運命のドレスとの出会いへ
後日。転生したセリアも、かなり生活に慣れてきた。日本ではとても味わえなかったような体験をさせてくれる日常。お風呂だって、幾人ものメイドが手伝いしてくれる。準備はすべてしてくれて、髪を洗ってくれて、足も揉んでくれる。
こんなに贅沢でいいのかなぁ、と思うセリアであった。お礼として、最低限マナーは守るように使用人たちに接した。
使用人たちの間の噂話も絶えなかった。どうも、最近のセリアは優しい。怒ることがまずないし、使用人たちに厳しく当たることもない。セリアの変化を素直に喜ぶ者もいれば、何か裏があるのではないかと疑う者もいた。
そんな平穏な日常の中に、一陣の風が訪れる。
「誰が一番美しいか決めるコンテスト!?」
セリアの声だった。テーブルを挟んで、正面にノイフ、右側に父クロードが座っている。
「そうだ。服装も含めて、誰が一番美しいのかを決めるコンテストだ。優勝者には、多彩な宝石と栄誉が与えられるんだ」
ニコニコ顔のクロード。セリアは嫌な予感がした。
「もちろん、私は出席しないですよね?」
「もちろん、もう既に参加の旨を伝えてある」
クロードの言葉。セリアは紅茶を吹き出しそうになった。
「お、お父様!! 私は、誰が一番美しいかなんて、興味はありません!! 」
「いやいや、セリア。君は美しいんだ。私の誇りだよ。いやぁ、ついにセリアの美しさが名を馳せる時が来たんだ」
目を瞑り、なにかに浸っているような父、クロード。
セリアはため息をついて、ノイフの方を見た。
「ノイフは知っていたの?」
「勿論でございます」
淡々と語るノイフ。笑顔である。
セリアは椅子にもたれかかってしまった。父がこの様子な上、既に参加の旨を伝えてあるということは、キャンセルすれば先方に迷惑をかける。
確かに、セリアは自身の姿を美しいと評価していた。しかし、誰が一番美しいか、そんなことを決めるコンテストに意味はあるのか、と思うところがあった。
勝負事なのだ。負けて悔しい思いをする者もいるのではないか。
しかし、セリアは負けても別に悔しくはない。ノイフと父が喜んでくれるなら、参加してみても悪くはないという結論に至った。
「美しさとは、何を持って決めるのですか?」
「いい質問だ、セリア。美しさは、人間の容姿だけでは判断されない。勿論、容姿も大事だが、服、装飾品、それらを含めて評決が下されるんだ。まず、最初に多くの者が落第する。そして、最後の勝負は一対一で決まる。最終結果は四人の審査員が決めることになっている。多数決で、数が多かった方の勝ちとなる」
「なるほど。しかし、審査員が四人では、同点になってしまう場合もあるのでは?」
「貴族達の観客票が一票入るんだ。その場に鑑賞に来た観客達に、どちらが美しいかを評価してもらう。セリアならきっとそこまでいけるだろう」
「わかりました、わかりましたが……」
セリアは苦笑してしまう。大勢の観客の目線に晒される姿を想像すると、どうも落ち着かない。
だが、コンテストに出る気は少し出てきた。セリア・フランティスが栄誉を手に入れれば、父とノイフが喜ぶと思ったのだ。
「そうなると……当然、ドレスが重要になってきますよね」
「そうなんだ、セリア。既にノイフ達にドレスの調達を任せてある。ノイフ、いつでも見れるか?」
「いつでも可能です、クロード様」
「では、今からドレスの下見をしてくれ。セリア、直感で選びなさい。一番美しいと直感したものが、一番美しいんだ」
「わかりました、お父様。ノイフ、世話をかけるわね」
「お嬢様のためなら。さあ、ドレスを見に行きましょうか」
ノイフは慈愛に満ちた顔で微笑んだ。




