表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の終わりは歌  作者: 夜乃 凛
[Blank]

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/45

仮面の裏の裏

 セリア達は客席へやってきた。既に大勢の貴族達が席に着いている。

 これだけの貴族を集めるとは、流石ベインス家だな、とセリアは思った。貴族はよくパーティーを開くものだが、これほどの人数を集められるのは、信頼、そして権力があるからなのだろう。他の貴族と親しくなりたいだけの貴族もいるのかもしれないが。


 広く並んだ緑色の客席にセリアが座ろうとすると、前方に集団が見えた。誰かを取り囲んでいる。

 セリアにピリッとした緊張が走る。それは、囲まれている人物が、リーリエ・ストライドだったからだ。親しそうに周りの貴族たちと話している。

 ノイフがちらりとセリアの方を見た。心配そうな表情。ソイルは困惑したような表情を浮かべている。

 セリアは迷った。何しろ、喧嘩を売ってしまった相手なのだ。気まずいことこの上ない。しかし、謝罪はしなければならないだろう。セリアは臆することなくリーリエの元へ歩みだした。


「セリア様」


 ノイフが抑止するかのように言った。


「大丈夫よ。謝らないとね」


 リーリエに接近するセリア。その様子にリーリエも気づいたようだった。

 美しく長い、リーリエの茶髪が揺れる。青の瞳は水晶のようだ。美しいピンク色のドレスを着ている。彼女が着てみると、まったく違和感がない。


「あら、セリア様! いらっしゃったのですか? この前のお怪我はもう大丈夫なのですか?」


 リーリエが周りの貴族たちの間を抜けてセリアの元へ駆け寄った。彼女のセリアを気遣う言葉に、事情を知っている周りの貴族たちは感心した。リーリエに非はないのだ。それなのに、セリアのことを気遣っている。リーリエの器はなんと大きいのだろう、と彼らは彼女を評価した。


 今までのセリアならば、この気遣いで逆上していたのかもしれない。憐れんでいるのかと。しかし、今のセリアは別人なのだ。当然、返す言葉も変わってくる。

 セリアは深々と頭を下げたのだ。もうこれ以上伸ばせない所まで頭を下げた。


「本当に申し訳ありません、リーリエ嬢。以前の件は、私に非がありました。無礼を働いたことを謝ります」


 周りの貴族達がざわついた。なにせ、誠実な態度など、以前のセリアは一度も見せたことはなかったのだ。それが今、リーリエに対して誠実に謝っている。これには貴族たちは動揺した。

 そして、貴族たちが動揺している中、リーリエは考えを巡らせていた。


「セリア様!頭を上げてください。以前の件は、私の方こそ至らず……セリア様が頭を下げる必要はありません」


 セリアの肩に手を置いたリーリエ。その手は、恐ろしいほど冷たかった。リーリエの性格を反映するかのように。


「ごめんなさい。本当にごめんなさい」


「大丈夫ですから」


 戸惑う仕草を見せるリーリエ。セリアはようやく頭を上げた。


「今日はせっかくの音楽会ですから、楽しみましょう」


 笑顔になったリーリエ。


「はい。こんな大規模な演奏が聞けるなんて、なかなか無いでしょうから……あ、そういえば、門のところでフィゲル様に会いました」


「フィゲル様に?あの方も招待されているのですね」


 そう言ったリーリエは、内心不機嫌さと、人を見下す心情をしていた。セリアは何度もフィゲルにアプローチしているようだが、性格も悪く、頭も悪い。何回セリアがフィゲルにアプローチしようが、無駄なことだ。セリアでは、女として、自分には敵わない。そうリーリエは思っていた。愚か者のする事など、すべて無意味だ。フィゲルと一番仲が良いのは自分だ。誰にも負けはしない。フィゲル・ブリッツの婚約者になるのは、リーリエ・ストライドなのだと。


「招待されているみたいです。リーリエ嬢はフィゲル様とお似合いですから、きっと今日は楽しい日になると思いますよ」


 セリアはリーリエに笑顔を向けた。

 驚くリーリエ。セリアは嫉妬など微塵もないようにリーリエを応援している。

 悪女の気まぐれかとリーリエは思った。セリアは計算高い性格ではないはずだ。だとすると、セリアが別の男を見つけて、フィゲルに興味を無くしたと考えられる。人の気持ちは移ろいやすいものだ。

 リーリエにとっては、ライバルが消えたことになる。美しい美貌のセリアが敵ではなくなる。それは、リーリエとフィゲルの間に何も障害は無くなることを意味していた。

 しかし、彼女は何故か気に食わなかった。セリアが引いてくれるなら、自分にとって有利になるはずなのに。

 何故気に食わないのか。それは、決して実らないフィゲルへのセリアの想いを嘲笑うことに、面白さを彼女が感じていたからであった。

 容姿だけの女。無能。愚者。それがリーリエのセリアへ対する評価だった。


「リーリエ嬢がフィゲル様と婚約なされたら、リーリエ・ブリッツですね。美しいお名前です。応援してますからね」


 セリアは笑顔でリーリエの冷たい手を取った。その笑顔には一点の曇りもない。



「いえ、そんな、私はフィゲル様とは釣り合いません」


 リーリエは謙遜するかのように言った。もちろん、そんなことは微塵も思っていない。


「恋愛に、釣り合うか釣り合わないかなんて、関係ありますか?」


 セリアは首を傾げた。


「ありますよ。身分の差で、決して実らない恋もあります。それは、この貴族制度で生きていく我々の運命です。例えば、平民と貴族の恋は実らないでしょう」


「わからないんじゃないですか?諦めなければ、想い続ければ、たとえそれが無に帰したとしても、その恋に意味はあるのではありませんか?」


 セリアは凛とした表情だった。自分の発言に疑問を持っていない。

 心の中でリーリエは舌打ちした。やはりセリアは頭が悪い。何もわかっていない。絶対的な壁というのは、この貴族制度において、存在するものなのだ。


「素敵なお考えだと思いますわ」


「ありがとうございます、リーリエ嬢」


 そう言っている間にも、音楽会の準備は整っているようだった。すでに、ほぼ全員の演奏家が一階に集まっている。その中には、コーラル・ベインスもいた。バイオリンをもつグループに属しているコーラル。一方、二階にはフィゲルの姿が見えない。演奏を鑑賞する気はないのだろうか。

 セリアはコーラルの手紙を思い出し、少し恥ずかしくなった。コーラルは純粋な人間に思えた。今のセリアは、コーラルのことを詳しくは知らなかったが、彼のことを応援してあげたいと思っていた。きっと、バイオリンの練習をたくさんしたのだろう。努力する姿を想像するだけで、セリアは穏やかな気持ちになった。なにかにひたむきな人間というのは、どこか愛おしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