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聖女として召喚されたので、期待に応えてみた結果  作者: 珠音


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引っ越し

数日後、実菜は静加の引っ越しの手伝いをする為に寮に訪れていた。

あの日、やはりセシルは新居に静加を連れて行ったらしい。その屋敷も静加の要望を可能な限り取り入れてあったらしく、静加の逆鱗に触れる事は免れたという話だ。



「静加、荷物は纏めたの?」


「うん。ここに」


見ると部屋の真ん中に三十センチ四方の木箱が置かれており、その中に荷物が詰められている。


「ねぇ、これ……何?」


箱の中を見た実菜は眉を顰めた。中に入っているのは石ころや葉っぱだ。実菜が石を一つ摘み上げ、掲げてみるがやはり只の石ころのようだ。


「ああ、それね。天然石以外で魔力を込められないか実験してて……普通のじゃ砕けて駄目だったから、少しでも力がありそうな石を見付けると拾っておくの」


「……あ、そう。じゃ、これは?」


実菜は、何の葉っぱか分からないが、真ん丸の形をしている葉っぱを摘み上げた。


「あ、それは綺麗に丸かったから」


「……薬草とかじゃないんだ」




これではまるで子供が「宝物」として集めている物だわ。



実菜は木箱を何とも言えない気持ちで眺めていると、静加はクローゼットから服を取り出し別の木箱に仕舞っていた。


「あ、それ、セシルからのプレゼントのドレスね」


ブルーのドレスが見えたが、それ以外は白いワンピースが一着と他は師団服だけだ。


「服……それだけ?」


実菜はクローゼットを覗き込んだが、やはりそれだけのようだ。


「そうよ。洋服なんて必要ないじゃない」


考えてみれば静加が師団服以外を着ているのを見た事がない。そういう実菜も最近は師団服ばかり着ているので人の事は言えないのだが。


「ところで、荷物はどうやって運ぶの?馬車を借りる?」


「馬車で迎えに来てくれるらしいわ」


それを聞いて実菜は安心した。少ないとはいえ荷物を持って運ぶのは大変である。


「ところで、あの犬は……?」と、実菜は部屋の中を見渡した。見た所、動物の影は見当たらない。


実菜の言葉を受け、静加の顔が曇る。


あの日、静加が渋々……本当に渋々、犬を引き取る事にし、取り敢えず寮の部屋の中に犬を入れて置いたのだが、仕事が終わり帰って来た時には犬の姿は消えていた。そして、今の様子を見る限りでは消えたままなのだろう。


「もしかして、本物の犬だったのかしら。喋らなかったし」


「それなら尚更、消えた理由が説明出来ないじゃない」


静加は沈んだ表情で溜め息を吐いた。

何でこの国に来たのか理由が気になるところだが、このまま帝国へ帰って行ってくれたならそれで良いと静加は願っていた。


「でも、別に害は無さそうだから、また現れたら飼ってあげたら?」


静加は呑気な事を言う実菜を半目で見つめた。


「今は害は無くとも、ああいう生き物は気まぐれよ?いつまた『殺戮の方が楽しい〜』とか言い始めるか分からないのよ?危険だわ」


「さ、殺……?!」


静加の想定外の言葉に実菜は言葉を失う。その実菜の様子で、帝国で起きた過去の出来事を知らないのだと理解した静加は、一応伝えておいた方が良いだろうとベッドを椅子代わりに腰を下ろした。


「昔……帝国からこの国に亡命して来た人がいてね。その人が記した……言わば告発本ね。それが、禁書の棚にあったのだけど、それによれば皇帝の反対勢力が強かった時代があったみたい。

陥落寸前になって……でも、いざ皇帝を討つ寸前で」


静加は何とも言えない表情で、一旦言葉を切った。


「反対勢力を指揮していた者が、仲間を全て斬り殺した……らしいわ」


「えっ!!何で?!」


皇帝ではなく仲間を殺すとは。今の話だけでは全く意味が分からない。


「元々その指揮者が反対勢力を殲滅する為に皇帝に送り込まれたという事になってるらしいけど、その指揮者は仲間を斬る時に「裏切り者」とか「殺される前に殺してやる」とか口走っていた。と書いてあったわ」


