貴女が聖女ですか?いいえ、違います②
「囮ってどう言う事ですか?」
もしかしたら私、殺されたりしてたかもしれないって事?と、思うと声が震えてしまっていた。
「囮って言うと聞こえが悪いな。まぁ、ミナ自身に媚び売って来ることは有るだろうなとは正直思った、けど危害を加えることは無いと踏んでいたし、出来るだけ容姿が特定出来ない様には配慮したよ?」
だから顔も隠して声も出さなくて良いって事だったのね。だったら私で無くても良いのでは?と思ったがここは口を噤んでおこう。
「第一王子が立太子されるのがほぼ確定してるんだけど、何故かここに来て第二王子派が騒ぎ始めてね。元々この派閥は過激な家が多いってことではあったんだけど今まではそこまであからさまではなかったんだ、だけど第一王子派の筆頭が不自然な事故に合ったり、他の支援者が毒を盛られたりして、陛下も放置出来なくなった。もちろん捜査はしていて、主犯の目星も付いてる、けど決定的でない。そこで聖女の存在を公にする事にした。間違い無く取り込もうと接触するだろうからね。そこで何とか尻尾を出させ様としたんだ。
でも、何の説明もしてなかったのは良くなかったよね。怖がらせてごめん」
セシルは疲れた様な顔で謝ると私に向かって頭を下げた。
「頭を上げて下さい!ビックリしたけど大丈夫です」
こんなに色んな人の思惑があったなんて考えもしなかった。此処でも日本でも平和に過ごしていたし、争いなんて自分とは縁遠いもの、と思い込んでた。此処は異世界なんだから今迄の常識で考えてたら駄目なのよね。もっと考えないと。と反省した。
「そんな簡単に許しては駄目よ。この件は今日で終わり。と言う訳ではないのよ!存在自体は確実になってしまったのよ?これからも巻き込まれるかもしれないのよ?」
デイジーはそう言うと頬をぷぅと膨らませて実菜を見た。
彼女は何で囮の事を知っていたのかしら。話をすればする程、謎が深まる感じがするのは気の所為かしら。
「差し出がましい様ですがデイジー嬢、貴女の方が有名人ですが?顔もしっかり見られてますし?」
「そうだよ、あんな派手な登場の仕方しちゃったんだから」
カイルとセシルに言われたデイジーはジト目を返した。
「私だって穏便に聖女様に会おうとしたんだよ?!でも上手く行かなかったから聖女様の興味を引かせる様にした結果、派手になっちゃったのよ。別にピアノやら歌やら、しなくても寄生虫は取り出せたんだから!」
怒った様に早口で訴えるデイジー。彼女にとってもあの一件は不本意な物だったらしい。確かにピアノと歌が無ければ会おうとはしなかったかもしれない。他に私と接触出来そうな機会も無さそうだし、彼女も必死だったのね。
「でも、あの虫の存在が知れたって事は結果としては良かったのかしらね!……副師団長さん!!だったかしら??」
最後の呼び掛けは鉄格子に向かっていた。
え?ロイ?
バッと全員廊下に目を向けるが、誰も居ない。
と、そこにスッと人影が鉄格子の前に進み出て来た。ロイ・スティックマイヤー、その人だった。
え?隠れてたの?何で?
「お前、何してんのそんなところで。いつからいたんだよ?」
「『結果から言うと私は日本人で間違い無いと思う』ていうあたりかな?入るタイミング逃してしまいまして……」
目を丸くして呆れた声を漏らすセシルにロイが気不味い表情で答える。
それ、かなり序盤から居たってことよね??
「あら?件の女が私だったから入って来ないで話だけ聞いてたんでしょ?でも、コッソリ気配を消して聞き耳立ててるなんて、何か企てているのかと勘繰られるかもしれなくてよ?」
デイジーはニヤニヤと意地の悪い笑顔を浮かべてロイを見つめるが、ロイはウロウロと目を泳がせている。
私を始めセシルもカイルも話が見えずハテナが飛ぶ。この二人は知り合いだったのか??
「私、この間の王宮魔導師団の中途採用試験を受けたのよ?魔導師団に入れれば聖女様に自然な感じで会えるかなぁ、と思って」
デイジーはセシルとロイを交互に見遣った。若干睨んでいる様にも見えるのは気の所為か?
つまり試験に落とされたので強引に私に会いに来たと、そういうこと?!
「本当かロイ?僕は何も聞いてないぞ?!」
セシルは目を丸くしてロイを見つめる。
「討伐直前に突然ぶっ込まれた試験ですよ?!貴方に確認しましたよね?!私に丸投げしといて忘れたんですか??……まぁ、結果通達云々は……帰ってきてからも建国記念パーティーでてんやわんやでしたし」
あ、それは申し訳ない。私の所為ですね。
「その場で合格にすれば良かったんじゃないか??試験内容は見ていないが問題は無かっただろう?」
セシルが興奮気味にロイに詰め寄る。ロイは若干引きながら苦笑いのまま固まった。
「いや、その場では……でも、もしかしてとは思いますが、ウォルの件忘れた訳ではないですよね?!」
ロイは歯切れ悪く言葉を濁すかと思えたが、後半何故かセシルに逆に詰め寄った。ウォルという人の事で何かあったのだろうか。セシルの目が泳いでいるのできっと忘れていたのだろう。
「あのウォルって人は私と一緒に試験を受けてた貴族令息の家からお金でも貰ってたんでしょう?まだクビにしてないの?あの人きっとこれからも問題起こすわよ?!そんな雰囲気だったわ。……デブだったし!」
デブは関係ないと思う……。
しかし腕を組んで鼻息荒くしているデイジーを見る限り、何やら色々あったらしい。と窺えた。
しかし私には先程から不安に思う事がある。私は恐る恐る声を上げた。
「あの、ちょっと良いですか?」
恐縮した私の声を受け四人の視線がこちらに向けられた。
「あの、今までの話からすると、デイジーさんも召喚されて来たということなんですよね?だとしたら……デイジーさんが聖女なのではないでしょうか??何て言うか、その、色々凄いみたいだし」
知識も豊富な印象だし、魔法ももしかしたらセシルより凄いんじゃないかという感じがする。私なんかよりデイジーの方が相応しいと思うところしかない。
「あ、それは無いよ。歴史書読ませて貰ったけど、瘴気を浄化した人を聖女と呼んだんでしょ?私、試したけど出来なかったもの。一瞬弱まるけど直ぐ元に戻っちゃった。副師団長さん見てたよね?」
デイジーはサラッと私の意見を払い除け、ロイを見遣った。
「えっ、見てた事気付かれてた?」などとモゴモゴ言いながら手で口を覆ってウンウンと頷いている。若干顔が赤いのは気の所為か?
と言う事は試験内容に浄化もあったのかしら。試験なら見られてるのは当たり前だと思うのだけど?一体どんな試験だったんだろう。凄い気になる。
だけど私は浄化どころか、簡単な魔法すら使えないんだから。やっぱりこの彼女が聖女なんじゃないのかな。それとも何も出来ないからこそ、これから出来ると一縷の望みを私に托しているのかしら。
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