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計算士と空中戦艦  作者: ディープタイピング
第4部 戦争終結編
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#71 誘発

 ハッと、私は目を覚ます。機関音も聞こえてくる。

 目に入ったのは、折れた計算尺に、それが刺さって左手から流れ落ちる血だ。それがゴンドラの床にぼたぼたと滴り落ちている。

 私はまず、そばに立つリーコネン上等兵の方を揺さぶる。


「おい、起きろ!」


 何度か揺さぶるが、どうにも目覚めない。にしてもこいつ、何をにやけているんだ? 一体誰と会っているのか。ともかく私はこいつを目覚めさせるため、頬を大きくひっぱたいた。


「……痛ってぇ! 何しやがるんだ!」

「皆、幻覚を見せられてるんだ! このままでは、この艦はさまようことになる!」

「は? お前、何言って……」


 リーコネン上等兵は事態を飲み込めず、私に何かを言おうとする。が、左手から流れる血を見て、察したようだ。


「よくわかんねえけどよ、確かに皆、寝てるな」

「お前だって、いや私もついさっきまで、こうだった」

「てことはよ、皆を叩き起こしゃいいんだな」

「そういうことになる」

「うっしゃ、ほんじゃまずは、こいつからだな」


 といって、横にいたキヴェコスキ兵曹長に向かう。そこでリーコネン上等兵はいきなり殴りかかる。


「いっぺん、こいつを殴ってみたかったんだよなぁ!」


 ドカッと殴り掛かられたキヴェコスキ兵曹長は、そのまま床に倒される。


「痛ってぇ! 何しやがるんだ!」

「何っておめえ、幻を見せられてたんだよ!」

「はぁ!? いや、俺は死んだお袋に会って……」

「グダグダ言ってねえで、さっさと目を覚ましやがれ! そんで、みんなたたき起こすぞ! このままじゃ、この船が動かねえだろう!」


 そのころ、私は砲長を起こそうとした。が、揺さぶっても叩いても起きない。意外と無神経な男だからなぁ、そりゃあこの程度では起きないか。しょうがない、リーコネン上等兵のように、ぶん殴ってみるかな。


「しかしよ、まさか27人全員をぶんなぐって回るのかよ。ちょっと大変だぜ、そりゃあ」


 と、キヴェコスキ兵曹長が言う。


「んなこといっても、しゃあねえだろう」

「いや、一人一人やるよりも手っ取り早く目覚めさせりゃいいんだろ? 俺に良い手があるぜ」

「ほんとか!?」

「おう、二人とも、ちょっと手伝え」


 そうキヴェコスキ兵曹長が言うので、私とリーコネン上等兵は兵曹長の元に集まる。何をするのかと思ったら、主砲の尾栓を開いた。

 そこには先ほどの砲撃の際にできた火薬カスが残っていたため、それをざらざらとかき出す。そして砲弾を放り込むと、火薬袋を一つ入れて尾栓を閉じる。


「何やらかすんだ?」

「決まってる、こいつを真下に撃って、ヴェテヒネンごと揺らしてやるのよ。そうすりゃ皆、飛び起きるぞ」


 なるほど、いい作戦だ。これならいちいち艦内を回って全員を叩き起こす手間が省ける。


「そんじゃおれは発砲担当、お前らでハンドル回せ」

「了解!」


 とキヴェコスキ兵曹長の言う通り、私は水平方向への回転させるハンドルを担当した。リーコネン上等兵はもう一つのハンドルを担当する。


「こいつを真下に向けるには、右か左に90度、俯角90度だ。どちらもハンドルを時計回りに回せばいい。かかれ!」


 と言われ、ハンドルを回し始める。

 ……しかしこのハンドル、予想以上に重いな。いつもキヴェコスキ兵曹長ら砲撃手が軽々と回しているから、もっと軽いものだと思っていた。が、これがほんとに重い。

 一回転で0.5度しか動かないから、90度分を回すとなると、これの2倍、180回も回さなくてはならない。


「なんだよ、このくそ重いハンドルは……」


 リーコネン上等兵とて、声は勇ましいが、やはり女だ、こういう力仕事は向いていない。

 一方の私は、リーコネン上等兵よりもさらに深刻だ。懸命に回すが、なかなか目的の角度にならない。

 砲撃手って、こんなにくそ重いハンドルをあれだけ早く回してたのか。計算士として、いつも砲撃方位角度を指示していたが、あれはとんでもなく重労働だったと知る。


「遅っせえなぁ。ちょっと貸してみろ」


 見かねたキヴェコスキ兵曹長が、あの筋肉を黒光りさせてぐるぐるとすさまじい勢いで回す。あんなに重い物を、こんなに軽々と? 水平方向が90度回されると、今度はリーコネン上等兵のハンドルも奪って回し出す。


