#25 機転
『対地戦闘、用意!』
副長からの号令が、ここ砲撃室にも響く。砲撃手2人が配置につく。一方、機関銃士も弾倉を抱えて、機関銃にて備える。
「おい、偵察艦はまだ現れてねえぞ」
「こんな闇夜だ、こちらが攻撃を始めたら、現れるかもしんねえじゃねえか」
珍しく、占いではなく尤もな理由で行動するリーコネン上等兵に、砲長は頷いてその判断を支持する。私はといえば、新たに取り付けられた爆撃照準器に向かう。
これはフロマージュ共和国から供与されたばかりの、爆撃精度を上げるための機械だ。中央には十字の照準が付けられており、その照準が描かれた望遠レンズの軸を調整しつつ、狙いを定めるというものだ。その調整はもちろん、高度や風向、風速などから計算して定める。
焼夷弾側も、揺らぎを減らすために流線型の弾頭とされた。この照準器と爆弾本体の工夫により、かなり命中精度が上がったとされる。
が、眼下の敵は、狙いの定めようもないほどの数がいる。こんな照準器を使ったところで、ほとんど役に立たない。
いや、手前の兵士は要塞砲に任せ、我々はその後方にいるアレを撃つべきか。
そう、正に今、組み立てられつつある自走砲車だ。あれをやらねば、塹壕内の兵士の犠牲が増える。
「敵集団の先頭を、爆撃する」
が、砲長は私の思いとは違う結論を出す。
「砲長、むしろ前衛の集団よりも、後方の自走砲の方が脅威となりえます。撃つべきは、自走砲ではないかと」
「要塞砲ならば、あれを当たられるだろう。それよりもだ、今迫りつつある脅威を排除することが、優先すべきことではないのか」
上官である砲長の決定には逆らえない。こういう時、あの占い師が何か反論してくれればいいのだが、特に関心がないようで、自身の持ち場である機関銃の前にいる。いや、カードを出して並べているぞ。こんな時にまた何か占ってるな。
「砲撃室より艦橋、敵先頭集団への爆撃の要ありと認む」
それを艦橋にいる艦長の承認を得るため、伝声管に向かって叫ぶ。
『こちら副長、敵先頭集団への爆撃を開始する。航海長、面舵10度』
『おもーかーじ!』
あっさりと砲長の提案は受け入れられ、ヴェテヒネンは敵の先頭集団へ向けて艦首を向ける。
「敵先頭集団への爆撃用意だ!」
砲長のこの号令で、私は照準器を覗き込み、計算尺を数度、滑らせた後にジリジリとダイヤルを回す。集団を狙うだけなら、計算はほとんど必要ない。単にその十字の照準の中心を、高度から割り出される弾着時間分、進行方向にずらすだけだ。
せっかく精密爆撃をするための照準器だというのに、デビュー戦がこの扱いか。なんともやるせない気持ちだが、決定されたことである以上、従うしかない。
照準器は、セットするまでが私の仕事だ。そこからはキヴェコスキ兵曹長に引き渡す。照準器を覗き込み、その中心が目標を捉えたら投下レバーを引く。ただそれだけだ。
「投下用意!」
真下には、鉄兜を被った無数の兵士がいる。照明弾といえども、照らせる範囲は限定されている。が、その照らされた範囲だけでも、まるで農場で大量発生したカメムシの如く、わらわらとうごめいているのがわかる。
「投下!」
そのカメムシ……ではなく、兵士集団に焼夷弾が放たれる。焼夷弾と言いつつ、10発に一発は通常爆弾も含まれる。1000メルテ下方のあの集団に、およそ7メテ・グラーテもの殺戮兵器が降り注がれる。切り離した瞬間、重荷から解放されたヴェテヒネンの船体が一瞬、グラっと揺れる。
黒い塊のいくつかが、真っ直ぐ地上に向かって落ちていく。
『だんちゃーく、今!』
レバーが引かれてからおよそ15秒で、弾着時間を迎える。観測員の合図と同時に、地上が真っ赤に光る。
倒れた瓶からこぼれ落ちたハチミツの如く、液状の炎がやや小高い丘の頂上から流れるように広がる。その中に仕込まれた数発の爆弾が、その液状の炎を弾き飛ばしている。
私は望遠鏡でその光景を見る。数千度の炎が、容赦なく地上にいる敵兵に襲い掛かる。逃げる敵兵の集団が、その灼熱の悪魔から逃れようと走り出すが、人間如きが逃げれるほどその悪魔の気は長くない。あっという間に、一つの丘を炎に包んでしまった。
