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計算士と空中戦艦  作者: ディープタイピング
第4部 戦争終結編
56/72

#56 排除

「フロマージュ軍が、ヴォルガニア公国へと進出。現在、オレンブルク軍と交戦中との連絡が入った」


 翌朝、ヴェテヒネンに集まった乗員に向けて、副長がこう告げる。どうやらフロマージュ軍は夜通し行軍し、ヴォルガニア公国にいるオレンブルク軍を急襲したらしい。

 予想以上に早い進撃だ。元々、テッサフロリナを占拠後に、すぐ別動隊が動いてヴォルガニア公国にいるオレンブルク軍の拠点に攻め込む手はずだったらしい。


「そこで、我が艦に出撃命令が下った。直ちにヴォルガニア公国に向けて出撃し、地上軍を援護せよ、と」


 ついにヴォルガニア公国に入る。同じオレンブルク連合皇国の属国として、あの暴君からの理不尽な仕打ちを受け続けていた同胞でもある。いささか無計画な独立宣言で自らを窮地に陥れた国とはいえ、我が王国と同じ境遇の国の救済に出向くことに、私は胸が高鳴るのを覚えた。


「今度こそ、俺の出番あるかなぁ」


 ところがだ、私に比べてはるかに志の低い機関銃士が、こんな一言をほざいた。


「なんてことを言うんだ、お前は公国の救済より、自身の手柄の方が大事なのか!?」

「そんなんじゃねえよ、今度の敵はスラヴォリオ軍じゃなくてオレンブルク軍だろうが。となりゃ、例の偵察艦が出張ってくる可能性があるんじゃねえかって言ってんだ」


 やる気がみなぎりすぎて、ついリーコネン上等兵に突っかかってしまった。が、こいつの言う通りだ。オレンブルクの支配下に入り込んだのだから、オレンブルク軍が出てくるはずだ。

 ということは、今度こそ水素充填の艦が相手か。ヘリウム艦相手では苦戦を強いられたからな、オレンブルク軍相手ならば、もう少し楽に戦える。

 などと、オレンブルク側からすれば怒り狂いそうなことを考えながら、私はヴェテヒネンに乗り込む。やがて、この青色の帯の書かれた艦は発進する。


繋留錘(バラスト)切り離し、抜錨、ヴェテヒネン発進!』


 ここはまだ「スラヴォリオ王国」ということになっているが、すでにフロマージュ共和国の実効支配により、実質的にフロマージュの領土となりつつある場所だ。

 スァリツィンクスと違うのは、ここはフロマージュ共和国との国境沿いの街ということもあって、元々フロマージュ系住人の多いところだ。ゆえに、フロマージュ軍の進出を歓迎する雰囲気がある。

 そんな街の上空1500メルテまで上昇し、我が艦は北へと進む。


『まもなく、テッサフロリナ上空を通過』


 昨日、我々が激戦を繰り広げた場所だ。占拠して1日。望遠鏡で地上を見ると、まだ敵兵の存在を排除できていないのか、銃を抱えたフロマージュ軍服の兵が二人一組で巡視しているのが見える。

 我々も、高度1500メルテを航行するしかない。昨日まで敵地だった土地だ、高射砲による攻撃を受ける可能性だってゼロではない。ピリピリとした雰囲気の中、スラヴォリオ王国とヴォルガニア公国との国境である細い河を横切る。

 河を越えると、褐色の大地が広がる。すでに麦の刈り取りが終わり、肥沃な土壌がむき出しの畑が、視界の限り広がっている。

 そう、ここはオレンブルク連合皇国の中でも南側に位置し、平坦で肥沃な土地が広がっている。ヴォールゴ河の支流が流れており、その河の水と畑に最適な土のおかげで、大穀倉地帯となっている。

 そんな大地を過ぎると、数十の黒煙がたなびく場所が見えてくる。麦の刈り取りが終わった後の畑で野焼きが行われているのかと思いきや、それは建物が連なる街の中から昇っている。

 さらに接近すると、燃える民家や街路樹が見えてくる。そこは我々の目的地である、ヴォルガニア公国の首都、ヴォルガニア市だ。

 まさに今、駐留するオレンブルク軍とフロマージュ軍とが市街戦を繰り広げているところだ。望遠鏡で地上を見れば、迫撃砲で応戦するフロマージュ軍兵士の姿を捉える。その矛先を追うと、銃を構えて応戦するオレンブルク兵の姿があった。

