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第11話 悪逆の結果を視察しました

いつもの執務室で、執務をしながら前々から思っていたことをルーベルトに訊ねてみた。

「ねぇ、ルーベルト。僕も領地内に作った学校や医院を見てみたい」

『……いいだろう。お前が私の代わり、ルーベルトになるうえで避けられない事業だ。ああ、ルーファスも連れて行け。私の代わりになるのに知っておく必要があるだろう』

「ルーファスと初めてのお出掛けだね!」

僕が喜ぶとルーベルトは呆れた口調で注意した。

『執務だぞ。それを忘れるな』

「分かってるって。ねぇ、学校や医院に差し入れしたら喜ぶよね。どんなものを持っていったら喜ぶかなぁ」

頭の中でルーベルトが首を横に振っているイメージが鮮明に浮かぶけれど、僕は初めてのルーベルトの『悪逆』の結果を目にすることが出来るチャンスに期待に胸を膨らませた。


「初めての二人でのお出掛けだねぇ」

「そうですね。ルーベルトお義兄様」

学校と医院の視察の日、馬車でルーファスと向かって行った。

頭の奥でルーベルトが何度も『視察だぞ!』『威厳を保て!』と叱責されるが、僕は浮かれた気持ちで聞き流していた。

しばらく馬車で走ると、広々とした校庭と赤い屋根が印象的なルーベルトが創立した学校が見えてきた。

差し入れは子供なら喜ぶと思ってお菓子にした。

馬車から降りて学舎内に入り、教室の一つ一つをこっそり覗いていくと、どの子も熱心に授業を受けており、僕より小さい子から大きい子まで学んでいた。

僕なら執務なんてすぐに飽きちゃうのに、みんな偉いな。

「ルーベルトお義兄様の偉業のおかげですね」

ルーファスもこっそりと教室を見回りながら僕に尊敬の念を送ってくれる。

僕じゃなくてルーベルトがやったことなんだけどね。

みんな学ぶことを楽しんで進んで行っている。

これがルーベルトの『悪逆』の成果のひとつ。

ルーベルトも何も言わないけれど、多分満足して見ているんだろう。

勉学の邪魔にならないように差し入れは教師の方にお渡ししてそっと次の目的地に向かうために馬車へ乗り込んだ。


医院では大勢の患者が医師から治療を受けていた。

しかも無料で。

『本当なら治療費くらい支払える給与を全員が与えられるべきなのだがな』

それでもすごいよ、ルーベルト。

生活水準が上がらないと珍しく自信無さげなルーベルトに、僕は懸命に励ました。

だって、この医院に通院したり入院したりしている人で不安そうな人は一人としていない。

金銭面での不安のなさが、怪我や病気の不安とは別に心配事を減らしているんだろう。

増税は間違いじゃなかったんだよ、ルーベルト。

差し入れは暇な時間を潰せるように本にしようかと思ったけれど、ルーベルトに止められた。

『読み書きが出来ぬ者も大勢いる。やめておけ』

その言葉でなんで学校が必要なのか改めて分かった。

みんなが読み書き出来て学力が上がれば出来ることが、将来の選択肢がたくさん広がる。

ここの差し入れもお菓子にして看護士に渡してルーファスとそっと帰った。

ルーファスはルーベルトの『悪逆』の結果に尊敬の念を抱いているようで、帰りの馬車ではルーベルトを褒め称えていた。

「僕、勘違いしていました。お会いするまで噂だけで酷い方だと思い込んでおりましたが、今回の件でより尊敬出来る方だと分かりました」

『ふん』

ルーベルトもルーファスに褒められて少し満足気だ。

『誰も満足なぞしておらぬ』

はいはい。そういうことにしておこう。

ルーベルトの反論も聞き流して、ルーファスとこれからも時折学校と医院の視察へ行ってみようと約束して屋敷に辿り着くとルーファスを自室へと送り届けて僕は執務室へ向かった。


「ルーベルトは凄いねぇ。民のためを思って色々なことをしている」

僕が感嘆の声で称賛すると、ルーベルトは不服そうだった。

『本当は、まだ足りぬ。貧民街はあるし孤児院もある。まだまだこの領地を良くするには時間も金も足りぬ。だから悪逆と言われても増税し民に嫌われても守る必要がある』

「でもさ、普通気付かない?増税したおかげで誰でも受けられる医院や学校が出来たということに」

『それが不服な者も大勢いるということだ。民に学なぞ必要ないというものもいる』

「そんなものかなぁ」

『そんなものだ』

それは、少し…かなり悲しいな。

ルーベルトの善意が伝わっていないってことだもの。


ルーベルトの悪逆が正しい意味を持ち、みんなに伝わるといいな。

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