革命の日のウィンク
コンテストは静かに終わった。だが、それでお開きとはならなかった。当然である。祭りの後も、また祭りだ。コンテストに出場した令嬢たちは、客席で見ていた貴族たちと話をするのである。この時、酒も解禁となる。
会場の中で、葡萄酒を飲む貴族たち。負けた令嬢達を慰めてくれる者もいて、コンテストに敗れ去り意気消沈していた令嬢も、出場して良かったと思えた。
セリアも壇上から降りてきており、決勝まで残ったセリアへと話しかけてくる貴族が後を立たない。だがしかし、彼女にはやることがあったので、貴族たちとの会話は冷たくあしらった。セリアはノイフとソイルに合流する前に、パトリドの姿を探していたのだ。それに、コーラルとフィゲルの姿も。壇上から発見したパトリドを探し出すのは、容易いことだった。彼もセリアに気づき、早足でセリアの元へと向かってきた。
「ごめんなさい、パトリド様。負けてしまいました。それに、ドレスを紅茶で汚してしまいました。本当に、なんと詫びればいいのか……」
「セリア様、顔を上げてください。私は、今、生きてきてよかったと思っています」
「大事なドレスを、あんな形で披露されたのに?」
「そうです。私には、感謝の念しかありません。もう私の人生は終わってしまったのかと、もう私に冒険は残されていないのかと、もう私は孤独のままなのだと。しかし、それは違いました。セリア様が私のドレスを着て、しかもそれを貫き通してくれた。私は、もう服を作れないと思っていました。しかし今は違います。もう一度だけ、出来ないかもしれませんが、服を作ってみたいと思えるのです」
パトリドの表情は真剣だった。そして、目には力がみなぎっていた。
彼の人生の灯火は消えつつあったのだ。数多の努力という名の服を作り続けていたパトリドの生きる気力は、日に日に弱くなっていた。だが、この日、彼の人生に革命が起こったのだ。それを起こしたのは、他ならぬ、セリア・フランティスである。
「私は何もしていません。ドレスに助けられただけです。ただ、パトリド様がまた服を作る気になってくれたのは、素直に嬉しいことです。もしかしたら、またパトリド様からドレスを買わせて頂く日が来るかもしれませんね」
「その時は、セリア様、全身全霊をもって、セリア様の服を作ってご覧に入れます」
「ありがとうございます。ただ私は、好みにはうるさいですよ?」
セリアは、パトリドにウィンクしてみせた。




