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RUIRIN 涙鱗 ~竜飼いのオッサンは女神の涙を見られるのか~  作者: 花殿ナイ
2章 セリセリの物語
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第7話 セリセリは 欲しかった

村の入り口付近に、大きな二本の魔獣の牙がトレードマークとなっている行商人の集う市場がある。村、と言ってもかなりの規模で、大戦で家や家族を失った者達が何処からともなく集まり、いつの間にかに”街”と呼んでも良い程に成長していった。ここでは人種や種族などの壁はなく、この市場のおかげで活気にあふれ、皆生き生きとしていた。

 今日はそこに用事があるのだが、まずは道すがらの大通りにある、馬車の停留所の所で立ち止まった。しばらくそこにいると


「おね~ちゃ~ん!おっはよーー!!」」

「うわぁ、変な生き物いるぅ~」「お姉ぇちゃんのペット?」


セリセリのもとに8人程度の子供たちが集まってきた。


「うん、おはよ!」そう声をかけながらしゃがみ込み、自分のマントをズボッと3,4人にまとめて被せた。


子供たちは「うあー!」「きゃー」とか「でっかいテント!!」なんて歓声を上げながら喜んでいる。セリセリがしゃがみ込んだところで、子供たちの背よりもはるかにデカい。腕を輪っかのように広げ空間を作ってやると、ほかの子も次々と”セリセリテント”にもぐり込み、なかでキャッキャと騒いだ。

 変な生き物呼ばわりされたオイデは、ちょっと「ムッ」と来たが子供は無視するに限る、とばかりにセリセリの肩に飛び乗り、そのままくるっと襟巻のように首に巻き付いた。


「ねー、おねーちゃん。そのへんなのなーに?」


首だけヒョコっとだして、女の子が聞いた。


「うん?コイツはね、岩キツネだよ。名前は、オイデ、っていうんだ」


「ふ~ん。あ!すごいフサフサしてるー。きもちい~~」

「ぼくもさわりたい!」「ぼくも」「あたしも~」


オイデはもみくちゃに触られてバッサバサの毛だるまみたいになっていたが、悪い気はしなかった。

 

「かわいいね~」「ね~」


 どうも、オイデは「かわいい」と言われるのに弱いらしい。その言葉を聞くたびに耳がピンとしてくぅ~んと鼻を鳴らすのだ。


子供たちはひとしきりオイデを撫でまわし、セリセリに肩車してもらったりと遊んでいた。ほどなく停留所に馬車が着き、操馬者がセリセリに深々と頭を下げると、子供達は荷車に乗り込んだ。


「学校、いってきまーす」


元気いっぱいに手を振りながら出発していった。セリセリもしばらく手を振り続け、市場へと歩き出した。


「・・・意外だナァ。子供たちにとっても好かれてるみてぇ~だったナァ」


オイデの脳裏には、叩きつけられ殺されかけた時の眼前に迫る鋭い爪、潰されて湯に流されていった男たちの死骸や、パンイチ仁王立ちが浮かんでいた。


「うん。前にな、ここに着いて・・・確か四日目くらいだったかな、ほら、今朝食った肉な、あれ爆走マンモスって奴なんだけど、気に入らねぇ事があると、すっげー勢いで突っ込んでくんだよ。何があったか知らねーけどさ、あいつが、さっきの子供たちを乗せた馬車を襲ってきやがった事があって、それを私がぶっ飛ばしてやったんだ」


「あれ、マンモスだったんだ。今まで、食ったときねかったけど、突っ走ってんのは見たときあるナァ。砂煙上げてすげーいきおいで、地鳴りまでしてたナァ・・・。

 あいつ、ぶっ飛ばしたんか!!やっぱオマエ、おっかねぇえナァ」


「うん、あいつ、曲がれねーから楽勝♪真正面から右手でドカーン、って」


右手の手甲で殴る真似をしてコンコンと軽くたたいた。



「でな、これどうする?って聞かれて、私ハンターじゃないし、そん時は腹減ってなかったから、この村の人たちにどうぞって。そしたら何か、えらいことになっちゃって三日位お祭りだったんだよ。

