涙鱗
「ああ・・・オレぁ、結局誰も守れなかったなあ・・・。あの世で、もしもリッチェに会えたならモ~レツに土下座して謝んなきゃ・・・許してくれっかなぁ?」
「んーー?頑張った方じゃない?それはきっと見てくれてたと思うよ?ってゆーか、「お父さんだよ」って伝えるの?リッチェは知らないんでしょ?」
「ああ・・・ヴァーレは遥か昔に死んだんだよ。今ここに居るオレはルイだからな。言う必要はねぇだろう。それにホンモンだろうがニセモンだろうが、大事なのはそこじゃあねぇしよ」
「ルイがそれでいいならボクも黙ってる。あ~~!ボクも会いたいなあ~!久しぶりに背中撫でて欲し~し♪」
「だなぁ~!」
「でもどっちかってゆーと、謝るんならセッちゃんの方にじゃないの?またバーンって殴られちゃうと思うけど」
「はははっ!そりゃあ、オッカネェからやだなぁ・・・」
「いい女性だよね!ルイのこと本気で怒って、本気で泣いて、本気で想ってくれてて・・・だけど不器用だからすぐ殴っちゃう。ルイもそれ、ちゃんと受け止めてたからエラいよ!うん。エラいエラい」
「・・・かいかぶり過ぎだぜ」
「ま!大抵はスケベかツマンナイ駄洒落で怒られてたけどね~!くふふっ♪」
「こんにゃろっ!死んでも口の悪さは治らねぇな!そーゆーヤツにゃあ、こ~してやる!ベロベロチュ~の刑だ!!んむむむむっ」
「・・・すれば?」
「・・・へっ!?オッサンのヨダレベタベタタコぐちチュ~よ??」
「・・・いいってゆってるじゃん」
「そんなお前・・・ホントにしちゃうぞ!?」
「は~ん!そんな度胸があるならねー♪」
「なめるなよ?」
リンの肩をとり優しく抱きしめる。
「僕が・・・いるよ?それだけじゃ・・・ダメ?」
「リン・・・」
互いに目をつむりゆっくりと唇を重ねようと・・・
「あの、私居るのですが・・・」
「ウオおっっ!!」
「ひやぁっ」
ビクッッ!とするルイとリン。
「その声!女神か!?・・・姿がねえからハインツと一緒に死んじまったのかと思ったぜ」
「死んではいませんよ。そうですね・・・今の私は思念体としての存在ですから。私を信仰する者がある限り滅する事はありません。それより、礼を先にさせて下さい。私の竜ハインツを滅して頂き感謝いたします。あれの凶行は全て私の責任です・・・。永い間あれに自身の復活を委ね力を与え過ぎてしまいました。それがどれ程の重荷になるか考えもせずに・・・。それがいつしか私の手を離れ更に強大なものとなり、私を呪縛するまでに・・・それと気がついたときには・・・」
「はっ!礼を言われる筋合いはねえし、アイツの身の上話なんざ興味もねえ!詫びの間違いだろうぜ!観てたんだから知ってんだろうがホントひでぇ目にあったんだからよ!なあ?リン!!」
「ホントホント!!」
「まったくもって・・・言葉もありません」
「って・・・息巻いたところでなんにもならねえか・・・ここでゴネたってクルセダーズみたいに帰れるって事もねえんだろ?オレ達は思念体じゃないし体もねえもんな~。女神さんとは違ぇ~もんな~」
「だね~」
「ってかよ!!やっとこうして会えたんだ!女神さんよ、礼、ってゆうんなら“涙”くれないかい?オレ達はそいつが欲しくてここまで来たんだ・・・ってそりゃ知ってっか・・・で?どうなのよ!?最初から全てがハインツの仕業でアンタの所為じゃあねえのは解ったけどよ・・・コイツだけは・・・“女神の涙”でリッチェを生き返えらせられるって事だけは嘘であって欲しくねえんだ!!オレに涙をくれよ!!じゃない、下さいませ!女神様!!」
「涙・・・それは・・・本当に・・・申し訳ありません・・・」
女神の言葉に力が抜けたが、不思議と怒りは湧いてこない。
「嘘だ!!そんな筈はないもん!!・・・そんな・・・そんなひどい話ってないじゃない!!ルイはそれが・・・それを信じていっぱいいっぱい苦しんで、魔王にまでなって・・・酷いじゃないのさ!!神様なんて言ったって何一つ叶えられないなんて、ヒドいポンコツじゃん!!」
