第46話 請求
そうはいったものの、竜飼いどもの攻撃は激しくセリの追撃をかわしながらも執拗に攻めてくる為に、なかなか前へ進めない。。中でも厄介なのは砂のガキだ。迷彩で視えづらいうえに遠隔攻撃してきやがる。
竜飼いは自分の竜を纏い、同化する事が出来るのだがそれは自分の能力を格段に向上させる。だがオレはしたことは無い。なぜなら同化している間は竜は外殻を捨て、自我を主に任せ無敵の霧化が出来なくなってしまうからだ。つまり主の死イコール自分の死となる。そして主が同化を解除しても自我は帰らず二度と竜には戻れない。オレはリンを、そんな道具みたいな扱いはしたくないからな!!だが、コイツらは!ゴスロリも重騎士も次々と同化し、攻撃は激しさを増したが誰一人、自分の竜を思いやる奴がいない。
「お前ら!!パートナーを何だと思ってやがるんだ!!竜はペットでも、お前らの道具でもねえ!!相棒なんだよ!!親友なんだよ!!オレはお前らを竜飼いとは認めねえっっ!!」
砂がかすめる度に皮膚が裂け、槍で突かれる度に肉が剥がれる。左肩の骨を砕かれ、重騎士の体当たりであばら骨が数本折れた。ギャラリーどもの拍手や歓声が、激痛で耳鳴りが激しく遥か遠くからのようだ。
・・・あと、十数段・・・女神に乗っ取られたリンが祭壇に居るのが見える。リンを掴もうと手を伸ばすが、盾に弾かれたセリの矢が伸ばした腕に当たり、上腕から千切れて飛んでいった。
オレの躰が欠ける度にそこは煤へと置き換わる。もう、オレの部分が残り少ない・・・。
だが、首に巻いたリッチェのスカーフがオレに勇気と希望を与えてくれる!何度でも立ち上がれる!!もう少しだ!!リンを取り戻し、女神を問い詰め、約束は果たしてもらう!!待っててくれ!リッチェ!!
「リン!!目を覚ませ!!」
瞳から光を失い、祭壇の上に漂うリンに触れようとしたが「バシッ」と弾かれ煤の手が蒸発したかのように空に消えてゆく。手は直ぐに戻ったが、これは結界なのか、それとも女神の能力か・・・いずれにせよ叩き起こさなければならない!とりあえず、ぶん殴ってみるか!!
「リン!!悪ぃ!ぶん殴るぜ!め~が~み~~!!この野郎!!」
大きく腕を振りかぶりリンの横っ面めがけ渾身の一撃をかますその瞬間!祭壇の両脇に激しい雷と旋風が起こりヒトが降り立った。それぞれが竜を纏って能力強化していやがる。クッソ!面倒くせぇのが増えやがった。
続々と竜飼いが揃っていく。もう時間がない!このままじゃ本当にリッチェを生き返らさせてもらえるのか聞く前に魔王として滅されてしまう!!その前に何とかして女神を引っ張り出さなくては!!
ここでの押し問答は分が悪い。囲まれたら逃げようがない。抱きかかえ無理矢理連れ去ってやろうとするが砂の攻撃に邪魔され思うようにいかない。
「はっ!?ヤバいっっ!!」
ユラリと影がひとつ現れ“間合いに入られた”と気がついた時には腰の入った一撃がオレを捉えた後だった。
「バン!!」と祭壇の石畳に強く叩きつけられ、全身の骨が、筋肉が悲鳴を上げる。反動でゴムまりのように跳ね上がり、オレのグニャグニャの体は祭壇の中央へドチャリと落ちた。
うめき声を上げるオレを踏みにじる奴がいる・・・この裾は・・・修道女か!!右手のメイスが黄緑の竜色に発光している!?この一撃の重さ・・・コイツも竜を纏っているのか!兎に角リンを連れこの場から早く逃げなければ・・・!
オレは今、トンチキ女神劇場の見世物物にされているんだ。祭壇中央なんて、やられたい放題の大盛り上がりになるに決まってる!
踏みつけから逃れ、リンに近づこうとズルズル煤のあとを残しながら必死に這いずる。
・・・右手を伸ばす・・・もう少し・・・!
「ヒヒツ!魔王が竜を纏い大荒れ、かえ?そうはさせないよ!!」
“ばあちゃん??いつの間に!?”伸ばした腕が、指が、いや、体全てが・・・身動きが全く取れない!!
かろうじて動く眼球が視界に三人捉えた。モモを頂点として雷と風の竜飼いが結界を張ったようだ。
徐々に体が持ち上げられギャラリーを見下ろすかたちで空中に拘束される。それはまるでハンガーに掛けられたよれよれの衣服のようだった。
眼下の奴らは口々にオレを罵り、小石を投げつけた。ある者は嬉しそうに手を叩き歓喜の声を上げ、ある者は唾を吐き「ざまあみろ!!」と叫んだ。
「やめて・・・くれ・・・オレはお前達に何もしない・・・!!オレは大事な・・・大事な娘を生き返らさせてほしいだけだ!!」
集まった人々にオレの声は届かない。大声も出せない程にオレが弱っているのだ。コイツらのオレを見る目!!お前らの方が余程悪魔だ・・・。
「滅ぼしてやりたい・・・」悪意を解放して自由に暴れたいオレと、ヒトとしてそれを抑えこもうとするオレの意識とが反発しあい眩暈がする。
歯ぎしりする事が精一杯のオレにカツカツと音をたて背後から近づいてくる者がいる。この足音・・・!
