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聖女として召喚されたので、期待に応えてみた結果  作者: 珠音


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セシルの魔法

「見つけられるとは思ってなかったんだけど、よく見つけたわねぇ……割れてるけど」


馬車に戻り、実菜が拾い集めた硝子の破片を包んだハンカチを広げて見せると、静加が関心した様子で頷いた。しかし、見つからないと思っていたとは酷い話である。

時間を無駄にするつもりだったのかと実菜は納得いかない気持ちになったが、再びハンカチで破片を包むと馬車の中の様子に「それにしても」と、首を傾げた。


馬車に乗せられたミハイルは未だ目を覚ましていないようだが、何故か椅子の下に転がされている。そしてロイドは項垂れていた。


「……何か、あったの?」


ロイドの暗い顔が気になり声を掛けると、ロイドは長く息を吐いた。


「ミハイルが、ソフィアが長くない事は分かっていたと言っていたでしょ?何故分かっていたのか理由を教えてあげたのよ」


静加が元気の無いロイドの代わりに答えた。


「この世の中にそんな人間がいるなんて……床で十分です」


ため息混じりにロイドが呟いた。どうやらミハイルを椅子の下に転がしたのはロイドのようだ。相当ショックが大きかったらしい。そんなロイドのズボンの裾をメイメイが戯れるようにカリカリと掻いた。


「メイメイ……慰めてくれるんですか。ありがとう」


ロイドは戯れていると思っているようだが、真実はそうではない。メイメイはロイドのズボンで前足の泥を落としただけだった。その証拠に、ロイドが抱き上げようとすると、メイメイはその手からするりと逃げた。実菜はその事に気付いたが、ロイドが気の毒なので黙っておいた。後でズボンの裾を払ってやれば良い。


