棒で頭を叩かれたのような衝撃
コンテストは完全に終わりとなった。会場に来賓した貴族たちも自分たちの家に戻り、会場には、残された食事と、それを片付けるボルドー家のメイド達の姿が見えるだけだった。
セリアとコーラルも会場で分かれ、各々の家へと戻った。二人の顔には、幸せな表情が漂っていた。
いい日だった。セリアは家へと帰る馬車の中でそう思った。隣にノイフとソイルが座っている。
「そういうことがあったのよ」
セリアは笑顔でコーラルとの話をしていた。ノイフとソイルは驚いている。
「フィゲル様はどうなったんですか?」
ソイルが、極めて納得いかないというような、険しい顔でいった。
「フィゲル様はもう、関係ありません。私が好きなのは、コーラル様です」
「それはないんじゃないですか〜?」
「何か問題でも?」
「だって、あんなにフィゲル様が好きだって、言っていたじゃないですか!それを、相手をころころ変えるなんて……」
「好きなものは好きです。ソイルの言うことも正しいとわかります。しかし、好きになっちゃったら負けなのよ」
「まあ、そうですけど。どうしてコーラル様なんですか?何故?」
「何故……?」
「もしかして、理由もないのに好きになったんですか?」
「理由……?」
「セリア様ぁ!!」
「優しいところ、かもしれないわ。男らしい所もあるし……。それに、なんだか守ってあげたくなるのよね」
「守ってもらう、ではなくて?」
「そう。守ってあげたいの。コーラル様は本当にピュアだわ。だから、性格の悪い女が近づかないように、私が側にいないと」
「あなたが言うことですか?」
「ソイル?」
セリアは笑顔でソイルを見た。反論を許さぬ笑顔。ソイルは、お手上げのポーズを取った。
そして、ノイフがごほんと咳払いをした。
「セリア様にも厳しくする時が来たようですね」
「何を厳しくするの、ノイフ?」
「コーラル様は公爵家の人間であられます。そのコーラル様とお付き合いする以上、セリア様はそれ相応の振る舞いをしなければなりません。これからは特訓することになりますね。あの作法も、いや、あの作法も……」
「ノ、ノイフ、何をぶつぶつ言っているの?」
「セリア様の将来のためです」
「恐怖しか感じないのだけれど……」
セリアは身震いした。そして、後日、ノイフによる教育が徹底的に行われることを、馬車の中のセリアは知らなかった。
セリアとコーラルの間に恋、もしくは愛が生まれている中、リーリエ・ストライドは家へと帰っていた。物凄く落ち込んだ気持ちだったが、仮面は外せない。優等生の仮面を外すわけにはいかないのだ。
彼女は、凛とした態度で、ストライド家へと戻った。それを待ち受けていたのは、険しい表情の父親と母親だった。リーリエは両親の表情に、違和感のようなものを感じたが、コンテストの成果を発表することにした。
「お父様、お母様、戻りました。私、コンテストで優勝したんです。これも、お父様とお母様のおかげです」
笑顔を見せるリーリエ。しかし、両親の表情は険しいまま変わらない。
「リーリエ、そこに座りなさい」
リーリエの父は、部屋に置かれた椅子に視線を向けていた。コンテストの優勝の話に、触れもしない。なにかただならぬものを感じたリーリエは、素直に椅子に座った。
「何か、あったのですか?」
問うリーリエ。俯く母親。ため息をつく父親。一息ついて、父親は言った。
「ストライド家の領地が、接収されることになった」




