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悪役令嬢の終わりは歌  作者: 夜乃 凛
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愛してくれる人達へ

 セリアの歌を披露し終えた後は、終始和やかなムードだった。ゾルドは余裕のある表情で紅茶を楽しみ、また、彼にはユーモアがあった。そのユーモアに、セリア達の心にも余裕が生まれた。


 そして、後日。ゾルドは動いた。ミハエル・アークルに対して、である。

 まずゾルドは、アークル家が書類を改竄し、不正を行っていた事実をリークした。ストライド家とは直接の関係はないが、ミハエルに対して、貴族協会に不審さを持たせるためであった。ゾルドの読みどおり、協会はアークル家を問題視するようになった。それに、フィゲル・ブリッツが協会にアプローチしていたのも大きかった。

 一度撒いた種は、地面に張り付き根を伸ばす。それをゾルドはよくわかっていた。不審の種を撒いたのだ。狡猾なミハエルのやり方にも、隙はあった。協会はアークル家の実態について調査し、そして、ミハエルは悪であるという判断を下したのだ。


 アークル家に調査の手が介入した。地獄から伸びる手のように。

 ミハエルは焦りながら、それに反発したという。何かの間違いだと。しかし、ゾルドの情報も、協会の調査も、ミハエルが悪であることを物語っていた。


「ち、違う!! アークル家は不正などしない!!」


 ミハエルはそう叫んでいたという。しかし現実は変えられず、アークル家は没落し、ミハエルは法に問われることになったのだ。

 自分が全てに対して有利だと、人生はゲームだと、人生を甘く見ていたお坊ちゃまの末路である。そして、彼に対して救いの手を差し伸べる者はいなかった。上っ面で仲間のフリをしていた、仲の良かったはずの貴族たちも、皆、ミハエルを見殺しにした。彼は、そういう関係性しか築けなかったのである。人間と信頼を築けなかったのである。


 ストライド家は平和を取り戻した。一人娘のリーリエは、この騒動を元に、変わった。何が変わったのかというと、表面上の美しさだけではなく、内面も磨くようになったのだ。自分がいかに未熟なのかを、彼女は痛感したのだ。今までの仮面を被った自分ではなく、素の自分を誇れるような、そんな人間にありたいと願った。彼女の今の趣味は、もっぱら読書。読書をすることで、自分の未熟さを知り、内面を磨きたいと思っているからだ。

 そして彼女は、フィゲルに対しても、今までより積極的なアプローチをするようになった。恋は戦い。適切な距離感は必要だと理解しつつ、後悔の無い人生を送るために、自分に素直になっていた。


「フィゲル様、今回の件、なんとお礼を言ったら良いのかわかりません。本当に、ありがとうございました」


「気にすることはない、リーリエ。私は殆ど、何もしていないようなものだ。主として力になったのは、コーラル殿とセリア嬢だろう」


「協会に直談に行ってくださったではありませんか。何の見返りもないのに。それが、どれだけ頼もしかったことか……。私は何も返せないのに」


「私は、やるべきだと思ったからやっただけだ。それだけのことだ。こ、こら、泣くんじゃない。そうだな、では、貸しにしておこうか。いつでもいい。この貸しを返してもらおうか」


「もちろんです!」


 そんな会話を、リーリエとフィゲルはしていた。


 一方、セリアとコーラルは、フランティス家でくつろいでいた。応接室の椅子に座っているセリアとコーラル。セリアは白いワンピース。コーラルは茶色いセーター。それに、セリアの父、クロードもいる。ノイフが紅茶と茶菓子を運んでいた。


「セリア、君はいい人を選んだぞ。このコーラル殿は、なかなか器の大きいお方だ。くれぐれも大切にするようにな」


 にこにことした表情でクロードがセリアを見ている。セリアは思わず苦笑してしまった。


「私は、コーラル様を愛しています。手放すつもりなんて、ありませんわ」


 紅茶を飲みながら答えるセリア。その言葉が半分嘘であること、つきたくもない嘘だったのだが。


「セリア嬢は、僕が必ず幸せにします、クロード様。彼女は、僕に本音で接してくれたのです。この貴族社会で、相手の機嫌を取ることばかりに気が取られる者が多い中で、正直に話してくれたのです。それが、すべての始まりでした」


「バイオリンのことですね。コーラル様は本当に上達されたと思います。さて……」


 セリアは紅茶のカップをテーブルに置いた。

 彼女の頭の中で、声が響いている。

 藍。


「すみません、お父様、コーラル様と二人きりになってもいいですか?」


「構わないとも。お邪魔だったかな。二人でくつろぐといい」


 クロードは椅子から立ち上がろうとした。


「あ、私達が場所を移します。それと、お父様、伝えてほしいことがあるのですが」


「なんだい?」


「愛しています」


 セリアは微笑しながらいった。


「まったく、我が娘は、なんでこんなに良い子なのか……嬉しいよ。本当に嬉しい。セリア、私も君のことを愛しているよ」



「ありがとうございます、お父様。それと、ノイフ」


 セリアは机の側に立っているノイフの方を見た。


「何でしょうか、セリア様?」


「あなたの優しさは、人間を幸せにします。今まで、本当に尽くしてくれて、ありがとう。貴女には、いくら感謝しても足りないくらいだわ」


「唐突ですね、セリア様。私はこう見えて、まだ動けますからね。この体が動くうちは、セリア様のお世話を精一杯させていただきます。感謝など、しなくても良いのです。私はセリア様の侍女なのですから」


「ありがとう、ノイフ。さて、コーラル様、行きましょうか」


 セリアは立ち上がった。コーラルも立ち上がる。

 部屋の出口へと向かうセリア。出口の近くで、一度クロードとノイフの方を振り返った。

 さようなら。

 ありがとうございました。

 セリアは感謝の気持ちを胸に、そして、涙を流さないように努めていた。

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