7 絶対に逃がさない
「あ、あの、あの人たちは……」
「ん?ああ、気にしないで。僕の影だから」
(王家の影というと諜報部員……も、もしかして私、ガイル殿下に監視されてた……?)
「エリーゼ?」
「ひっ!は、はいっ!」
ガイルに名前を呼ばれて思わず体が跳ねる。優しい初恋の王子様は、いつからこんな凄みを持つ男に変わってしまったのだろうか。普段のガイルとはまるで別人。……もしかして、最初から?
「怖がらせちゃったかな?ごめんね……」
しかし、シュンとした表情で肩を落とすガイルを前に、なんだかちょっと怖いと思う気持ちは簡単に吹き飛んだ。
「いえ!いいえっ!あの、ガイル殿下が来てくれて、嬉しかったです……」
「本当に?」
綺麗な紺碧の瞳にまっすぐに見つめられて、体中がかあっと赤くなる。恥ずかしい。とても、ガイルの顔を見られない。今でもガイルが好きだと自覚してしまったから。それでも、きちんとお礼を言わなければならない。
「助けてくれて、ありがとうございます。あんな男に口付けされるぐらいなら、死んだ方がましだと思いました。本当に、気持ち悪くて、吐きそうでした」
「そんな男でも婚約破棄はできないと言っていたのに?」
「……アルバート様にも、もう婚約は解消すると、はっきり申し上げましたわ。わたくしが間違っていました。あんな男と生涯を共にするぐらいなら、死んだ方がましです」
エリーゼの言葉にガイルは満面の笑みを浮かべる。
「偉いね、エリーゼ。良く決心したね!」
そのまま抱きしめられてよしよしと頭を撫でられるエリーゼ。
「はい。もう自分の気持ちに嘘をつくのはやめることにしました」
ポツリと呟いたエリーゼの言葉に、ガイルはうんうんと深く頷く。
「だから、殿下……私達、もう一度おとも……」
エリーゼがもう一度友達から始めよう。と口にする前に、がっと後頭部を支えて深く口付けをするガイル。
(ん、ん、んん~~~~~~~~~~~!?)
突然のできごとに目を白黒させるエリーゼ。
「おや、今何か言いかけた?ふふ。エリーゼがあまりに愛らしくて、思わず口付けてしまった。男らしく責任をとってこの場で婚約を申し込もう。お前たちが証人だ。いいな?」
いつのまにか戻ってきた影の人たちが周りを囲み、ぱちぱちと手をたたいている。