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聖女として召喚されたので、期待に応えてみた結果  作者: 珠音


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裏事情

自身を亡霊だと宣うソフィアに、何を話すのかと好奇の視線が注がれた。ミハイルなどはこれで釈放されるとでも思っているのかすっかり安心した様子で椅子に座り直している。



「……私は、死んだ後、どういう訳か……気付いたら霊体となって自分の部屋のベッドに縛り付けられておりました。側にはミハイルが居て……私と、お祖父様とお祖母様を殺したと言いましたわ」


満を持してソフィアはそう言うと、ミハイルを睨み付けた。


「何を言っているんだっ?!違うだろう!!それでは俺が悪い事になってしまうじゃないか!!恩を仇で返すのかっ?!」


ミハイルは再び椅子を倒す程の勢いで立ち上がったところを衛兵に羽交い締めにされ、苦悶の表情を浮かべた。


「恩……?」


立会人がミハイルに向けて木槌を打とうと振り上げた。しかし、ソフィアが口を開いた事により行き場をなくした木槌は申し訳無さそうに元の位置へと戻った。


「あなたが私にした事で、私があなたに恩を感じる様な事が一つでもあったでしょうか?いえ、何一つございませんでしたわ」


ソフィアはミハイルを見つめながら、キッパリと言い切った。


「最初からあなたと二人きりの世界だなんてまっぴらごめんだと申し上げておりましたのに……どうお伝えしたらあなたは理解されるのでしょうね」


ソフィアは「困ったわ」と、手の平を頬に当て小首を傾げた。


「……でも、ここにいらっしゃる皆様には、是非とも聞いて頂きたい物がありますの」


そう言うとソフィアはローブの中から一体のビスクドールを取り出し、証言台の上に置くと、ニコッと微笑んだ。


「……それは、何でしょう?」


立会人は訝しげな表情で、そのビスクドールを覗き込む様に身体を前のめりにしながら問い掛けた。


「これは、声を吹き込む事が出来る魔導具ですわ……魔力を使って声を吹き込み、その声を再生させる事が出来る物で、ミハイルが用意した物ですの」


代理人も人形を覗き込み「ほぅ」と、声を漏らした。



「……あんな物を隠してたから、やたらとローブがもこもこしてたのね」


「しっ!!」


実菜の独り言に、静加がぺしっと実菜の腕を軽く叩いて窘めた。

しかし、あの人形に吹き込まれた声と言えば、ここで聞かせる様な内容ではなかったはずである。

メイメイは何がしたいのだろうかと、実菜は首を傾げた。


「……では、早速ですが……シズカさん、お願い出来ます?」


メイメイ……いや、ソフィアは上品な所作で静加を振り返った。


「ああ、はいはい。魔力ね。了解よ」


メイメイでも人形を作動させる事は出来るのだろうが、今はソフィアである。わざわざ静加に魔力を流すよう要求した。

静加は椅子に座ったまま腕を伸ばすと、そこから人形に魔力を流した。少々、横着な感じがしなくもない。

しかし、代理人の生ツバを飲み込む音が響き、何が起こるのだろうと、皆その人形に注目していた。




『……もっと早くそれに気付いていたら、苦しんで死なずに済んだんだぞ?それに、お前のお祖父さんとお祖母さんだって死なずに済んだんだ』



可愛らしい顔をしたビスクドールからミハイルの声が響いてくるのは些か気持ち悪い。代理人はメガネがずり落ちているのも構わず、目を丸くしてビスクドールとミハイルを交互に見比べていた。



『そうよね。私とお祖父様とお祖母様を殺した毒は今はどこにあるの?』



『必要無くなったからね。屋敷の裏庭に埋めたよ。君が誰の目にも触れずにいてくれるというなら、もう用意する必要もない』



吹き込んだ声はここまでだったようで、暫し沈黙が流れた。




何これ……私が聞いたのと違うじゃない。しかも、こんな酷い会話いつしてたのよ?!




「……これは、霊体となった私とミハイルの会話を吹き込んだ物ですわ」


「……そのようですね。この様な魔導具は初めて見ました」


立会人は沈黙した人形を実菜と同様に呆然と見つめたままだったが、ハッと我に返ると陛下を振り仰いだ。


「陛下、ご判断を」


「ふむ。ミハイルの自白と取って良いだろう。これからの人生は労働力となって、罪を償うがよい」


立会人は頷くと、ソフィアに視線を戻した。


「ミハイルの有罪は確定しました。もしかしたら、あなたは、そのぅ……消えてしまうのでしょう?その前に、彼に何か伝える事はありますか?」


「お気遣いありがとう存じます」


ソフィアは笑顔を立会人に返すとミハイルに視線を向けた。

ミハイルは俯いてぶつぶつと何事か呟いていたが、ソフィアが声を掛けると顔を上げた。


「ソフィア……どうして……話が違う。俺の思い通りの女になって蘇ったんじゃないのか?」


「仰る意味が分かりませんわ。どちらにしても死人は蘇りません。絶対に。あなたがされた事は三人の人間を殺したという犯罪だけですわ」


ミハイルは、それでもまだ納得が行っていない表情を浮かべ、ぶつぶつと呟いていたが、ソフィアは立会人に向き直ると「以上ですわ」と可愛らしくカーテシーをした。その瞬間、ほわんとした煙がソフィアを包む。実菜が「あっ」と、言っている間に煙は消え、ソフィアが着ていたローブが「ばさり」と床に落ちソフィアの姿は消えていた。


「……嘘だろ?ソフィアが消えた?」


ミハイルは呆然とした表情で膝から崩れ落ち、項垂れた。しかし、実菜は見てしまった。床に落ちたローブの端から、もぞもぞと這い出て来たカメムシを。


「……何でよりによって」



カメムシなのっ?!



