43話 びっくりオンパレード
「あ、ルイ。見えて来たよ!?ティアマト遺跡ってきっとあれだよね!?」
湖岸沿いを歩くこと小半日、ようやく目的の場所へ辿り着いたようだ。遺跡、というからもっとこう、言っちゃあなんだがボロい建物を想像していたが、なんともまあ小綺麗な建築物で、正面に長い階段、その頂に神殿が鎮座する。手前にあるのは祭壇・・・かな。
いや、オレの処刑場か・・・。
しかしまあ皆さま「ハラへって動けね!」だの「呼びつけといてさ、遠いよね!!」だの、まるで昨日の話は無かったかのようにいたって普通なのが気味悪いったらありゃあしない。
「何とかしてみせる」と言ってはくれたものの特に算段があるわけでもなく、女神の予定通りならばオレは今日、殺される。だのに結構普通のごくありふれた日常、みたいな感じなのよね。・・・ま、ピリついて重苦しいよりはコイツららしくていいか。逆に頼もしくすら感じるってもんだぜ。だが、やはりセリセリはあんな事があったせいか、どことなく挙動不審の感がある。ケロッとしている風に見せかけてはいるがそれがかえってわざとらしく見えてしまっていて、それにリンは気が付いていたようだ。
「ね、ルイ・・・。僕、セッちゃんに何かしちゃったかなあ?どっかよそよそしいんだよね・・・。目、合わせてくんないし。ルイ何か知ってる?」
何か勘繰っているのかという考えがよぎったが、もしもそうであるならオレは今ごろ青い焔に包まれて洗いざらい話していることだろう。あれは自白剤よりも強力だからな。そうではない、という事は一応疑われてはいないようだ。チラッとセリを見ると、オレと目があってしまい恥ずかしげにスッとそらした。普段はあんなにオッカネエのに、実は類人猿最強の女かと思っていたのに、やっぱりオンナノコなんだなぁ~。いや、もう“子”ではなくなったか・・・。
「あ~、あれだ、昨日のアユ、お前の方がいっぱい食っちまったとか、そんなんじゃねえか??食いもんの恨みは恐ろしいからなぁ~~」
きっと若い頃ならしどろもどろになっていただろうが、歳を重ねるとこういう時スラッと適当な言葉が出て来るようになる。ある種、オートスキルみたいなものなのだ。
「うわ!?それかも!!だってスッゴい美味しかったんだもん!卵なんか二切れも多く食べちゃったし・・・。う~ん、後で謝ろ!そんで夜ご飯の時になんかあげよっかな」
・・・素直な反応にちょっと罪悪感を感じる・・・。
正直、オレ自身も戸惑っているのだ。何故か、躰を重ねてしまった・・・。普段ならば上手いこと言ってサラリと受け流していたはずなのに・・・。ジョアの時とは関係も状況も違うがそもそもオレはリッチェに全てを捧げたのだ。それに転生した身とはいえ、妻がいて、それが目の前で殺され、娘も殺された。努めて明るく振る舞おうとしてはいるが、心の底は動かないのだよ・・・。
「そりゃあさ、セッちゃんはいい女だよ?」独り言が漏れる。
「だろ♪」
「!?」後ろから声をかけられて思わず三十センチ程飛び上がってしまった。皆前を歩いていたはずなのに、どうやら考え事をしている間に追い越していたようだ。ふり向くとセリセリがちょっと嬉しそうにはにかむ。目が合うとやっぱり視線を逸らし、顔を赤らめた。どうした??大人の階段上ったら属性チェンジでもしちまったのか!?なんつーか、コッチまで恥ずかしくなっちまうではないですか!!
ふとイヤ~な気配を感じ、それを辿ると視線の先でオイデがニヤついている。
「!!おま・・え!」
そのしたり顔でピンと来た。・・・あんにゃろう、計りやがったな!?それで昨日の夜、ワザと大声でリンを呼び、セリが思いを遂げられるようオレから引き離したのか!ホントにアイツはセリセリの幸せの事しか考えてないな・・・主人思いだこと・・・!!
