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計算士と空中戦艦  作者: ディープタイピング
第3部 侵攻作戦編
51/72

#51 幻影

 敵は現れず、気づけば正午を迎えた。我々以外の艦影もなく、地上部隊が動いている様子もない。警戒態勢をとりつつも、この機に乗じて、我々は交代で昼食を摂ることとなった。


「うげ……おいマリッタ、これは……」


 テーブルの上に並べられたものを見て、私は思わず言葉を失う。が、マリッタのやつはしゃあしゃあと言ってのける。


「何言ってんのよ、いつものビスケットと、酢漬けキャベツだよ」

「いや、それはわかっている。だけど、セレスティーナ製の戦闘食(レーション)はどうした?」

「今朝ので尽きちゃった。食糧の補給を受けている暇がなかったから、艦内に備蓄されてたイーサルミ製の戦闘食を出したんだよ。あ、チョコレートだけは、私が全部いただくから。だってあれがないと私、船酔いしちゃうからね」


 こいつ、ちゃっかりチョコレートだけはがめていたのか。が、船酔いがひどいのは承知しているから、文句は言えない。ともかく、今はこれしか満足に食えるものはない。となれば、以前のように格闘しながらの食事をするしかない。

 くそっ、面倒な敵を押し付けられた上で、食材を取り上げられた気分だ。以前を思い出し、硬いビスケットを酢漬けキャベツの中に突っ込み、多少酢液を吸ったところで取り出してかじりつく。が、徹甲弾頭でも破壊できないのではないかと思えるほどのこの硬いビスケットが、私の歯をなかなか通してくれない。すっかり私も、贅沢な戦闘食に慣らされてしまったものだ。

 が、どうにかその硬く味気ない食材を胃に流し込むと、再び配置に戻る。が、気味が悪いくらい静かな時間が続く。やがて日も西へと傾き始めた。

 食事の影響か、すっかり士気が下がってしまった。このまま敵が現れないことを願いつつ、その私の儚い願いがあと2時間ほどで叶おうとしていた。

 が、やっぱりオレンブルクという国はいやらしい連中の集まりだ。最後の最後に、やつらは現れた。


『敵艦隊、出現! 距離11000、艦影多数、数10! ラーヴァ級3、サラトフ級7!』


 やはり来たか。観測所からの報告では、今回は偵察艦はいないようだ。さすがに立て続けに失ったから、近接戦闘による奇襲はあきらめたと見える。その代わり、戦艦クラスを10隻も出してきた。

 こちらは6隻。しかも相手には戦闘爆撃艦も含まれる。ということは、我々が逃亡すれば、やつらは撤退中のフロマージュ軍に爆撃を仕掛けるつもりだ。

 となれば、あれと戦うしかない。やつらの動きから察するに、まだこちらに気づいてはいない様子だ。高度を上げて、やつらより有利な位置に回り込む時間がある。

 それにしてもなぜ、距離11000まで接近していたのに気づかなかったのだろうか?


『敵艦隊を迎え撃つ。新型兵器はすべて投棄しつつ、艦隊戦に備える。総員、砲撃戦用意!』


 副長の報告を聞きながら、私は望遠鏡で敵艦隊の周辺を見渡した。なぜ、敵の艦隊がこの距離まで発見できなかったのか、その理由を知る。

 雲だ。よく見れば、分厚い雲がかかっている。雨雲のようで、その下はうっすらともやがかかているように見える。あの下では雨が降っているのだろう。

 高度は4000メルテほど。あれに身を隠しつつ接近し、我々の前に現れた。この時間に現れたことからおそらく、皇都に駐留する防衛任務の艦隊が到着したのではないだろうか。

 しかしまあ、なんてことだ。また倍近い敵を相手にするのか。我々にとっては、快進撃だろうが撤退戦だろうが、いつも不利な条件での戦いばかりを強いられる。フロマージュ艦隊も戦闘経験が浅く未熟だし、いつも負担はこのヴェテヒネンにのしかかる。

 仕方がない、また広範囲砲撃で複数艦を沈めるか? いや、雨雲があるということは、あの周辺は上昇気流があるということになる。無風状態ならそんな賭けにも出られるが、今回は難しそうだ。

 どうしたものか。それにしても、邪魔な雲だ。敵を隠したばかりか、こちらの砲撃を不確実にする。上昇気流ごとき蹴散らせる散弾というものは、この先、開発されないのだろうか?

