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悪役令嬢の終わりは歌  作者: 夜乃 凛
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20/45

所作

 セリアを取り囲む貴族たちは、圧倒された驚愕から解放され、セリアをべた褒めしていた。セリアは恥ずかしそうにはにかみ、コーラルは笑顔でそれを見守っていた。

 コーラル、彼は内心、とても嬉しかった。セリアが周りと馴染んでくれていることが、とても嬉しかったのだ。

 セリアに一目惚れをしたコーラル。しかし、彼女が悪女であることもわかっていた。振る舞いが過激であることもわかっていた。

 それが今、にこやかに周りと溶け込んでいる。その姿を見るのが、幸せだった。


 笑っているセリアの元へ、金髪の美しい青年が向かってきた。フィゲル・ブリッツである。

 接近するフィゲルを視界に捉えるセリア。一方、敵意を見せるような表情のコーラル。


「セリア嬢、大した腕前だな」


「フィゲル様にそう言われるとは、とても光栄ですわ」


「最近は、態度が大人しくなったと噂で聞いた。セリア嬢なら、コンテストの決勝まで上がれるかもしれないな。歌の力とは凄いものだ」


 フィゲルは肩をすくめながら言った。そこに、コーラルが割り込んだ。


「フィゲル殿、セリア嬢は元々、コンテストに勝てる器です。散々セリア嬢に冷たく当たっておいて、よくそんな事が言えますね」


「コーラル・ベインス殿か。事実を言ったまでのことだ。思ったことを言っただけ。それに、今はどうかは知らないが、セリア嬢の性格はとにかく悪かった」


 言い切ったフィゲル。

 フィゲルとコーラルの間に、冷たい沈黙が吹いた。周りの貴族たちも、ただならぬ雰囲気を感じ取って、静かになっている。


「公の場で、セリア嬢の性格が悪いと言うなど、何様のつもりですか?周りへの影響を考えてください。ブリッツ家の発言力を考えれば、到底考えられない発言です。いや、家柄も関係なく、失礼な行為です」


「事実を言ったまでだと言ったはずだが。私はセリア嬢の容姿と歌は認めている。しかし、性格が悪くてはな」


「あなたはセリア嬢のことを何も知らない」


 コーラルは険しい表情になっていた。彼らしくない、喧嘩をするような顔だった。

 そんな二人のやり取りを見ていて、セリアは思った。

 コーラルには喧嘩なんて相応しくない。笑顔でいてほしい。自分のことなんてどうでもいいから、コーラルらしくあって欲しかった。


「コーラル様、いいんです。私は性格が悪いんです。今までの悪行を考えれば、当然のこと。だから……私のことなんて気にしないで、いつも通りの優しいコーラル様に戻ってください。貴方には、怒りより笑顔が似合います。貴方が庇ってくれて、私はとても嬉しいです。本当に、それだけで十分なんです」


「セリア嬢……」


 コーラルはゆっくりとセリアの方を見た。セリアは、とても心配しているような表情をしている。

 確かに、自分らしくもなく、敵意をフィゲルの方に向けてしまった。反省すべき点だ。

 そして、嬉しかった。セリアがコーラルのことを、優しいと言ってくれたこと。笑顔が似合うと言ってくれたこと。その言葉を聞いたら、もう笑顔になるしかないじゃないかと、彼は肩をすくめた。


「フィゲル殿、多少熱くなってしまいました。失礼しました。僕に出来るのは、セリア嬢を応援することだけでした。喧嘩腰になってしまって申し訳ない」


 コーラルは深く頭を下げた。セリアは、彼のその態度にとても好感が持てた。

 いつもそうなのだ。相手に深く頭を下げるという行為は、誰にも出来るものではない。相手を尊重し、また、自らを省みることで起こる行為。それを、コーラルはすることが出来る。


「気にしていない。セリア嬢の健闘を祈る」


 フィゲルはぶっきらぼうに言った。コーラルの様に、謝ったりはしない。それを見ていてセリアは、天秤を心のなかに描いてしまっていた。

 フィゲルとコーラル。天秤の傾きは……。

 そんな事を思っている間に、フィゲルは颯爽とその場を立ち去っていった。数人の貴族がそれを追いかける。フィゲル・ブリッツと話がしたいということだろう。


「コーラル様、庇ってくれて、本当にありがとうございます」


 セリアはコーラルに深々と頭を下げた。彼がフィゲルにそうしたように。


「僕が自分の気持ちにしたがって行動しただけです。そう、本当に。好きな人を馬鹿にされて、黙っている男がいますか?」


「それは、その」


「困らせたくはないので、深追いはしませんが」


「今は、その、気持ちだけ……ありがとうございます」


 セリアはそう言った。『今は』と言った。


「どういたしまして。さあ、そのドレスをもっと披露なされたほうが良いと思います。その質素で美しいドレスを。貴女はきっと勝ち抜けるはずです」


「……はい!」


 セリアとコーラルは笑顔でお互いの顔を見つめていた。

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