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第44話 新しい朝

お茶会はあんなことがあったからか静かだけれど楽しいものだった。

領民は公爵家のお茶会は初めてらしくて終始恐縮していたけれど、僕が気にしないで欲しいと告げると、次第に物珍しさから飲食が進んでいった。

和やかな風景に僕は嬉しくなる。

ルーベルトもきっとそうだよね。

『ああ。長年夢見た景色がここにある。これで父も母も生きてくれていればどんなにか良かったことだろう』

ルーベルト…。

あのさ、ルーベルト、聞いていい?トランドラッド公爵家と王家の関係って何?

ずっと聞きたいことだった。

王太子殿下がなんであそこまでルーベルトのことを敵視していたのか。

『お祖母様が王の姉君だ。だから、私と王太子殿下は従兄弟にあたる。皮肉だな。叔父上だけではなく同じ血が繋がる王太子殿下も私を嫌っている。身内に嫌われてばかりだな』

ルーベルトは淡々と話すけれど、それって、悲しいことだ――。

だから王太子殿下はルーベルトを恐れたのか。

誰からも愛されていた幼少期のルーベルトは、その地位を期待されていた王太子殿下にとって恐ろしいものだったのだろう。

叔父上もきっとそうだ。

でも、大丈夫だよ、ルーベルト。

ルーベルトには僕もエイリッヒもサシャ嬢もルーファスもいる。

大丈夫だよ。


血より濃いものがあることを証明しよう。


お茶会が終わると、領民は頭を下げて各々の家に帰っていた。

『悪逆貴族のままなら、のんなことはなかっただろうな』

ルーベルトが一呼吸置く。

『悪逆の悪逆、そしてお前の信念が変えたものだ』

ルーベルト…。

『叔父上と王太子殿下は選ばれないと思い手を組んだ。そして実行した。私達は、選ばれたからこそ、選ばれてしまったからこそその責務を負わなければならない』

うん…そうだね。

『私達が選んだものもだ。お前はすべて守ると言ったな。守り切ってみせろよ』

軽快な口調でルーベルトが言った。

初めて年相応なルーベルトに触れた気がして胸の奥が熱くなった。

うん!僕は僕の悪逆を貫いて、信じて、みんなを守るよ!


ルーファスも当然お茶会に参加していたのだが、初めて領民と触れ合い、可愛がられてとても嬉しそうだった。

自室に戻っているルーファスに会いに行く。

控えめにノックをすると、中から小さく声が聞こえた。

「お疲れ様、ルーファス。今日はどうだった?」

「お義兄様!はい!とても楽しかったです!今、そのことを忘れないうちに日記に認めていたんです」

その顔は高揚していてルーファスの興奮が伝わる。

「うん。今日はとても楽しかったね」

「はい。領民の方々とあんな風にお話しできて、僕、とても楽しかったです」

屈託のない笑顔に少し陰りが出てきた。

「叔父様はどうなるのでしょう」

「それは…罪は罪として裁かれるよ」

「裁かれる……って、どういう意味なんでしょう」

と、ルーファスは少し困ったように眉をひそめた。

ルーファスはいまいちピンとこないようだ。

ルーファスは叔父上のしたことを知らない。

それでいい。いつかは話をしようと決めていながらも、今はこのぬるま湯に浸っていたい。

ルーファスを抱き締めてもう一度誓う。

「僕が君を守るからね」

「僕もお義兄様を守ります」

顔を合わせるとどちらともなく笑ってしまった。

守って守られて、それが僕達兄弟なんだ。


ルーファスと別れて自室に戻るとベットに軽く身を預けた。

ルーファス。僕の新しい家族。

『そうだな。ルーファスはもう家族だ』

ルーベルトが珍しく同意してくる。

『幼き頃は、家族で過ごすことが多かった。父上はその責務からお忙しい方だったが、それでも可能な限り私達に時間を割いてくださった』

そうなんだ。

ルーファスのお父さんもお母さんも正しさを信じた人なんだよね。

『ああ。お前と同じだな。私には…出来なかった……』

そんなことないよ!ルーベルト!

ルーベルトは領民や領地のために精一杯頑張ってきたじゃないか!

『だが、父の背中の広さも母の優しさも忘れてしまうところだった。これは、公爵として正しいのだろうか。人を想うトランドラッド公爵家当主になれていたのだろうか』

ルーベルトが初めて弱音を吐露した。

なら、僕に言えるのひとつだけだ。

「人を変えるのは人だ」

そして続ける。

「でも、信じられるのも人なんだよ。ルーベルト」

心の中でルーベルトと対話するんじゃない。

はっきりと口にして宣言する。

ルーベルトの正しさは僕に伝わっている。

それが何よりの証拠だ。

ベッドに横になりうとうとしていると睡魔が襲ってきた。

今日はいろんなことがあったからな。

『ああ。今は眠るといい』

ルーベルトのそんな声を聞きながら瞼を閉じた。


翌日になると、朝食の席で料理が出てくるまでしばらくルーファスと談笑していた。

「お義兄様。昨日のようなお茶会、またやりたいですね」

「ああ、ルーファス。もっと領民と密に接してみようか」

ルーファスは嬉しそうだ。

「はい!僕、もっとここのこと、この土地に住む方々のことが知りたいです!」

「うん。僕もだよ。一緒に学んでいこうか」

そして一区切りしてルーファスに告げた。

「僕も、君も、選ばれなかったかもしれない。でもね、選ばれなかった者が、誰かを守れる未来もあるんだ」

生きることに選ばれなかったフローやジャック。

「でも、僕達は選ばれてここにいる。だから、知ろう。そして守ろう。僕達にできる限りのことで」

「お義兄様…。はい!僕も、もっともっとたくさん知って、お義兄様の役に立ってみせます!」

「ふふふ、ありがとう。ルーファス」

その時はサシャ嬢も誘おう。

僕とルーベルトとルーファスとサシャ嬢。

四人でこの地を守るために、いや、領民も含めてみんなでこの地を守るために何が出来るか考えよう。

悪逆の悪逆。僕の信念。それはきっと、そういうことだと思うから。

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― 新着の感想 ―
「人を変えるのは人だ」 「でも、信じられるのも人なんだよ。」 このセリフが人柄を表していて素敵だと思いました!
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