炎の真下は、言うまでもない。が、その周囲にも火に包まれていない兵士らがバタバタと倒れる様子が見える。焼夷弾が生み出す数百度以上の熱風に襲われた兵士らは、瞬時に肺を焼かれて倒れるのだと聞いたことがある。まさにあれはそれが起きているのだろう。地獄だ。
しかし、だ。こんな地獄を目の前にして、敵の進撃が止まない。広い戦場の別の場所では、相変わらず敵の進撃が続いている。
「第2射、用意!」
そうなると、我々がやるべきことはたった一つだ。もう一つの大集団の中心に、あれを落とす。ただ、それだけだ。
が、計算士の仕事はない。高度を変えない限り、照準器の設定は不要だ。次も照準を定めてレバーを引くだけ。標的が大集団である以上、多少の誤差などほとんど意味がない。
「投下!」
再びキヴェコスキ兵曹長の合図が響く。腹にむき出しの状態で縛り付けられていた黒い弾薬の塊が、その束縛を解かれて真っ逆さまに落ちていく。それから15秒後に、再びあの地獄が生み出される。
「だんちゃーく、今!」
今度はややくぼんだ地形に落ちたようで、そのくぼみに炎の泉が寄り集まる。が、そのよどみをまき散らすが如く、数度の爆発が炎を弾き飛ばした。あっという間に、一号塹壕の手前は惨状と化す。
が、これで敵の進撃は止まった。燃える炎は、戦場を照らす焼夷弾の役目を果たす。それはすなわち、敵の進軍を阻む火の壁であると同時に、敵を照らす灯りの役目をも担うことになる。
これで迂闊に敵は、接近できなくなった。
が、それはそれで、今度は自走砲が攻撃を始める。
『敵自走砲車、砲撃を開始!』
そうこうしているうちに、敵のあの自走砲が攻撃を始めた。一号塹壕目掛けて、白く輝く弾が弾道を描いて放たれていく。
正確な弾着だ。短距離ということもあるのだろう。それは最前線の塹壕にいて銃を放つ味方の命を、次々に奪っていく。
が、ここからは要塞砲の出番だ。三基ある要塞砲から大口径の砲が放たれ、後方から味方を撃つあの忌々しい自走砲目掛けて砲弾が放たれる。
……のだが、当たらない。いいところに着弾するのだが、なかなか自走砲に当たる気配がない。
「おかしいな、どうして要塞砲が当たらない?」
砲長もおかしいと考えたようだ。確かに、おかしい。前回、敵の大攻勢があったときは、敵の自走砲を早々に撃破して、主導権を握ったとされる。司令官がエクロース准将に変わって以降は、要塞砲の弾着精度が格段に上がったとされる。
にもかかわらず、当たらない。
砲長の言う通りだ、確かにおかしい。
暗すぎて当たらないというのならばわかる。が、今は我々の放った焼夷弾の作り出したあの燃え盛る炎のおかげで、むしろ昼間のように明るく戦場を照らしている。
なのに、当たらない、どういうことだ?
すでに攻撃の手段を失った我々は、要塞砲があの自走砲を仕留めてくれることを願うしかない。しかし、それはなかなか当ててくれない。
どうしたというのだ。撃てども撃てども、その弾は近くをかすめるばかりだ。練度が落ちてるんじゃないか?
と、ヤキモキしているところに、あの女機関銃士、いや、女占い師がしゃしゃり出てきた。
「おい、今やるべきカードが、出てきたぜ」
などと得意げにそう語る彼女が私に見せたのは、大きな教会のドームの中で舞う天使の描かれたカード。それが意味するものが何なのか、私にわかるはずもない。
「やるべきことって、なんのことだ?」
「こいつは『審判』といって、つまるところ『審判』『復活』を現すカードだ。運が開ける、そのための考えが思い浮かぶ、て意味でもある。おめえがやるべきことはつまり、この状況を打開し味方を復活させるってことなんだよ」
随分と無責任なことを言い出す占い師だ。そんな重荷を、私が担えるわけがないだろう。なんてことを言うんだ。
復活だのアイデアだのと言われてもだな、そもそもこのヴェテヒネンは地上を攻撃する術を失ってしまった。もう焼夷弾は撃ち尽くしたんだぞ、ここから私が何をすれば、どう挽回できるというんだ?