静加は「分かるわよね」とでも言いたげな視線を実菜に送ったが、実菜からは「分からないわ」という視線が返ってきた。


「この件だけではなくて……同じ様な奇妙な大量虐殺は何度かあって、それでこの告発本の著者……皇帝側の幹部クラスの人だったみたいだけど……恐ろしくなって亡命したみたい」


「……つまり?」


察しが悪いのか、それともそう考えたくないのか、話がいまいち伝わらない実菜に、静加は嘆息した。


「海竜様は九尾が好き勝手していたと言ってたわよね?」


九尾の名を出した事で流石の実菜も合点がいったらしく、一呼吸置いて目を見開いた。


「メイメイが……関係してたって事?」


「陛下とシャーリン様にした事を思い出してよ。彼女にしてみたら情報操作なんて動作もない事なのよ……きっと。

それに……例えば、さっきの話で言えば反対勢力のリーダーに化けて暴れる事も可能だわ」



そうだ。あの時、確かに怖ろしい事だと感じたのだったわ。



「そんな懐かしい話、よく知っとったのぅ〜」


「っ!!」


二人以外の呑気な声が部屋に響いた事で、静加がガバッとベッドから立ち上がり、声の出処を凝視した。いつも神出鬼没で驚かされるが、今回も部屋の入口に老女メイメイが音も無く立っていた。


「嘘……いつもより、気を張っていたのに」


「気付かなかった」と、愕然とした表情で静加が呟くと、メイメイは「ふぉっふぉっ」と笑う。


「何しに……この国へ来たの」


緊張した面持ちの静加とは裏腹にメイメイはきょとんとしている。


「お前さん達が面白そうじゃから……来たんじゃ」


彼女が彼氏の家に突然来て「来ちゃった。てへ」みたいなテンションで言われても、こちらも困るというものだ。


「じゃあ、今まで何処に隠れていたのよ」


勝手に付いて来たと思ったら姿を消し、また現れる。何かを企み、探っているとしか思えないがメイメイは静加の問いに飄々としていた。


「この国もすっかり様変わりしているからのぅ……観光してたんじゃ」


「観光……ですか。て、事はメイメイさんはこの国にいらしたことがあるんですか?」


様変わりと言うからにはこの国を訪れた事があるという事である。


「昔な……何処の地に住もうか、色々な国を巡っていた時に訪れたんじゃ。じゃが、その時この国には何かしらの意思が働いておったからのぅ。面倒事は避けたんじゃ」


「何かしらの意思?」


「触らぬ神に祟りなし、じゃ」


あなたがそれを言うか、とツッコミを入れたくなるところだが、それを抑え静加は首を傾げた。


「あなたが言う昔って、どれくらい昔なの?」


「そうじゃのぅ……千年くらい昔じゃったかのぅ」


メイメイは意味深な視線を実菜に送りながらそう言うと「ふぉっふぉっ」と笑った。



千年?……その頃は確か……純子がこの国に召喚されていたんじゃなかったかしら。



実菜がちらりとメイメイを盗み見ると、にやにやと嫌らしい笑みを浮かべてこちらを見ていた。


「余程の執念じゃのぅ」


「っっ!!」


実菜も静加もぎょっとしてメイメイを見つめた。



やっぱり気付いているの?!



別に気付かれていても特に問題はないのだが、問題は彼女が何を企んでいるかという事だ。彼女はその昔は先客がいたから他へ行ったとも取れる言い方をした。では、今はどうか?