「リン・・・もうよせ・・・ハアァ~~~、やっぱりかよ・・・薄々そんな気がしてたんだよな・・・ハハハ・・・う~わさを信じちゃいけないよ~ってか?そいつもハインツが吹いてまわった法螺なんだろ?そいつに踊らされてたなんてよ、情けなくって泣きてぇとこだが涙すら出て来ねぇわ・・・」
「よさないよ!ルイもボクの焔でおかしくなっちゃったんじゃないの??リッチェがどんな殺され方したか、ダイアンさん達がどんなに悲しんだか忘れちゃっ・・・たの・・・ごめんなさい・・・つい」
「大丈夫だ」深い深い悲しみをたずさえた微笑みを浮かべるルイにもう、本当に何も手立てはなく全ては儚い夢だったと悟った。
「・・・本当に申し訳ありません。ただ・・・」
「ただ??えっ!?ただなに!?」
「ルイ、あなたは想いの記憶を宿したピアスをしていましたね?」
「だからなんなのさ」
「私の・・・ほんの少しだけ残っている力
であなたの魂とピアスの記憶の水とを融合をします。リン、あなたは私の鱗に戻りその受け皿となるのです。私は雲となりあなた方を世界中に運びます
それをこの世界に雨として降らせましょう。生きとし生けるもの全てに届くように・・・。
実は、あの娘は金の霧となりましたがこちらには来てはいないのです。恐らくはどうしてもあの地を離れたくないのでしょう。降らせた想いが彼女に届いたのなら、あるいは・・・」
「蘇ると?」
「分かりません。ただあなた方とあの娘の心の結びつきは強い。そこにかけてみましょう。私は姿を留められる程の魔力すら残っていませんがそれでも全身全霊をもって望ませてもらいます。力を使い果たし、一度は滅しましょうが信仰の想いがあれば何度でも私は甦ります。そしてヒトビトが願えば願うほど私の魔力も満ちるのです。・・・後はヒトビトの想いの力次第」
「願い事か・・・ヒトってのは欲の塊みてぇなもんだからな!小っちぇ頃から『神様!一生のお願い』とか言ってる位だからよ、あっという間にフル満タンになるんじゃねえかな!?」
「そしたらリッチェ、生き返るかも!!」
「だな!」
「もしも彼女が蘇ったとしても、始めてしまえば魂はここで途切れ、あなた方は無の存在となります。つまり“完全なる死”です。巡り合う魂がいずれ何処かで交わる事も無くなってしまうのですが、それでもよろしいですか?」
「よろしいもなにもよ!リッチェが生き返れる可能性があるなら、オレはそいつにかけるぜ!お前は?リン」
「愚問だね!それ、ボクに聞く??」
「・・・では、始めましょう」
「よっしゃ!!そんじゃ、ま、いっちょやってみますかね!信仰頼みの長い旅に出発進行!ってか!?はっはっは!」
「ハァ~・・・ホント馬鹿ルイ・・・」
「おい、リン!!」
「な~~にっ!」
リンのあごを軽く持ち上げ唇を重ねる。
「・・・いい旅にしような!相棒!!」
「なるに決まってるじゃん・・・ホント馬鹿」
「ああ、ようやく雨が止みそうだね。あれから毎年毎年決まってこの時期になると振るけど、夏祭りが近づくときっと止むんだよねえ・・・さて!祭りの準備に取り掛かるかねえ!・・・ちょいとブリック!!ジョアさんのとこに仕入れに行っとくれよ。いっぱいあるから荷台でお行きなさないな」
「ああ、オカミサン。鶏を取りに行けば良いんだな?チキンと仕入れて来るぜ!」
「なんだい。つまんない事言っちやってさ!まるで・・・アイツみたいだねえ」
「う~ん。どーも長い雨の間、アイツらのこと思い出すようになってな。旅人のエルフの旦那からアイツが死んだって聞いたせいかな」
「奇遇だねぇ。アタシらもね、あの娘の懐かしい事ばかりを思い出すんだよ。だからこそ、夏祭りは盛大にするのさ!リッチェは・・・あの娘は本当に夏祭りが大好きだったからねぇ」
「アイツもいい歳こいて水飴を馬鹿みたいに食ってたっけなあ!・・・っし!んじゃ、ま、ちょっくら行って来まさぁ」
山の様に仕入れた荷車を引きながら、今年の“大樽”の出店場所を確認をしに街の広場へと向かった。
「こりゃあ、荷車は通せねぇな。迂回して帰るかな」