「しっ!!」


実菜は再び静加に窘められた。


「ミハイル……お前のした事は三人の人間を不幸にしただけだったのだよ。ソフィアが消えたのは、お前がそうしたからだ。ソフィア·グランデはもう、この世のどこにも居ない。それを認め、生涯を労働に費やせ……連れて行け」


陛下の威厳のある声が響くと、衛兵がミハイルを強引に立ち上がらせ、引き摺る様にして出て行った。


ミハイルが連れ出された後、再び暫しの沈黙が流れた。



これは……もう、帰って良い感じかしら。終わったのだから用はないものね?



実菜はどうしたらいいか分からず静加を見ると、彼女は床に落ちたローブを拾い上げていた。


「聖女様、申し訳ございませんでした。いくら演技とはいえ、大変失礼な事を……」


「……へっ?」


声を掛けられ振り返ると、代理人の男がいつの間にか側に来ており、メガネを押し上げながら意味不明な言葉を宣う。


「あ、そうそう。実菜は知らないのよ」


静加がしれっと代理人に伝えると、代理人は目を丸くして驚いている。


「あ?!そうなのですか?何故?」


「へっ?!ちょっと、待って!何の話よっ?!」


「聖女。少し、落ち着きなさい」


上から陛下が宥めるような声を降らせた。

法廷内には今、実菜の他には陛下と立会人、代理人と静加だけである。そして、何故か実菜以外の者達からは仲間意識の様なものが感じられていた。


「シズカが聖女は嘘がつけない人間だと……顔に出てしまうと言うのでな。黙っておいたのだ。悪かった」


陛下は説明しているつもりのようであったが、それでも全く意味が分からない。実菜は眉を顰めた。


「この審判は八百長みたいなもんだって事よ」


「八百……長?」


「そう。審理なんかしなくても最初からミハイルは有罪なの。聖女の証言があれば十分だもの」


静加はしれっとしている。


「……は?じゃ、何で……こんな大掛かりな……」



メイメイまで使って……て、あれ?これって、皆がグルって事?……よね。皆、演技して……?

はっ!!静加の打ち合わせって……まさか、これっ?!



実菜は、やっと事の次第を理解した。


「ミハイルには、ソフィアはもうこの世に居ないという事を分からせる必要があった。目の前で消えた方がよりリアルでしょ?……というのは建前で、弔いね。ソフィアへの」


静加は急にしんみりとした雰囲気を醸し出した。


「……弔い」


「しっかり、裁いてやったぞ!!……っていうね」


「あ……あぁ、なるほどね」


しんみりとした雰囲気からのガッツポーズ。真面目なのか、ふざけているのか。しかし、直ぐ側で笑い転げる者がいる。代理人であった。


「オリオン……お前、相変わらず笑い上戸なのだな」


代理人の名前はオリオンというらしい。立会人が呆れた様子で笑い転げるオリオンを見ていた。神経質そうな印象とは対照的で意外である。


「いや……シズカさんの動きが面白くて……証言の時だって、急に踊り出すし……あの時は笑いを堪えるのが大変でしたよ」


オリオンはメガネを外して涙を拭いた。涙を流すほどとは余程の笑い上戸である。しかし、どうやら静加の動きが特に彼のツボらしい。

本当に静加の踊りが異議ありだったという事か。と、実菜は理解した。


「何にしても、今回の件の裏事情は他言無用である」


下へ下りて来た陛下からは先程の威厳のある雰囲気は消え、優しい面持ちになっていた。


「御意。亡霊が証人などあり得ませんからな」


立会人が深く頷いた。やはりそこは特例中の特例だったようだ。


「いや、しかし……死後の世界から霊体まで召喚出来るとは、シズカさんは凄い魔導師なのですね」


「まぁね〜」


謙遜する様子は全く無い静加の事は気にせず、オリオンは素直に感心している。

なるほど、そういう設定ですか。実菜が静加にアイコンタクトを送ると静加からはウィンクが返ってきた。


「でも、死後の世界から召喚されて、法廷に召喚されるって、ややこしいわね」


実菜は何気なく呟いたつもりだった。だったのだが、またも笑い転げる者がいる。オリオンだ。

どうやら彼は笑いのハードルが低いだけのようだ。


「……召喚からの……召喚……アハハ」


どの辺がそんなに面白いのか。オリオンは再び涙を拭っていた。



この人、見た目とのギャップで損するタイプなんじゃ……いや、待てよ。これは得になるのか?



笑い続けるオリオンを見ながら実菜はそんな事を考えていたが、何にせよ彼のお陰で朗らかな……若干引き気味ではあったが……雰囲気でミハイルの審判は幕を閉じた。

お読み頂き有難う御座いました。

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