「・・・フフッ、ルイ君、だいぶ仕上がってきたみたいだね。でも、まだだよ?まだ群衆が仕上がっていないからね」
オレの耳元でそう囁き通り過ぎたこの長い黒髪・・・偉そうな口調・・・マントをなびかせながら、祭壇の一番手前まで歩き民衆を前に演説を始めたコイツは・・・ハインツ!
「よく集まってくれた!!信徒の皆々!!私は女神が竜、ハインツ!祖竜なり!!今日この時、諸君らは奇跡を目の当たりにするのだ!!・・・此処に捉えしは女神の恩寵を捨てて人外と成り果て、七つの国を壊滅せし災いの根源、魔王!!その所業は惨烈を極め救いを求めた者達をも蹂躙していった!!此処に集まった者達の中にも被害に遭われた方々も多い事と思う!!主、女神は心を痛めた。三晩に渡り臥せっておられた・・・。だが、まだ希望があった!!竜飼いという希望が!!悪を滅ばさなければならない!迎え撃つはその蹂躙されし国々より仇を討つべく集められた七人の英雄なり!!今この時!悪は滅びる!刮目せよ!!」
ハインツの一言一言にいちいち歓声が上がり盛大な拍手が贈られる。
「フフッ。群集とは、扱いやすいものだね。それが正しかろうが正しくなかろうがこうして、ほんの少しの情報でいとも簡単にまとめることが出来てしまうのだから。個の意識は大多数に紛れ込んで、それ自体が自分の考えだと錯覚してしまう。ヒトのこういった、言い替えれば心をひとつにする事が出来る、というのは美しい事だと思うよ。ただし、それは諸刃の剣。ヒトは心弱き者・・・だからこそ従える者がいなければならないのだよ・・・確固たる導き・・・女神、という存在がね」
「何言ってやがる!!そいつは単にお前らが都合よく操り易い、ってだけの話だろうが!!
オレから言わせりゃ弱いのは女神だ!誰かに信じてもらえなけりゃいつの間にか忘れ去られ、消え去っちまう存在のクセによ!!そのくせ、コソコソ隠れて表にゃ一切出てこやしねぇ。寄生虫と一緒だぜ!宿主が死なねぇように栄養を与えてるつもりかも知れんが、ヒトだってお前らが思うほど馬鹿じゃねぇぞ!!いつか、いつかきっと見限られる日が来る!!」
群集に、いや、世界中に届くようにありったけの力を振り絞り声を届けようと吼えた。
「うるっせえよ!!このダボハゼが!!」
竜を纏い性格までも豹変した修道女が、メイスをフルスイングでオレの腹に叩き込む。
ズドンと鈍い音に一つ遅れて衝撃波が流れた。それはオレより後ろの祭壇の石畳をめくりあげる程のものだった。
「がッはっっ!!」
強打された腹から込み上げてきた物を吐き出すと、それは鮮血の塊だった。
「・・・血!?・・・ハハッ・・・赤い血だ!まだオレに赤い血が・・・!!まだヒトでいられている!
おい!!女神!!オレの娘を・・・!約束を果たしてくれ!聞こえているんだろ!?
オレがヒトでいられるうちに一目でいい!娘と・・・リッチェと会いたいんだ!!ただそれだけなんだ!!・・・それだけなんだよ・・・大人しくするから・・・お願いします・・・女神・・様・・・!」
オレの頬をポロポロと大粒の涙が伝う。
“まだ、涙を流せる!まだオレはヒトなんだよ!!”顔をあげると涙でボンヤリとした視界に傷ついたオイデを肩に乗せ、弓を咥え
必死の形相で結界を殴りつけるセリが映った。
右手の手甲は砕け、血まみれの拳で何度も何度も・・・。殴りつける度に破る事の出来ない結界の表面にセリの血が飛び散る。
・・・止めろ、セリ!やめてくれ!・・・やめてくれ!!
「セリ!もうよせ!!右手が・・・血が・・・!!使い物にならなくなっちまう!!オレなら、もう、いいんだ!オレが甘かった!女神は最初っから約束なんざ守る気無かったんだんだ!!大人しくしていればきっとお前達は大丈夫なハズだ!きっと!!
はっ・・・!?セリ!?・・・セリ!お前、左腕が!!」
きっと、オレを追い守って戦っている間に左腕をやられたのだ!オレなんかの為に!!オレはお前の左腕に代わる価値なんて無いんだ!それを・・・!ああ!セリセリ!!
根元からちぎれた腕は、オイデが長い尾で意識を失って尚、腕の付け根をきつく締め付け止血していた。自分だって相当の傷だろうに・・・。
「もういいんだ!!お前達に死なれたらオレは!・・・オレは・・・!!」
「ふうっっ!」セリは一本、背中から矢を抜き取ると、矢を口に咥えボロボロの手で弓を持ち直して引き絞り、狙いを定めた。
放たれた矢は強固な結界の前には無力で、いとも簡単に弾かれカランと落ちた。セリは矢の行方を見届けるとゆっくり、その場に倒れ込んで意識を失った。
「ウワアアっ!!セリ!セリセリ!!オイデ!!お願いだ!アイツらを助けてくれ!!オレだけでいいだろ!?見逃してくれよ!!
お願いだ・・・助けてくれよ・・」
何でこんな目に、何でこんな事に!!ああ!!オレの大切な者達ばかり・・・!
お願いだ・・・!
「フフッ。キミはお願いごとばかりだ。まだ対価も支払っていないのに。賽銭だって、供物だってお願いごとする前に対価としての支払いだろう?キミは何か・・・まあ、いいさ。今から支払って貰うから」
どっ、どっ
重騎士とゴスロリがオレに一度、覆いかぶさるように迫り、そしてゆっくりと離れた。
交差するように突き刺さる、槍とランスをオレの体に残して・・・。




