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悪役令嬢の終わりは歌  作者: 夜乃 凛
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16/45

ろくでなし

 パトリドのドレスを着てコンテストに挑むことを決めたセリア。その後はトントン拍子だった。

 最低限のアクセサリを身につける。そのアクセサリも、白いドレスに合わせるように、あまり主張しない、謙虚なアクセサリをセリアは選んだ。

 周りからは、もっと派手にしたほうが良いというアドバイスを貰ったが、セリアは自分の決めたことを譲らなかった。彼女の直感はすべてを決め、また、セリアの決心については異議を唱えることは出来なかった。


 美しさを決めるコンテスト。その日は、平穏な日常の中、静かに始まろうとしていた。

 コンテストの場所は、ボルドー伯爵家の屋敷で行われることになっていた。


 ボルドー伯爵家は、所有している土地が多いことで知られ、綺羅びやかなコンテストを行うには完璧な場所であった。ボルドー家は、各家の貴族たちにコンテストの招待状を送り、退屈な日常を過ごしている貴族たちの心を踊らせた。

 そして、コンテストの観客ではなく、出場者については、ボルドー家の調査によって決められた。調査というよりは、噂話である。あの人物は美しい、あの人物は可憐だ、そのような評判によって出場者には手紙が送られていた。当然、美しい容姿のセリアにも、出場者としての招待の手紙が届いた。


 しかし、手紙を受け取ったのはセリアだけではなかった。リーリエ・ストライドにも出場者としての手紙が送られていた。無理もない。身長こそさほど高くはないが、絹のような茶色い髪と、飲み込まれてしまうような青い瞳は、貴族たちの中で、美しいと評判だったからだ。


 リーリエは部屋の中で、招待された手紙を手に、微笑んでいた。部屋の中は、貴族の寝室にしては謙虚だった。それは、リーリエが望んで質素にしたのだった。

 理由はあった。家族にも隙は見せられない。常に謙虚。常に穏やか。そんなリーリエの態度を、リーリエの両親は、大天使だと称賛していた。


「セリア・フランティス」


 リーリエは呟いた。まず、招待状を受け取るまでは良し。そして、セリアの元へも招待状は届いているだろうと、リーリエは思っていた。

 彼女は、コンテストに対しては、いつもの謙虚な様子ではなく、両親に対して、良いドレスを買ってくれるように頼み込んだ。そして、両親も喜んでリーリエを応援した。

 理由はある。美しさという栄誉が欲しい。そして、二つ目の理由。

 セリア・フランティスを叩き潰す。歌唱という特技がセリアにはあるのかもしれないが、自分だって負けていないと、リーリエは闘志を燃やしていた。悪意の炎。

 鏡を見るリーリエ。派手なドレスに、美しいリーリエの容姿。

 負けるものか。自分のほうが優れているのだと、彼女は笑顔で鏡を見つめていた。



 そして、コンテストの日がやってきた。ボルドー伯爵家に、多くの貴族が訪れるその日が。

 セリアは、またしてもノイフとソイルに、同伴を申し出た。二人共、断る理由はなかった。


 セリア達は馬車の乗り込んだ。まだ時間は早いが、馬車をゆっくりと走らせるために、時間に余裕を持たせたかったのだ。馬車の揺れは、案外洒落にならない。


「さて、勝てるかしらね」


 セリアが伏し目がちに呟いた。自分に自信がないわけではなかった。しかし、競う相手は大量にいるのだ。人が多いとなると、後は運次第だという感想を持っていた。


「セリア様なら大丈夫です」


 ノイフはニコニコとしている。侍女ノイフは最近のセリア立ち振舞いを見て、本当に満足していた。もう、周りに悪女だとは思われないはずだ。きっと、何かのきっかけでセリアは覚醒してくれたのだろうと、ノイフは思っていた。今のセリアなら、内面からにじみ出る美しさで、コンテストだって勝ち抜けるはずだと信じていた。


「勝てば、周りの貴族たちは黙っていないでしょう。セリア様、すぐに食事に誘われるかもしれませんよ」


「ノイフ、気が早いわ。それに、勝ったその時は、ここにいる三人で食事がしたいわね」


 セリアは苦笑した。ノイフには少々夢見がちなところがある。


「私もですか?」


 ソイルは眉をひそめた。


「そうよ、ソイル。貴女は面白い人だもの」


「そんなユーモアが自分にあるとは思いませんが」


「気づいていないだけよ。貴女といると楽しいのよ」


「はあ……私、今だから言いますけど」


「何?」


「私、貴女のこと、大嫌いでした。ろくでなしだったと思います」


 ソイルの言葉。場が静寂に包まれた。

 ややあった後、セリアは大声で笑った。


「そう、そうね。そのとおりだわ、ソイル。うん、やっぱり貴女は正しいわ」


「そんなに笑うようなことですか?」


「今の私はどう?」


「今は、その……少し見直しています」


「よかった。これからは、ソイルにまた嫌われないように気をつけなくちゃね」


「まだ、そこそこ苦手なのですが」


 ソイルは肩をすくめた。


「ソイル!セリア様になんてことを」


 咎めるノイフだったが、表情は笑顔だった。


「いいのよ、ノイフ。今までの悪行がどんな意味を持つか、私だってわかっています。犯した罪は、簡単には消えない。しかし、正面切って言われるとはね。ああ、可笑しい」


 セリアは笑った。馬車の中は、そんな和やかなムードで、ガタガタと揺れていた。

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