちの囀りや家畜の鳴き声が良く響く。

「さてヴァニラのやつはちゃんと見てくれてるだろうな…」

その草原にいきなり一人の男が現れた。比喩ではなく召喚されたかのように発生した。

銀髪で色白。欧風で端正な顔立ちであるが和服というちぐはぐないで立ちではあるものの、服の間から見える引き締まった肉体

のせいで不思議に決まって見える。しかしそんなことよりもまず注目してしまうおおきな特徴があった。

胸元から首、額まで伸びる長い一本の傷跡。頭部に一本角が生えている。彼の名はマオー。

マオーは両手を頭の後ろで組みながら、寄宿舎の玄関に近づくと、扉はバタンと勝手に開く。

「マオー先生ー!おかえりー!」

「マオー!」

二人の子供がはしゃぎながらマオーに飛びついてきた。

「うお!?…ととと、二人とも元気そうでなにより…だ!」

言いながら二人を両の手で軽々抱っこするマオー。すると二人は満足げに体をマオーに寄せる。

「他のみんなは元気だったかー?って…いらん心配だったか」

いうが早いか。扉から続々と子供が出てきて、あっという間にマオーを囲ってしまった。

「エル~早く後退してよー」

「二人ばっかりずりずるい!」

十数人の子供が口をそろえてそういうのであった。まるでそれは人気のある幼稚園児の先生が子供たちにせがまれている様子。

ただ一つ、決定的の違いがあった。

子供たちの容姿である。

確かに「ほぼ」4,5歳の子供の姿をしていた。

ただところどころおかしい部位がある。例えばマオーの抱っこしている子供の一人。エルーシャという女の子なのだが

ピンク色の翼が背中に生えている。

よくみれば囲っている子供もどこか変だ。頭に獣のような耳を生やした子供もいれば、尻尾を生やしている子供もいる。

それどころかかろうじて二足歩行しているだけでそれ以外は獣の見た目の子供もいた。ともすれば完全に人の外見の子供もいた。少ないが。

「さあさ。あとで順番に順番に遊ぶから、宿舎に戻ろう。とりあえずヴァニラにあって用事を済ませてくるから」

あやすようにマオーはいい、どこか普通とは違う子供たちははーいと返事しながらとてとてとマオーとともに寄宿舎に戻っていった。


寄宿舎。その一室。職員室と書かれたプレートのついた扉を開ける。

それはまさに学校の職員室を彷彿させる風景。簡素な机。今月の予定が乱雑に書かれた無駄にでかい黒板。奥にソファーと古臭いブラウン管のテレビとテーブルが設置されていた。

「あら~マお~。久しぶりん」

甘ったるい声がソファーから聞こえてきた。ソファーに座る女。黒スーツにタイトなミニスカート。病的な色白な肌とは裏腹にグラマラスな体にスーツがぱっつぱつになっている。マゼンタ色の鮮やかな腰まで届くロングヘアー。足を組んであるがともすれば見えてしまいそうだ。絶世の美女といえるいでたちだが、子供たちと同様、彼女も普通ではなかった。口を開くと二本の牙が覗く。