「ふええ、よくおめえそんな重たいもん、軽々と回せるなぁ」

「お前らが鍛えなさすぎなんだよ。そんじゃ撃つぞ!」


 そう言って、引き金を引くキヴェコスキ兵曹長。ズズーンという音と同時に、ゴンドラの床がつき上がる。

 すると砲撃室にいた砲長と2人の砲撃手も飛び起きる。艦橋の方向を見ると、皆、今の衝撃で目覚めたらしい。


「な、なんだ!?」


 砲長が突然の衝撃に、何が起こったのか理解できずに立ち尽くす。が、艦橋の方から副長が伝声管越しに叫んできた。


『今の発砲はなんだ! だれが発砲許可を出した!』


 それに対して、キヴェコスキ兵曹長が返答する。


「全員が夢見たまま目覚めねえんで、砲撃で起こしたんですよ!」


 しばらく沈黙するが、副長から返答が来る。


『そ、そうだったのか。いや、すまない。先ほどの発言は取り消す。こちらは全員、意識を取り戻したようだ』


 と、副長も現状に気付き、こちらへの苦情を取り消してきた。ともかく、全員が目覚めたようだ。


「砲長、やはりあの火口の辺りに、何かあるようです」

「だな。しかし、奇妙な武器を使ってきたな」

「そうですね、青い光の筋のようなものを放ち、砲弾を破壊したように見えましたが……」


 と、火口の方に目を移すと、先ほどよりも煙が少なくなってきた。

 そして、煙の薄れた火口の上に、白い立方体状の何かが見えてくる。

 それは、噴煙の上がる付近にあり、黒煙を浴びながらもまるで汚れ一つついていないように見える。どう見ても、人工的な何かだ。

 私はそれが、先ほどの幻影を作り出した正体ではないかと直感する。まさにあれに向けて砲弾を落とそうとしたその時に、あの幻影にとらわれてしまった。

 そういえばリーコネン上等兵の占いでも、相手は驕った人の手で作られた何かではないかと、そんなようなことを言っていた。となれば、ますますあれが怪しい。

 しかし、噴煙の只中にあってもまったく汚れず、多くの者に幻影を見せる奇妙な仕掛けときた。そんなものは、ラハナスト先生ですらも作り出せない。

 が、正体が知れた以上、攻撃するしかない。


「砲長! あれを攻撃します!」

「あれとは?」

「あの火口内にある、不自然に白い四角い箱状の物体ですよ!」


 砲長も望遠鏡で火口付近を見る。私の言う物体を見出したようだ。


「そうか、了解した。艦橋にまず許可をもらう」


 そう言った砲長は、伝声管にて艦橋に進言する。


「火口内側に見える四角い物体、あれが今回の幻影の元だと考えられます。攻撃命令を」


 すると意外と早く許可が下りる。


『今、まさにこちらでも同様の意見になったところだ。直ちに砲撃せよ』


 それを聞いた私は、すぐに計算に入る。

 といっても先ほどと同じ弾道では撃ち落されることが分かった。このため、あれを上からではなく、横から攻める。計算尺を握り、メモを取り出し……というところで、私は2つの問題に直面する。

 まず、手が血まみれだ。そして、計算尺の滑り尺がへし折れて、これも血まみれになっている。

 計算尺の方は、もう一本持っている。問題は左手の甲の上から流れ落ちる血だ。

 が、それを目にした砲長がすかさずハンカチを取り出し、ぎゅっと左手に結び付けてきた。


「これで、計算できるか?」


 そう問いかける砲長に私は黙ってうなずき、そしてメモを広げて鉛筆を携えつつ、計算尺を滑らせる。

 あの物体までは、およそ500メルテ。そこに真横から当てるには……そして私はすぐに計算結果をはじき出す。


「右62.3度、仰角1.8度、火薬7袋!」


 時限信管の設定は不要だ。これで、あれにぶち当てることができる。

 そして第一射が放たれた。


「射撃用意よし!」

「砲撃始め、撃てーっ!」


 撃った弾は水平に飛んでいく。が、まさに着弾寸前、あの白い箱状の物体から反撃がある。なんと、また青色の光の筋を出したのだ。

 そして、一発の弾が相手に命中する直前で破壊されてしまう。


「なんだ、あの光は!?」


 あんな兵器、見たことも聞いたこともない。それは高熱を発する熱線のようで、砲弾の表面を覆う鉄を溶かして砲弾を一瞬で貫く。そんな感じの兵器に一瞬にして撃ち抜かれ、爆破させられてはなすすべもない。

 しかも、あれだけ速い砲弾を、正確に撃ち抜いている。


「右64度、仰角66.3度、火薬2袋!」


 続いて今度は上方からの狙い撃ちをする。が、やはり弾着手前であの青い光に貫かれ、手前で爆破されてしまう。

 それでもあきらめず、角度を変え、方向も変えて砲撃を加え続けた。が、当たらない。

 ところがだ、一発だけ、狙いを外してしまった。真上から落下するようにはなった砲弾だが、わずかな計算ミスで逸れ、火口内の、あの物体から30メルテほど離れた場所に落ちる。