などと考えながら、私はふと焼夷弾の作り出した炎を見る。依然としてそれは、勢いよく燃え盛っている。煙を挙げつつ、その膨大な熱が作り出そう揺らぎが上空まで達し、1000メルテ離れた我々のところまでその熱が伝わるほどだ。
いや、待てよ? あの揺らぎ、よくよく考えてみれば、要塞と自走砲の間に立ち昇っている。
ということは、だ。要塞砲からの視覚を揺らがせている、ということにならないか?
そうか、だから要塞砲の狙いがずれるのか。いくら補正しても、見えている標的が揺らいでいるのだから、狙いを定めようがない。それゆえに要塞砲が当たらない。長射程の砲ゆえに、僅かなゆらぎでも致命的な誤差になる。
一方で、我々から見ればその揺らぎを超えて、直接的を見ることができる。すぐ真下には、その自走砲が3基、捉えることができる。が、こちらから攻撃する術はもうない。
そうだ、そういえばまだ攻撃する手段が一つ、残されている。
「砲長!」
私は、それまでの私と同様にただ窓の外を眺めて指をくわえているだけの砲長に向かって叫ぶ。
「なんだ、どうした?」
「この艦の主砲は、俯角何度まで攻撃可能ですか!?」
「あ、ああ、俯角80度まではいけるはずだ。が、それがどうした?」
そうだ。洋上艦とは違い、空中戦艦の砲は下に向けることができる。たかが25サブメルテ口径の砲だが、それでも自走砲に直撃させることができたなら、どうか?
自走砲といえど、真上の装甲はほぼないに等しい。機関銃からの攻撃に備えて、前面には分厚い盾がついているものの、真上はほぼがら空きだ。となれば、あれにこちらの砲弾を当てたならば、無事で済むはずがない。
私はメモを開き、鉛筆で即席の予測式を書き上げる。80度の向きで、最大初速で砲を撃ち放つ。風の影響も加味し、照準器と砲のずれ量も考慮して……今の高度と自由落下プラス初速度を加えた時の弾道式を書き上げると、その一つ一つの変数に値を入れ始める。
計算尺を滑らせつつ、その値を定めていく。最後にそれを加えて、それをあの照準器のダイヤルをひねる。
「砲長、艦橋に、自走砲の真上を通過してもらうよう進言してください!」
「お前、まさかこの主砲であの自走砲を撃つというのか!?」
「当然です、飛行船ですら撃ち落とせる砲ですよ、あんなちっぽけな自走砲如き、破壊できないはずがありません!」
それを聞いた砲長が、しばらく考え込む。そして、伝声管に向かって叫ぶ。
「砲撃室より艦橋! 自走砲を攻撃する、上空通過を求む!」
これに対する、艦橋側の反応は速かった。
『艦橋より砲撃室! これより進路変更し、自走砲に向ける!』
いよいよ、あの自走砲への攻撃が始められる。この艦の主砲は、空中戦闘艦に向けて放たれるのが前提として作られてはいる。が、今は味方の危機だ、そうも言ってられない。今優先すべきことは、何に使うかではなく、何ができるか、だ。
「火薬7袋装填、時限信管は目一杯回しておけ!」
私は照準器を覗き込む。その間にも、主砲には弾が込められる。尾栓が閉じられると、砲は真っ直ぐ真下へと向けて回される。
私は照準器を覗き込む。その先は、ちょうど俯角80度に向けられた主砲の弾が落ちるであろう方向を向いている。が、それが徐々に自走砲に近づくにつれて、わずかに左にずれていることが判明する。
「左3度!」
私は大声で、キヴェコスキ兵曹長にずれ量を指示する。すぐにハンドルを回して、兵曹長は3度左に向け直す。
そして、十字の中心が自走砲を捉える。
「今!」
私が叫ぶと同時に、砲長が引き金を引く。ドーンという音とともに、ほぼ真下を向いた主砲が火を噴いた。が、その反動で、ゴンドラが真上に跳ね上がる。跳ね上げられた私は、そのまま一瞬、宙に舞うと、やがて床に叩きつけられる。
が、それと同時に、放った砲弾が弾着する。
