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第5話 ルーベルトの悪逆

領地の視察から戻ると、僕は執務室へ戻って仕事をすると言うルーベルトを無視して自室へと向かった。

これから僕はやけになる。

「ルーベルト。僕、大変なこと聞いちゃったんだけど」

『悪逆貴族のルーベルト、か?』

「そう!それ!なんなの!?悪逆って、ルーベルト何か酷いことを領民にしたの!?」

視察をするというルーベルトのために街へ行くと怖がる者、愛想笑いをする者、機嫌を伺う者などたくさんいた。

そこでふと陰口が聞こえてきたのだ。

『悪逆貴族のルーベルト。その通りだと思うぞ』

ルーベルトは楽しそうに笑っているけれど、今現在ルーベルトになっている僕は気が気じゃない。

だって、守るべき領民に嫌われているなんて悲しいじゃないか。

「ルーベルト、何か悪逆貴族なんて言われ始めた心当たりはある?」

『……そうだな、最初は増税が不満の元だったはずだ』

「増税。それはしなきゃいけなかったの?」

『ああ。増税する数年前、流行病がこの領土を襲った。大勢の人が亡くなった。だから誰でも治療を受けられる施設を作ろうと税を増やし基盤を整えようとした』

なんだよそれ、なんだよそれ!

「ルーベルト、悪くないじゃん!それ、みんなに言ったの!?」

『言う必要はない。領民が住みよくするのは領主である私の義務だ』

ルーベルトは賢そうなくせにばかだ。

「その医院は完成したの?」

『ああ。医師も看護士も医療も充実している。誰もが無料で受けられるために税は上げたままだが』

「他にも何かある?」

『そうだな。先日、お前が不満を漏らした件だが今年は不作の年であまりにも商品にならなかったから農作人から買い占めこの公爵邸で食事に出させた。金を渡して領民には他の領土から流通してもらった農作物を分け与えた。間に人が入ったから多少の値上がりは仕方がない。民があっての領地だ。領民には良きものを食して健康でいてくれなくては困る』

どう考えてもルーベルト、悪逆貴族なんかじゃない。

単なる善意が通じない人だ。

「洋服が豪勢なのは?」

『公爵家としての威光を示す必要がある』

「隣の領地との契約は?」

『統計的にそろそろ隣の領地の川に干ばつが起きて不作になる。事実今年はうちの領地が不作だった。そこでこちらの農作物を安く譲れば向こうの領民は飢えずに済む。この契約は数年のものだ。その間に向こうの領地も立て直すだろう』

なんてこった。隣の領地の民まで気にしていた。

「サシャ嬢とのことは?」

『政略結婚に情を持つ方が辛いだろう』

「ルーベルトは大馬鹿だ!」

僕は怒った。

こんなに不器用なひとが他にいるだろうか?

どうしようもない感情を抱えてベッドにダイブするとジタバタ手足を動かす。

『おい、やめろ。シーツが皺になる』

「ルーベルトが全部領民に正しく伝えるならやめるよ!」

そう叫ぶと、ルーベルトは小さな子に言い聞かせるように僕に語り掛けた。

『いいか?悪逆貴族と思われていた方が私にとってはやりやすい。これからも非道な貴族でいるんだ。分かったな』

なんて、非道なことは一つもしていないくせにそう言うんだから呆れちゃう。

「ルーベルトがどんな人物か、よく分かったよ……」

『悪逆非道なルーベルト・トランドラッド。これがいいんだ。これでいいんだ。分かったな?」

ルーベルトは念を押すように何度も自分が悪役であるかのように僕に言い聞かせる。


ルーベルトが何を考えて悪逆貴族を演じているのか僕には分からない。

でも、唯一分かることがある。

「でもさ、アクギャクって何をすればいいのさ」

僕は途方に暮れた。

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