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第49話 家族

 毎日のパーティーが私は憂鬱だった。

幼い頃は人が沢山集まり、オトナの世界はキラキラとしているんだ、と思っていた。でも年頃になると「お綺麗になられて」とか「ご機嫌麗しく存じ上げます」とか、ミエミエの社交辞令を交え、ここぞとばかりに婿候補だぞと紹介される男達の相手にウンザリ。お父様も私を何処の貴族に嫁がせるかそればかり。一応、お父様の名誉の為に無下にすることは出来ないから、愛想笑いとたわいない会話でその場をやり過ごす事にしている。・・・・今日もそんな一日のはずだった。


「下らないわ・・・本当に・・・イライラするだけ!」


 バルコニーに出て夜風に吹かれていると下ではまだ父が昔話をしていて、至極御満悦のようだ。酔うと必ず話し出すのだけれど、何百回と聞かされている殿方は大変だろうに・・・。

 辺境の地とはいえ、伯爵の身分を与えられた父は元々は平民出の辺境警備隊隊長だった。槍の名手でそこそこ名が知られていたらしいが所詮は平民、周りから才能を疎まれ辺境へと飛ばされたそうだ。

 ・・・毎日何事もなく、暇を持て余して腐っていた折、たまたま珍しく馬車が魔獣に襲われていた。馬車には装飾が施してあり、一目で身分の高い方が乗られているのだと判った。「お助けしなければ」直ぐさま槍をはるか上空へ放つと馬に飛び乗り雄叫びをあげた。魔獣を留まらせる為だ。思惑通り魔獣はその場で両手を挙げ威嚇行動をとる。父は更に雄叫びをあげ、突進して行くと、魔獣も四肢を大地につけ突撃のタメをつくった。魔獣がそれを解き放ち、今まさに襲いかかろうとした時、降下して来た槍が見事に魔獣を捉える!脳天から顎下まで貫かれた魔獣の頭はキョトンとした顔でボディに別れを告げていた。


「失礼致します!!ご無事であらせられますか!?」


 キャブのドアーを開けると、驚いて飛び退き直ぐさま片膝をつき跪いた。


「・・・そこには公爵閣下が乗られていてな、私をいたく気に入って下さり、自分の末娘、今は愛しき我が妻エミリアを戴いたのだ。そして私は~~」


 いつか必ず報われる。それが父の口癖だった・・・だけどそうでない事だってある。

 私には愛している人がいる。その人の事を思うと胸が熱くなり、どうしようも無いほど全てが欲しくなってしまう。だから一番近くに、いつでも一緒に居られるように計らってもらった。それは幼なじみで今は私付きのメイドのサッシャ。

 彼女はメイド長のオベリアの娘で、ずっと私の遊び相手だった。もっぱら着せ替え遊びが主で、今日も彼女と巷で流行りのロリータファッションを着せっこして愛でていた。彼女とのお喋りはとても楽しく、中でも街の出来事を話してくれる時は彼女が身振り手振りで演じてくれて、それは外に自由に出られない私にとってはまるで冒険活劇のようで本当にワクワクするものだった。たまにはしゃぎ過ぎて手や足をその辺にぶつけてしまい「あいたたたっ。スミマセン。リコペルお嬢様」ですって!ああ、サッシャ。なんて可愛いのかしら!!


「ヤッだぁ~~!!サッちんチョ~~かわい~~!!もうガマン出来ない!おいで?サッちん♡私と繋がりましょ♪」


 サッシャと二人きりの時は本当の自分が出せる。恋人同士に堅苦しい言葉使いなんていらないの!サッシャにもそうして欲しかったけど「恐れ多いです。リコペルお嬢様。サッシャは、リコペルお嬢様に全てを捧げ、尽くすことが喜びであり、愛でございます」ですって!!やっぱりチョ~~かわい~~!!

