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意地悪?なロザリーヌ

 アンリー第二王子がフィリップ王太子にリリアの件を話そうと部屋を訪ねようとした時には、ものすごい形相のフィリップが部屋から飛び出してきた。その後を執事二名が追いかける。


 アンリーの隣を素通りし行き着いた先はロザリーヌの部屋。


 コンコンコンコン


「ロザリー! ロザリー!」


 コンコンコンコン


(なに 凄い勢い……もしかしてリリアの件を?または婚約の件!?)


「はい。おります……どうぞ」


「ロザリー、伯爵の甥と婚約したとはどういうことだ!記憶もないのに、どこの誰かも分からない男と!!」


(ああ そっちだった。やるしかない……。)


「記憶なら戻りましたわっ。お兄様 あ 今は違いますわね。フィリップ殿下」


 眉毛を大きく上げ得意げに話して見せるロザリーヌ。

(どうかな……オリジナルに近いと思うんだけど)


「…………」


 フィリップはぽかんとしている。

 しかし、今回ばかりは譲れない。フィリップの様子にかまってはいられないと、強い意志がさらなる言葉を生み出す。


「婚約者とは会いました。私は彼と結婚する。今となっては関係ないでしょ。フィリップ殿下には」


「どうした……?ロザリー」


「全て思い出したの」


「ロザリー、おかしな物でも食べたのか?記憶が戻ったなら、この兄、いや私はお前のものだ」


「はい?お断りします。最初から私はそんなつもりはないの。」


「――え?どういうことだ……」


「リリアが美しいから嫉妬しただけ。フィリップ様には興味なんてないの。硝子のハートはお断り」


 と、ロザリーヌはぷいっとそっぽを向いてみせた。


「…………」


(ごめんなさい フィリップ様……硝子のハートは言いすぎました。でも、私はこの王宮から出て行けと言われるほどに嫌われてみせます)


「婚約者の名はなんという?」


 クリストフ伯爵の甥といっても複数いる為、どんな男か確かめたくて仕方がないようだ。


「フィリップ様には関係ありませんっ」


 難しい顔をしたままフィリップは部屋を出る。


「はあ……緊張した」

 ロザリーヌはそのままベッドに突っ伏したのだった。



 コンコンコン


「ロザリーヌ様!フィリップ様はどうされました?いったい何の話を……?今晩皆さん揃ってお食事される予定ですが」


 部屋に入ってきたキャシーにロザリーヌは説明する。


「フィリップ様に記憶が戻ったと言ったの」

「えっ」

「それで……意地悪な妹を演じた」


「……ロザリーヌ様、フィリップ様を避けようと……そこまで。も もしかして想い人がいらっしゃるのですか?……ああ すいません。」


 白い頬を少し赤らめロザリーヌは答える。


「……はい」


 それを見てキャシーは、ハッと開いた口を手で押さえた。シモン王子を気に入っていたキャシーだが、やはり社交界の様子からはダミアン騎士かしら?と考えるのだった。さすがは心の友である。




 ◇◇


 晩餐の時


 他の関係者に説明する間なく迎えたその夜の晩餐。


 しかしロザリーヌはもう後にも引けず、意地悪ロザリーヌを継続するしかないのである。


 腑に落ちない様子のフィリップは、皆の前でロザリーヌに話しかける。


「どうかな ロザリー、この羊肉は特別な生後……」

「臭いわ 要りません」

 とかぶせるように言ったのだった。


 パルルのシモン王子は手を止め、他のメイドは驚いている。アンリーは薄笑いを浮かべる。


「ではもっとパンを、ロザリーに」


 パンを運んで来たメイドがバスケットからひとつ誤って落とし床に転がしてしまった。


 とっさにパンを自ら拾おうとするロザリーヌを見たキャシーは首を横に振りどぎまぎずる。


 不自然に拾うのをやめ、皆の視線から逃げるようにワインを口にするのであった。


「もしかして、記憶戻ったの?ロザリー」アンリーが得意げな顔を向け話しかける。


「そうよっ。追い出された身だし、リリアも去ったし。もうここには用はないので、宮殿の外で好きに生きますわ」


「本当にその婚約者と結婚する気か?」


「「婚約者?!」」

 アンリーと、シモンの声が揃った。


「ええ。もちろん」


「ロザリー、ここに居れば生活に不自由はない、安全も保障される。この国を共により良く導く事だって出来る」


「それは、ここに居なくたって。もうフィリップ様の傍に居たくないの」


「ロザリー、今の言葉もう一度私の目を見て言ってみろ」


「もう!放っておいてください。構われるのはもうイヤ」


 やはり目を見てなど言えないロザリーヌは、吐き捨てるようにテーブルに視線を落として言ったのだった。


「…………」


 場が持たず、自分の言葉一つ一つに傷つくであろうフィリップを見るに耐えきれず、食事中に席を立ち自室へかけ戻る。



 ため息を落としたフィリップにアンリーが口を開く。


「シャンティ家に押し入った男が吐いたよ」

「誰だ」

「分かるでしょ。」

「――リリアだな」


「父上が判断出来ない今、最高決済権は兄上にある。」

「ああ 拘束は?」

「それが、西国のバミリオンに縁談を装って逃亡したみたい。」

「縁談?」



 その後、フィリップはそれでもロザリーヌの部屋を訪ねる。


「ロザリー、やはりリリアが指示したらしい。西国に逃亡したようだ。追手を送って極刑に――」


 極刑という言葉に反応したロザリーヌは真剣な顔をする。


「元婚約者を……そんな事をすれば国の恥じゃないのですか?一度は愛した女性でしょ?そんな言葉を口にするなんて、軽蔑するわ」


 それを聞いたフィリップはしばらく考え、また口を開く。


「……そうだな。国外追放とする。その代わり、しばらくは安全の為この宮殿に住むように。王都の屋敷じゃ……ロザリー、お前を守れない」


「…………」


「ロザリー 頼む。護衛をつけて王都に行き来して良い。ただ私はお前が心配なのだ。」


「……分かりました」


 ロザリーヌの傍に寄り手に触れるフィリップ


「触らないでっ」


「知っているよ。元王女である以上、君と結婚など父上も王族貴族も望まない。だから私を避けようとするんだね。君は聡明だ。」


「違うわっ。このわからず屋!」


「優しいロザリーもいいが、悪戯な君はかわいい」


「…………」


「どんな形でもいい、君を離さない」


(ああ……なにこれ……)



 その頃シモン王子の部屋では執事のロズベルトが婚約について尋問にあっていた。


「ですから私の口からは……申し訳ございません。お嬢様に直接聞いてください」


「……はい。あ ありがとう ロズベルトさん」



 フィリップはリリアを国外追放とすると発表した。

 再びヴァロリアに足を踏み入れれば死刑に処すと付け加えた。



 そして、フィリップは、クリストフ・キーズ伯爵を宮殿に呼ぶのであった。

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