#46 進撃
最強のフロマージュ軍といえども、要塞都市をなんの準備もせずに攻め込むわけにはいかない。
この先にある要塞都市には、5万の兵、7万の住人が住むと言われている。ここは南側と皇都都を結ぶ交易の要衝でもあるから、住人の多くが交易商だ。が、それは裏を返すと、民間人を装った兵士、民兵とも言える。
このオレンブルクの皇都へと続く交易路というのは、往々にして治安が悪いらしい。耕作地帯から遠く離れたこの一帯は野盗の類いが多く、それゆえに交易商というのは自衛のため武器を所有しており、またそのための軍事訓練も受けている。
ゆえに7万人の住人といえども、その多くはいざという時には民兵となる。そう考えると、あの城壁の向こう側には12万もの兵士が潜む軍事拠点とも言える。
そんな場所の攻略のため、ここに集結した兵士は7万。攻める側としては、とても足りない。このため、本国に増援を依頼している最中だという。
とはいえ、これほど目の前に敵軍が侵攻してきたとなると、オレンブルクとて黙って見ているはずがない。必ず、何か仕掛けてくる。
アラル山地要塞をそのまま流用した駐屯地には、大型輸送船により多くの物資が集められた。当然、例の新兵器も運び込まれている。
私はその、運び込まれたばかりの「陸上戦艦」というものを間近に見た。
全長約10メルテ、幅3.8メルテ。分厚い履帯がいくつも並べられた無限軌道が左右にあり、その真ん中には分厚い鉄の板をリベットで結合した車体、後方には大きな機関の存在をうかがわせる太い2本の排気管、そして上部につけられた砲台と、まっすぐな砲身がついている。
長い砲身から打ち出される砲弾は、初速がヴェテヒネンのおよそ倍の、毎秒600メルテにも達するという。これが高い破壊力を生み、自走砲の前面装甲板すらもあっけなく貫いた。
まさしく、鉄の棺桶……ではなく、陸の戦艦といったところか。
「なんだ、不服そうだな」
陸上戦艦を眺める私を見た砲長が、こう言い出す。
「ええ、不服です」
「だが、この陸上戦艦の威力は見ただろう」
「存じてます。ですが、戦艦と呼ぶにはあまりにも小さく、しかも砲身が細すぎです」
「初速を上げ、破壊力を得るための工夫だろう。空中戦艦の武器とは思想が違う。我々の砲は初速よりも、撃ち出した砲弾から発せられる散弾をいかに広範囲に、大量に撒き散らすかに主眼が置かれた砲だ。だから、砲の長さのわりに口径が大きい」
「そんなことはわかってますよ。陸上戦艦のそれは、分厚い装甲や壁を貫き、防御を打ち砕くための砲であることも承知してます」
「では、何が気に入らないんだ」
「だから、戦艦と呼ぶにはやっぱり小さ過ぎるんですよ。車体の長さもせいぜい10メルテで、しかも戦艦を名乗っているくせに、それを『船体』とは呼ばず『車体』と呼ぶんですよ。矛盾しているとは思いませんか?」
「それは単に、船というより雪上車あたりを元に作られたものだからではないのか?」
いちいち反論してくる男だな。そんなことはわかっているが、そもそもこの乗り物に「戦艦」という名が相応しくないと言っているだけだ。仮にその雪上車に武装を施しても、「雪上戦艦」とは呼ばないだろう。そういうことだ。
「へぇ、わざわざ見てきたんだ、あの陸上戦艦を」
「なんだマリッタ、お前は見てねえのかよ。すぐそこにあるぞ」
「いやあ、だってわざわざ見るもんじゃないじゃない。別にチョコレートや肉が詰まってるわけでもないんだし」
その日の昼食時に、私が陸上戦艦の話をすると、マリッタがこういう反応をする。おいマリッタよ、あれは装甲板で囲われた乗り物であって、巨大な缶詰じゃないぞ。チョコレートを頬張るマリッタの顔を見ながら、こいつの頭の中が食うことでいっぱいだということを、私は改めて理解した。
「でもよ、俺も見に行ったが、ユリシーナの言う通り、あれを戦艦と呼ぶのはどうかと思ったぜ」
「その通りだ、いくらなんでも『戦艦』はないな。せめてあれは『戦車』じゃないのかと」
「だけどさぁ、戦車っていうと古代に活躍した、二頭の馬で引っ張って平原で戦う車のことを指すから、紛らわしくない?」
「そうか、そっちの方がまだ、しっくりくるだろう」
「うーん、そうかなぁ。私には同じように思うけどなぁ。ならいっそ、『武装付き人間缶詰』ってのはどうかな?」