オレがソレと気が付いたのが分かったようでさらにニヤニヤしている・・・。
セリの為とはいえ、オイデにしてやられた事が悔しい!くそう、オイデよ、死んだ後お前の枕元に三日三晩立ってやるからな。
「はっ!!」オイデに気を取られてリンを警戒するのをすっかり忘れてた・・・。多分今オレ、顔にモロに出てる筈だ。アイツ無駄に勘がいいからきっと察したに違いない・・・。
恐る恐るリンを見るとジト目でオレを睨みつけている。これは・・・言い訳できないか?聞く耳持つか分からんが焼かれるのだけは勘弁だ!
「まあ、なんて言うか・・・成り行きで・・・いや、でも据え膳とかじゃなくてよ!ちゃんと思いを受け取ってだな・・・」
「は?何言ってるの?あれ見て!階段の下、広場の所スゴい人だかり!!
・・・みんなルイのこと見に来たのかな!?ずいぶん早くから集まるんだね・・・ヤな奴ばっかり!!いったい何なのさ!!」
・・・危ねぇ!やぶ蛇しちまうところだった。
「あ、ああ、そうだな。まるで開園前のアミューズメントパークみてぇだ。いや、でもよ、流石に今日何が起こるかまでは知らねぇんじゃね!?オレだって時間指定されてるわけじゃねえしよ。なんなのか知らないふりしてちょっと聞いてみっか!」
確かに誰よりも早く来て間近でみたい!って気持ちは分かるぜ。昨今はヒーローショーも大人が見に来る時代だ。“遊園地で僕と握手!!”もしてみたいってところだろう。
ま、オレが悪役なんだけどな・・・。
だが、近づいてみると少々様子がおかしい。慌ただしく駆け回る神官、指示を受ける雑兵ども。それに集まっている奴らは見学者にしてはいかつい者達ばかりだ。どれをとっても準備というよりハプニング、といった風に見える。
「ああ!あなた方も冒険者ですか?もしよろしければお手伝い願えないでしょうか!」
神官と思しき男がオレ達に気づき声をかけて来た。やはり何かあったようだ。
「御神魚様を探してはいただけないでしょうか!?今朝方からどこにも御姿を現さないのです!!」
「いや、オレ達はその・・・別の用事があってここに来たんだ。だから悪いが手伝えないな」
「そうですか・・・。それは失礼致しました。いやしかし困った事になりました・・・。今日に合わせて遠路はるばる大巫女様にお越し頂いたというのにこれでは儀式が執り行えません・・・」
「へえ。巫女、ねぇ・・・」
「はい。後援会を通じ、先だって魔王が復活するとギルドより通達を受けておりまして。そこで、神託を受けられた大巫女様を特別に今日に合わせてお招きしたのです」
ギルドから、か。ふぅん・・・きっと昨日の馬車だろうな。
考えてみりゃ、竜飼いを七人全員動かすってんだ。大事だわな。魔王の誕生は世界中に知れ渡るところになってるんだろう。
「へえ、魔王、ねぇ。そのわりにはあんたらには恐怖の色がないな。お魚探ししてるなんて余裕じゃんか」
「ええ。魔王など女神様のお力を以てすれば恐るるに足りませんので。よしんば我々に犠牲が出たとしても、魂は女神様御身のお側に寄り添えるのです。どうして恐怖など御座いましょうか」
ああ・・・嫌だねぇ~。宗教の信者独特の私たちは救われる理論!度し難いぜ。しかしまあ、今、目の前に居るオレこそが復活する魔王本人なのだが、面と向かって「怖くない」と言われるのもそれはそれで複雑な気分だ。
顔までは知らないのだろうから当然か・・・。
「で?御神魚ってのはどんなヤツなんだ?どうやらまだ予定まで時間がかかりそうだ。オレとしてもその儀式ってのが始まらねぇと多分困るんだわ」
儀式っていっても恐らくは形だけのもので、その時が来れば強制的に始まるんだと思うが、それまではある意味ヒマだしよ。
ふぅむ、なぁんか緊迫感に欠ける最後の日だな。
「!ありがとう御座います!!御神魚様はこの湖を護っていらっしゃるアユでございます・・・」
「へえ!・・・アユ!」
アユか・・・そういや昨晩のアユはマジで美味かった!!