「ハハッ。本当に猫みたいですね」


そんな事とはつゆ知らず、ロイドは笑っている。少し元気が出たならメイメイの事は見なかった事にしてやっても良いかと実菜は思った。


「ところで、ミハイルはまだ目を覚まさないの?まさかとは思うけど、生きてるわよね?」


「生きてるわよ!起きたんだけど、また騒ぐもんだから……面倒だから……また、眠ってもらったのよ」


静加の後半の台詞が尻窄みになっているのが気になる。


「眠ってって……それは穏便な感じでって事よね?」


「どういう意味よ。殴り倒した訳じゃないわよ?!魔法でよ?」


何故に紛らわしい雰囲気を醸し出したのかは分からないが、しかし静加なら強引な方法も辞さない気がした実菜は笑って誤魔化した。


「まぁ、良いわ。じゃあ、帰りましょう」


静加は不服そうであったが、渋々そう言うと一旦馬車から下り、御者台へと移動した。

そう、静加はいつの間にか馬車の操縦が出来るようになっていたのである。それどころか、馬にも乗れるようになっていた。

乗れなくてはいけないという事でもないのだが、静加の乗れるようになりたかった理由は「何か悔しい」という事だった。が、それは実菜には理解出来ない感情であった。



そんなこんなで、王宮まで戻ったのは夕方になってしまっていたが、ミハイルを地下牢に預けると第一魔道師団の執務室に赴く。今回の件を報告する為である。



「遅かったね……で、どうだった?」


出迎えたのは静加の夫、セシルだ。


「その前に、セシル。あなた何処かに出掛けてたの?」


静加がこう問うたのは、セシルが他の師団員から「おかえりなさい」と、言われていたからだ。

恐らく静加は何気なく聞いただけなのだが、セシルが目を泳がせた事で静加の視線が鋭くなった。


「あ、師団長。壁は直ったんですか?」


そこへ師団員のトイが声を掛けた事で、話が一気にややこしい事になる……と、思われた。


「あ、ああ」


歯切れ悪くセシルがトイに返すと、トイはセシルと静加を交互に窺い気不味そうな顔をした。


「あの……俺、何か不味い事を言っちゃいました?」


コソッとセシルにトイが問う。


「トイ、良いのよ。それよりセシル。壁って、家の壁の事?」


「あー……うん。思い出した魔法があって……その……勤務中ではあったんだけど……でも、何て言うかな、これも魔法技術の向上の……」


「で、直ったの?」


「あ……うん」


セシルは静加に怒られるとでも思ったのか、ごにょごにょと言い訳をしていたが、怒るわけでもないらしい静加の雰囲気に、逆に拍子抜けした様子で頷いた。




「ふーん……で、これを直すの?」


セシルの執務室に移動し、一連の報告をした後、静加がテーブルの上に例の破片を広げると、セシルが腕組みをしてまじまじとその破片を眺めた。

そんなセシルをロイドが憧憬の眼差しでちらちらと盗み見しているが、それに気づく事もなくセシルは徐ろに人差し指と中指を使って空中に魔法陣を描き出した。


「凄い……火で陣を描いている。そんな事、考えた事も無かった……いや、その前に出来ないや」


ロイドが心酔した様子で呟くのを見た実菜は、ふとロイドがチョークで魔法陣を描いていた事を思い出した。


「そういえば、ロイドはいつもチョークを持ち歩いているの?」


「……それ、今、答えなくてはいけませんか?」


ロイドは今、セシルの一挙手一投足に集中していた。実菜の声は今は雑音なのである。視線はセシルに向けたまま、ロイドはメモに何やら書き起こしていた。



「相当なのね」


「え、何がですか?」


セシルが陣を描き終えて一段落したところで声を掛けると、ロイドはきょとんとした顔で実菜を振り返る。実菜の質問など遠に忘れているようだ。


「これは時を戻す魔法なんだけどさ」


こちらのやり取りは一切気にせずセシルは作業を続けている。説明しながら、空中に浮いた状態の魔法陣を破片の上に移動させ、そこで魔法を発動させた。

魔法陣は赤く発光すると小さな炎に変化し、破片を包む。


「不思議……周りは燃えないのね」


「まぁね、炎は魔法を発動させる切っ掛けってだけで、燃やす事が目的ではないから」


「……あの!火で魔法陣を描いたのには何か意味があるのですか?!」


「別に……他に描く物が無かったから」


つまり、只の横着だったわけだが、ロイドは「なるほど!」と、心酔した様子は崩さない。


「今は火由来の魔力で描いたから炎だけど、水由来なら水が出てくるかな」


「なるほど……いつも、チョーク等で魔法陣を描いているのですが、師団長の様な描き方をした場合、何の魔力でも大丈夫なのですか?!」


「効果が変わる魔法もあるけど……基本は何でも大丈夫だよ……て、事で完成したみたいだけど、これで良かった?」


ロイドが興奮している間に炎は消え、代わりに瓶が現れた。それは意識の中で見た瓢箪瓶であった。


「これよ!ミハイルはこの瓶からソフィアの部屋の水差しに何かを入れてたの!」


思わず実菜が叫ぶと、静加が静かに頷く。


「ふーん。じゃあ、陛下に報告しておくよ。ミハイルの刑を決めるのは陛下だから」


「えっ?裁判とかじゃないの?」


きょとんとした実菜に、セシルがきょとんとして返す。

この国では陛下が最終的な判決を下すのだが、庶民の事件等は騎士団預かりで有耶無耶になる事が殆どだという。若しくは問答無用で牢に入れられる。


「何その曖昧な感じ、よく暴動が起きないわね」


「勿論、事件の内容によるよ。一生牢に入れてる訳ではないしね。今回は殺人事件という事だし陛下に話を通すよ」


セシルはそう言いながら執務机で報告書を纏めた。


「……あの、質問を宜しいですか?」


メモ帳を片手に遠慮がちにロイドが手を挙げた。


「ん、何?」


セシルが報告書から顔を上げた。まるで学生と先生である。


「先程の魔法に話を戻してしまうのですが……話では時を戻すという事でしたが、それは物だけでなく人体にも言えるのでしょうか?」


セシルの注目を正面から受け、緊張した面持ちでロイドが質問すると、セシルは両手を組んでその上に顎を乗せると伏し目がちに息を吐いた。


「……人体の場合は陣の形が少し違う。だけど、それは禁忌なんだよ」


人体で時を戻すという事は、死んだ人間も生き返ってしまうという事だ。禁忌というのはそういう事からだろう。


「でも……出来てしまうのですね」


ロイドがごくりと唾を飲み込む。


「多分ね」


「……多分?理論だけだって事?」


曖昧な返事をしたセシルに静加が首を傾げた。


「例えば、僕の年齢から多少時を戻す事は出来ると思う。けど……もし、死んだ人間の時を戻そうとしたら術者が死ぬ。もしかしたら、周囲にも影響が出るかもしれない。しかも、そうまでしても死んだ人間の時が戻るとは限らない」


「……術者が」


「そう、命を戻すには術者の魔力と命だけでは足らないって事」


「なるほどね。命を持ってしても命は戻らないって事ね。自然の理を無視するのは神の所業……人間には無理って事なのね」


静加が深く頷いた。


「でも……その理論が存在し「戻るとは限らない」という事は、きっと昔の魔導師が試した事があるんだろうね」


「そうね。探求者は試したくなるでしょうね……弟子とか使って」


セシルがどこか遠い目をして呟くと、静加がそれに同意したが、ロイドは静加の言葉に震え上がった。


「えぇっ?!弟子を使って、ですかっ?!」


「自分でやったら死んじゃうじゃない」


「静加、あまりロイドを怖がらせないでよ。可哀想じゃないの」


ロイドは長身の身体を縮こませている。そんなロイドをセシルは繁々と眺めた。まるで、今、初めてロイドを認識したかのようだ。


「君さあ……何で第一魔導師団じゃないの?」


「え……それは、面接の時に言った通り……その……」


セシルの突然の質問にロイドはしどろもどろである。


「何で第三が良いの?」


セシルは更に問い詰める。


「もう幽霊も怖くないだろうから、第一に移動しても良いんじゃない?」


何故か静加は爆笑しながらそう推した。


「ええっ?!怖いですよっ!!……あ」


ロイドは、はっきりと自白してしまった事に気付き、両手で口を塞ぐと上目使いでセシルを窺った。


「え……そんな理由?」


若干呆れた顔をしたセシルに、ロイドはがっくりと肩を落とした。きっと、セシルにだけは知られたくなかったに違いない。


「怖いと思うから怖いのよ。怖くないと思えば怖くないわ」


未だ笑いが収まらないのか、静加はへらへらとしながら当たり前の事を言った。


「静加、それ当たり前じゃない?」


「そうよ、当たり前なのよ。怖いと感じているのは誰でもない自分なんだもの。感じ方を変えれば良いのよ」



そうなんだけど……難しくない?そもそも、そんな簡単に変える事が出来れば悩んでなくない?



実菜が、うーん。と、眉間にしわを寄せ首を傾げたが、ロイドも同様に首を傾げていた。

セシルは何故か不服そうな顔で頬杖をついていた。

お読み頂き有難う御座いました。

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