どうかな、じゃないぞ。おいマリッタ、いくらなんでもその名は縁起が悪すぎだ。走る棺桶と言っているようなものだぞ。
この要塞跡で戦闘準備が進められる中、我々は一時の休息の機会を得た。このひと月ほど、連戦が続いていたが、ここにきて穏やかな時間を過ごしている。
ここに着いて3日。こういう静かな日々が続く。あの激しい戦闘があった場所とは思えないほど、穏やかだ。すぐ目の前には、要塞都市と呼ばれる堅固な城壁で囲まれた敵の一大拠点が見えている。にもかかわらず、この静けさだ。
敵がこれだけ近くにいるのだから、普通なら嫌がらせのようになんらかの攻撃を仕掛けてくるものではないのか? いや、もしかするとあちらも、我々の力を思い知って、手出しできないだけなのかもしれない。だから敵も今ごろは、我々を迎え撃つ準備に専念しているのだろう。
ここから眺める敵要塞都市の周辺状況だが、やはりというか、堅固な防衛線が敷かれている。やや広めの河を越えた先には、5重もの塹壕に有刺鉄線が敷設されている。そして、要塞都市の城壁に築かれた多数の要塞砲も見える。
あれを、たった7万で落とそうというのか? 増援を要請するのも当然だろう。だが、あまりここで時を過ごすと、まずいことになる。
まもなく、オレンブルクにも長い冬が訪れる。フロマージュ共和国は比較的南の国だから、オレンブルクの極寒の冬は耐えられない。そのことはフロマージュ軍の司令部も心得ているはずだ。というのも、ずっと昔にフロマージュはこのオレンブルクに攻め入ったこともあった。その時は10万もの大軍を擁して攻め入ったが、このネフスキヤヴォストークを前に冬を迎え、フロマージュ軍がその寒さにやられる。弱ったフロマージュ軍に対し、オレンブルク軍が反転攻勢に出たため、かつてないほどの大敗北を喫した。
その経験があるから、冬に入る前に決着をつけたいと考えているだろう。そのために、新兵器まで繰り出してきた。この休息も、それほど長くは続かない。
増援を待たずに攻撃を仕掛けるというフロマージュ軍前線司令部の決断を聞かされたのは、その日の夕方のことだった。
「副長、つまりフロマージュ軍は、要塞都市の占拠を諦めた、ということなのですね」
副長から、長々とフロマージュ軍の作戦概要を聞かされたが、それを聞いた砲長がこう述べた。
「……まあ、そういうことになるな。当面はアラル山地要塞を拠点にして、そこから牽制し続ける。今の兵力では、それが精いっぱいだろうということだ」
「賢明な判断だとは思いますが、ならばなぜ、要塞都市の外壁破壊を行うので?」
「ただ黙ってみているだけではだめだ、一度は打撃を与え、その上でにらみを利かせる。そうでなければ、牽制にならない、というのがフロマージュ軍司令部の見解だ」
なんだか、あまり意味のある作戦に思えなくなってきたなぁ。ここでじっとしている方が、無駄に命を消耗することなく敵を消耗させられるというのに。
が、軍司令部の決定となれば従うしかない。今の我々は、フロマージュ軍司令部の指揮下にある。イーサルミ王国のことも心配だが、あちらは今、オレンブルク軍の攻撃を受けていない。これほど奥地まで外敵が入り込んできているというのに、オレンブルクもイーサルミ王国を攻めている場合ではないからだ。
駐屯地内で聞いた話では、南方の戦いもやや落ち着きを見せつつある。スラヴォリオ王国軍も、それほど積極的な攻撃を仕掛けなくなってきた。やはりアソンニオ島を失ったことが大きいようだ。南方大陸からの資源航路を確保できなくなり、オレンブルクからの物資に頼るほかなくなった。
ところがだ、オレンブルク連合皇国とスラヴォリオ王国は元々仲が悪い。国境紛争を繰り広げていた両国が、互いの利害の一致で手を組んでみたものの、犬猿の仲の両者が急に親密な関係になれるわけもない。それゆえにオレンブルク側にはヘリウムが供給されず、一方のスラヴォリオ王国も資源供給を渋られているのではないか。
となると、このオレンブルク侵攻作戦自体がほとんど意味がない、ということにならないだろうか。この侵攻作戦は、オレンブルクからスラヴォリオ王国への資源供給を絶つのが目的だ。ところが、そもそも資源供給がおろそかになっている現状を見れば、わざわざこんな遠くまで攻め込まずともよかったのではと、そう思わずにはいられない。