 そんで、ほら、私デカいだろ?最初は子供たちもビビッて近くに来なかったんだけど、一人仲良くなったらもう、次から次に・・かーわいんだ。

 お祭りの間中私にくっ付いて回って、あちこち案内してくれたりしてな。おかげで、ここの人たちとも直ぐにいい感じになれたよ」


「んナァ、それで、まるでここの住人みてぇ~になじんでんだナァ」


「まぁね♪ただ、そん時の牙は市場に飾られるは、この道は私の名前からエルド通りってついちまうわ、こっぱずかしくって・・・」


「エルド?」


「ああそっか、わたしの名前はセリセリ=エルドランド=ガランドっていうんだ。エルドランドの民で戦士のセリセリって感じだな・・・・あぁ!!」


「びっくりしたナァ!!なに?!」


「オイデに名前聞くの忘れてた気がするんだ・・・ごめん!」


「二度ビックリ!ナァ・・今更なんだナァ・・・ねぇってゆったし」


「よかった!名前はだいじだもんね」


「それより、オイラ、オマエに巻き付いてるの気に入っちまったんだナァ。今日からここはオイラの場所ナァ♪」


オイデの毛をナデとかし、頬ずりしながら「うん、いいぞ」と優しく言った。


”基本的にはすっげ~優しい女なんだナァ。でも戦士だってゆってるし、確かにつえぇし、ヒトをぺしゃんこにしても全然平気だしよぉ。でもナァ~んかこの女、変なんだよナァ・・・ちぐはぐってゆうのかナァ・・・”


若干違和感を覚えたが、まぁ、腹を満たしてくれるならそれでいい、と気にするのをやめたところで、ちょうど市場へ着いた。

市場には露店がビッチリと並び、ガヤガヤといろんな種族がうごめいていて騒がしい。そんな中でもひと際セリセリは大きく目立つため、彼女の周りにはあっという間に人だかりが出来た。それぞれに律儀に返事をしながら露店を突き進む。オイデは喧しくてうたたねも出来ずにいたので露店に目をやった。

 店にはそれぞれ金物の調理器具や、武器、調味料などが売られていたが、その中で、肉屋に自分と同じ岩キツネが吊るされているのを見つけてしまい

”オイラもこうなっていたかも”・・・そう思うと背筋が寒くなり、セリセリの首にぎゅっとちょっとだけ強く巻き付き直った。


「よっ!おっちゃん!今日は届いてるかなぁ?そろそろかなぁ~と思って」

「おぅ、セッちゃんか。ごめんな、今日もまだなんだ。でもよ、さっきでけぇキャラバンが夜方には着くって話聞いたからよ、それに載ってんじゃないかい?」

「夜だな?ありがとう、おっちゃん。また来るよ!」

「セッちゃ~~~ん!!うちは夜、店開けてね~ぞ~ぉ!!・・・聞こえたかなぁ」


最後まで聞く前に店を離れ、市場中央の広場へとでた。「うん。夜か・・」夜まではまだたっぷりと時間がある。


「オイデ、お腹空いたかい?私は何か食おうかと思うんだけど・・」

「んナ?いいね!オイラも減ってきたとこだったナァ。焼き鳥が食べたいナァ♪」

「昨日の夜も焼き鳥だったぞ?うん、まいいか!美味ぇしな!昨日のとこでいいだろ?私の座れる椅子のある店、あそこしかないんだ」

「量も食うしナァ」

「フフ。たしかに」


二人?はくすくす笑いながら「先ずは塩でモモだな」とか「レバーも塩がいいナァ」とか言いながら入店すると、昼間から焼き鳥で一杯ひっかけている男達が彼女を見るなり、一斉に追加注文を入れる。にわかに、従業員がわたつきはじめた。


「やばいぞ、セッちゃんだ」「焼き場、深呼吸!戦場になるよ!!」「タレ、寸胴ごと持って来い!!」なんて声が飛び交う。


席に着くとモモ串、砂肝、レバー、ハツを塩で各二十本ずつ頼んだ。


「んナァ、さっきのお店、雑貨屋?ナァんか待ってるってゆってたけど、何だナァ?」

「うん?ああ、次の町までの地図だよ。ひと月ごとに新しいのが何枚か出るんだけど、ここに着いた時丁度売ってなくって。そんで、しばらく此処に居るってわけ」


たとえ一か月まってでも次の町までの地図が欲しかった。この世界では地図なくしては生きては帰れないのだ。

 どんなに強い種族でも、どんなに強大な魔法を使う魔術師でも、物理的に討伐不可能な魔獣も存在する。セリセリとて例外ではない。

 全長が600メートルを超す巨竜などが世界各地に存在し、それらが餌としている魔獣もまた、並の大きさではない。地図には次の町までの、それらが生息する場所が大まかにマーカーされているのだ。できれば、誰もがそんな危険は避けていきたい所だが当然、値は張る。