 が、次の瞬間、迫撃砲弾がその兵士の辺りに着弾する。灰色の煙が上がり、後には大きなくぼみが残る。そこにいたはずの兵士の姿は、痕跡すらない。

 なんてことだ。生身の人間に、あれほど強力な兵器を用いる必要なんてなかっただろうに。そう思う私だが、もっともそんな私も、昨日の戦いではまさに人を狙った戦いに徹していた。それ以前に、何隻のオレンブルク艦を火だるまに変えてきたのか……振り返ってみれば、私も人のことは責められない。


『艦影、見ゆ! 数は5、左30度、距離21000!』


 観測員から、艦影見ゆとの報告が入る。オレンブルクからの地上軍の援軍が現れたのか、5隻の艦がこちらに接近しつつある。


『総員、戦闘準備!』


 艦内に緊張が高まる。私はメモと計算尺を構える。


『艦影、視認! フロマージュ艦艇、友軍です!』


 ところがだ、すぐにそれは友軍だと判明する。緊張度は一気に下がる。単縦陣で接近する5隻の友軍艦艇はすべて爆撃艦で、まさにオレンブルク軍に打撃を与えんと迫っていた。

 が、市街地に焼夷弾をばらまけば、オレンブルク軍のみならずヴォルガニアの市民にまで被害が及ぶ。そんな作戦を決行するつもりか?

 と思ったが、攻撃目標は市街地ではなかった。


「なんでしょうね、あれは?」


 フロマージュ爆撃艦が向かう先に、灰色の小高い丘のようなものがあるのに私は気づく。単縦陣を組むフロマージュ艦はその丘の頂上付近に進路を変えると、やがて次々とその丘に焼夷弾を降らせ始めた。

 えっ、丘を攻撃? その時点ではよく見えなかったが、我が艦がその丘に接近すると、その正体が判明する。

 裏側に回り込むと、無数の穴が開いている。どうやらここは、自然の丘を改造した要塞だった。灰色に見えたのは、表面をコンクリートで固めていたためだ。

 ここを拠点にして、オレンブルク軍はヴォルガニア公国に圧力をかけていた。おそらくだが、イーサルミ王国が独立宣言をし、オレンブルクとの戦争が始まったことがきっかけで、他の国が追随しないよう首都の近くに軍事拠点を築き、圧力をかけていたものと思われる。以前まではこんなものはなかったはずだ。

 拠点を攻撃されたオレンブルク軍は戦意を失ったのか、撤退行動に移る。

 市街地から、まるでいぶし出されたようにぞろぞろと這い出てくるオレンブルク兵の姿を、上空からも捉える。それらは散り散りになりながら、ヴォルガニア市の郊外に向けて敗走する。フロマージュ軍もそれを追う。ちょうど、先日の撤退戦の逆を見ているような雰囲気だ。

 逃げ遅れたオレンブルク兵の後方から銃撃するフロマージュ兵を見ていると、ややいたたまれない。敵兵と言えども、もう戦意を失った相手。このまま見逃してやればいいのに。

 ヴェテヒネンはといえば、この一部始終をただ眺めているだけだった。今回は爆装もなく、また敵の自走砲も見当たらないため、我が主砲で攻撃すべき目標が見当たらない。地上の惨劇を、上空から高みの見物しているしかない。

