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聖女として召喚されたので、期待に応えてみた結果  作者: 珠音


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月と狐

体調不良で執筆活動をお休みしてました。少し間が空いてしまいましたが、よろしかったら続きをどうぞ。

身元引き受け人が出来たシャオランはそのままコムに任せる事にし、先程いた部屋へと戻って来ると何事も無かった様にケビンが椅子に座ってお茶を飲んでいた。部屋の隅にはメイメイが控えている。


「どちらにいらしたんですか?!」


隣の部屋から戻ってきたのだろうが、思わず実菜が問うと、ケビンからはキョトンとした顔を返された。


「シャーリンが呼ばれて行った後はずっとここに居たが?」


ケビンだけでなく、シャーリンやロイからも「何を言っているんだ?」という視線を向けられた。



……どういう事?さっき、シャーリン様だって陛下は何処にいるか聞いてたじゃない。



「それで、問題は解決したのか?」


「ええ、無事に一件落着です。やらなければならない事も見えましたし」


戸惑う実菜を気にする事もなく、ケビンとシャーリンは平然と会話を続けている。


「それにしても、久しぶりにシャーリンと話が出来て楽しい時間が持てた。やはり、こちらに来て正解だったな」


「そう言って頂けると光栄です。私も楽しかったです。ふふ、次はお忍びではなく、堂々とお会い出来るように頑張ります」


堂々と会うには、帝国のこれからの評判にかかってくるのだが、それは簡単な事ではない。しかし実菜はそれよりも、今はこの空間のこの違和感に混乱していた。



私がおかしいの?まるで、狐につままれたみたいな……狐?!



確か九尾は狐であった事を思い出し、実菜はメイメイを盗み見た。彼女は目蓋の上がらない目を細めて「ふぉっふぉっ」と笑っているようだったが、何を考えているのかは分からない。



****


「どういう事なの?!私だけ夢でも見てたっていうの?」


「まあ、落ち着きなって」


その後の晩餐に招待されているが、それまで時間がある。シャーリンが用意してくれた客室に戻って来て二人きりになったところで実菜は静加に興奮している心の内をぶち撒け、静加はそんな実菜を宥めていた。