『弾着を確認! 敵、自走砲車、撃破!』
観測員からの報告が入る。床にたたきつけられた痛みに耐えながら、私は窓から下方を望遠鏡で覗き見る。
自走砲が、ばらばらに砕かれている。こちらの放った砲弾には、散弾をまき散らすための火薬が仕込まれている。それが直撃し炸裂すれば、あの程度の自走砲車などひとたまりもない。
目的外の武器が、思わぬ効果を生んだ。残る2基を攻撃すべく、砲長に進言する。
「砲長、次の自走砲車へ向けてください!」
「了解だ。砲身戻せ、次弾装填だ!」
それから砲長は別の砲車へと艦を向けさせる。焼夷弾をすべて落とし、身軽になったヴェテヒネンは大きく迂回して戦場の真上を旋回し、別の自走砲車へとその艦首を向ける。
徐々に接近する自走砲、それを照準器で捉えつつ、再び補正を指示する。
「右2度!」
私のこの指示に、すかさず兵曹長がハンドルを回して補正してくれる。私もダイヤルを回して照準器側を補正する。やがてその照準器の真ん中に、自走砲が入る。
「今!」
第二射が放たれるが、今度は当たらない。近くで炸裂して、自走砲が大きく揺らぎ、傾いた。が、機能不全とまではいかない。あれではすぐに建て直されてしまう。
「再度、自走砲へ向けてください!」
「砲撃室より艦橋! 回頭し再度、自走砲車へ向けてくれ!」
砲長のこの要請に、艦橋は応えて艦を大きく回頭する。あの15メテ・グラーテ分の重りがなくなったというだけで、この艦は本来の機動性を取り戻す。
焼夷弾なんか搭載するより、最初からこの戦い方をすればよかったんじゃないのか? 戦場への到着が予定より遅れ、敵の進撃を赦してしまったのも、あの重たい荷物を腹に抱えていたからである。あれがなければ、もっと早くここに到着して、さっさと自走砲を叩くことができた。となれば、あれほどの敵の犠牲を出す前に、敵は撤退行動に移ったかもしれない。
などと考えているうちに、この艦が再び自走砲を捉えようとしていた。私は照準器を覗き込む。
「左に1度!」
私が叫ぶと、キヴェコスキ兵曹長がハンドルを回す。私も照準器を補正する。
「今!」
その直後に、照準器の十字が自走砲を捉えた。私の合図とともに、砲撃が加えられる。衝撃に備え、そばの支柱につかまる。
ドーンという音とともに、ヴェテヒネンの砲が火を噴く。さっきよりも力強くゴンドラが跳ねる。が、なぜかそれが吉兆だと、私は感じる。
その感性が正しかったようで、今度は命中した。
『弾着を確認! 敵、自走砲車、撃破!』
観測員から、自走砲撃破の報が入る。それを聞いたキヴェコスキ兵曹長が一瞬、ガッツポーズをすると、すぐに砲身を戻すべくハンドルを回し始める。
「砲身戻せ、3基目を狙う。砲撃室より観測員、3基目の位置を知らせ!」
もう一基、自走砲車がいたはずだ。あれを叩くことができれば、敵を撤退に追い込むことができる。
ところがだ、観測員からの返答は、それが見当たらないというものだ。
『自走砲車、視認できず!』
そんな馬鹿な、確かにいたはずだ。二発目の焼夷弾を落とした際に、そばの丘にそれはあった。砲長も当然、それを見ていたから、観測員にこう返答する。
「砲撃室より観測員! 暗がりの中に逃げたはずだ、位置は分からないか!?」
我々の攻撃を見て、逃げ出したことは間違いない。毎度のように、切り札の自走砲車を壊されてはたまらないと、最後の一台を引き揚げたようだ。だが、それを逃せば再び、味方の命を奪いかねない。
私は、計算尺を取り出す。2基目の自走砲車を撃ち漏らし、回頭している時にはまだあの3基目はそこにあった。それから撤収を始め、真っ直ぐ暗がりへ移動したとするなら、どのあたりにいるのか推測することができる。