雨が止んだばかりだというのに、既に屋台を組む人々で溢れかえり活気に満ちていた。
「水飴屋は・・・おお、いつもんトコだな」
「お~!今年はデッケぇキャラバン隊が来てんな~!!へえ!芝居小屋かい!?なになに?主演 ダイアナモンキー・ケブッカイ『竜の左腕を持つ勇者が魔王を討ち滅ぼす物語』・・・はぁ~、魔王ねぇ。オッカネェオッカネェ!」
広場を横目で見ながら脇道にそれるが、そこかしこに水たまりが出来ているために荷車は通せなかった。うっかり車輪でも取られてひっくり返したものなら大変な事になる。少し遠回りだが城壁に沿った石畳の路で帰るしか無さそうだ。
「ついでだ。いや、こっちが本職か。チャチャっと登ってパトロールしてくか」
眼下に果てしなく広がる森は長い恵みの雨をたっぷりと吸い、ようやく差してきた日を受けキラキラと輝いていた。遠くにワイバーンの番が舞っているが此方には来ないだろう。
「ん~!今日も平和だ。よし!パトロール終わり!!早く帰んねぇと叱られっちまうぜ・・・」
降りる為のロープをしげしげとながめ、呟く。
「・・・アイツが下を通りかかる時に、いっつもこうやってデコにぶつけてたっけな」
「きゃあ!」
何げなく放ってしまったロープがたまたまそこを通りかかった女性にぶつかりそうになってしまった。羽織りものを被ったその女性はひょいと避けはしたが、これはしまったと直ぐさま謝罪の為に城壁から降りた。
「本当に申し訳ない!!大丈夫でしたか!?」
「うふふっ。はい♪」
その女性の顔を見た途端、ブリックは腰が抜ける程に驚き「何てこった!何てこった!!」と叫びながらその場を走り去ってしまった。
「あらら!荷車がそのまま!怒られちゃいますよ?」
相当驚いたのだろう。届けてやりたいがどう見繕っても動かせそうにない。どうしたものかと思案していると小さな双子の男の子が脇を走り抜けていった。その後ろから力のありそうな大柄な女性が此方に向かって歩いてくる。
「こら~~!ルイ!リン!危ないから走っちゃダメって言ってるでしょう!」
羽織りものの女性はハッとして振り向く。
「凄い綺麗なオネェーちゃんだね!」
「うん!お目々が宝石みたい!!」
そこには銀髪のクリクリした目の男の子と、黒髪のやんちゃそうな男の子が指を咥え此方を見ていた。
「ほら!捕まえた!!あ、どうもスミマセン。ぶつかりませんでした?ほら、ルイ、リン!!ご免なさいは?」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい、オネェーちゃん」
「大丈夫よ。私もちょっと考え事してて道の真ん中で立ち止まっちゃってたし。こっちこそご免なさい」
「ホントご免なさい。あら?この荷車・・・ダイアンさんのトコの・・・ブリックはいないみたいね・・・私が届けてやろうかしら・・・うん!決めた!届けてやろう!」
「あの・・・重そうですよ?誰か呼んで来ましょうか?」
「あははっ!うん!大丈夫!私、力には自信があるんだ♪ほら、ルイ、リン?行くよ」
「私も後ろから押します!」
「悪いね!」
「いえいえ!私もそっちに用があるので」
荷車を引きながふと互いに気になる事があったが、口にはしなかった。
「お嬢さんは夏祭りを見に?雨が止んで良かったね~!お祭りの前には毎年降るんだ。その雨は何故か昔の人達の事を思い出すから、この辺じゃ、『つゆ』って言ってるんだってさ。何でもどっかの国の言葉のTo Youからきてるんだって言ってたっけ。“あなたに送る”みたいな意味だって。言い言葉だよね!うん」
そんな話をしているとあっという間に“大樽のダイアン”へと着いた。
荷車を止めるのが先か、ダイアン夫妻が飛び出して来るのが先か・・・。勢いよく開かれた扉は壊れてしまうのではないか?というほどの音を立てた。
「ただいま」
やや照れながらそう言いい羽織りものを頭から取ると、金色の長い髪が風になびいた。
「おばちゃん泣いてるね」
「うん・・・泣いてるね」
ルイとリンと名付けられた双子は不思議そうにその光景を眺めていた。