「いつもならば禊ぎを始めると、その周りを泳ぎにいらっしゃるのですが、今朝はどうした事か御姿がないのです。唯一無二のとても立派な御姿なのでいらっしゃればすぐに判りますのに・・・このような事は前例がなく、どうしたものかと・・・まさか!既に魔王の手によって!?」
「・・・ふ、ふ~ん・・・。どうだろうかねぇ・・・ま、その・・・それで?御神魚のアユってのはどんな感じに立派なのかな?・・・。その・・・たとえば、大きさとか・・・」
ちょっと嫌な予感が・・・。
「大きさですか。それが一番判りやすいですね。御神魚様は並外れた大きさでおよそアユのそれではありません。そうですね五、六メートル、といったところでしょうか」
うわ~~!!ビンゴ!!喰っちまったヤツか!?昨晩喰っちまったよ!御神魚様!!
「うナァ!?そのデカいアユって夕飯のでないのか??」
“まずい!!”神速でオイデの口を急いで塞いだ。
「いや~~。ハハッ!ああそう!大きいねぇ~。そんなに大きいならすぐ見つかりそうだねぇ。ウン。マア、見かけたらオシラセシマスヨ」
とても気まずい・・・。だって知らなかったんだもんよ!!ちょ~っと、普通じゃないかなあ~、とは思ったけどもそんな大事な魚だったとは!!
「ありがとう御座います。何卒よろしくお願い致します・・・どうしました?顔色がすぐれないようですが・・・何処かお具合でも?」
「へ?あ、ああ・・・昨日からゲリ気味でさ。はらた○ら・・・じゃなくてはらいたいんだわ。ゲリもゲリでゲーリー○ーパーってな!ハハッ」
苦し紛れに意味不明な事を口走ると皆も合わせて笑うが、状況が状況なだけに乾いた笑いしか出てこない。
「はあ。よく分かりませんがお大事に・・・いや・・・先ほど夕飯が何かとか・・・」
ギラリ、と神官の眼が光った。
「ああ!!ヤバい!!コウモンからウエッティな屁が!!まずい!ピーって出る!!ト、トイレ!間に合うか!?じゃ、じゃあこれで!!」
まるで“二次会に巻き込まれたくない部下”のごとく逃げ神殿の側面に回り込んだ。辺りを見回して誰も居ない事を確認するとオイデに小声で注意した。
「馬鹿オイデ!オマエびっくりさせんなよ!あ~ゆ~時は“うっかり発言“しちゃ駄目だろ?お前あれだよ!?宗教やってる奴らはアタオカ多いいんだから、喰っちまったのバレたら処刑されちまうよ?マジで!!それともオレと一緒にイッペンシンデミル?」
「うん!?だからアナタは死なせないって!!それに神官だろうがなんだろうがオイデに何かしたら私がぶっ飛ばす!!どっちも私が護る!護ってみせる!!うん!」
「いや!ルイは僕が護るの!」
二人してギャーギャーと・・・。か、隠れた意味が・・・ま!いつものセリセリに戻ったからよし!!か。
ん?・・・今、オマエじゃなくてアナタ、って言わなかったか?
「おやおや、相変わらず賑やかだねぇ」
背中越しに聞き覚えのある、しわがれたババアの声。
まさか・・・いや、そんなハズは!!
「やっぱり、止められ無かったんだねぇ」
ふり向いて、オレはアゴが外れるほど口をパクパクさせて驚いた。冗談ではなく本当にケツから身が出る程に!!




