第3話−戦乱−ほうかい−
世界の異変から1年が経った。
人間の勢力増強を誤解し、魔族がついに西の領主街近辺に侵攻を始めた。
王都オーディノルトも、魔族の侵攻を察知し、徴兵で集めた義勇軍を招集。
両者合わせて2万の兵が勢力線の中央でぶつかった。
しかし、魔族側の北の辺境地で、かつての魔王が残したゴーレムが突如として起動。
禍々しいオーラをまとい、魔族側に存在する魔物たちを狂暴化させた。
魔族側は、この情報を聞いて、軍隊を撤退させたが犠牲も出た。
この撤退の遅れが、魔物たちに村や街を襲わせるという醜態をさらし、魔族内部は大きな亀裂が生まれた。
魔族側の腐敗と賄賂の横行が、貴族と平民の仲をさらに悪化させており、
少しずつ魔族側にも、不協和音を作って壊れ始めたのだった。
数千年ぶりの戦争を少しの犠牲で治めた人間側の王国も、疲弊の色が現れた。
そして、さらに1年後。
ソルは十二歳になった。
辺境領主家は、グランディオスなしでも、ぎりぎりの立ち位置を維持し、ソルが十六歳になるまでの間は、
領主家補佐の秘書サミスンと、グランディオスの弟子モラクルが代行して治めていた。
魔物の脅威が一向に治まらないことは、徴兵された平民の不満の種になっていた。
ノゾム家も、王国や4大領主街からの往来も減り、資金繰りが大変になっていたのである。
この頃、一つの人心の乱れが出てきた。
コウジン頭という不可思議な教祖が現れたのだ。
コウジンとは、コウは幸せ、ジンは人。
この噂を聞いたソルは、何か昔の中国みたいだ、と呆れていた。
ソルがこれを王都に少しでも情報を流し、先の事態を感知していれば、同じ歴史を辿ることはなかっただろう。
世界は少しずつだが、暗い未来に蝕まれている。
勇者の生まれ変わりである、セインローズは、貴族という特権を使い、小規模の男女混合部隊を幼き頃より遊びとして集め、鍛えていた。
いつか来る、魔王との対決に備えて。
魔王の生まれ変わりである、グレンアグラーは、ゴーレムの異変を知り、自分の配下となる者たちを探して四天王を確立。
自分の城を辺境の奥地で建造。腐りきった魔族を打倒すべく、強力な人材を集め出した。
いつか戦うであろう、勇者の生まれ変わりを警戒して。
そんなことを知らず、ソルは狂暴化した魔物を領主家の人間に狩ったり、召喚獣として使役するために集めていた。
使役したウルフは猫に化けて、屋敷に住まわせ、鉄や毒のスキルを持つスライムは、一匹ずつ部屋の中で置物になっている。
ソルが世界の情勢に目を向けず、剣技や魔法、魔物の使役にうつつを抜かしていても、
日に日に、世界の国力は削られ、金銀の存在も消えてなくなりつつある。
それでも、ソルが魔物を狩って、食糧を集めて厨房に届けている間は、ノゾム領主家はどうにか安定して暮らせていた。
この時、王都ではクーデターの兆しが、4大領主街近辺では山賊が、海岸周辺では海賊が出てきた。
不安定な未来が、不確かな不信を広め、残り2年を切った世界に迫る。
半年が過ぎた。長らく計画を練っていたクーデター派が、王都を混乱の渦に落とす。
城は炎上。城下町は穏健派とクーデター派の兵士の戦いが始まった。
4大領主街は、穏健派とクーデター派に分裂し、ついに王都から人が消えた。
クーデターにより、辺境領への資金供給が断たれ、平民などを養う金銀が無くなりかけていた。
平民の不満が爆発し、コウジン頭に入る平民が続出。
王都の城が燃える前、クーデター派が王と妃を殺害。
親族である後継者の王子を殺害し、頼みの綱である王女は安否不明となる。
人のいない城下は、魔物の巣窟となり、王都の消滅は人類に大打撃を与える。
コウジン頭とクーデター派が手を組んだという情報が広がったのは、それから1年経った頃だった。
コウジン頭に賄賂が流れ始め、コウジン頭首領ビビデラグーが北と西の領主街を占拠、支配した。
ここにきて、魔族側の貴族半分もコウジン頭の傘下に入り、魔族領の東南側がコウジン頭の手に落ちる。
人間と魔族、それぞれ裂かれた形となり、いよいよ世界恐慌が始まる。
残っている人間の東南側、魔族の北西側でも、平民による反乱が近づく。
コウジン頭が兵糧集めのために、米や野菜の独占を行ったことで、食糧の供給も止まった。
大飢饉まで、あと一月となり、人類側と魔族側の世界恐慌が訪れは避けられない。
ソル、セインローズ、グレンアグラーは、この時のために近辺の食糧自給を維持してきたが、
いよいよ限界に達してきた。
不満の材料となるコウジン頭を倒すため、3人の英雄が立ち上がる。
それぞれが己の限界まで実力を出す時、世界は誰のものとなるのか。
転生者、勇者、魔王の生まれ変わりが、世界を変える日がやってきた。