「ヴァニラ。二人なんだから普通に喋れよ。それといつも思うんだけど服のサイズあってなくないか?はちきれそうだぞ」

いいながらマオーはヴァニラの対面のソファーにドスンと座った。

「そう?人間の男どもにはすごく受けいいんだけど。ドラゴンクォーターのあなたの趣味じゃない?」

ともすればセクハラ発言ともとれるマオーの言葉であったが、気にせずむしろにやにやしながらマオーを挑発するようにいいかえす。

「あー、わかったわかった。目の毒って認めるから次からはもう少し自重した服を着てくれ。頼むから」

手で目を覆いながらやれやれといった感じで上を向くマオーだった。対するヴァニラはつまらなそうに口をとがらせる。

「望めばいくらでも抜いてあげるのにー。ちゃんと死なない程度に手加減するわよ?」

「お前の場合『血』だろ」

「あら?あたしに吸血されるとすごく気持ちいいのよ?なにもせずいっちゃうくらいに」

マオーは深くため息をついた。自分で振っておいてなんだが話題を切り替えたほうがよさそうだ。

「…また今度頼むわ。そろそろ仕事の話だ。マジックカードの『通信コンタクト』あと何枚持ってる?」

「残り二枚」

「そうか。じゃあ追加で3枚わたしとく。…たく、お前『女王種』なんだから通信コンタクトぐらい

覚えられないのか?結構たけーんだよこれ」


この世界では魔法という概念が存在する。そして人間と動物以外の人外。魔物と呼ばれる存在も。

魔法には様々な用途があるが、ここでいうコンタクトとは遠く離れた相手でも脳内会話できるというものだ。

使用魔力も低く即座に情報伝達できる下位魔法として重宝されている。

しかし条件があり、コンタクトを使用できるもの同士じゃないと使用できないデメリットがある。

例えばマオーがコンタクトを使用してもヴァニラがコンタクトを使えない場合、ヴァニラとは通信できない。

これは大きなデメリットで、理由は下位魔法とは言え魔法一つ覚えるのには長い月日が必要なのだ。むしろ時間をかけて覚えられるならまだよくて才能がない場合覚えられないことも多々ある。


だが以上のデメリットを解消する手段があった。

マジックカードである。

通常、魔法を発動させる方法は体内の魔力を発動させたい魔法用に練り上げ、魔法名を唱え発動させる。

マジックカードは以上の工程を肩代わりしてくれるのだ。

つまりマジックカードを所有していればカードを握りつぶすことでその魔法を発動させることができる。

修業無しで魔法を使えるのすごく便利で、魔法職でないものも使用できるのがなにより大きい。

だが当然デメリットもある。

とかく高い。

カード生成は下位魔法ですら高級な鉱石や素材を必要とする。当然カード販売額も跳ね上がる。

いわゆる富裕層でしか手が出ない値段。中位、上位魔法のカードとなればそれ以上の富豪でしか買えない。

「そんなことあなたが身をもってしってるでしょ?あたしが近接物理全振りってことをさ。魔法とかめんどくさー、あ、一応魅了系魔法使えるけどあんま使わんのよね。ガチ戦闘だとその手のバステ対策ってされてるのがほとんどだしー」

言いながら受け取ったマジックカードを豊満な胸元に差し入れるヴァニラだった。

「…ヴァンパイアで物理全振りってよく考えりゃ空恐ろしい話だな」

天井を仰ぎ、その光景を思うマオー。肉弾戦特化のヴァンパイア…。

「でしょ?ま、そんなことより見てみてよこれ」

リモコンでテレビをつけるヴァニラ。画面には荒廃と化した風景と、マイクをもった鳥人間ハーピイが映っていた。

竜国ドラゴンキングダムの侵略によって魔人たちの部落がこのような惨状に…魔界軍はこれに対して…》

ハーピイは険しい表情で実況していた。

「へー今度は魔人たちが襲われたか…魔界滅亡も時間の問題かな?」

特になんの感情を持ってもいない感じで画面を見るマオー。

「あり得ないわね」

口元を歪めながら一刀両断するヴァニラ。

「でも竜国ドラゴンキングダムと魔界の戦争は終始、竜国が優位に進めてるぜ?なぜそう言い切れる?」

問いながらも、次にヴァニラが発する回答は既に予想している感じだった。

「魔界軍には『シュラハ』ちゃんがいるから」

シュラハ。魔界四天王の一人か。とマオーが返すと

「元、ねえん。魔王様がいなくなってすぐ解散しちゃったけど、あの子はいまだに魔王様は必ず帰ってくる!って魔界を守っているのよん。健気よねえ…シュラハちゃん」

遠い目をするヴァニラ。大変興味深い話だが今はやるべきことが先にある。

「さもありなんか…。悪いけど、また出かけてくるわ」

「え~!せめて『あいつら』の相手してから行きなさいよ!あとで大変なんだから!」

部屋を出ようとするマオーを慌てて止めるヴァニラ。

「善は急げ。一度捕まったらしばらく離してくれんだろ。追加報酬弾むから。そもさんそのつもりで見せたんだろあれ」

振り向かずテレビのほうに指さす。

「…はあ、今すぐいくとは思ってもなかったわー。つくづく物好きなやつよねー」

悪態を尻目に、お前に言われたくないと思うマオーであった。

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