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44話 アク

 そこに居るはずのない死者と出会った時、正直何のリアクションもとれない。脳がエラーを起こし全身が硬直する。その後おのおのが想像する恐怖・・・お化けやゾンビといった類い・・・と姿を重ねそこで初めて慌てふためく。

 オレは逃げようとしてふり向くがそこは壁で顔面を強打して転げた。リンはその場にペタリと座り込みオイデは直立したまま後ろへ倒れた。

 セリセリは一歩仰け反ったが直ぐに態勢を整え、叫んだ。


「おばあちゃん??モモおばあちゃん!?」


 大粒の涙をボロボロとこぼしてモモと思しきばあさんにしがみついた。


「モモおばあちゃんだよね!?何で!?生きてたんだ!!うえ~~ん!!良かったよ~~!」


 そんなはずは・・・あの時確かにオレとの戦闘で力を使い果たして・・・店の前で・・・。


「ヒヒッ。みんなのアイドル、モモさんだよ!いやあ、いいオドロキ顔してるねぇ♪

・・・コレ!!足、擦るんじゃないよ!!生きとるわ」


 思わず、実体があるか確かめてみてしまったが、ちゃんとある。


「ば・・・ばあちゃん、アンタ、確かに・・・その・・・オレを助ける為に奮闘してくれて、そんで・・・安らかな顔つきで倒れて・・・」


「ヒヒッ。びっくりしたかえ!?」


 この満面の笑みに、いやらしい笑い方!モモさんに間違いねえ!!


「私、私!あんなにスゴいおばあちゃんが死ぬわけないって思いたくて、でもやっぱり無理かなって思ってて・・・それで・・・それで・・・」


「ああ、そうだねぇ・・・非道いじゃないか、年寄りをあんな瓦礫に置き去りなんて。・・・アタシャねぇ、そんなに簡単に死なないんだよ。どこかの阿呆ドワーフのせいでね!!それにあんときゃ、霊力が尽きて生命力をコンバートしたもんだからチョイと疲れっちまってたのさね!」


「うわ~~ん、おばあちゃん!!ずびびっ」


「ホラホラ、いい子だからもう泣くんじゃないよ。せっかくのべっぴんさんが台無しだよぅ?・・・有難うねぇ・・・心配してくれて」


 乱れた髪を優しく撫でつけ、涙を枯れ枝のようなか細い指でぬぐってやると安心したようにニコッと笑顔を見せた。


「・・・うん。泣くの、やめる」


「いい子だねぇ。・・・それに引き換え・・・このアホンダラが・・・ギルドから話しがきた時にピンときたよ。魔王になっちまうのはアンタなんだろう?」


 モモの眼光がオレを鋭く捉える。


「ギルドから、って・・・そうか、呼びつけた巫女ってのはバアちゃんの事なのか!!

・・・ああ、そうだよ。ただな!魔王になるんじゃねえ。魔王に仕立て上げられるんだ!!

・・・何処まで聞いて何処まで知ってるのかは知らねぇけど・・・なあ、ばあちゃん、一度はオレを止めてるかもしれねぇが、オレ、あん時よりもヒデえ事になっちまってるんだ!!・・・今度こそ危ないって!」


「そうだねぇ。アタシもおふざけなしの本気で向かわないと危ないだろうねぇ。その為に禊ぎに来たってのにまさか御神魚がいないとは思わなんだよ」


「・・・御神魚は・・・。

スンマセン!!昨日、みんなで食っちまいました!!」


「く、食っ!?」


「スンマセン!!そんな大切な魚だって知らなかったもんで・・・!ホントスンマセン!!」


 正直に話すより他無かった。只でさえ殺しかけて後ろめたい、ってのにその上嘘までつくのは非常に心苦しい。


「食っちまったのかい・・・。はぁ~~・・・長い付き合いだったんだけどねぇ・・・。

 そうかい。食っちまったのかい・・・。

なんだい、ありゃあ、アタシがいつか食うてやろうと思っておったのに・・・」


「へ!?アタシが食うって・・・御神魚・・・ぎ、儀式!・・・禊ぎは??」

「ありゃ、カタチだけだねぇ。その方がギャラリーが盛り上がるってもんだろう?アタシの入浴シーンでテンション爆上げさ!ヒヒッ」


 ・・・おえっ。


「それに御神魚ゆうてもありゃ、アタシが見つけた只のデカいアユだわな!なんだろうね、きっとアタシの体に染み付いたまんじゅうの匂いに釣られて寄って来てたんだろうねぃ」


 一同、ポカーン


「ヒヒッ♪いい顔だね~~ェ!!

