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王太子フィリップは次期国王として

 フィリップは夜遅くまで、王族貴族の重鎮、公爵達に囲まれていた。


「バミリオンとの国交は結婚しなくとも出来ます」


「王太子殿下、若さだけではどうもなりません」


「バミリオンの武力をご存知ですか?万が一将来争いが起こってもこの結婚さえのめば、ヴァロリアは経済大国でありながらバミリオンに攻められることなく、他国の攻撃からも守られます」


「利益のみを生み出すような結婚です」


「でも、あれじゃ世継ぎは生まれないよ ね?兄上」とアンリーが口を出す。


「それなら心配御無用。外で作ればいい」と険しい髭を触りながら言うのはロイスの父、王の姉の夫である。


「え?ひどいこと言うね。」


「側室制度はないが、愛人なら皆暗黙の了解だ」


「はあ……」

 ため息だけが止め処なく零れ落ちるフィリップであった。




 ◇◇◇


 翌朝


 宮殿から去る馬車を見送る一同。


「気をつけて」

「な 長いことお邪魔しました。ロザリーヌ王女 じゃなく、えー」

「ロザリーヌでいいですよ。シモン王子が去ると寂しくなりますね」


 いつも不安げだが、穏やかな彼がいるだけで宮殿は少し和んでいたのは確かである。


「ははは お元気で。わ 私はゲリアンの開拓の進み具合を見てから帰ります。また、近いうちにお お会いしましょう」


「はい。宜しくお願いします」

 真っ直ぐにシモンを見るロザリーヌの瞳をじっと見つめるシモン。パルルで共に海を眺めた女神のような彼女を我が物に出来なかった寂しさに別れを告げているようだ。


「いつまで見つめ合うの〜」とアンリーに突っ込まれ、急いで馬車に乗り込むシモンであった。


 アンリーは馬車の扉に手を当て、シモンと拳でコツっと握手をする。いつの間にやら二人は友のようである。



 ◇◇◇



 それから一月ほどの間、アンリーと共にロザリーヌは職人たちを集め、職に困っている少年少女に見習いとして働く機会を作り、王都の端に繊維工場を作る計画を進める。



 その頃、フィリップは結局、ビオラ王女との婚約に断りの書状を送るのだった。


 しかし、ビオラはヴァロリアを去ろうとはしなかった。


 ビオラの侍女ブレンダは冷めた口調で囁く。

「まだ帰りませんか?ビオラ様 実質的には振られたようなものですよ」


「失礼ねっ、分かってるわよ。私はこのお上品で、か弱い国がどう化けるか見てみたいのよ。あのロザリーヌ、なかなかキーパーソンだと思うんだけどなあ。なんか危なっかしくてね」


「また歳月だけ過ぎてお節介ばばあになりますよ」

「ほんとっあんたは、私を王女だと思ってんの?」

「もちろん」

「ふんっ」




 ある日の事

 王都で暴徒化した民が、街を暴れまわり武装し宮殿の前に集まった。


「魔女を追払え!!」「追い払えー!!!」

「魔女は出ていけ!!」

「白い魔女を追い出せーー!!」


 パ―――――ンッ

 爆竹を投げ入れ


 ガシャ―――ンッ

 瓶も投げ入れ


 宮殿の門や塀によじ登り寄生を発する群衆


 騎士団と護衛の兵たちが盾を持ち壁を作り待機する。

「宮殿内へ入る者は直ちに拘束する!!!」


 ダミアンとメリアは宮殿内のロザリーヌの部屋に待機していた。


「あ あああ ロザリーヌ様っ何ですかこれは どうしましょう」

 キャシーは涙を浮かべ右往左往する。


「ロザリー、絶対にバルコニーに近づかないで。俺のそばを離れるな」

 窓辺から外の様子を伺いながらダミアンが鋭い声で言う。


「……ダミアン」


(どうしよう……私にはどうしようもない。無力な癖に得意げに改革だなんて手を付けて、こんなに不満を抱かせた……この世界の事、人の事分かってないのに、分かってる気になってた。なんて愚か……嫌われて当然。またみんなに守られて、みんなを巻き込んでる……)


 ロザリーヌは軽率であったと自責の念に駆られているが、事態は深刻である。


 宮殿中に緊張の糸が貼り詰める。



 ガシャーンッ


 ロザリーヌの部屋に石がガラスを割り転がった。


 ロザリーヌはその音に驚き、感情の蓋が外れたのかその場に力なく座り込む。

 ダミアンが慌ててロザリーヌを包むように抱きしめた。

「ダミアン、大丈夫。私は 大丈夫」

 しかし、その華奢な体はガタガタと小さく震えている。


 拳ほどの大きさの石をメリアが掴み、

「……なんだこれ」


 石には細かく字が書かれている。メリアは字を一文字ずつ拾うように読んだ。


「魔女 ロザリーヌ を 出せ 出さなければ 教会を 焼く」


「…………」


「メリ、ロザリーをたのむ。絶対に窓に近づかせるな」

「分かった」


「ダミアン、教会」

 不安げに呼び止めたロザリーヌに「大丈夫 すぐ戻る」と微笑み、

 ダミアンは教会が危ないと伝える為騎士団の元へ向かう。その途中でフィリップ王太子の一行と出会う。


 石に書かれた内容を聞いたフィリップは、ロザリーヌの部屋へ向かった。



「ロザリー!ロザリー!大丈夫だ。私に任せろ。」


「フィリップ様 出ないで……おねがい」ロザリーヌが涙ながら言うが堅物なフィリップは止まらない。


「フィリップ様 駄目です!!!」


 護衛や執事の制止を振り切るフィリップは一言述べる。

「次期王として私が収拾する」


 連日の会議で王太子として、次期国王としての力量が問われフィリップは追い詰められていた。ピンチをチャンスに変えるべく、バルコニーへ出て、叫ぶフィリップ


「ヴァロリアの民よ!」


 フィリップの登場に鎮まる群衆


「我らの国に魔女などいない。ロザリーヌは……」

 しかし静まり返った中から一本の矢が放たれた。



 言葉を失いバルコニーで座り込むフィリップ



「キャーーーッ」

 キャシーが悲鳴を上げる。


 急いでメリとフィリップの護衛がバルコニーから引きずり込む。


「「ギャーーー!!!」」「打たれた 矢だ」


 見上げていた群衆からも悲鳴が上がる。


 ダミアンも下から急いでロザリーヌの部屋へと急ぐ


 その矢、たった一本の矢が、フィリップの胸に命中したのだ。

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