表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の終わりは歌  作者: 夜乃 凛
[Blank]

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/45

人前でそのような事を言うんじゃない

 パーティー会場は、さほど広い空間ではなかった。とはいえ、狭いわけでもない。一般的な貴族のパーティーと言えるだろう。

 セリアは参加者達の後ろからついていく形で、ゆっくりと歩いた。周りの態度が気になったからである。

 参加者の美しい女性たちは、パーティー会場に入るなり、すぐに集まっている貴族たちの元へと、にこやかな笑顔で歩み寄った。票を手に入れようとしているのが、透けて見える。

 リーリエもまた同様に、会場の者たちを観察していた。その中に、一際異彩を放つ男性の姿が見えた。

 フィゲル・ブリッツである。セリアが恋い焦がれた相手、金髪に白い礼服、その礼服に繋がれた金色のアクセサリには、一点の嫌味もない。


 リーリエは笑顔でフィゲルの元へ向かった。そして、周りの貴族たちは、フィゲルとリーリエの方を見ていた。二人の仲の良さは、貴族たちによく知られているところだ。リーリエは嬉々として、フィゲルに話しかけた。


「フィゲル様!まさかいらっしゃるとは思いませんでした」


「このような催しに興味はないが、どうしてもと頼まれたものでな」


「ふふ、フィゲル様らしいですね。しっかりと義理を守るのも、男らしいと思います。あ、すみません、私、男らしいなどと……」


 俯くリーリエ。相手を上げ、自分は謙虚に。隙のない振る舞い。


「構わん。コンテストは、観客からの票も換算されるらしいな」


「よくご存知ですね。そうなんです。だから私、とても不安で……誰も票を入れてくださらなかったら、どうしようかと、怖くて……あ、ごめんなさい。怖くなんてありません。少し、自信を無くしていました……私は大丈夫です。両親のためにも、精一杯頑張ります」


 笑顔でリーリエは両手を握った。その笑顔は美しかった。


「健闘を祈る」


「ありがとうございます」


「ところで、セリア・フランティスは来ているのか?」


「え?」


「セリアは出場者なのか?」


「何故、フィゲル様がセリア様のことをお気にされるのです?」


「セリア・フランティスは悪女だと思っていたが……もしかしたら、私の認識が間違っている可能性があるのかもしれないと思ってな」


 フィゲルは無表情で語っている。一方、リーリエの顔つきは凍っていた。彼女には健闘を祈る、という言葉だけ。そして、セリアを探しているフィゲルがいるという現実。おそらく、この前の歌唱力が、何か関係しているのであろう。

 だが、リーリエは焦らない。この程度で仮面を崩すようでは、リーリエ・ストライドを名乗れない。


「セリア様も参加なさっていますわ。やはり、美しい方ですね」


「容姿と声は美しいがな」


 フィゲルは呟いた。リーリエは心の中でガッツポーズ。

 『容姿と声』は美しい。つまり、他はてんで駄目だということだ。

 焦ることはない。フィゲルと一番仲が良いのは、自分なのだとリーリエは自分に言い聞かせた。


 そんな他愛もない話を二人がしている一方、セリアは周りを見回しながら、話が出来る貴族を探していた。会場には、ノイフとソイルもいるはずだ。最悪、二人と話して時間を潰すしか無い。

 だが、そのプランは打ち砕かれた。セリアに話しかけてくる貴族がいたためだ。その貴族があまりにも美形で、そして知っている人物だったためだ。


「ごきげんよう、セリア嬢」


「こ、コーラル様!?」


 不意打ちに、セリアも驚いてしまった。そう、先日に音楽会を開いた、コーラル・ベインスがパーティー会場にいたためである。

 戸惑うセリア。話せる相手がいるのは嬉しい。嬉しいが、相手はセリアに対して、恋愛感情を持っているのだ。そして、それをまんざらでもないと感じているセリアがいた。

 気になる点が一つ。セリアの選んだ、パトリドの白いドレスは、どう見えるか。そこが気になった。


「まさかコーラル様がいらっしゃるとは……」


「驚かせましたね、セリア嬢。美しさを決めるコンテストとあれば、貴女はきっと出場するだろうと思ったのです。しかし、そのドレスは美しいですね。貴女より美しいかもしれない」


 コーラルは微笑した。その言葉に、セリアは感心してしまった。

 彼、コーラルは、悪女であるセリアを好きになってしまうくらいには、見る目がない人物だと言えるが、物を見る目は確かなようだ。パトリドのドレスの良さを見抜いている。それが、なんだか嬉しくて、セリアは心から笑顔になった。


「ありがとうございます。このドレスは、大切な品物なんです。このドレスが私の武器ですわ」


「貴女ならきっと勝てるでしょう。僕は貴女を応援します。どうか、ご健闘を」


 コーラルは深々とお辞儀した。家柄ではコーラルの方が上なのに、彼はセリアを壊れやすい宝石のように扱う。

 そんなコーラルとセリアの会話を見ていた貴族たちが、二人に話しかけてきた。


「お二人は、仲がよろしいのですか?」


「仲……えーと、そうですね……悪くはないですわ」


 セリアがぎこちなく答えた。


「僕はセリア嬢のことが大好きです」


 コーラルはさらりと言った。周りの貴族たちがざわめく。

 セリアは、馬鹿じゃないのか!と思った。いや、嬉しい、嬉しいのだが、そんな簡単に、公の場で好きと言われても困る。困るじゃないか。

 頬が赤くなるセリア。何も言えない。

 周りの貴族たちは、セリアの様子を見て、納得したような顔で頷いていた。


「ほう、ほう……まさか悪女と名高いセリア嬢と、コーラル様が」


 貴族たちは楽しそうに話し込んでいる。違うんだ。違うんだ。

 コーラルもニコニコしている。天然なのか、計算高いのか、わからない。だがしかし、少し、男らしいかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