第一話 運命−はじまり−
勇者と呼ばれる青年がいた。
魔王といわれる威厳に満ちた者がいた。
両者はともに相いれず、世界の命運と覇権を争うことになった。
しかし、勇者も魔王も、両者を滅ぼす力を得たすぐあとに、この世界から姿を消したのだった。
勇者を失った人類は、魔物に対抗するべく、国ひとつひとつを堅牢な壁を築いた。
魔王を失った魔族は、統率が取れなくなり前線が瓦解。撤退を余儀なくされる。
やがて、数百の年月が過ぎ、大陸や島国の半分が魔族の手に落ちてから、その場所は魔大陸と呼ばれるようになった。
中央大陸の中心部。
勇者と魔王の前線基地があったそこは、村が両方にでき、世界は新たな道を歩み始めた。
そして、さらに二千年以上の月日が流れ、人類国家は五つに分裂。魔大陸は一つの国を形成していた。
このことが、小さいが大きな節目を迎える時期には、とても良い日となった。
西暦20XX年 春の中旬。
恐ろしいウイルスの蔓延が遠のき、世界全体が疲弊して、火星や他の星への移住を考える人が多くなっている時代。
高校を卒業し、帝王学専門の大学に入学して間もない青年 望実 多夜は、
異世界ライトノベルを読んで、カフェでくつろいでいた。
都心部の春は風こそ冷たいが、冬を越えて日差しが暖かさを運んでくる。
続きが気になり、ページをめくるその時、カフェ厨房のガス漏れで、
ツンとくる臭いとともに、カフェ全体に火の手が上がる。
乾燥しているこの時期、漏れたガスは周囲に拡散して、他の建物に火をつける。
カフェ内はガスからの点火で爆発し、カフェの内外で多くのビルやお店を巻き込んで、大火災となった。
多夜は意識を少し取り戻すと、辺りの状況に絶句する。
目は開けられるが、ぼんやりしていて、体や足は動かせない。
カフェの外は、炎に包まれて何も聞こえない。
炎の揺らめきがバチバチと音を立てている。
多夜の意識が遠のく。世界の理から外れ、多夜は暗い闇の中に放り出された。
???「赤子は無事か? なぜ火が屋敷に?」
目がかすむ。知らない屋敷が、音を立てて燃えている。
大勢の人が、屋敷の外でその光景を見ていた。
多夜(ここは、どこだ? あれ? 手が小さい?)
赤ん坊の手が、燃え上がる屋敷を手にかざすように上がった。