表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の終わりは歌  作者: 夜乃 凛
[Blank]

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/45

感情は誤魔化せない

 パトリドに対するお詫び、詫びる必要などなかったのが、セリアは謝った。そして、パトリドとの再会を楽しみにしつつ、その場を去った。コーラルを探すためである。

 思い出す。完全に勝負のついたコンテストで、観客票を真っ先に入れてくれたコーラルを。あの、迷いなく上に伸ばされたしなやかな挙手。あの光景がセリアの脳裏に刻まれていた。

 コーラルを探すセリアは迷っていた。コーラルに会って、自分は何を話そうとしているのだろうかと。そもそも、票を入れてくれたとはいえ、すぐに探しに行く道理もないはずだ。

 彼女は思った。自分は、何を考えているのだろう?コーラルと何を話そうとしているのだろう?

 その答えは、なかなか出なかった。しかし、一つの結論が出た。

 会いたいのだ。コーラルに会いたいのだ。彼女はそのことに気が付き、少し頬を赤らめた。

 セリア・フランティスが好きなのは、フィゲル・ブリッツだったのだろう。だがしかし、それは昔の話だ。転生したセリアが気になっているのは、いや、好きなのは、コーラル・ベインスなのだと認める時が来たのだ。

 なんで好きなのか、セリアにはわからなかった。コーラルの向けてくれる優しさに惹かれたのか、あの茶髪のよく似合う笑顔に惹かれたのか。会って確かめてみたかった。


 だが、セリアは奥手だった。前世ではろくに恋愛もしたことがない。この世界で恋愛など出来るのだろうかという不安がつきまとう。コーラルはセリアの事を好きだと言ってくれた。だがそれは、悪女だった頃のセリアに向けての感情だ。

 自分は、転生してきた人間なのだ。だから、本当のセリア・フランティスではないのだ。それが、どうしようもなくコーラルを騙しているようで、申し訳ない思いに駆られた。


 自信を持てずに会場を歩いているセリアを見つけたのは、コーラルの方だった。彼は話をしていた貴族に何かを言い、セリアの元へと駆け寄った。

 セリアは緊張。別に、話をするだけなのに。それなのに。


「セリア嬢、見事な振る舞いでした。とても美しかったです。貴女の考えていることはわかります。ドレスが汚れていた、でしょう?僕は、それでも貴女のことを美しいと思いました。あのドレスには、他の服とは違う何かがある。僕はそう思います。あ、いや、ドレスの事ばかり言っていますが、セリア嬢の容姿も勿論、美しかったです」


 慌てているコーラル。その様子を見て、セリアはくすりと笑ってしまった。何をそんなに慌てることがあるだろうか。コーラルは小動物っぽい所があるな、と彼女は思った。


「ありがとうございます、コーラル様。その、私、嬉しかったんです」


「何がですか?」


「貴方は、観客票を決める際に、真っ先に手を挙げてくれました。壇上にいる私が、それにどれほど緊張を解いてもらったことか」


「好きな人を応援するのは、当たり前のことではないのですか?」


 首を傾げるコーラル。

 セリアは心の中で呟いた。たらしだ。コーラルは天然のたらしだ。


「あ、あなたの好意には応えられません」


 顔を背けるセリア。否定してしまう。自分の気持ちくらい、わかっているはずなのに。


「いつか必ず。おや」


 コーラルが眉をひそめた。彼らの元に、フィゲル・ブリッツが歩いてきたからである。数人の貴族が共にいる。話でもしていたのだろう。


「セリア嬢、お見事だった」


 やや上から目線のフィゲルの言葉だった。しかし、彼はセリアに票をくれたのだ。


「ありがとうございます。フィゲル様」


 丁寧に頭を下げるセリア。


「本心だ。汚れたドレスでよくぞ戦った。信念を感じた。リーリエ嬢も美しかったが、その……誇りを感じたのだ。貴女に」


 無表情で語るフィゲル。その態度にセリアは驚愕した。フィゲルの物腰が、とても柔らかくなっていたからである。その上、自分を褒めてくれている。

 フィゲルの美しき金髪の碧眼。誰もが一目惚れするような容姿の持ち主。転生する前のセリアが惚れてしまうのも、無理はないな、とセリアは思った。

 一方、面白くなさそうな表情をしていたのはコーラルである。彼は、フィゲルに勝てないと言っていた。それだけ、フィゲルの能力を評価しているということでもある。

 拳を握るコーラル。彼の目には、セリアとフィゲルの間に花が咲いているように見えていた。


「セリア嬢、私はこれで失礼します」


 そっけなくコーラルがいった。


「え、何か用事ですか?私はコーラル様ともっと話すことが」


「フィゲル様と話が出来るでしょう。私はここから去ります」


「行かないで!!」


 セリアは少し大声になってしまった。そして、何をやっているのだと、自分を責めた。コーラルに行ってほしくなかったのだ。


「その、行かないでください。私はまだ話がしたいのです。ダメ、でしょうか……?」


 身長差の故、上目遣いでコーラルを見つめるセリア。コーラルはその瞳に吸い込まれそうだった。鼓動が高鳴りそうだった。

 彼は思った。そう、フィゲルにも負けるつもりはないと。自分が一目惚れしたセリアだけは譲れないと。


「セリア嬢……嬉しいです。話したいのは僕も同じです。いいですか?」


「はい」


 見つめ合うセリアとコーラル。それを見ていたフィゲルは、まったくの無表情だった。そして、その無表情の裏に、もやもやとした気持ちがあった。フィゲルはその感情を無視した。しかし、感情は残る。その感情は、嫉妬と呼ばれるものなのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