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悪役令嬢の終わりは歌  作者: 夜乃 凛
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ミハエル・アークル

「な、何故ですか!?何かの間違いではないのですか!?」


「本当のことだ。アークル公爵家は知っているな?ミハエル・アークルの、アークル家に私達の領地は接収されてしまう。やられたよ。ミハエルにだけは、隙を見せてはいけなかったのに……」


「何か、失敗をしてしまったのですか?」


「農作の問題だ。近年、我が家では不作が続いていたが、それはたまたまだと思っていたんだ。しかし、ストライド家に対して、必要な物資をアークル家が買い占めていたんだ。証拠は、無い。だが、アークル家が我が家に対して、計算して行った行動に違いないと、私は思っている。気づいてみれば、明らかに不自然だった。このまま年を越せば、ストライド家の者たちは、路頭に迷う」


「何か解決の策はないのですか?アークル家の管理下に入るなど……」


「……ミハエル・アークルは、一つの要求を叩きつけてきた」


「それは?」


「それは……」


「言ってください」


「リーリエ、君をミハエルのために差し出せと言ってきたのだ」


「な……!?」


「ミハエルと結婚しろということだ。そうすれば、ストライド家に悪いことはしないと」


「そんな!私は、フィゲル様のことが……そんな……」


「どうしようもないんだ。リーリエ、家のために嫁いではくれないか」


「出来ません!私は、私は……」


「今すぐにではない。考えておいてくれ。リーリエ、お前を愛しているよ」


 父親はそう言った。母親は俯いている。リーリエは絶望の中にいた。彼女は、フィゲルと結ばれたい一心だったからだ。

 順調だったのに。それが、家の運命に流されてしまうなんて。今まで、なんのために仮面を作って振る舞ってきたのか。意味は、無かったのか。

 無意味だったのか。彼女は、暗い暗い闇の底にいた。



「ストライド家が、アークル家に接収される?」


フランティス家の一室。セリアは一人で紅茶を飲んでいた。一人といっても、飲んでいるのがセリアだけで、部屋にはノイフもいた。


「そうです。アークル家は、ストライド家を狙っていたようです。慎重な根回しの元、ストライド家が弱るのを計算していたようです」


 ノイフがカップに紅茶を注ぎながら語っている。


「ストライド伯爵家は、そんなに弱っていたの?」


「昔はそうではなかったようです。しかし今は、アークル家の掌の上で踊らされているようです」


「リーリエは?」


「なんでも、ミハエル・アークルに婚約を迫られているようです」


「ミハエル……」


 セリアは記憶を辿った。確かに、ミハエル・アークルという男の記憶がセリアにはあった。

 ミハエル。細身で、肩まで伸びた銀の髪。顔の作りは、まるで人形かのように整っている。若くして、アークル家の主。

 少し身震いしたセリア。ミハエルは善人などではない。かつてのセリアと息が合うような、悪人であった。その恐ろしい笑顔が脳裏に浮かんだ。リーリエも、勿論善人と言い切れるかというと、そうでもない。しかし、ミハエルに比べれば、リーリエはまったくの善人だ。リーリエは仮面を被って人と接しているだけである。人に対してどういう行動、言動を取るのかが重要であって、心の中が暗黒でも、振る舞いが全てなのだ。


「可哀想ね……」


 セリアは呟いた。カップへと手を伸ばす。温かい紅茶。

 そんな不幸な知らせとは対照的に、セリアの生活は順調だった。コーラルとの交際が決まり、彼と言葉を交わす機会が多くなったのだから。人に愛され、また、人を愛することを謳歌することが出来る。

 しかし、知らせを聞いたセリアは、リーリエのことが頭から離れなかった。

 コンテストを思い出す。決勝を戦った二人。セリアはリーリエのことがあまり好きではなかったが、不幸な知らせには胸が痛む。リーリエは、フィゲルと結婚したいと思っているはずだ。

 貴族社会の闇。そう言い切ってしまうのが、いいかもしれない。しかし、セリアは今ひとつ納得がいかなかった。また、フィゲルがどう思っているのかも気になった。


「ノイフ、今日はコーラル様と会ってくるわ」


「かしこまりました。どうか粗相の無いように」


「わかっているわよ」


 セリア苦笑した。悪女で、マナーもなっていなかったのだから、仕方ない。


 そして彼女は今、ベインス家の庭にいた。隣には、茶髪も体型もさらりとしたコーラルが笑顔で立っている。そして、庭の植物の説明をしていた。


「その植物は、一定条件下でしか、育つことはないんです。綺麗な緑でしょう?しかし手入れを怠れば、灰色の葉はへと姿を変えます」


 植物を見つめているコーラル。彼は、植物の事にとても詳しかった。植物が好きらしいのだ。穏やかな趣味がコーラスらしいなと、セリアは思った。


「あ、失礼。説明に夢中になっていまいました。セリア嬢、興味がなければ遠慮なく言ってください」


「いえ、興味深いです。続けてください」


 本当のことだった。セリアはなんだか、嬉しかったのだ。目の前で趣味を語るコーラルの側にいるだけで、表情を見ているだけで、幸せだったのだ。こんなに幸せでいいのかすら迷った。


「ではこの薔薇のことですが……」


 コーラルは語り始める。それをセリアは笑顔で見守った。二人の間を邪魔する者は、誰もいなかった。

 しかし、セリアがコーラルの元を訪れたのは、愛情を享受するだけが理由ではなかった。

 ミハエル・アークル。リーリエ・ストライド。この二人について、コーラルと話したいことがあったからだ。余計なおせっかいかもしれないセリアの思想。だが、リーリエの境遇を知った彼女の、考えのある行動である。

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