だが、この侵攻作戦にはもう一つ、フロマージュ共和国の悲願達成という目的もあったのかもしれない。かつて、フロマージュがまだ王国だった時にオレンブルク相手に大敗北し、それがきっかけとなって王政が倒され、共和国になった。その王国時代になしえなかった遠征を成功させれば、それはすなわち現体制が旧王国を超えたということを名実ともに示すこととなる。
だが、そんな事情は、イーサルミ王国からすればどうでもいいことだ。我々は別にオレンブルク連合皇国を滅ぼしたいわけではないし、領土を広げたいわけでもない。ただ、オレンブルク連合皇国にイーサルミ王国の独立を認めさせたいだけだ。
そんな思いも、今や拡大する戦争の渦中にあってはすでに顧みられることはない。西側同盟は連戦連勝、それはほぼフロマージュ軍による圧倒的軍事力のおかげではあるのだが、それゆえにこの戦争の主導権はフロマージュ共和国が握ってしまった。
あのスァリツィンクスでの一件以来、我々が特に何かをされたということはない。が、明らかにイーサルミの者として、低く扱われている節はある。だいたい、あの気嚢に描かれた青帯模様がそうだ。あんな派手な模様を、他の空中艦がつけているのを見たことがない。他にも、駐屯地での居場所も日当たりの悪い端の方をあてがわれたり、食糧の配給もいつも後回しにされている。
それでも、すべてのフロマージュ軍兵士が我々に対して含みを持たせるような所業をしてくるわけではなく、例えばフロマージュ軍の戦艦所属の計算士が、私のところにやってきていろいろと尋ねてくることがあった。どうやったらあの命中精度が出せるのかと、フロマージュの計算士らから尋ねられたので、この3日ほどの間、勉強会と称して私の弾道計算メモを見せつつ、ノウハウや経験談を話している。
私はそれほどフロマージュ語が得意というわけではないが、計算士同士ならば計算式だけでもだいたい会話が通じる。だから、それほど苦労していない。私も彼らには、伝えられるだけのことを伝えたい。これで次の戦い以降の命中精度が上がってくれると、我々としても助かる。
計算の前では、人はみな平等。ラハナスト先生がいつも言っている言葉だ。フロマージュ軍兵士だって、計算の前では皆、謙虚だ。もちろん、オレンブルク軍兵士の計算士だって……そう考えると、計算士同士に外交をやらせてくれた方が、世の中は平和な方向に向かうのではないか?
「そんなわけないだろう。その外交の場は、計算士同士がマニアックなことを勝手に話し始めて、自己満足しあって終わるだけだ。一般人がその感性についていけるわけがない」
ところがだ、その晩の夕食の席で砲長にこの考えを打ち明けたら、あっさりと否定された。
「ならば、その一般人にまで計算工学を浸透させるのです。それならば、皆が理解しついてきてくれるはずです」
「計算を極めた者がすべて、平和主義者というわけでもないだろう。それを主張するお前にしても、その計算を戦争の道具にしているじゃないか。だいたい新兵器というやつは、開発の裏でその計算工学というやつを多用している。だから、計算工学を広めたところで、余計に殺傷力の高い兵器が生み出される土壌となるだけだ」
完膚なきまでに否定された。私はムッとして、その晩は砲長と口をきかないと決めた。が、一人で食べる夕食の場でも腹の虫がおさまらず、どこからともなく差し出されたワインを、思わず一気に飲み干してしまった。
その翌日、私はまた砲長の横で寝ていた。計算尺で大事な部分を隠しながら、私は恐る恐る砲長に尋ねる。
「……なぜ、私はここに?」
「なんだ、相変わらず、昨夜のことは覚えていないのか」
「あなたとは一晩、口をきかないと、硬く心に誓ったところまでは覚えているのですが」
「そういえばお前、昨夜もそんなことも言ってたな。とにかく昨日の晩のお前は俺に向かって、計算こそ正義だと散々説いてたぞ」
お酒が入ると、どうしても人が変わってしまう。二重人格なのだろうか? いや、でも砲長に抗議してたみたいだから、信念は貫いた。えらいぞ、酔った自分。
「さて、その薄い胸をさっさと隠して、出かける準備だ」
「あの……出かけるってどこに?」