 と、その時、私の脳裏に妙案が思い浮かぶ。

 それを見た砲長が、にやりと微笑(わら)う。


「ちょ、砲長、なんですか!」

「いや、何か思いついた顔だなと思ってな」

「何じろじろと見てるんですか……って、それどころじゃありません! ちょっと艦橋までついてきてください!」

「は? 艦橋?」

「早く!」


 私は砲長を引き連れて、艦橋へと急ぐ。早くしないと、あの武器を投棄されてしまう。いつもなら恐々と渡るあの布製の通路も走りぬき、私は艦橋へと走りこんだ。そして、艦長と副長に向かって叫ぶ。


「計算士、意見具申!」


◇◇◇


 オレンブルク艦隊10隻は、敵の艦隊を捉えた。距離はまもなく8000を切る。双方、単縦陣を組みつつ砲撃態勢に入っていた。

 フロマージュ側は5隻、オレンブルク側はその倍の艦艇でこれを迎え撃つことになる。しかもサラトフ級は主砲が2門あるから、実質的に2倍以上の戦闘力を有していることになる。

 見たところ、あの中に青首(ブリューネック)がいない。オレンブルク側を恐怖と混乱に陥れるあの艦が姿を見せない。奇妙だとは思いつつも、ともかく目前の敵艦隊との戦闘に備えつつあった。

 やがて、双方の距離が7800となる。主砲射程内に入り、ほぼ同時に砲撃戦が始まった。


 青首(ブリューネック)を警戒してジグザグの陣形をとっていたが、向こうにそれがいないと分かると、直線の陣形に転換する。

 単縦陣のまま距離を詰め、砲身の数の多さを活かして敵を圧倒し、アラル山地へと接近する。その余勢で戦闘爆撃艦を突破させて敵の陸上部隊に追いつき、これを爆撃する。これがオレンブルク側の作戦であった。

 が、砲撃戦が激しさを増す中、前方の雲から何かが飛び出してくる。


「艦影、視認! 青色の帯、青首(ブリューネック)です! 距離1200!」


 先頭の艦の観測員が叫ぶ。雲の中から飛び出してきたそれは、まっすぐこちらへと向かってくる。

 だが、砲撃戦をするなら側面を向けなくてはならない。しかしあの鬼才の艦は転舵する気配も見せず、高速でこちらに突っ込んでくる。

 その青首(ブリューネック)から、黒い何かが放たれた。

 それはまっすぐと、炎を吐きながら突っ込んでくる。何が起きているのかを把握せぬまま、それが先頭艦の気嚢に達した。

 まるで炎を吐く太い矢じりのようなその物体は、水素ガスを包んでいる合成繊維製の袋を貫いた。それが後方に吐き出す炎によって、空いた穴から漏れた水素が引火する。

 猛烈な爆炎に包まれながら、先頭のサラトフ級はその浮力の源を失う。その下の人や砲身を載せたゴンドラは重力にひかれつつ、真っ逆さまに落ちていく。

 その黒い「矢じり」は、一直線に並んだオレンブルク艦隊を次々と貫いていく。異変に気付いた後方の艦は回避運動に入るが、猛スピードで駆け抜けてくるその物体を避けきれず、気嚢を破られていく。

