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赤毛の騎士がやって来た

 コンコンコン


「ロザリーヌ様 失礼しますっ」とキャシーがいつもよりかしこまってドアを開ける。

 その後ろには背が高く、赤毛をぴちりとタイトに束ねた騎士がいた。


「ロザリーヌ様付で本日より護衛につきます。メリア タルテです。この命をかけてお守りします」


 背は180センチ近くあり、低音のハスキーな声。しかし名前はメリア。

 女性騎士である。あくまでメリアは王宮騎士団の一員。女性であると告げられなければ誰しもが男性だと思うであろう姿。


「あ、よろしくお願いします。メリア……?」


「ロザリーヌ様 メリア騎士はあの、その……女性です。レディなのです。」


「レディからは程遠いです。メリと呼んで頂ければ光栄です。」

「メリア 素敵な名前。宜しくお願いします。メリ」


 ロザリーヌも少々困惑しているが、女性ならば妙にドキドキしたりせず、気を使わずに打ち解けそうだと安堵の笑顔を向ける。




 コンコンコン


 さらに来訪者が続く。



「メリア騎士 ロザリーを宜しく。頼りない私の妹、誤解されがちだが大変素直でかわいい王女だ」

 と部屋に入るなり歩きながら話すのはフィリップ王太子。

 褒められなれていないロザリーヌにはくすぐったい言葉である。

「…………」

「はい 命に変えてもお守りいたします。」


「ロザリー、どうだ?女性なら安心だ。」

 女性騎士ならば恋にも発展しようがない、安心なのはそばに置いておきたいフィリップであった。



 コンコンコン


 また来訪者がやって来る。


「失礼いたします。」


 そこには、ロザリーヌの専属騎士が誰なのかまだ知らされていなかったダミアン騎士がマシュー団長と共に来たのだった。


「マシュー団長、十人目の騎士 期待している」

 とフィリップの十人目というワードに多少ざわつくも、マシュー団長は自信があるようである。


「メリア タルテは王宮騎士団の中でも優秀な騎士十名に入ります。このダミアンと同じく。ご安心ください。フィリップ様」



 お偉い方が去った後、ダミアンは口を開いた。


「メリ、ロザリーヌ様の護衛はお前には重すぎる」

「なんだ、不服か」

「外出時は俺に知らせろ」

「なぜだ?」


 小声で話すダミアンとメリアにロザリーヌは耳を澄ませている。


「失礼いたしました。では」


 ロザリーヌを真っ直ぐに見つめ直したメリアはニッと口を平らにし話しかける。


「ロザリーヌ様 本当の王都をご覧になりたいですか?」

「本当の王都……はい!」

 メリア騎士の粋な提案に目を輝かせたロザリーヌ。


 ダミアンはチラリとメリアを睨み一礼し部屋を後にした。


 ドアが閉まると、メリアはまた低音のかすれた声を絞り出す様な小声に変え話す。


「ロザリーヌ様、クビにしないでくださいね。噂はダミアン騎士から伺っています」

「え ダミアン騎士から?」

「はい。とても可愛らしい方だと。意地汚い王女はどこぞに置き忘れてきたようで、あれはきっと悪魔が憑いていたのではと。」

「…………」

(ダミアンがそんな風に……私を分析してくれていたの?嬉しいような……嬉しいような……)


ポッと頬を赤らめたロザリーヌに気付いたメリアは失礼なことを言ってしまったと少々焦ったようだ。

「あっ失礼しました。初日から戯言を」

「いえ。気にしないで。気楽に行きましょう。メリ」




 ◇◇◇

 リリアの部屋


「何してるのよ!ポルテ」

「申し訳ございません。」

「どうやってロザリーヌは部屋から出ていたの?どうしてダミアンが居たの?」

「わ わかりません」

「紅茶は?全部飲み干してあったわよね」

「はい。カップは空でした」


 リリアはシモンとロザリーヌが床を共にした事に出来ず苛立ち、メイドのポルテを叱りつけていた。


「はあ……もういいわ」


「あの……」

「何よっ。もういいって言ったでしょ」


「いえ、別件で申し上げにくいのですが」と俯きピタリと静止しているポルテはこの際叫び散らされる覚悟でそのまま続ける。おかっぱの黒髪を耳にかけ、語りだす。


「ダミアン騎士ですが、ロザリーヌ様の専属騎士 メリア タルテの指導の為しばらく、代わりの者がリリア様の護衛に付きます。」


「…………」

 言葉を失い、リリアは立ちくらみをおこし、ベッドの枠にしがみついた。

「リ リリア様……」

「ああ そう」



 ◇◇◇


 翌日 さっそく王都にお忍びでメリアと出かけるというロザリーヌ。


「ロザリーヌ様 またそれは大変危険でございます。」

「王都の治安が?」

「治安もですが……そのロザリーヌ様のイメージが……ですね」


 王都では未だロザリーヌ王女の悪評は根深い物があり、いわば嫌われ王女がうろうろすれば、またトラブルを招きかねない。キャシーは心配で仕方がない。


「大丈夫、変装するからっ」

「……」


 コンコンコン


「メリです。失礼します」

 メリアは、令嬢達の普段着ドレスを数着抱えて戻ってきたのだ。


「私の妹のものです。本当にこんなもので良いのですか?」

「はい。もちろん。お礼にあのドレスルームに眠る派手なドレス、妹さんに差し上げるわ。」

(派手すぎて着ないかな……妹さん)


「はい。ありがとうございます」



「メリア騎士、本当に危ないことはしないでくださいよ」

「はいはい。もちろんですとも。キャシーさんっ」

「…………」


 ロザリーヌは無地のワイン色のすっきりとしたシルエットのドレスに身を包み、メリア騎士の馬に乗り颯爽と王都へ繰り出した。



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