「10時から、招集がかかっているだろう。いよいよ侵攻作戦の概要が伝えられるらしい」
いらん一言を被せつつも、侵攻作戦という言葉が飛び出した。
「えっ、そうなんですか?」
「そうなのかって、お前、昨日の定例会で言われたじゃないか」
計算式なら頭に入るのだが、それ以外のことは時々、すっぽり頭から抜けることがある。こればかりは自分でも、どうかしていると思う。
で、急いで軍服を着て、広場に集合する。少し肌寒い中、副長がこう告げた。
「明朝、0800(まるはちまるまる)、ネフスキヤヴォストーク攻撃作戦を開始することとなった」
ついに作戦が行われる。その場に集まった27人は皆、緊張した面持ちだ。
「まずは5重の塹壕線を突破する。そののちに、要塞都市の城壁の一部を破壊。その後、速やかにアラル山地要塞へと撤収する。作戦の概要は、こんなところだ」
「敵に打撃を与えることが、今度の戦いの目的ですか?」
「そうだ。それによって、敵へ心理的打撃を与えることが第一の目的だ」
元々は、あの要塞都市を中継地とするスラヴォリオ王国への資源供給を遮断するというのが目的で始まった侵攻作戦だ。こちらの力を見せつけ、心理的ダメージを与えれば、交易路の物資の流れにも滞ることとなる。そう読んでの作戦とのことだ。
それならば、単に交易路を通る輸送トラックや馬車を空から攻撃すれば済むのではないか? そちらの方が、ずっと心理的な影響は大きい。しかし、軍司令部としてはせっかくここまで連れてきた7万人もの兵員と新兵器を活かさずにおくのはもったいないと判断したようだ。そこで打ち出されたのが、この作戦とのことだ。
「いよいよ作戦かぁ。もうちょっと、のんびりしたかったなぁ」
「ぼやくなマリッタ。どのみち、俺らは戦うためにきてるんだからよ、いずれはこうなるぜ」
などと言いながら、リーコネン上等兵はカードを並べている。またろくでもない占いを始めたようだ。
「おお、近い将来に、『力』と出たぜ! 勝利間違いなしだ!」
はしゃぐ機関銃士だが、その直後、表情がすぐれない。
「どうした?」
「いやあ、この『力』のカードの向きがよ、逆さなんだよなぁ」
「逆さになると、どういう意味になるんだ?」
「過信、はったり、思わぬ落とし穴、そんな感じの意味だな」
なんだ、縁起が悪いな。私は占いのことはよくわからないが、カードが上下逆になるくらいで、それほどまでに意味が変わるのか。
そんなのどかな日も暮れ、私はといえばまたワインを飲まされて、砲長と同じ寝床で翌日を迎えた。
『抜錨、ヴェテヒネン、発進!』
珍しく、艦長が声を上げている。こういう役目はいつも副長に丸投げの艦長だが、この日はよほどやる気に満ちていたのか、それとも昨夜は艦長もチョコレートを食べて元気が出たのか、珍しく声を張り上げる。
繋留錘が切り離され、我が艦は上昇を開始する。腹には大きな錘、ではなく自噴式弾頭が10発搭載された。事前攻撃で、あの城砦にある要塞砲を攻撃せよ、とのことだ。
とはいえ、今度ばかりは難しい。間違いなく敵も戦艦隊を多数出してくるに決まっている。それを相手にしつつ要塞砲攻撃など、できるわけがないだろう。
今回もフロマージュ軍の戦艦は7隻、爆撃艦は10隻、これに我が艦が加わり、全部で18隻。対するオレンブルク軍も、これまでの経験から少なくとも20隻以上は出てくると思われる。
これまでの戦いでかなり戦艦を消耗しているから、主力はおそらくあのアブローラ級、つまり偵察艦だろう。これまで何度か戦ってきたが、あれは意外と厄介な相手だ。
例の陸上戦艦が前進を始めた。全部で……8台しかいない。そういえば、前回の作戦で半数が機関に不調をきたして後退したと聞いたな。見た目に似合わずデリケートな兵器なようだ。
そんな小さく脆弱な「戦艦」に、空中戦艦が負けるわけにはいかない。これまで戦いの主力として君臨してきた空中戦艦として、意地でも功を先んじてやる。そんな私を乗せたヴェテヒネンは、高度3000メルテに達しつつあった。
すると、やはりというか、敵は動いた。
『敵艦隊、出現! 艦影多数、およそ30!』
いきなりの大艦隊が出現した。が、いつもより数が多くて、観測員もすぐに艦種を識別できない。
