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第1話 目覚め

ガシャン


その音で目が覚めた。

覚めたというのは違うのかもしれない。

僕は最初からここに居て、ずっと見ていたんだから。

先程の音は僕がメイドに花瓶を投げ付けた音。

なんでそんなことをしたのかも分からず自分の手を見詰める。

「ルーベルト様、申し訳ありません!」

メイドの顔が青褪めメイド服を握り締める手は震えていた。

「そんな、僕が花瓶を投げたのが悪いんだ。申し訳ない」

何故か頭を下げようとすると体が拒絶反応を示して下げることが出来ない。

「ルーベルト様…?」

僕が謝罪をしたことに不審に思ったのだろう。

ああ、ルーベルト・トランドラッドはそういう人物だ。

自分のことなのに他人事のように感じてしまう。

「すまない、気分が優れないようだ。一人にしてくれ」

「かしこまりました」

メイドはどこか安堵したように一礼して部屋から出て行った。


さて、僕はルーベルトであってルーベルトではない。

なんとなくそんな気がする。

では、本物のルーベルトはどこにいるんだろう?

僕がルーベルトになってしまったから消えてしまったんだろうか?だとしたら申し訳ないな…。

そう考えていると頭の中で声が響いた。

『ルーベルト・トランドラッドならここにいるさ』

「うわっ!?」

思わず声が出てしまい辺りを見回すが誰も居ない。

どうやらこの声は僕にしか聞こえないらしい。

『貴様が何故私の体を使っているかは知らぬが不快だ。さっさと私の体から出ていくがいい』

本物のルーベルトは偉そうにそう言ってくるが、出来るものならそうしている。

「そうは言っても出て行き方もどうしたらいいのかも僕には分からなくてですね……」

『ええい!私の体を使ってそのような謙った言い方をするな!』

一体どうすればいいんだよ。

ほとほと困り果てた僕にはまだ分かっていなかった。

僕がルーベルトになったことも。

市民に圧政を強いる悪逆非道な貴族、ルーベルト・トランドラッド公爵に転生していることも。


何もかもが分からないままルーベルトと話し合い、戻り方が分からない以上僕がルーベルトとして振る舞うことになった。

こんな高飛車で高貴な振る舞い、僕に出来るんだろうか?

『出来る、出来ないではない。やれ』

ルーベルトの心情は分からないのに僕の思考がルーベルトに筒抜けなのは納得いかない。

『そろそろ夕食の時間だ。仮にも私の体で粗相をするなよ?』

ルーベルトにそう釘を刺されて挑んだ夕食は拍子抜けする程に優雅に何事もなく食べ切れた。

体が覚えていたんだろうか?

『よくやったな』

偉そうなルーベルトの声も美味しい食事の後には気にならない。

「案外なんとかなるんじゃない?」

『そう楽天的でいるうちにはルーベルトとして生きていけない』

ルーベルトの声がどことなく悲しいような、寂しいように感じたのは気のせいじゃないはずだ。

「ルーベルト」

『何故こうなったかは分からんが、今日から貴様とは運命共同体だ。私の体を使って情けない真似だけはするなよ』

「……分かったよ」


とりあえず寝れば直るかもしれないと早めの就寝をしたが、メイドに起こされても僕は僕だった。

『私はメイドに起こされるなんて情けない真似はしない。朝日と共に起きろ』

ルーベルトからはそんなお小言を貰って、これから僕はどうなるのか考えただけでも憂鬱だった。

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