 後ろの3隻だけが、どうにか離脱できた。サラトフ級2隻、ラーヴァ級1隻。形勢は、一気にひっくり返る。

 しかしだ、それであの青首(ブリューネック)が攻撃をやめたわけではない。

 生き残った3隻の艦隊の、すぐ脇を通り抜けてくる。その時、やつの側面からは機銃が放たれた。

 その機銃弾を受けて、さらにサラトフ級1隻が炎に包まれて沈む。


◇◇◇


「やったぜ! 大型艦を打ち取ったぞ!」


 リーコネン上等兵が大喜びだ。まさか偵察艦ではなく、戦艦を機銃で撃つ日が来るとは彼女自身も想定もしていなかったから、この喜びも一入(ひとしお)だろう。

 にしても、これほどうまくいくとは思わなかった。私が直接、艦橋に乗り込み、自噴式弾頭による敵艦隊攻撃を具申したとき、それを聞いた艦長が私にこう条件を付けてきた。


「その攻撃を仕掛ける前に、この作戦をフロマージュ艦隊へ伝達する。彼らに我々を援護させ、その上で確実に敵を仕留める」


 この時はてっきり、フロマージュ軍の前で出しゃばった行動ととられないよう、事前に通告することが目的なのかと思って聞いていた。が、今は違う狙いがあったことを知る。

 フロマージュ艦隊が砲撃戦を仕掛けたおかげで、オレンブルク艦隊はそれを圧倒するために直線状の単縦陣を組んで砲撃戦に及んだ。そのおかげで、あの自噴式弾頭による奇襲攻撃を有利に運ぶこととなった。

 単に艦長席に座り、副長の決定を追認するだけの人かと思っていたが、そうではなかったことを知る。こんな助言をすることもあるのか。ともかく、我々は一気に敵の戦艦を8隻、打ち破った。

 が、敵に接近しすぎた。このまま、正面にある雲に突入して逃げ切る。敵は2隻だが、そのうちの一隻がサラトフ級だ。つまり、2門の主砲を持っている。あんなものと至近距離で撃ち合ったなら、こちらが不利だ。

 目前にある雲の中に突入する。このまま雲の中を進み、フロマージュ艦隊と合流する。そこで通常の艦隊戦を行う。私はメモ帳と計算尺を握りしめる。

 そして、雲の中に突っ込んだ。


 雲の中に、飛び込んだはずだ。が、何かおかしい、周囲がやけに明るい。

 今は夕刻だ。雲に突入する前に、西日が見えた。周囲では夕焼けが見えたが、それほど明るいわけではなかった。

 しかし、この中はまるで昼間のように明るい。なぜだ、雲の粒子で日光が乱反射し、外よりも明るく光っているのか? いや、それはあまりにも不自然だ。

 だが、そういう類いのものではないことを私はすぐに悟る。目前には、どこかで見たような風景が広がっていた。


「な……なんだここは?」


 機銃弾倉を抱えたリーコネン上等兵が、窓の外を見て叫ぶ。私も、自身の目を疑う。

 ここにあるはずのない海が、目前に広がっていた。断崖絶壁のすぐ上を、この艦は進む。

 ありえない、ここは内陸部、しかも我々は4000メルテ上空を飛んでいたんだぞ?

 ただ、その光景には見覚えがある。もしもあの時と同じならば、海の上に何かがあるはずだ。実際、その時のように、海の上に何かある。

 今度は、白い岩だ。直径は500メルテはあろうかという大きな、貝柱のような上面が平らな丸い形の岩が、海の上から突き出ている。

 そしてその岩の上には、あの時と同様に、大勢の人が並んで立っている。

 私はまた、あの「幻影」に遭遇したのか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさかの飛行船で退き口とは、青首やばすぎて草枯れる(;´Д`) [気になる点] この戦果で対空ロケット兵器の開発が進むのだろうなぁ 活用出来るのは青首だけだけど… [一言] ラピ○タ?
[一言] ワンパン7隻撃沈+1隻通り魔はもはや戦略兵器なんよ これは完全にアンサイクロペディアに嘘を書くのを諦めさせた艦になるなw
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