 と、我々はただ何事もなすことなく終わる予定だった。それで良いと、思っていた。

 が、空中艦は今の時代、戦場の主役。その空中艦が何もなすことなく、この攻防戦を終えることなど出来ようはずもない。

 やがて地上の惨劇は、空の平穏さをも奪っていく。


『艦影、見ゆ! 左37度、距離2万、数およそ10!』


 再び、艦影が現れる。再び艦内に緊張が走る。


「また味方艦じゃねえだろうな」


 と、リーコネン上等兵はぼやくが、その言葉は次の瞬間に否定される。


『艦影識別、ラーヴァ級3、サラトフ級7! オレンブルク艦隊です!』


 今度は敵艦隊だった。艦内にあわただしさが戻る。


『艦隊戦用意! フロマージュ艦隊と合流しつつ、敵を攻撃する!』


 副長の声が響く。私もメモを取り出し、望遠鏡でその艦影を追う。

 相手はオレンブルク艦隊だといった。スラヴォリオ軍ではない。

 ということは、いつもの攻撃が通用する相手、ということか。

 が、敵の出現はこれでは終わらない。


『新たな艦影! 右40度、距離22000、数10!』


 同規模の艦隊が、今度は反対側に現れた。私は望遠鏡でその艦影を見る。

 背筋に、冷たいものが走るのを感じる。

 その艦には、ゴンドラにスラヴォリオ王国旗が貼られている。つまりあれは、スラヴォリオ艦隊だ。


『メッシーナ級5、ペロルシカ級5! スラヴォリオ艦隊です!』


 遅れて、観測員から艦種識別の報告が入る。艦内の雰囲気は、緊迫から混乱へと変わる。


『敵艦隊が、両側から迫るぞ! フロマージュ艦隊からの指示は!?』


 副長の声が伝声管を通じて駄々洩れだ。が、それに対する通信士の回答が聞こえてこない。

 我が方は今、フロマージュ戦艦隊が7、加えて我が艦。爆撃艦隊はすでに後退し、ここにはいない。

 戦艦同士となれば、15対8、この上敵は爆撃艦をも有している。倍以上の敵に加えて、両側からの挟み込み。挟撃態勢で敵が迫ってくる。


『各艦にて対処しろ、だと!? そんな曖昧な命令では、艦隊戦闘にならないだろう!』


 フロマージュの旗艦から送られてきたであろう通信文を呼んでの副長の怒声が、伝声管越しに聞こえてくる。想定外の事態だ、二つの国の艦隊に挟まれるなど、聞いたことがない。だからフロマージュ軍もそう命じるほかない。

 しかし困ったな。挟み撃ちされている上に統制が取れない。逆に言えば、我が艦だけで自由に動けるということにもなる。


「計算士、意見具申!」


 私は砲長に叫ぶ。待ち構えていたかのように、砲長はこう言い出す。


「具申、許可する。が、おそらくはオレンブルクから攻撃すべきだというのだろう?」

「いえ、逆です。スラヴォリオ艦隊から攻撃すべしと具申いたします」

「おい、スラヴォリオ艦隊はヘリウム艦だぞ、そんな苦戦する相手を先に攻撃するなど、どういう判断基準だ?」

「我々の退路は、まさにスラヴォリオ艦隊がいる方向になります。数に勝る敵に挟撃されている以上、逃げ道の確保は死活問題につながります。また、スラヴォリオ艦隊の方が戦艦が少なく、攻撃力はオレンブルクに劣ります。ゆえに、スラヴォリオ艦隊から攻撃すべきだと考えた次第です」

「だが、オレンブルク艦隊ならば、短時間で沈められるだろう。挟撃態勢を崩してからの方が、スラヴォリオ艦隊への攻撃に専念できるのではないか?」

「むしろスラヴォリオ艦隊はおそらく、オレンブルク艦隊から攻撃すると考えているのではないかと想像します。やつらの狙いは、脆弱なオレンブルクをエサにして、我々へ有利な態勢で攻撃することを目論んでいるはずです。その裏をかく意味でも、スラヴォリオ艦隊から攻撃すべきかと。それに……」

「なんだ」

「私、美味しいものは、最後にいただく主義ですので」


 やや冷ややかな視線を感じたが、私の意見は受け入れられた。ヴェテヒネンはスラヴォリオ艦隊を目指す。


『面舵一杯! 最大戦速!』

『おもーかーじ! 最大せんそーく!』


 ググッと艦が右に回り、反動で左に身体が傾く。それを私は支柱をつかんで耐える。

 すると、フロマージュ艦7隻も、我々の後についてくるではないか。各艦の判断に委ねるとは言われたが、他の艦を率いよと言われた覚えはない。それとも、皆がスラヴォリオ艦隊を攻撃すべきと判断したのか? いやあ、そんなことは考えられない。


『スラヴォリオ艦隊まで、あと8000!』


 全速力でスラヴォリオ艦の列に接近し、まさに射程圏内に収めようとしている。私は望遠鏡で敵艦の最前部を見る。その旗が、まっすぐ後ろにたなびいている。

 我が艦の風速計からの読み値でも、敵艦隊はほぼ向かい風で進んでいるようだ。それを考慮し、さらに少し手前、敵のゴンドラ狙いの弾道を求め、炸裂時間を計算する。


「右78度、仰角45度、火薬袋7、信管時間38秒!」


 すぐさま、砲撃手が弾を装填して火薬袋を入れる。その間、わずか1秒未満。尾栓が閉じられるのにさらに2秒、そして2つのハンドルが回されて、所定の角度に達するのがおよそ7秒だ。


