36話 パートナー
「んっめ~~!!コレ!!今まで食べたバーガーの中でいっちばんウメェ!!さっきのエールの香るチキンとバケットも美味かったけど、うん、これもヤバいな!!ベルゼさん、すっげ~!!」
「お気に召して頂けたようで、何よりですわ♪」
ルイと共に祠へ入った筈なのに、どうやらルイ達とは別の場所へ飛ばされた様だった。
そこは豪華な料理の並ぶ長テーブルの置かれた、シャンデリア輝く煌びやかな広間。傍らに佇むメイド姿の女性が微笑んだ。
「どうぞ、お召し上がりになって下さい」
ベルゼと名乗った彼女の作る料理は、そのどれもが“珠玉の一品”と呼ぶに会い相応しかった。そしてそれは、“舌対的”なセンスの持ち主であり自らが一度でも口にしなければ再現出来ないであろう(いや、表現というべきか?)、芸術品の域だった。おそらく世界中を巡ったのであろう。
セリセリ自身も旅の途中で色々な物を食べ歩いてきたが、これほどの物に出会ったことは無い。ルイの料理も美味いが彼女のは別格だった。
「パティのほうは黒毛バイソンの赤身肉を2カ月熟成させたものを粗挽きで仕上げていますわ。それを、先ほど此処の清流より収穫したクレソン、私の趣味で作っているピクルスと合わせ自家製バンズて挟んでありますの♪
ソースは卵黄、ビネガー、オイル、塩、マスタードを撹拌したもので、こちらはオイデさんがいま召し上がっている鶏肉にも使ってありますの。
そちらは一度、岩塩のプレートで挟み焼きにしてから肉にソースを塗り、皮の表面をもう一度焼いて皮パリに仕上げてございます。
それに乾燥トマトを戻したもの、レーズンをみじん切りにして混ぜ合わせたマッシュポテトを添えて」
「んナァ~~~♡オッサンの料理もウメェけんど、これは別格ナァ!!」
「その他に白身魚を蒸しあげてから香草を乗せ、上から熱した油をかけたもの、ムール貝と鯛のアクアパッツァ、鱸のムース(フランボワーズソース添え)も自信がありますのよ」
セリセリとオイデは底なしかという位、彼女の作った料理に舌鼓をうっていた。
此処を出たら、どこへ向かうのもしばらくは雪山だろう。温かい料理なんてまず望めない。だから今のうちに、というのもあるのだろうが、それにしてもよく食べる。
“食べられるうちに腹に入れておく”
鉄則だが、むしろ料理が美味し過ぎて食べる手が止められない、と言った方が正しかった。
「この玉子、いっただきナァ~!」
「玉子?あ!それは・・・!」
テーブルの角に勢いよく殻をぶつけた途端「ムニュル」っと中身がはみ出る。びっくりしたオイデは思わず落としそうになるが二度三度、宙を舞わせながらもしっかりと両手でつかみ・・・は、したものの、中身がはみ出てしまい手がベトベトになった。
「ウフフッ。それは、一見怪鳥の卵のようですが、果物なのです。甘くはありませんが、ねっとりと芳醇な果肉で、独特な味がクセになりますの。レモンと相性がよいですわ♪
とても栄養価の高い果物で“森のバター”なんて呼ばれたりもしてます。私、これ大好きなんですの♪」
「ん!バターか!!美味そ~だな!ど~れ」
「んなぁ??!!」
セリセリがベトベトになったオイデの指先をチュパッと舐めたため、思わず変な声が出る。
「んー!たしかにバターだな!美味い!!