『アブローラ級15、サラトフ級5、ラーヴァ級7、ペロルシカ級4、計31隻! 距離12000!』
どう見ても、あの要塞都市から出港した艦艇だろう。それにしても思いの外、たくさん配備していたものだ。数的には、こちらが不利だ。
『やむを得ない、自噴式弾頭を切り放す。敵艦隊に向かい、これを撃滅する』
その報告を受けた副長が、腹に抱えた新兵器を切り離すと決断する。
が、私はそれを聞いて、慌てて進言する。
「砲長、計算士、意見具申!」
またかという顔でこちらをみる砲長が、こう答える。
「具申許可する、なんだ」
「あの弾頭をただ切り離すだけではもったいないです。せっかくですから、全弾を攻撃に使いましょう」
「攻撃って、まさか戦艦を撃つつもりか?」
「そんなわけないじゃないですか。城壁を狙うんです」
「14000は離れているぞ、あれの射程はせいぜい1500、遠すぎるだろう」
「そんなことありません。計算するので、その間に副長に弾頭放棄を思いとどまらせてください」
私は副長への説得を砲長に丸投げし、計算に入る。
「砲撃室より艦橋、砲長、意見具申」
砲長が説得を始める。その間に私は、あの弾頭についての情報を思い出していた。
実はフロマージュ軍の計算士から、あの自噴式弾頭の最大射程を聞き出していた。あれの燃料ならば、最大2000メルテは推進できるという。その際の最高速度は毎秒320メルテに達するとのことだ。
高度3000で2000メルテ進んで、そこから空気抵抗を受けつつ最大速度で自由落下して到達する距離は……私は計算尺を滑らせて、その距離を算出する。
「砲長、このまま前進し、距離9200で切り離せば、城壁に届きます」
「命中するのはいいが、どこを狙う?」
「それは……」
そうだ、ただ城壁に当てるだけでは、表面が削れるだけであまり意味がない。できるなら、効果的な目標に当てたい。だけど、ここからも狙えるほどの大きな目標なんてあったか? 私は望遠鏡を取り出し、城壁を見る。
ふと目に飛び込んできたのは、大きな城門だ。分厚い鉄板で作られているようだが、自噴式弾頭は鉄板を貫き、破壊するための武器だ。あれを狙うのは、この新兵器の攻撃目標としても適っている。
「正面の城門を狙ってください、あの大きさならば、多少軌道がずれても命中します」
それを聞いた砲長が、私の考えを副長に伝える。
「副長、照準を城門に向けつつ、水平飛行で距離9200にて全弾発射、然る後に戦艦隊と相対するべきと具申いたします」
しばらく沈黙が続いたが、やがて副長から返信がくる。
『了解した、これより我が艦は城門攻撃を行い、その後、戦艦戦闘に備える。航海長、最大戦速!』
ただ捨てられる予定だった推進弾頭を、大胆にもこの距離から要塞都市本体に向けての攻撃に使うこととなった。
甲高い機関音と、風切り音が砲撃室内で響く。この攻撃は、ここからはただ見守る他ないため、振り回されているという感覚だけが残る。
『城門まで距離9200!』
観測員の合図とほぼ同時に、床からガコンガコンと鈍い音が鳴り響く。次々に着火し、シューッと噴出音を立てて、あの黒い新兵器は目標に向かって飛翔を始める。
『取舵30度、戦艦戦闘に備え!』
艦を離れてしまった弾頭がどこへ向かおうが、次はあの大艦隊を相手にせねばならないことは変わりない。副長が戦艦との戦闘に備えるよう、切り替える。
「よし、やっと俺たちの番だな」
「おうよ、俺も腕がなるぜ!」
キヴェコスキ兵曹長とリーコネン上等兵が、ストレッチしながら次なる戦闘に備える。本来、空中艦との戦闘のために作られた艦だ。ここからが、本領発揮となる。
『敵艦隊まで、あと8000!』
その敵艦隊を、まもなく射程内に収めようとしていた、その時だ。
城壁の辺りで、大規模な爆発が起こる。
我々の放ったあの弾頭が着弾した。立ち上る黒煙と、僅かに見える炎。それはまさに狙い通り、城門の辺りで炸裂した。
「やったか!?」
叫ぶ砲長だが、私にはそれを見ている余裕はない。すでに私は、敵戦艦に叩き込む主砲弾の弾道計算をしている最中だ。
なお、この時の弾頭は半数近くが目標の門扉に命中し、それを粉々に砕いた。
それがまさか、この要塞都市に与えた唯一のダメージになろうとは、この時の私には想像すらできなかった。