以前、爆撃艦サウッコに乗艦している時に見た自走砲車の速度、暗がりへの最短距離、その先の坂道……そういえば以前、中央計算局でも敵の進撃速度の予測式を見たな。あの時の係数を思い出しながら、私はその位置をはじき出す。
「機関銃士!」
私は、そばで手持ち無沙汰に立っているリーコネン上等兵に向かって叫ぶ。
「な、なんだよいきなり」
「右機関銃から曳光弾を、この先のあの辺りに向かって放て!」
「はぁ!?」
「いいから!」
私の言葉に納得していない様子だが、それを砲長が加えて命じる。
「今、計算士は何かを計算していた。多分、その先に答えとなるものがあるのだろう。いいから撃て」
上官にまでそういわれて、渋々受け入れる機関銃士は、弾倉を右機関銃に付け替えて銃を構える。
「そんじゃ撃つぞ、ファイヤーっ!」
バリバリと、機関銃が放たれる。数発に一発、入っている曳光弾が、細長い光を放ちながら暗闇に消えていく。
が、そのわずかな光が、あるものを照らし出した。
それはまさに、移動形態の自走砲車だった。
『自走砲車、視認! 我が艦の右舷側、艦主軸84度、距離310メルテ!』
観測員も、それを見つけた。より正確に割り出されたその位置を元に、私は計算を始める。自由落下の式に加え、主砲の初速、風向、そして自走砲車の推定速度を入れる。
「砲長! 俯角79度、右83度!」
すでに砲弾と火薬7袋が詰められ、尾栓が閉じられた状態の砲身が目の前にあった。それを聞いた砲長が叫ぶ。
「俯角79度、右83度!」
「アイサーッ!」
すぐに砲身が向けられる。ギリギリと鎖が音を立てながら、砲身が暗闇の中に向けられる。
今夜は三日月で、すでに月は沈んでおり、星の光以外に地上を照らすものはない。敵もそれを知って夜襲を仕掛けてきたのだろうが、それゆえに暗闇はいくら目を凝らしても見えない。望遠鏡も、役に立たない。
そんな真っ暗闇の中に、私の計算結果だけを頼りに、砲が放たれた。
ドーンという砲撃音とともに、さっきほどではないもののゴンドラが突き上げられる。下方に向かって、白い光の玉となって砲弾が飛翔していくのが見える。
そのわずか16秒後に、それは着弾する。
一瞬、光ったその光景を、私は望遠鏡で捉える。自走砲とそれを引っ張る自動車が見えるが、後方の砲身のある部分にそれが着弾するのが見えた。バラバラに吹き飛ぶその砲塔が見えたところで、光が消える。
やったのか? もう私の目では、それが追えない。が、ある程度、暗闇の観測に長けた観測員が、その撃破を知らせる。
『自走砲、撃破確実!』
最後の自走砲をも破壊することができた。これを聞いた砲撃室内は歓喜に包まれる。
「おい、やったぞ!」
「おい、よくあんなのを当てられたな!」
「すげえな、俺が占うまでもなかったじゃねえか!」
まだ戦闘が続いているというのに、この浮かれようだ。私はキヴェコスキ兵曹長とリーコネン上等兵にそれぞれ両腕を掴まれる。危うく計算尺を落としそうになるが、それを見た砲長が即座にたしなめる。
「おい、まだ戦闘中だぞ! 各員、配置に着け!」
これを聞いて、砲撃手も機関銃士もやや不満げな顔で持ち場に戻る。とはいえ、砲長の言うことはもっともだ。まだ地上では死闘が続いている。
とはいえ、もはやこの艦としてやれることはもうない。散弾を敵の集団の真上にまき散らすことも考えたが、さほど効果がなさそうだということと、もはやそこまでする必要性を感じないということで、ヴェテヒネンは敵への攻撃を止める。
すでに大量の兵士を失い、それを支援するべく3基の自走砲すらも破壊された。こうなると敵は撤退せざるを得ない。地上ではしばらく撃ち合いは続いたものの、敵の大集団はやがて撤退を開始する。
戦闘が始まってから2時間ほどで、敵はついにカレリーア峠を越えて王国側から姿を消す。ヴェテヒネンの戦闘爆撃艦としての初任務は、こうして幕を閉じた。