・・・うん?この味、さっき・・・?」
「はい。この果物とチーズでグラタンを作りました。かなりの料理をお召し上がりになられたのに、よく覚えておいでで」
「ハハッ♪私も料理作るの、好きだからな!結構気にして食べてんだ。・・・これ、冷たくしても・・・うん、決めた!後で作り方、教えてくれよ!」
「ええ!喜んで♪」
女子同士の会話が弾んでいる中、ジッと舐められた指を見つめていたオイデが突然席を立つ。
「んナァ~~。オイラ、ちょ~っと、お手洗いに・・・」
「あ!?ごめん!ばっちかったか??」
やや前屈み気味でヒョコヒョコと歩くオイデの背中にセリセリが申し訳けなさそうに謝った。
「ばっちくなんかないなぁ!!・・・たっ、たまたまトイレ行きたかっただけなんだナァ!!」
「そっか!うん。いっトイレ!!」
間
「あは♪今の、ルイみたいだったな!うつったかな?・・・そいや、ルイ達もおんなじモン食べてるのか?」
「いっトイ・・・いっトイ・・・え?あ、ルイ様達は今、大事なお話しをされていると思います。お食事はその後で。される側でないと良いのですけど・・・」
「うん?どういう意味だ??」
「まあ、そんなことよりもセリセリ様、あなた様には、ここで竜飼いとなって頂きます」
「竜飼いに!?私が??ハハッ!私はそんなモンになるつもりはないよ!?うん。竜は要らない!私にはオイデがいるもん。それに私たちは十分に強い!!
・・・あ、魔法なら使えたら便利かな!この間、火が点けらんなくてちょっと困った事があったから」
「それは難しい事ですわ。実はヒトは魔力を持ち合わせて御座いませんの。誰でも魔法が使える訳ではないのです。
ヒト族の魔法使いは魔具を・・・男性は、連なるリングを装着、女性は男根を象った物を挿入して生命を魔力に変換してそこからチカラを得ています。これを“魔具わう”と呼んでいますが・・・一度装備したら外せません。その為、魔法使いは一生涯を魔具に捧げ貞操を貫かざるを得ないのですが・・・そのご覚悟が?」
丁度、オイデが妙にスッキリした顔で戻って来たが、二人の話の内容に驚き余韻が飛んだ。
(だっ!男根!?挿入??だっ、ダメナァ!!オイラのセッちゃんにそんな事!!)
と、思うのと同事に少しばかり想像してしまい、もう一度、トイレに行こうか悩ましかった。とりあえず、サクサクのアップルパイでも食べて落ち着かせよう。
「うん?ダンコン?あのサクサクしている穴ぼこ空いてる・・・ハス、だな!あんなの入るとこ、あんのか??」
「それ、レンコンですわね。多分、違います」
(・・・セッちゃん・・・当分、心配ないかもなんだナァ・・・アップルパイ、うまいナァ)
「覚悟も何も、使えたら便利かな?って程度って言ったよ?うん。魔法も竜も私は要らないや。だいたい竜飼いって何なんだ??私はルイしか知らないけどさ、そんなに騒ぐ程のモンなのか??そりゃあ、リンちゃんは可愛いけど・・・」
ベルゼは姿勢を律し、改まって二人に語り始めた。
「・・・これより程なくして、魔王がこの世界に蘇ります。それはそれはとても邪悪ですの・・・」
(ヘェ~、マオウかあ~。すでにオイラのマオウなら蘇ってるんだけどナァ~)
呑気なオイデとは裏腹にセリセリの顔が徐々に強張る。
「うん?魔王??そんなの居んのか?聞いたときないぞ??
・・・魔王か・・・それって・・・やっぱ“王”って言う位だから“魔人”よか強いんだろうな・・・」
ルイの魔人化・・・ケルベロスの腹から出てきた時の、あの一方的な邪悪な笑み・・・モモさんの事・・・を思い出すと身震いが起きた。
「率直に申しますわ。このままでは、この世界の生ある者全てが滅ぼされる事となるでしょう。
・・・女神様はとても心を痛めておいでです。自身は滅びませんが、たったひとり残された世界など何の意味が御座いましょう!皆で紡ぎ繋いで来たこの世界が、女神様は愛おしいのです。この世界こそが全てなのです!