 地図を作成する上で犠牲になった者たち命の代価だ。売上金の一部が遺族へ還元されるシステムになっており、生活弱者が救済として担うことが多い。


 複製は商人たちの間で御法度とされているので、枚数も少ない。そう易々と手に入れられては困る。その命がけの地図をまた命がけで売りに来る、というのも何とも皮肉な話だ。


「旅、してるんかナァ?修行、とか?」

「うん・・・旅、っていうか、オサから盟を授かってて・・・私の村ね、女は19過ぎると

外に出されるんだ。男探して来いって。そんで・・・」

「んナァア?じゅうきゅう??」

「ん?おかしいか?私の村、エルドランドの民はさ、男は村を守る為に残って、女は16で頭以外の

毛を全てなくす儀式をして、19で子を授かるために旅に出るんだ。男は自身よりも強ければ何人

連れて帰っても良いんだ。より多く連れて帰って来た者は、それだけ地位も高くなる。めんどくせ

ーよなー。地位なんて要らねーし」

「そこじゃないんだけどナァ・・・まぁ、ヒトはよくわかんねぇしナァ」

「もう、その辺のテキトーな男でパパっと子を授かってで、よくねぇかな」


周りで飲み食いしていた男どもがにわかに色めき立つ。オレかオレかと悟られないように、腕に目いっぱい力こぶを作り出したり、胸筋をせり上げたりと涙ぐましい努力を見せる。しかし、セリセリとは根本的な強さが違うために気にしてもらえる様子はない。


「無理なんだよな~。私より強くて”一族の恥にならないような豪傑”っだってさ。そんなの、いねーーよ!!ってな。私6歳位から色んなとこで狩りばっかりしてるんだけどそんな奴、会ったことないもんね。でも決まり事は守んねーとだしなぁ~」

 

強くて、のあたりで視線に気づきちらと周りを見た。店内の男どもは慌てて取り繕おうとしたものだから、テーブルの上の串やら何やらが床に散らばった。酒を倒してもなお、知らんぷりをしようとして、鳴らない口笛を吹いりしていた。


「・・ナァ・・そうゆうこと、あんましデッケェ声でいうのも、どうかと思うんだナァ・・・」

「?だめなのか?」

「いや、ダメってゆうかナァ、その、子作りが・・パパっと、ってのも・・」


くうぅん、と一つ鼻を鳴らしオイデは困った。


「うん?まぁそうか、そうだよな。お祈りにパパっとも何もないもんな。ちゃんとしなきゃな、うん」

「・・・・お・・いのり?お祈り??もしかすっと、もしかすっとだけどナァ?子供の作り方って、知ってんのかナァ?」

「うん?知ってるさ!岩キツネは祈らないのかい?


 ”はるか昔、この世界には森に住むとても力持ちの男と、野に住む弓のうまい女のふたりだけでした。エルドラの神は二人が出会うように一匹のウサギを創りました。ふたりは同時に一匹のウサギを狩りましたが、どちらが仕留めたのかでケンカになってしまいます。でも、どちらも強いので勝負はつきません。

そこでふたりはウサギを仲良く食べることにしました。

やがてお互いが好きになったふたりは神殿に行き、お祈りすることにしました。

「どうか、ずっと一緒にいられますように」

すると、エルドラの神が

「この子をふたりで育てなさい。いつまでも一緒にいられますよ」

と、女のおなかに赤ん坊をさずけてくれました。

さんにんになったふたりは、とてもしあわせでした”


ちっさいころ文献で読んで覚えたんだ♪」


・・・もはや、この女には不安しかない。文献?それはもしかして、絵本、なのでは・・・

どうやって真実を伝えようかあれこれ考えたが、どうにも出てこない。とりあえず、今は話をそらすとして、追い追い何とかしなくては・・・・


「あーー、んナァ、あれだナァ!そう、タレの焼き鳥も食いたいナァ。たのんでほしいナァ」

「そうだな。皮も食べるだろ?また二十本づつ位でいいかな」


 なんとか、そらせた。だがこれで少し違和感の正体がわかった。幼いころより戦いづくめで、心が成熟していないのだ。と、同時にこの”バカでかい少女”を強く、守らなければと言う男?としての使命みたいなものを感じた。

    しかし先ずは


「タレのつくねもよろしくナァ♪」

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