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第1話 火竜狩りのステーシー姉妹


 私、クレア・ステーシーは孤児だった。


 両親についての記憶は一切なく。

 物心ついた時には妹のエリアルと貧民窟(スラム)にいた。


 私はごわごわしたダークブロンドの髪で、生まれつき頑丈で強がり。

 妹のエリアルはふわふわしたホワイトブロンドの髪で、生まれつきひ弱で弱虫だった。


 両親がいない私たちは自分の食い扶持は自分で稼ぐしかなかった。

 しかし、文字の読み書きもできない子どもにできる仕事は限られる。

 そういった事情で私たちは二人で冒険者(こう言うと聞こえはいいが、ようするに無法者のなんでも屋だ)を始めた。


 装備も知識もない私とエリアルは自分たちでもできるような最底辺の素材集め依頼(クエスト)くらいだった。

 それでもなんとか私たちは必死に依頼をこなして日銭を稼いだ。


 そんな日々の中で、エリアルはいつも私の影に隠れて震えていた。

 エリアルはいつだったか不運にも悪い大人たちに乱暴されたことがあり、それがトラウマになっていたのだ。


 しかし……悲しいことにそれは何も特別なことではなかった。

 貧民窟において弱い者がいたぶられるのは日常茶飯事である。

 無論、私とて何度もエリアルと同じような目に遭ったことがあるが、私は世界でたったひとりの家族である妹をなんとか守ろうとエリアルの前では気丈に振る舞っていた。


 貧民窟の片隅で私たちはいつも震えながら肌を寄せ合ってボロ布にくるまって寝た。


 そんないつ野垂れ死ぬともわからない日々を送っていた時、たまたま冒険者ギルド(冒険者に適当な依頼を斡旋してくれる店だ)で金持ちの老夫婦から依頼を受けた。


 老夫婦はみすぼらし私たち姉妹を見て憐れみ、服や食事など様々な支援をしてくれた。

 「養子にならないか?」とも言われたが、それまでずっと姉妹2人で生きてきた私たちは親切な老夫婦に心を許すことはなかった。


 それから私とエリアルが大人になり、老夫婦が天珠を全うするまで定期的な支援は続いた。 

 お陰で頭の悪かった私はともかく、賢かったエリアルは読み書きと魔法の基礎を覚えた。

 私といえば食事が改善されたことで肉付きがよくなって力が強くなったくらいだ。


 ともかくそのお陰で私とエリアルは収集系の依頼だけでなく、魔物討伐系の依頼も受けられるようになった。


 食生活が改善されたことで私は背がぐんぐん伸びた。

 もともと頑丈であったこともあり骨太で肉付きも良くなった。

 加えて口よりも手が早い性格だった私が女だてらに格闘家(モンク)になったのは自然な流れだった。


 エリアルは大きくなってもあまり背が伸びず、ほっそりとした身体は女性らしい繊細さが宿っていた。

 そんな彼女が選んだのは後衛。

 ヒーラー役兼サポート役の魔法使い(ウィザード)だった。


 最初は手堅く町の周りで小鬼(ゴブリン)退治。

 次はちょっと冒険して近くの森に現れた巨鬼(オーク)退治。

 しまいには郊外の洞窟にまで足を伸ばして火竜(ドレイク)狩り。


 少しずつ手強い相手にも勝てるようになり収入は安定し装備も良い物になっていった。

 私とエリアルの2人は冒険者ギルドでも『火竜狩りのステーシー姉妹』の二つ名で呼ばれるほどの有名な冒険者となった。


 そんな折、貧民窟で悪さを働く盗賊団の退治依頼が私たちに回ってきた。

 初めての人間相手の退治依頼だったが、すっかり自信過剰になっていた私とエリアルは特に何も考えずにその依頼を受諾したのだった。











 そこは貧民窟の一角にあるなんてことはないボロ屋だった。

 あちこちで聞き込み調査した結果なので恐らく間違いはないだろう。


 人間を退治する依頼は初めてだからかエリアルが緊張した声色で話しかけてきた。


「どうするのクレアお姉ちゃん?」


「どうする? おいおい、エリアル。私たちは火竜だって倒したんだぜ? 今さら人間くらいで何をびびる必要があるってんだい」


 自分の力に慢心していた私は真っ昼間にだというのに、堂々と正面から攻め込んだ。


 見張りらしき男が入り口の両側に立っている。


「あぁ? なんだテメェら――ぐげっ!!」


 見張りをしていた下っ端らしき男は顔に私の右ストレートを受けて後頭部から壁にめり込んだ。


「ひ、ひぃ! あっ……がぼっ!?」


 もう一人の見張りがボロ屋に逃げ込もうとしたところを素早く足払いで転倒させ、無慈悲に顔面を踏み抜いた。


 私の拳と蹴りはエリアルの支援魔法で強化されている。

 火竜すら屠る拳を受けて見張りの男たちは即死した。


 私は貧民窟出身の人間であり、一般人と違って人を殺すことを躊躇わない。

 まして盗賊なんていう悪人を殺したくらいでは私の心は微塵も痛まない。


「じゃ、入るよエリアル。私の背中から離れないでね」


「う、うん。クレアお姉ちゃん」


 恐れを知らない私たちはそのまま盗賊のアジトに踏み込んだ。



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