・・・さてと!そろそろ本題に入ろうかね」


 そう言うと、モモは右手をクイッと上げた。するとオイデの腰に差した神楽鈴がひとりでにモモの元へと宙をまう。


 しゃらん


 モモが一振りすると、辺りの空気がパリッと変わった。肌がチリチリと痛む。ピーラーで生皮を削がれていくような殺気、といった感じか。


「おばあちゃん!?」


この嫌な気配にリンが反射的に竜へと姿を戻すと、次いでオイデも元の岩キツネへと変化してセリセリの肩に飛び乗った。

 毛の逆立つオイデを見てセリセリは複雑な・・・駄々っ子のような・・・顔つきをした。認めたくは無いが紛れもなくオレに向けられた殺気を、うまく感情処理出来ないでいるみたいだ。


「悪いけどね、ルイを()()()()のがアタシの役目なんだよ。たんと苦しんで、魔王におなりなさいな!」


 しゃらん、しゃらん


 「む!?」これは前にオレを助けてくれた舞いとは違う!大地を鼓舞するその舞は優雅に見えるが旋律は攻撃的だった。それにつられてオレのアザがまるで興奮しているかのようにザワつき始める。


「ばあちゃん!止めてくれっ!!マジで今、頭ポワポワしててヤバいんだって!!只でさえ、くっだらねえ事言ってねえと意識持ってかれそうなんだ!!それ止めてくれって!!女神に合うまでは・・・!女神に会って直接確約もらうまでは・・・信用できねえんだよ、アイツは!!最悪オレは只の無駄死にになっちまう可能性が否定出来ないっ!だから、頼むって!止めてくれ!!」


 あの時は優しかった桃色の光の粒が、今度の舞では薄ら黒く、まるで金平糖のように刺々しい。それらが今にもオレ目がけ襲いかかろうと待機している。


「やらせない!おばあちゃん!ごめんなさい!!」


 リンがモモの手に握られた神楽鈴目がけ体当たり攻撃を仕掛ける!


  パキン


 「うそっ!?結界??」


リンのかなり本気の体当たりを軽々と弾き返した!!都市を護る城壁結界クラスか!?普通なら四点各五人は必要な結界をたった一人で張るとは!!あれに閉じ込められたらヤバい!!


「リン!セリ!!こっから離れるぞ!!」


 この場を離れようとするオレ目がけ金平糖が飛来する。すんでのところで躱した金平糖は地面に当たり「バン」という音とともに爆散した。地面をほんの僅かにえぐる程度の威力からコイツらは殺傷目的では無いな!?だが流石に何発も喰らえばボロボロになるだろう。弱り切った肉体で魔人化させれば、たとえその上のクラス、魔王になったとてわけなく滅せられるだろうからな。

 ・・・ただ・・・この程度の威力ならボロボロになる前に魔人化しちまうぜ?それはモモもきっと解ってるハズ・・・何か別の・・・。


「ルイ!!上だ!!」


頭上でキラリと何かが光る。刹那!


 ギィィィン


 ほぼ眼前で鋭い金属音を伴い火花が爆ぜる。思わず直ぐさま飛び退いたが音の正体を見て背筋が凍った。

 それは捻れた柄をもつ1本の槍だった。その捻れの狭間に矢が突き刺さり、直撃のコースを逸らしてくれていたようだ。

 矢は、セリセリが放ったものだった。もしセリが矢を放ってくれていなかったら、オレは今ごろ熟れたスイカのように弾け飛んでいたことだろう。


「・・・ふぅ~ん。やぁるねえ!!合図があったから始めたんだけどさ、もちっとホンキで投げばよかったぁ。ってかさ、そこのデカい女!アンタ、なに!?その男、庇うわけ?意味わかんな~い」