さぁ、ハインツ様よりの命です。私のパートナーとして竜飼いに!」
「う~ん・・・メイとかやっぱりちょっと偉そうなんだよな~・・・ん???私の??・・・えっ?なに?もしかして??」
「はい。私はハインツ様の側近、七竜が一人、暴食のベルゼ。私とあなたが組めば魔王など恐るるに足らずですわ♪」
「ベルゼさん、竜だったのか!!そういえばヒトとは何となく気配が違うしな~って・・・うん?ベルゼさんと似た感じのが何人かいたけど・・・もしかして、あいつらも竜なのか?」
「そうですわ♪私達はそれぞれ、ヒトが発展するために必要な“欲”を与えられた名を冠したエリート竜。今、私のように世界中の竜飼いとなるべくヒトのもとへ向かっていますの。
貴女には私が選ばれました。貴女はお食事、好きですよね!?私とは相性が良い筈ですので!是非!!」
彼女の熱意は伝わる。しかしどうにも、ギグの語った女神の真意が頭をよぎり全てを鵜呑みにする事は出来なかった。
「う~ん。あんまし言いたく無いけどさ、護るって結局、ヒト族だけ残したいんでしょ?崇拝されてこその神だもんね。
・・・私はその話聞いたとき「女神さん、好きになれないなぁ」って思ったよ。
・・・うん。ま、元々私はエルドラの神しか信じてないんだけどさ!」
「一体・・・何の話ですの??話を聞いた?何やらあらぬ疑いを掛けられているようですが・・・?女神様が、ひとつの種族を贔屓する事などごさいませんわ!!」
憤慨気味の彼女の目に嘘は無かったが、宗教とはそういう物だと知っている。セリセリ自身もそうだからだ。彼女もエルドラの神に仕える身。疑いをかけられた、とあればやはり同じように怒るだろう。
「うん、ま、女神さんがどうなろうが、どうでもいいんだけどさ、今まで旅をしてきて出会った、私にこの巾着を作ってくれたあの子達、デランの町のあの子達、ローライさんやギグさん、当然ルイもリンちゃんもみーんな、大事な人たちだもん。
女神さんの為じゃない。みんなの為に戦うよ。けど、竜飼いにはならない。ベルゼさんには悪いけど。それに三人じゃ戦いづらいし」
「では、二人ならば問題ないのですね?
竜飼いは二人で一組。オイデさんには戦力から外れていただく事前提でしたので解決ですわね!何なら故郷までお送りいたします。
ああ~、良かったですわ♪拒む理由が、さしたる問題ではないことで!」
流石に、このベルゼの発言には苛立ちを隠せなかった。戦力から外す??「有り得ない」
温泉で出会ったあの日から、ずっと一緒なんだ!私達は二人でひとり!!分かれるなんて絶対にない。それはオイデだって同じ思いのハズだ!!例え死んだって離れるもんか!!
「あのさ!!“ならない”って言ったよね!!オマエが竜だとしてもムリなもんはムリ!!
オイデは強い!!強い私の相棒なんだ!!どこの誰よりも強い!!
本当、あっったま来た!帰る!!ルイ達はどこ!?
ご馳走様でした。もうあなたと話す事は何も無いよ!行こ!?オイデ!!」
怒り心頭でこの部屋を出ようと、ドスドスと歩き回ったがどこにもドアーが無い。
「・・・このお部屋には結界が施して在りますの。貴女が首を縦に振らない限りここから出る事は、叶いません」
「ふっざけんな!!」
ベルゼに掴み掛かろうとしたその瞬間
「シャン」
と鈴の音が鳴り響く。途端にはらはらと空間が剥がれ始め、ただの岩肌へと変わる。そこにはベルゼの姿は無い。
どうやら元の、祠の入り口へ戻った様だった。
呆気にとられるセリセリの前に、モモの形見の神楽鈴を構えた者がいた。
セリセリと同じ位の年頃の青年・・・鼻筋の通った、凛々しく自信に満ち溢れたその顔は、姿こそ違えど、直ぐにオイデだと判った。
「さぁ。行こうか!セリ」
「・・・はい」
差し出された右手に自分の手を重ね、思わずそう言葉が出た。