 着弾と同時に、ドンと破裂し、その地面を吹き飛ばした。


「なんだよ、外しちまったのかよ」


 リーコネン上等兵が残念がるが、私は逆に一筋の光を見出した。

 今の弾は、確かに当たらなかった。そのためか、あれは青い光で破壊されなかった。

 自身に着弾しないと分かれば、手出しはしないということなのか? それはずいぶんと正確な予想ができる機械でなければ不可能な技だ。だからこそ、正確に撃ち抜けるのだろう。

 しかし、自身を狙わない弾だと、反撃することはない……

 私に、ある考えが浮かぶ。


「砲長、先ほどの弾着点に、弾を集中させます!」


 それを聞いた砲長が答える。


「いや、今のは外れだぞ。あんなところに当て続けて、どうするつもりだ?」

「いいから、私の言う通り撃たせてください!」


 説明している時間が惜しい。ともかく、道が見えてきた。まともに当てることがかなわない相手ならば、あの地形、あの場所の状況を利用して……

 私は計算尺を滑らせる。左手が、ずきずきと痛む。目を覚ますためとはいえ、ちょっと思い切り刺し過ぎたか。が、今はそんなことに構っていられない。


「右67.3度、仰角66.1度、火薬2袋!」


 放たれた砲弾は、細い放物線を描きながら地上に落下する。ほぼ正確に、先ほどの弾が築いたくぼみを、さらに押し広げる。


「右69度、仰角66.5度、火薬2袋!」


 とにかく私は、くぼみに当て続けた。あまり納得していない砲長や砲撃手らの冷たい視線をよそに、私はただその一点のみを攻撃し続ける計算値を提示する。

 この調子で発砲を続け、ようやく8発目にして、それが功を奏した。


「な、なんだぁ!?」


 8発目が着弾した直後、大きく深く掘られたくぼみから、赤い物が勢いよく噴き出してきた。それは、このブルヴィオ火山の溶岩だ。それがまるで自噴水のように勢いよく吹き上がり、あの四角い物体に降りかかる。

 当然、あれは青白い光を放ってその溶岩を撃ち落そうとする。が、相手は溶岩だ。膨大に降り注ぐ溶岩にそれはほぼ無意味だった。その後も何度も光を放つが、すべてむなしく貫かれる。例えるなら、バケツの水に剣を刺すようなものだ。しかしそれもやがて溶岩に覆われて、青い光を発さなくなる。

 火山火口のすぐ下には、大きなマグマ溜りがあるのだろう。ならば、その上から掘っていけばやがてマグマ溜りに到達して、溶岩を吹き出すに違いない。

 その私の狙い通り、高熱の溶岩が噴き出し、あの不可思議な白い箱状のあれに大量に降り注いだ。砲弾の直撃がだめなら、噴火を誘発すればいい。その作戦は成功した。


「やったぜ、破壊した!」


 乗員の皆が喜ぶ。私も、何かを成し遂げた気分だ。

 が、しかしだ。冷静に考えてみれば、我々はただ得体のしれない幻影を作り出す箱を破壊したに過ぎない。

 これで、世界の何が変わるんだ?

 ただ、これ以降は変な幻影を見せられることはない。もしかすると、他の国でも同様に幻影が現れて、それで戦争を拡大させられていたのかもしれない。少なくとも、それは止められたのではないか。

 現にあそこで、シェロベンヴァー上等兵の姿を借りた何者かが、戦争とは想像の源だ。というような言っていたのだから。それを世界相手にやっていたことは間違いない。

 しかし、セレスティーナ連合国が参戦を決めてしまった以上、当面は戦争が続く。またどちらかが根を上げるまで戦いは収まらないのか。

 そんなことを考えながら、ヴェテヒネンはターラスヴァーラへと向かう。それから日没後の8時間に、そのターラスヴァーラ港へと着いた。

 そこでふと思ったのだが、今回の特殊任務は「調査」だった。が、その調査対象を、我々は破壊してしまった。まずい、これはもしかすると、軍司令部からお叱りを受けるのではないか? そんなことを考えながら、あてがわれた宿舎にて我々はその日の晩を過ごす。

 しかしその翌朝、とんでもない知らせが世界を駆け巡った。


「お、オレンブルク皇帝が、急死!?」


 信じがたい知らせが私の元に届いたのは、その日の昼のことだった。


「昨日、突如、心臓発作を起こして亡くなったらしい」


 その知らせをもたらした砲長が、淡々と語る。


「そ、それではこの戦争、どうなるんでしょうか!?」

「何とも言えないが、あの暴君が戦争継続を主張し続けていたのは事実だからな。これがきっかけとなって、和平交渉と戦争終結へ向けて動き出すんじゃないのか、と大方は予想している」


 それを聞いた私は、やっとこの戦争に終わりが見えてきたことを感じる。そして砲長から、その皇帝逝去の記事の載った新聞を手にする。

 が、私はその記事中の、その暴君の死亡時刻を見て戦慄を覚える。

 それはまさに、我々の攻撃によってあの白い箱状の物体が溶岩で覆いつくされた、まさにその時間と同じだったからである。

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[一言] レーザーやら精神攻撃やらを実用化して火口に設置してるのに溶岩対策してないのは草 マヌケすぎるだろ作った古代文明か異星文明w
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