折角、瘴気が無くなり平和になりつつある所である。一難去ってまた一難という事か。と、実菜は眉を顰めていたが、ふと気付く。


「あ、でも私達、召喚されてこの国に来たのよ?生まれてきたわけじゃないわ」


「お前さん……気にするとこ、そこかぇ?」


つまり実菜は、執念深くないという事を主張しているのだが、メイメイは呆れた顔をした。


「そうね、私もそれにはメイメイに同意する所だけど……ここに来たのは何が目的なの?」


「何じゃ、そんな警戒せんでも、えぇじゃろうが」


睨む様に見つめる静加に、メイメイは変わらず飄々としていた。


「言うたじゃろ?お前さん達が面白そうじゃと……同じ場所へ戻って来る程の事とは……何があるのか。とな」


やはりメイメイは実菜が純子の生まれ変わりだと気付いている様だった。だが、残念ながら実菜がこの世界に召喚された目的は達成されている。この先は特に変わった事も無く、平々凡々とした生活を送るものと思われた。

静加も実菜と同じ事を考えたらしく二人は揃って残念そうな表情をメイメイに向けていた。


「申し訳ないけど、この国に来た目的は達成されたんです」


仕方なく実菜がそう言うと、メイメイも残念そうな表情に変わった。


「そのようじゃの。邪悪な空気が一切無くなっておる。すっかり澄んでしまったのぅ……お前さんがやったんじゃな?それが、舞い戻ってでもしたかった事なんじゃな?」


メイメイは恨めしそうに実菜を見やる。メイメイはまるで全てを見通しているようだった。


「ええ、そういう事。だから、あなたが期待する様な事は……」


「でも、良いのじゃ!お前さん達が面白い人間である事に変わりはないのじゃ!お前さんの家に住み込みじゃ!」


メイメイは静加の言葉を遮りそう言うと、ビシッという効果音がしそうな勢いで人差し指を静加に向けた。


「ええっ?!何の為にですか!お帰り下さい!」


すかさず実菜がお断りをすると、メイメイは冷ややかな視線を実菜に向けた。


「お前さん、先程の話の後で私にそんな事を言うとは……余程の自信があるのか、それとも只の馬鹿者か」


視線と同じ様な冷たい声色に、実菜は思わず身震いしていた。静加が一歩前に出る。


「やはり、あなたは危険だわ……どこまで抑えられるか分からないけど」


静加がそう言うと、メイメイの身体の周りにバチバチと火花が散った。


「ぐぬぬっ……?!」


メイメイは身動きが取れないようで、苦悶の表情をしている。静加はそれを確認すると、慎重に師団服のポケットから水晶の原石を取り出し床に置いた。


「お前……何を?!」


「年寄をいじめてるみたいで気が引けるんだけどね」


それを狙った九尾の変化である。静加が両手をメイメイに向けて突き出すと、火花を散らした光がメイメイを包んだ。風が吹き荒れ、静加のローブが激しくはためいている。

光に包まれたメイメイは光に呑まれていくように小さくなっていく……が。


「うがぁあーっ!!」


咆哮と共に光が弾けた。光が消えると、大きな白い狐が肩で呼吸をしながら赤い大きな瞳で静加を睨め付けていた。


「……あーあ。封印失敗」


静加は肩を竦めているが、その呼吸も荒い。


「封印……だと?……この私を?」


暫く二人は呼吸を整えながら睨み合っていたが、九尾が先に警戒を解いた。


「それで?次の手は何だ?」


「生憎と今の以外であなたに効果がありそうな術はないわ」


静加は肩を竦めながら首を傾げてお手上げの仕草をすると、それを聞いた九尾は笑い出した。


「では、私がお前の家に住み込むのは決定だな」



いやいや、何でそうなる?!



実菜は突然始まった戦闘に啞然としていたが、九尾の発言に更に驚愕し穴が空く程、九尾を見つめた。


「……仕方ないわね」



ええぇえーっ?!何でぇーっ?!何でそうなる?!



実菜は視線を九尾から静加に移すと、静加は何事もなかったかのように軽く嘆息していた。


「でも、悪い事はしないって約束してよ?」


「ふぉっふぉっ。人間は直ぐ死んでしまうからのぅ。殺し過ぎるとつまらなくなる。大丈夫じゃ」


「……人殺しだけが悪い事ではないのだけど」


本当に大丈夫かしら。と、静加が呟く。



何なの?!この「敵」と書いて「友」と読むみたいな雰囲気は?!



「いやいやいや!!あんた達、マジでヤバい奴等だって!」

お読み頂き有難う御座いました。

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