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悪役令嬢の終わりは歌  作者: 夜乃 凛
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揺れる水面の雷撃

 セリア達の馬車はゆっくりと進み、ボルドー伯爵家へと辿り着いた。

 背の低い柵に囲まれた、大きな建物が見える。灰色の煉瓦作りのようで、外から見ただけでも、中は広いのだろうと簡単に想像がついた。


 馬車からセリアが一番先に、地面に降り立った。着ているのは白いドレス。パトリドの服だ。ノイフ、ソイルと続く。

 コンテストは、決勝に進む前に、予選がある。決勝は一対一だが、予選は選ばれた出場者が一人ずつ貴族たちの目にさらされ、審査員の評価で決勝への出場者が決められる。

 その際、出場者は発言することを許されない。つまり、セリアの一つの武器である歌は、完全に封じられてしまうことになる。容姿だけで戦わなければならない。だが、セリアにはそれでも強力な武器があった。


「パトリドさんに感謝しなきゃね」


 白いドレスを握ったセリア。パトリドのドレスが、最強の武器。


 セリア達はボルドー伯爵家に足を踏み入れた。途中、監視するように家の前で待機していたボルドー家の者がいたが、セリアが招待状を見せると、頭を深く下げ、セリア達を通した。


 家の中に入るセリア達。美しい家だ。どうぞ歩いてください、というような絨毯は、とても柔らかい。窓ガラスの枠は金色で、外の明るい景色と相まって、ぴかぴかと輝いていた。

 廊下を歩くセリア達。


「私は出場者だから、多分ノイフとソイルとは別行動になるだろうけど、見守っていてね」


「もちろんです。セリア様の勝利をお祈りしております」


 頭を下げるノイフ。ソイルはそわそわとしている。


「ソイル、何か?」


「ええと……その、勝ってくださいね」


「嫌いな相手に、そんなこと言う?」


「言わないでしょうね」


 セリアとソイルは大笑いした。そんなやり取りを二人は楽しんでいた。


 そして、想像通り、セリアは出場者の集まる部屋と通された。ノイフとソイルとはそこで別れ、セリアは出場者のひしめく部屋に入ることになった。

 部屋にはもうすでに、多くの出場者達が集っていた。美しいドレスを身にまとった出場者達。その者たちは、笑顔で談笑をしていた。

 それを見ていたセリアは、ため息をついた。どうせ、自分のほうが美しいと思っているのに、よく談笑出来るものだな、と呆れていた。貴族の社会とはこういうものなのか。


 周りと一切話さず、また、誰からも話しかけられなかったセリアは、ソファにふてぶてしく座っていた。談笑など、もってのほかである。

 そんな中、セリアに話しかけてくる人物がいた。その人物は、リーリエ・ストライドであった。


「あら、セリア様ではありませんか!貴女の美貌なら、それは、出場者になるでしょうね……セリア様とご一緒だなんて、とても光栄です」


 笑顔で語るリーリエ。セリアは無表情でそれを見つめていた。

 透けて見える。自分が美しいと慢心しているリーリエが透けて見える。だが、それをセリアは口には出さなかった。


「私もリーリエ嬢と一緒で嬉しいわ」


 微笑むセリア。それが、リーリエを苛立たせた。

 最近、リーリエの挑発に、セリアは乗ってこない。以前は丁寧に接すれば、馬鹿にしているのかと怒っていたセリアだったのに、今のセリアはリーリエの言葉を軽々しく受け流す。リーリエに対して余裕があるのだ。フィゲルにも関心が無いように思える。


「セリア様が相手だなんて、私は負けたようなものです」


 思ってもいない事を、平気で口にするリーリエ。笑顔の仮面を被っている。

 セリアはそれを見抜けたので、挑発してみることにした。


「じゃあ棄権されてはいかがかしら?」


「え?」


「負けたようなものなのでしょう?ならば、恥をかく前に棄権しては、という提案です」


 笑顔のセリア。悪女で名が通っているので、鋭い言葉を口にしても、いつものことだと流されるという読みの上だった。

 周りの貴族たちは、二人の不穏な雰囲気を感じ取っていた。ヒソヒソ声で、話し合っている。


「た、確かにセリア様に勝てるとは思えません。しかし、両親も私のことを応援してくださっているものですから……棄権するわけにはいきません」


「口が回るわね。負けたようなものと言いつつ、勝利を望んでいるわけだけれど」


 薄目でセリアがリーリエを見つめている。

 セリアは薄々、リーリエ・ストライドの性格に気がついていた。前世で培った、空気を読む能力。周りの目を気にする性格だった前世。それ故、セリアは人の態度や言動に敏感なのだ。


「勿論、私の容姿では勝てないかもしれません。しかし、両親が与えてくれた、この黒のドレスは、とても貴重なものです。私の力では勝てなくても、このドレスの力があれば、

審査員の方の心に響くかもしれません」


 あくまで、自分の容姿には自信がないと言うかのようなリーリエ。本心では、自分の容姿は優れていると思っている彼女だが、それは口に出さない。道具、すなわちドレスの方を持ち上げて、セリアに反撃した。

 周りの者たちは、リーリエは慎ましいと思った。両親思いで、自分に対しては謙虚。両親の期待に添えようとする彼女に好感を持つものが多かった。このように、リーリエは周りの者を味方につける。


「確かに、美しいドレスね。でも、私の着ているドレスには、誰も敵わないわ」


「セリア様のドレスもお綺麗です」


 称賛するリーリエは、まったくそんなことは思っていなかった。セリアの着ている、パトリドの作ったドレスに対する彼女の評価は、地味。それだけだった。セリアがその地味なドレスを着ているのは、自分にとって大きなアドバンテージだと思うくらいだった。


「そうでしょう?このドレスは、誰にも負けないの。だから残念だけど、貴女は私に勝つことは出来ない」


 セリアは氷のような表情になり、リーリエを見下した。

 一瞬、リーリエに寒気が走った。絶対的な覇者に睨まれたような。ライオンに見つかった草食動物のような。


「私も負けられません」


「そうね。まあ、お互い頑張りましょう」


 二人の間に走る電撃。不穏な会話の終わり。


 そんな中、ボルドー家の使用人と執事が、参加者であるセリア達の元へと姿を現した。流石に美を決めるコンテストだけあって、使用人も執事も華麗な服装をしている。


「皆様、今日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。これより、決勝へと向かう、コンテストの予選を行います。皆様には、これから観客の皆様とご歓談願います。そして然る後、審査員と、観客の皆様の意見を元に、決勝へと進むお二人を決める次第でございます」


 執事は滑らかに語る。その説明を受けてセリアが感じたのは、不利だな、ということだった。何しろ、セリアは性格が悪い。観客からの票は、あまり得られないと覚悟しておいたほうがいいだろう、と。

 今までの悪女としての行いは取り消せない。まだ、弁明も無意味であろう。

 話せる相手がいるといいのだが……。


「では、観客の皆様がいらしている、パーティー会場へと皆様をお連れします」


 執事はくるりと振り向いて、部屋の出口へ向かった。そして出口の傍で、手を出入り口に向けて差し出した。

 セリアの戦いが始まる。セリアはさほど執着していなかったが、リーリエは執着し、闘志を燃やしていた。

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