 部屋着をハラリと落とすと自分の陰部に太くて柔らかい物を差し込む。殿方のモノを模したソレは双頭で、愛し合う二人が陰部で繋がれるようになっている。いろいろ手を回し苦労して手に入れた内緒のオモチャ♡私が下になりサッシャとしっかり繋がっているのが見えるように向き合い、手を握りキスをする。


「ああ!!リコペルお嬢様♡愛しております~~!!」


 サッシャの歓喜の声が愛おしくて自然と動きが速くなる。彼女もそれに合わせ、互いの乳首をこすり合わせ快楽を貪る。ああ!なんて甘美なのかしら!!それはまるでワルツを踊るかのように素敵なひととき・・・。

 だけれど、どんなに好きでも、どんなに愛し合っても、結婚することが出来ない・・・それはすごく下らない理由。身分とか種族とかではなく“女”同士だから!!法の下では同性同士では夫婦として認められないのですって!!エルフやドワーフとでも異性なら結婚出来るのに!!なんてことなの!

 ものの本によると、子を産み、育て、種を存続させる事が当たり前だ、虫や獣や魚もそうやって繋いできたんだ、ですって。

 結婚したって子を作らない夫婦や、欲しくても授からない夫婦だっているのに!それは許されるの?・・・おかしいわ!なら、里子をもらい受け育ててあげれば、子孫は残せなくても種は残せる!それでも結婚は許されないの??と、私は思うのよ!


「お嬢様。これは二人だけの秘め事になさって下さい。決して口外なさってはなりません。お医者様に心の病だと言われてしまいます。そうなればお家に傷が付くというもの。

・・・もし、お父上様がリコペルお嬢様にふさわしい殿方を見つけられたのなら・・・その時は私の事を忘れて下さいませ」


 サッシャは私のコルセットを編み上げながらさみしげにそう言った。


「ちょっと!サッちん何てことゆ~の!?私は嫌よ!!私は男と結婚なんてしないもん!!あなたはどうなの??サッちんはそれでい~の!?」


「私は・・・リコペルお嬢様以外に添うつもりは御座いませんので、尼寺にでも行こうかと思います。・・・リコペルお嬢様?素敵な殿方に嫁いでお家を守る事も伯爵家の娘としての立派な務めで御座いますよ・・・」


“ああ!!なんて事なの!!結婚とは愛し合う者同士が添い遂げるという誓いの儀式ではないの!?親が決めた好きでもない異性といなければ為らないなんて絶っ対にイヤ!!心の病??おかしいのは私たちではなく法の方よ!!!”

 憤りを感じる!お父様!やっぱり報われない事だってあるのです!!


「リコペルお嬢様・・・今日は、もう失礼してもよろしいでしょうか・・・。サッシャは、ひどく疲れてしまいまして・・・申し訳御座いません」


 そう言いながらペコリとお辞儀して下がって行った。

 ・・・今思えば、あの時既に様子がおかしかった。


「・・・寒っ」


 今宵の夜風は少し冷たく羽織るものが欲しい。カーディガンを取りに部屋へ戻ろうか・・・ううん、もうここには居たくないかな・・・。今日はもう寝てしまおう。


「・・・お父様。リコペルは少し体調が優れないので先に休ませて頂きます」


「おい、リコペル。今日はお前に・・・」


 何か言っていたけど聞こえないフリで足早に部屋へ向かった。サッシャの部屋の前まで来るとそこで立ち止まった。・・・今日はもう、サッシャは呼べないな・・・寝ているだろうな・・・ふん!もう、さっさと明日になってしまえ!

 ふと、両腕を擦るほどひどく寒くなって震えた。


「あら?・・・今夜は本当に寒いわ・・・。そんな季節でもないのに。早く休みましょう」


 その場を立ち去ろうとした時、部屋の中からブツブツとサッシャの声が聞こえた気がした。


「・・・サッシャ?起きているの?」


 ドアーを開けるとそこには魔法陣が敷かれ中心にサッシャが立っていた。


「え!?サッシャ!?これは・・・!?」


「リコペルお嬢様。サッシャは、街でよいことを聞いたのです。この魔法陣で魔人に呼び掛ければ願い事が叶うのですって。サッシャはやっぱりリコペルお嬢様と離れたくありません!・・・私、聞いてしまったのです。今日、リコペルお嬢様の婚約者が決まったと。・・・サッシャは嫌です!!お嬢様の腹が醜く膨らんだ姿なんて耐えられません!!お嬢様は私だけのものなんです・・・だから!!」


 ドアー越しに聞こえたサッシャの声は魔人を呼び出す為の呪文だったみたいで、サッシャが最後の一言を唱えると魔法陣が怪しく光り出した。


「お嬢様!私と一緒に!!」


 サッシャの思いに呼応して魔法陣から黒い煤が吹き出してきたのだけど、それはすごく嫌な気配がする!!


