第2話 異世界−せいかつ−
望実 多夜は、赤ん坊に転生した。
カフェのガス漏れ不備という、不運な事故に巻き込まれて。
赤子から5年後。
多夜は、ここが異世界だということを、5年間である程度に理解した。
しかし、この赤子の両親は、屋敷の火事と一緒に亡くなっていた。
???「ソル〜! ソル〜! どこにいる?」
ソル・ライ・ノゾム。この赤子だった頃の、今は幼年の自分の名前である。
ソルは、騎士爵家であるグランディオス・ライ・ノゾムに拾われた。
ソルの両親の???・フォン・アルカディスの領主家は、火事によって没落、消滅し、
騎士爵家である遠方、田舎の小さな騎士爵領主家に身を移した。
世界はどこまでも似たようなもので、とても残酷である。
アルカディス領主家が没落、ノゾム騎士爵家に入って、7年の月日が流れた。
前世の記憶は半分以上失われたが、知識だけは異世界でも残っていた。
騎士爵家だけあって、剣技と魔法の扱いは習得に時間はあまりかからなかった。
ただし、剣技の威力、魔法の強大エネルギーを使うときは、場所を選ぶ必要があった。
ソルの剣技は、すでにグランディオスと並ぶ実力になっており、練習中は手を抜いていた。
魔法の技術は、騎士爵が呼べる魔術師の限度を越えており、こちらは1割の力で使い、周りに隠していた。
総合能力は、大陸賢者と呼ばれる世界に数人いるかいないかという化け物級の魔術師と、同じくバトルナイトと呼ばれる数人しかいない化け物級の戦士を、
それぞれ1人ずつ対抗できるほどの実力を身につけていた。
遠方、火山地帯。
十数メートルを超える巨大なドラゴンが、禍々しい魔力をまとっている。
禍々しいドラゴンのオーラが、咆哮とともに数キロ先へ周りを包む。
ドラゴンのオーラに触発された魔物たちが、目を赤くして凶暴化する。
辺境の地であるノゾム騎士爵領に、恐ろしい運命が迫っていた。
魔物たちの活発化で、グランディオスは領主家を空ける日が数年続く。
グランディオスは時折、ソルに言う。
グランディオス「ここは辺境の領だが、この領から少し離れた東の領主街アルテマイトは、
王国オーディノルトを守る4大領主街の一つ。
近頃、4大領主街の近辺で魔物の活性化があった。」
ソル「それって…?」
グランディオス「天変地異、流行り病、何かの前触れか。
4大活火山が同時に異変を起こしているのも気にかかる。
私とこの領主家に何かあった場合、お前だけが頼りとなる。空振りに終わると嬉しいが、な。」
そして、ソルが十歳となる3年後。
グランディオスの安否が不明となり、4大火山の噴火が起きた。
世界恐慌、大飢饉まで、あと5年。
魔物たちが、世界各地の村や街を襲い始めた。
4大領主街の当主が全員、各地に兵を魔物退治へ動員。
王都オーディノルトも守りを固めるべく、金銀財宝を使い、ギルドに十六歳以上の男女に徴兵を開始。
この動きは、2大勢力の一つ、魔族たちにも間違って届き、人間の勢力が軍隊を創設したと誤解。
魔族の社会に平穏と、長らく続いた汚職の賄賂と腐敗が横行していた。
この時期、ソルが誕生したのと同じく、人間の4大領主街の一つ、魔族の辺境の村に一つ、英雄となる赤子がソルと同い年が育っていた。
人間の英雄は、勇者の生まれ変わり。
魔族の英雄は、魔王の生まれ変わり。
王都と4大領主街から離れた辺境の地に、
異世界からの転生者の生まれ変わり。
この3人は、自分の強い力を周りに隠して育った。
まもなく、世界の均衡が崩れ去る。
未曾有の戦争がやがて、転生者、勇者、魔王の3人を近づける。
転生者ソル。
勇者の生まれ変わり、セインローズ。
魔王の生まれ変わり、グレンアグラー。
世界は、英雄の誕生を待っている。大いなる謎をともなって。