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悪役令嬢の終わりは歌  作者: 夜乃 凛
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その歌が心を動かしうるか

 ストライド家より届いた手紙を読み、早くもコーラルとセリアは、馬車でストライド家へと向かっていた。手紙の内容によると、ベインス家とフランティス家の援助を願いたいこと、そして現在ストライド家にはブリッツ家が味方してくれているとのことだった。

 揺れる馬車。あまり心地よくない振動に身を委ねながら、セリアは座っていた。隣にコーラルもいる。


「コーラル様、なんとかなるでしょうか?」


「今の所……わからないというのが正直な所ですね。ただ……正義はストライド家にあるように思えます。他人の家を弱らせて、領地を奪う。それはハイエナのすることです。ミハエル・アークルらしいと言えます」


「私達で、対抗できるでしょうか。いや、しなければなりませんね。見捨るわけにはいけない……」


「ブリッツ家も協力しているとのことです。状況は決して最悪なわけではありません。フィゲル殿と共に戦うことになるとは思いませんでしたが。少し、心配です」


「心配?」


「貴女の心が離れていってしまうのが、少しだけ怖いだけです。忘れてください。男らしくない言葉でした」


「コーラル様……その、私はフィゲル様の事が好きでした。軽率な女だと思われるでしょうが……今は、貴方と共にありたいと思っています。フィゲル様に未練はありません」


「セリア嬢……」


 狭い馬車の中で見つめ合う二人。どちらともなくキスをするのは、自然な流れだった。

 夢心地。セリアの心を表す言葉は、それが相応しかった。

 馬車は、灰色の空の見える、淀んだ大地を駆けている。


 セリアとコーラルはストライド家に到着した。既に家の門の前に、ストライド家の使用人が二人おり、一人はセリア達の姿を見るや、すぐに家の中へと姿を消した。もう一人の使用人は、馬車に近づいてきた。白と黒のメイド服を着ている。


「お待ちしておりました。コーラル様、セリア様、ご足労感謝いたします。中でリーリエお嬢様がお待ちです。ご案内いたします」


 そう言って、使用人は人形のように振り返り、ストライド家の中へと向かっていった。

 上を見上げるセリア。立派な家だと感じる。天候にも負けないほどの、綺麗な白い家。

 家を失うというのは、どんな気持ちなのだろう。リーリエの気持ちを想像しようとしたが、経験が足りない彼女には、リーリエの心情を察することは出来なかった。


 家の中に入ったセリアとコーラル。二人で並んで、使用人の後を歩く。

 セリアは白いワンピース、コーラルは黒い礼服だった。

 T字路の廊下が見えた。正面に大きな扉が見える。使用人は、そのドアを割と大きな音を立てさせてノックした。

 ドアが開く。中から現れたのは、リーリエだった。

 一瞬セリアを見て、目をそらしてしまったリーリエ。しかし、力強く、もう一度セリアの方を見た。


「お待ちしておりました。この度、ご足労本当にありがとうございます。中へ入ってください」


 頭を下げたリーリエ。本音も私情もどうだっていい。家族を救いたい。家族を救えるのは、周りの仲間と、自分だけなのだから。

 セリアはその様子を見ていて思った。何か、違う。何か、リーリエが変わったように思えたのだ。


「失礼します」


 中へ入るコーラル。後を追うセリア。二人を連れてきた使用人は廊下の左側を歩いていき、どこかへ去った。


 部屋の中に入ると、長テーブルが置いてあった。そして、右側に並んだ椅子の列の一つに、フィゲルが座っていた。足を組んでいる。彼の視線はコーラルとセリアを捉えた。


「こちらへお掛けください」


 リーリエが、フィゲルの反対側の席へと、コーラルとセリアを促した。椅子を引くリーリエ。

 コーラルとセリアは椅子に座り、フィゲルの正面にくる形となった。そしてリーリエは、フィゲルの隣りに座った。

 四人以外に、部屋の中に人はいない。リーリエの両親もいない。


「フィゲル殿、お久しぶりですね」


「そうだな、コーラル殿。しかし、今回は雑談をしてもいられない。今、この部屋にいる四人……それが、ミハエルに対抗するための駒だ。しかし、この四つの駒では、勝てるかどうかはわからないだろう。五つ目の駒が必要だ」


「味方を増やすということですか?」


 セリアはうっすらとした瞳で問いかけた。


「そうだ。ゾルド・マキシムを味方に引き入れなければならない。この国に、ゾルド以上に情報に通じているものはいない。それに、人を動かすだけの力がある」


「味方を増やすというのは賛成です。しかし、ゾルド氏が協力してくれるでしょうか?何かを頼むには、相手に何かを与えなければなりません。提供できる何かが、絶対に必要です。そうでなければゾルド氏は動かないと考えます」


 考えながら話すコーラル。顎に手を当てている。


「そうだ。そして、提供できる何かは、ある。ゾルドは芸術に熱心で、それを生きがいにすらしている。だから、セリア嬢の力が必要なのだ」


「私、ですか?」


「そう。セリア嬢に歌唱を披露してもらうのだ。直に聞いたからわかる。セリア嬢の歌唱力は、素晴らしいなどという陳腐な言葉では表せない。天才だ。ゾルドの心もきっと動くはずだ。悪い賭けではない。いや、賭けにすらなっていない。失敗しても、こちらに失うものはないのだから」

 

 使用人が四人分の紅茶をトレイに乗せ、部屋と入ってきた。セリアとコーラルは、軽く頭を下げた。

 セリアの胸中は複雑だった。味方を増やさなければならないのはわかる。しかし、その味方を増やす方法が、自分の力に委ねられている。それが、セリアに緊張をもたらした。

 だが彼女は切り替えも速い。フィゲルの話も理解出来る。そして、目の前にいる、悲劇のリーリエを前にして、後退するわけにはいかなかった。


「やります」

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