「サッ・・・!!」


 手を伸ばしサッシャを掴もうとしたのに「バチン」と弾かれて届かない。


「嫌!なに!?リコペルお嬢様!!助け・・・お嬢様!!!」


 黒い煤は巨大な手の形になり、サッシャを握り締めるとそのまま魔法陣の中へズルズルと引きずり込もうとする。


「リ・・・リコペル・・・お嬢様!・・・あいして・・・イヤァぁァぁ!!お嬢様!!」


 巨大な手はサッシャの悲痛な叫び声を残して、スルッと魔法陣へと消えていった。

 私は訳が分からずペタンと尻もちを付いてしばらく呆けていた。すると、魔法陣が再び光り出しその辺の物を吸い込み始める。最初は小物類から、次第に机やクローゼットなどの大きな物までお構いなしにバクバク取り込んでいった!私も吸い込まれるはずだったけどグイッと何かに両肩を鷲づかみにされ外へ投げ出された。

 

「あ・・・嗚呼・・・そんな・・・」


魔法陣の吸い込みは留まることはなく、屋敷を内側から食い尽くしてしまった・・・!

 中にいたお父様は?お母様は?集まっていた他の人達は??・・・どこにも!どこにも居ない!何も、ない!!


「サッシャーーーッッ」


大声で叫んでみたが広大な更地からは返事がない・・・。


「サッシャ・・・ああ、サッシャを返して!!みんなは要らないから!!サッシャだけ!何でもするから!女神様お願い!返してよ!!」


 どうにかなってしまいそうなのを必死に堪え屋敷の在った辺りをフラフラと彷徨うと、そこに在った全ての代わりに捻れた槍が一本、大地に突き立っていた。


「・・・此れ等の所業は全て一人の男の仕業・・・。其奴は魔王になるべく世界中の不幸を集めている。お前の不幸も其奴の所為だ。奴が魔王に為ってしまえば、やがて暗黒の時が訪れるだろう・・・それはもう間もなく。奴を止めなければ」


 多分、私を鷲づかみにして助けてくれたのはコイツで言っていることが私にはチンプンカンプン。そいつはトマトみたいに真っ赤な“竜”だった。


「・・・私には・・・関係、ないわ・・・」


そう、私には関係ない。暗黒の時?それはね、サッシャが居ない今が既に充分暗黒なの・・・。お父様もお母様も私を領地拡大の道具くらいにしか思ってなかったし!サッシャが本当の家族で大切なパートナーなのよ!!


「復讐、したくはないか?全てを取り戻したくはないか?願いを叶えたくはないか!?

 立て!そこの槍を抜け!!力を貸してやろう!女神に使えし祖竜ハインツ様の竜がひとり、我が名はアスモデ!!お前は今より竜飼いになるのだ!!」


「・・・それになれば、サッシャは、帰ってくるの?それになれば願いが叶うの?」


「ああ、女神に頼むがよい」


「それになればサッシャと結婚出来るの?」


「ああ、何でもだ」


 なんてこと!!もう、私には何もない!なあ~んにもない!こんな世界なんかどうでもいいけど、サッシャ!サッシャは私が絶対取り戻すんだから!!


「・・・キャハッ・・・キャハハッ♪やるう~!!絶対やるう~!!復讐するぅ~~!絶対そいつブッ殺してサッシャと結婚するんだ♪それとアンタウケるぅ⤴真っ赤なトマトみたい♪アンタはキャンちん。キャンディドロップのキャンちん!よろしくね♡」



・・・キャハッ♪なんか、いろいろ思い出しちった。サッちん~~。ゴメンね。なんかね、私、死んじゃうっぽいやぁ。死んじゃったら、会えるかなあ?


「・・・嘘付きぃ・・・」


背中から腹に抜ける魔王の腕から、あの冴えない男の意識が流れ込んでくる。あの男は泣いていた。ボロボロと・・・。ホントは・・・。


「ブふぅっっ」


 私のお腹が、熟れたザクロのように弾け飛ぶ。


・・・・広い高原にサッちんと、私と、小さな女の子。


「さあ、サンドイッチを食べましょ♪」




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