「射撃用意よし!」

「砲撃始め、撃てーっ!」


 ズズーンという腹に響く25サブメルテ砲の音とともに、砲弾が飛び出していく。ほぼ同時にフロマージュ艦隊からも、砲撃が始まる。

 見れば、我が艦が艦隊の先頭におり、まるでフロマージュ艦隊を率いているように見える。この空域における指揮命令権は当然、フロマージュ側にあるのだが、まるで我が艦が攻撃目標を指示して、戦列砲撃を加えているように映ってしまう。


『敵一番艦、後退始めます!』


 砲撃後しばらくすると、狙った敵艦が戦線を離脱し始めた。狙い通りの攻撃をできたのだろう。これで敵は9隻、内、戦艦は4隻となった。

 あちらも応戦を続けるが、当たる気配がない。スラヴォリオ王国軍には元々、戦艦が10隻も存在しなかった。空中艦の導入では随分と遅れた国だ。オレンブルクから戦艦、爆撃艦の供与を受けたものの、総じて練度は低い。イーサルミ王国も独立戦争緒戦の頃はそうだったが、運用と地の利でそれを補ってきた。

 が、スラヴォリオ王国はフロマージュ共和国と国境を接しており、あっという間にその領土の一部を切り取られた。地の利のない分、知略で補うほかないが、そこまで目利きの良い軍司令官がいたわけでもなく、スラヴォリオ王国空軍は人的資源の不足をずっと引きづることとなる。

 その人的不足を、さらに私の攻撃が促進することとなる。


『第2番艦、後退を開始!』


 こうなると、戦艦5隻の内2隻が失われただけで、スラヴォリオ軍はその戦意を失う。さらにここはオレンブルクの領土ということもあって、彼らが死守するまでの土地でもない。爆撃艦は持っていた焼夷弾を投棄すると、残った8隻は後退を始める。


『スラヴォリオ艦隊、戦線を離脱します』

『追撃戦だ、敵を追い込め!』


 副長はやる気満々だが、残念ながら視野狭窄に陥っていることを自覚していない。私は砲長に進言しようとするが、その前に砲長が伝声管越しに副長へこう告げる。


『副長、オレンブルク艦隊が接近中です!』


 そう、敵は2隊おり、一方が戦線離脱を始めただけに過ぎない。むしろ本命の敵が今、こちらに向けて接近しつつある。


『そうだった、オレンブルク艦隊だ。転舵、取り舵45度!』


 すこぶる元気はいいようだが、時々、熱くなりすぎて目標を見失いがちになる気がする。もう少し慎重さを身に着けたなら、艦長にとって代わる存在になれるのだろうが。

 まあいい、私も切り替えて、今度は左側面に目を向けて、メモを開く。


『距離7900!』


 すでに射程ギリギリだった。スラヴォリオ艦隊を相手にしているうちに、かなり接近を許したようだ。すぐさま攻撃態勢に入るべく、私は計算に入る。

 風向きは、先ほどの数値を使えばいい。加えて敵の速力、回避方向予想……こちらは、つい最近まで頻繁に戦った相手だ。その癖は大いに把握している。

 となれば、いつものように水素頼みのあの脆弱性を活かせばより楽に敵を葬ることができる。こちらはスラヴォリオ艦隊とは違って、一発でも当たれば火災が収まらない爆弾仕様だ。それを加味した攻撃手段を、私は指示することとした。


『回避運動、取り舵20度!』

『とーりかーじ!』


 ところがだ、先に攻撃を仕掛けてきたのは向こうだ。オレンブルク艦隊の方は戦艦も多く、かつ2門の主砲を持つ艦までいるため、砲撃が激しい。ましてやこちらは青帯付きのおとり艦だ、あちらからの砲撃の光が、すべてこちらに向いているのではないかと思えるほどの集中砲火を受けて、回避運動を行う。

