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第41話 王太子殿下との謁見

夕食も終わり、自室のソファでゆるりと夜を過ごす。

ルーファスのためにも、フローやジャックのためにも、何よりルーベルトのためにも僕は王太子殿下と叔父さんと対峙しなければならない。

『叔父上はお前が思っているより甘い人物ではない。王太子殿下も。なにより言葉を間違えれば不敬罪に問われる』

うん。分かっているよ、ルーベルト。

でも、やらなきゃいけない時って今なんじゃないかな。

『そうか…そうだな。私も問題を先延ばしにし過ぎた。悪逆貴族なんてやり出してみても、それは真実から目を背けて悪を背負っても民の、領地のためになろうとしていただけに過ぎなかったかもしれない』

そんなことないよ!ルーベルト!ルーベルトは民や領地のために頑張ってきて謗られても頑張ってきた!

『叔父上や王太子殿下のことから目を逸らしたのにか?』

それは、だって、二人ともルーベルトに比べたら上の人間だ。証拠がないのに騒げないのくらい僕だって分かるよ。

『そうか』

その声音には安堵が含まれていた。

ルーベルトも自身の身の安全を守るのに必死だったんだろう。

ルーベルト。僕が守りたい人の中にルーベルトも含まれているんだよ。

『お前は私なのにか?』

揶揄するように言われても真摯に受け止めるしかない。

うん。ルーベルト。僕は君が大切だ。

『そうか』

さっきとは違った、嬉しそうな声。

無意識なんだろうけど、ルーベルトは僕のことを信じてくれているのかもしれない。

それは、僕がルーベルトの中に存在してから長い時間を過ごしてきたから、絆が生まれたのかもしれない。だとしたら嬉しい。

でも、僕とルーベルトの想いは王太子殿下と叔父さんに伝わるかな。

『正しさは伝わるんだろう』

ルーベルトがどこか楽し気だ。

うん。伝えてみせるよ。僕の想いを。

そうと決まったらゆっくりしていられない!

ソファから飛び上がり机に向かう。

まずは王太子殿下に謁見の嘆願書を書いた。

王太子殿下には、ジャックとフローの断罪をされたことも恨みに思うけど、恨みで動いていたらだめだ。

僕の悪逆は、そんな動機で動いちゃだめだ。

悪逆の悪逆。正しさを伝えたい。僕とルーベルトの気持ちを伝えたい。

その一心でペンを滑らせた。


王太子殿下との謁見は、三通目で許された。

「やあやあ、久しぶりだね。ルーベルト。いや、君はルーベルトじゃなかったんだよね。何者なんだい?何故、ルーベルトを名乗っている?」

王太子殿下との話し合いは、王宮のガゼボで行われた。

随分と気安いなとは思ったけれど、そういえば二人は幼い頃からの友人だ。

ルーベルトのご両親が亡くなって公爵位を継ぐまでは頻繁に遊んでいたらしい。

「僕はルーベルト…ではないのは確かです。ですが、今は僕がルーベルトです」

「さっぱり分からんな」

紅茶を一口飲み、王太子殿下が溜息を吐く。

「私の数少ない友人はいつからか妄言を吐くようになったらしい。悪逆貴族とかいうのもそうだ。昔は虫すら殺せぬ穏やかな心優しい人物だったのに、幼き身で爵位を継いでからそのようなことを言い出して…」

「とんでもないことです」

ルーベルトにもそんな時期があったんだ…。

『煩い』

クッキーを摘みながら王太子殿下は続ける。

「君は昔からそうだ。純粋で無垢で誰からも愛されていた。悪逆貴族なんて誹られても、結局君の周りには人がいる。だから私は怖かった」

「怖かった?」

なんでも持っている、この国の後継が?

「失礼ですが、次期王になられる殿下が僕なんかを怖がる理由が分かりません」

首を振って否定するけれど、王太子殿下は昏い目をしていた。

「そう。次期王になるのは私だ。君じゃあない」

王太子殿下が怨嗟の声で告げる。

「私は王位なんてほしくありません!」

「でもね、ルーベルト。望もうと望まないと君は確かに王位継承権を持っていて、私を脅かす者だ。そんな君がいるだけで私は怖かった」

パクリと王太子殿下がクッキーを咀嚼した。

「うん。美味しいよ。ルーベルトもお食べよ」

重々しいことを言いながら軽い調子は崩さない。

王太子殿下は僕が、ルーベルトが怖かったというけれど僕には王太子殿下が怖かった。

「嫉妬、劣等感、未来の不安。君には分からないだろうね」

王太子殿下が仰る。

ルーベルトは以前言っていた。

『ああ。そうだな。私はこの方の治世で私も公爵として民を守る日が楽しみにしていた』

淡々とした声音には、悲しみと落胆が含まれていた。

紅茶を一口、また飲んで王太子殿下は続ける。

「君は、ただそこに“在る”だけで、私の居場所を奪っていった」

飾られていた花に手を伸ばして花弁を一枚摘む。

「私は、誰かに愛された記憶が欲しかった。でも、私が手を伸ばす前に、皆は君の方を見ていた」

僕は思った。

この方もさびしい人なのだと。

『そうだな。偉くなればなるほど敵も増えるし安寧はない』

でも、でもそれはルーベルトの罪じゃない。

「それは……僕の罪ですか?」

尋ねる僕に王太子殿下は首を横に振る。

「違う。君に罪はない。でも、君が輝けば輝くほど、私は影に沈んでいった。それが、ただ、どうしようもなく……許せなかった」

王太子殿下の瞳に射抜かれる。

だめだ。僕にはこの人を憎めない。

『そうだな。この方は昔から変わらない。優しすぎるんだ』

でも、ルーベルト。この人はジャックとフローを断罪したんだ。

君と殿下の間に何があろうと、僕は許せない。

憎めないのに許せないなんて矛盾しているけれど、僕は自分の内情がぐちゃぐちゃになって苦しくてシャツを掴む。

『……お前の気持ちも分かる』

ルーベルトが苦しそうに言う。

「さて、君達は私をどうしたいのかな?」

王太子殿下は首を傾げて毟った花弁を弄ぶ。

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