 神殿の上から声が聞こえる。姿は逆光でよくわからないが、声の感じから若い女か。


「ルイに何すんだよ!!あいず?あいずってどういうこと!?わかまつ??」


「キャッハ!!意味わかんな~い!・・・ああっ!わかったあ~♪アンタも冴えないから冴えない男庇っちゃうんだ~」


 神殿から降りてきたそいつは、ツインテールのゴリゴリのゴスロリかわい娘ちゃんだった。

 その娘はオレを襲った槍を片手で軽々と引き抜き、挟まっているセリの矢を長い黒のネイルの親指と、赤いネイルの人差し指でつまみその辺にポイと捨てた。

・・・あんな華奢な腕で!?あの槍を?クソぅ、魔力持ちか!厄介だな。登場はベタなくせに・・・恐らくあの娘は強い!!

 

「・・・ルイは!!冴えないけど、いい男なんだっっ!!」


 そう言うなり手甲と弓からほぼ同時に矢を放つ。ヒン、と空を割き正確にヘッドショット狙いの矢を、赤い風が横切り全ての矢を逸らしていった。

 その赤い風はゴスロリの肩にとまると、クアとあくびを一つした。あれは・・・竜!!まさか、ゴスロリは竜飼いなのか!!


「キャッハッ!!か~い~でしょ!?あたしの竜なんだ~♪♪ナマエは~、キャンディードロップ!キャンちんって呼んでるの( ´艸`)つおいよ~~⤴⤴」

 

 やはり竜飼いか!!てことは、七人の竜飼いの内の一人!始まったのか!?いやいや、待て待て。まだ女神に会ってねえぞ??


「んナア・・・セッちゃん。キャンディーとドロップって何が違うんかナァ?」


「うん?知らね!どっちも飴じゃあないのかなあ。ま、あの竜、ミニトマトって感じじゃあないよね!!」


 その言葉が聞こえたようで、ちょっとムッとした顔つきになる。


「ねえ、巫女のおばあちゃん!協力なんてするイミあるぅ~?コイツら弱そ~だし、何よりムカツクし!今あたしがブッ殺しちゃっていいかな~!!」


「ヒヒッ。ちょっと煽られた位で・・・若いねえ。今、殺しちゃあダメなんだよ?女神から言われてんだろ?まずは魔王にしてから、民衆の前でってねぇ。それに、まだみんな集まってないだろ?」


「え~~!!だってさ、みんなが観てる前でなら別に誰が殺したってさ・・・」

「駄目だ、と言っておろう?」


 モモの凄みに「くっ」と下唇を噛んで一歩退いた。


「ばあちゃん・・・!なあ、ちょっと待ってくれよ。さっきも言ったけどよ!オレは殺される事は納得してるさ!大人しく殺されてやるっての!

・・・だけどさ、何処まで聞いてるんだ?何だか、オレとそっちに食い違いがありそうなんだが・・・オレはリッチェの為に・・・魔王の消滅と引き換えに彼女を生き返えらせてくれると約束したんだ!

・・・ばあちゃん、ハインツも此処に来るんだよな?他にもあと6人、居るんだよな?」


 不安で呼吸が乱れる。鼓動が聞こえるのではないかというほどバクバクする・・・。

 背中が・・・痛い・・・。


「・・・ばあちゃん。女神は、何処だ?」


「・・・サあてねぇ。悪に答えてやる義理はないね」

「悪!?」

「ああ!そうさね!!ギルドに呼ばれた夜、女神の声を聞いたのさ!それでシグの言ってた事を思い出したんだよ・・・アタシの元に大きな災いがやって来るってねぇ!それがアンタだよ!!魔人なんてそう居るもんでもないからねぃ。よくもやってくれたもんだい!!大切なモンみぃ~んな奪いおって!!

 はっ!!自作自演に付き合わされたなんて、アタシもボケたもんだよ!!」


 うそだろ!?自演??何でそんな・・・オレは!!


・・・クソッ!!クソ、クソ、クッソおッっっっ!!女神か!!アイツッ!何処までクソ野郎なんだ!!

 せ、背中が!首が燃えるように痛い!!


「欺しやがったなあっっっッ!!」


 絶叫するオレの脚がボクッと折れ曲がりあさっての方を向く。

 傍に振り抜いたメイスを抱き抱え直す修道女の姿・・・二人目か!


 

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