 直前で私は回避運動分を足して、こう指示する。


「左26度、仰角45度、火薬7袋、信管時間32秒!」


 すぐに砲弾が放り込まれ、ものすごい速さで砲身が回される。


「射撃用意よし!」

「撃てーっ!」


 ズズーンという重い音とともに、砲弾が飛翔する。が、この一発の砲弾の後に、何倍ものおつりが返ってくる。


『敵砲弾、来ます!』

『回避、面舵30度!』

『おもーかーじ!』


 忙しいことだ。たった一発撃つ間に、5、6発が返ってくる感触だ。まぐれ当たりでもしたら、大変なことになる。早く敵を減らし、こちらを有利にせねば。

 10対7の戦いが続く。フロマージュ艦もなかなか当ててくれない上に、こちらと同様で、艦と砲門の数の不利さをもろに食らっている。

 が、ようやく我が艦のオレンブルク艦隊への初弾が弾着時間を迎える。


『だんちゃーく、今!』


 観測員の合図から少し遅れて、数隻の艦から火の手が上がった。望遠鏡で敵を見るが、それは全部で3隻だ。

 実はスラヴォリオ王国に近いこの場所に現れたオレンブルク艦隊に、ヘリウムガスが渡っているのではないかと懸念していた。が、それがないことをこの一撃が証明して見せた。

 スラヴォリオ王国も、それほど潤沢にヘリウムガスを保有しているわけではなさそうだ。少なくとも、オレンブルクに供給できるほどではないと分かる。

 スラヴォリオ艦隊を相手にするようになり、攻撃方法がやや変わったが、オレンブルクへの攻撃に対する腕はまだにぶってはいないようだ。


「次の艦を狙います!」


 私はそう宣言し、メモをめくって新たな標的を定める。艦列の中央付近、その艦列だけ、やや密集している。

 先ほどの攻撃で、3隻が炎上した。今度はあの密集隊形をとる敵に攻撃すれば、少なくとも3隻は沈められる。

 おそらくはこちらに砲火を集中させるために取った隊形だろうが、我が艦の前で密集隊形をとるなど、それが愚かな選択であることを、自らの命失うまでの間、思い知らせてやる。私はややいきり立ちながら、計算尺を滑らせていた。


「左28度、仰角44、火薬7、信管時間30秒!」


 その密集艦列にとどめを刺すべく、指示を出す。すぐさま、3人の砲撃手は発射態勢に入る。その間、わずか数秒。


「射撃用意よし!」

「撃てーっ!」


 放たれた砲弾は、敵に決定的打撃を与えるべく方向に飛翔を始める。これが狙い通り当たれば、敵を撤退に追い込めるかもしれない。

 が、さすがに毎回、狙い通りとはいかなかった。


『だんちゃーく、今!』


 合図から少し遅れて、再び敵艦から炎が上がる。が、1隻だ。3隻ではない。残念ながら、外してしまった。

 いや、一隻当てただけでも本来ならば大いなる戦果なのだが、これで残念に思えるのは、目論見通りではなかったからというのが大きい。

 まだ、敵艦隊は6隻いる。戦艦の数の上では、我々の方がすでに上回っている。ただし、砲門数はまだ敵の方が上だ。

 が、敵はいきなり、焼夷弾を投下し始める。3隻だけいる戦闘爆撃艦が、何もない草原の真っただ中に攻撃手段をばらまき始めたのだ。これはつまり、爆弾を放棄したことに他ならない。

 その直後、オレンブルク艦隊は方向を変える。


『敵艦隊、撤退していきます!』


 まだ戦闘力の優位なはずの敵艦隊が、撤退を始めた。オレンブルク本国側へと転進するその艦隊に対して追撃戦を始めるかと思いきや、副長は戦闘中止を宣言する。


『ヴォルガニア市上空に戻る。深追いはしない』


 ついさっきまでは敵を追撃せんとばかりの勢いだったが、それよりもヴォルガニア市上空の護衛に回った方が得策と考えたようだ。今度ばかりは冷静さを取り戻した副長の命に、私は黙って従うのみだ。


 そのまま日が暮れ、上空の待機命令は解除となる。このままテッサフロリナに帰還するつもりでいたが、意外な電文が我が艦にもたらされる。


『ヴォルガニア公国、公王陛下の名で電文! イーサルミ王国戦艦は、ヴォルガニア港に入港せよ、以上です』

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