「夢っていうか……どちらかというと陛下たちが化かされたんだと思うけど」


「化かされた?」


「でも、凄いわね。誰も化かされている事に気付かないなんて」


「……何を関心しているのよ。もしかしてそれって、メイメイが関係しているの?」



確かに狐につままれたとは感じたが、やはり彼女が何かしたのだろうか。

実際にはケビンとシャーリンは会話をしていた訳ではないだろうに、まるでその直前まで会話をしていたかの様なていになっていて、そしてそれに誰も疑問を持った様子が無い。

もし、それが本当なら自分がおかしくなった訳ではないとは思えるが、それはそれで怖ろしい気がしてならない。



「そうじゃ、凄かろう?」


「っっ?!」



突然の背後からの声に、実菜も静加も飛び上がって振り返った。二人とも驚き過ぎて声も出ない。


「お前さんら、敏感じゃからのぅ……完全に気配を断ってやったわ。どうじゃ、驚いたか!」


部屋の中には、いつの間に入ったのかしてやったりと言わんばかりの表情の老女メイメイが仁王立ちしていた。


「あの……どこから、入って?」


扉が開いた音は聞こえなかった。実菜が恐る恐るメイメイに問うと、彼女は嬉々として扉を指さした。


「面白かったじゃろ?人間の記憶など朧気なもんなんじゃ。嘘も信じ込めば、真実となる」


陛下とシャーリンの事を言っているのだろうか。という事は、メイメイは記憶を操作したとでも言うのか。


「具体的に、何をしたの?」


面白かったかどうかはさて置いて。答えが分からず、実菜は降参してメイメイに問うと彼女は満足気にニヤリと口角を上げた。


「楽しく会話した。という記憶を入れたとでもいうところかの。あの二人は互いに話をしたがっていたじゃろうからな。現に喜んでおったじゃろう?」


「そうだけど……何で、わざわざそんな事を?」


確かに二人とも嬉しそうにしてはいたが、普通に会話した方が楽しいはずだ。何故わざわざそんな事をしたのか理由が分からない。


「お前さんたちと話してみたかったからじゃ」


「……え?」


全く想定外の答えに実菜は我が耳を疑った。


「私の術が効かぬ人間など今までおらんかったからの。海竜とも知り合いの様じゃったし、どんな奴等なのか気になるのは当然じゃろうが」


儀式の件で渋々来てみたら、術を見破る面白い人間を見付け、ちょっかいを出したくて部屋から邪魔者を追い出した結果だという。


「じゃ……コムさんも?」


邪魔者として追い出したのだろうか。


「丁度、馬鹿者が医務室に運ばれていたからのぅ。利用したんじゃ」


「じゃあ、どうしてわざわざ皆を医務室に連れて行くような事をしたの?」


静加がメイメイに問う。メイメイの言う馬鹿者とはシャオランの事だろうが、静加の言う医務室に連れて行ったとはどういう事だろうか。


「静加、それどういう意味?」


「お前さん……鋭いのか鈍いのか、分からんのぅ」


実菜は静加に向けて小声で問うたのだか、メイメイが半ば呆れ顔で実菜を見つめた。


「実菜はきっと、顔を見ないと分からないのよ。あの時、あなたは顔を隠す様にしてたじゃない」


「ふぉっふぉっ。やはりな。じゃから、顔を見られん様にしてたんじゃがの」


「……じゃあ、仕方ないじゃない。

実菜、シャーリンを呼びに来て私達を医務室まで連れて行った兵隊さんはメイメイだって気付かなかった?」


「えー!!嘘!だって、あの人は男の人だったわよ?!」


未だ分からない様子の実菜に静加が種明かしをした。

そう言われれば、あの時の軍服の男性はずっと俯き加減でいたし、顔はよく見えなかった。医務室に着いてからも、気がついたら居なくなっていたが特に気にもしていなかった事を思い出した実菜だが、まさかメイメイが男性にもなれるとは思ってもいない。そもそも実菜は他人を疑う事に不慣れであった。


「実菜……メイメイは変装じゃなくて変化してるから性別は関係ないと思うよ?」


「……確かに人を化かして面白がる狐や狸の昔話は聞いた事があるけど」



満月の夜に満月に化けて、夜道を行く人間を驚かせたりとか……あ、あれは狸だったかしら。



しかし実際に、メイメイも人間が驚くのを面白がっている節がある。それが狐や狸の本能なのだろうか。


「私は高尚な九尾じゃぞ?狸など低級な物と一緒にするでない。

お前さんらの反応が見たくてな、変化してみたんじゃ……あと、あの馬鹿者も面白そうな奴じゃったしの」


その理由の何処に高尚さを感じれば良いのかは分からないが、シャオランの許にコムを向かわせたのは気まぐれとはいえ良かった。


よく考えたら化かしてはいるが、陛下やコムに害はない。コムに関しては……正解にはシャオランにだが……寧ろ良い方向に向いている。


「そう考えると、九尾って良い狐なのね」


メイメイは一瞬、言われた事を理解出来ずキョトンとし、一呼吸置いて爆笑した。


「そんな事を言われたのは初めてじゃ……じゃが、気分は悪くない」


余程、笑ったのかメイメイは涙を拭っている。実菜にはそんなに面白い事を言った自覚は無い。

だが、静加は神妙な顔をしていた。


「お前さん達、明日帰るんじゃろ?どうじゃ、このままこの国におらんか?」


突然メイメイが突拍子もない提案をした。


「残念ですが、愛する夫を国に残して来てますので」


尤もな理由で静加が即答でお断りするが、如何せん棒読みなもので真実味は感じられない。


「ふぉっふぉっ。では、そういう事にしておこうかの。人間は一人では生きて行けぬ生き物らしいからのぅ」


メイメイはニヤリと意味ありげに口角を上げると、徐に部屋の窓を開けた。外はすっかり暗くなり薄っすらとした月明かりに照らされてバルコニーには背の高い木の影が落ちている。

夜は肌寒い、早く窓を閉めて欲しいと実菜が思っていると、メイメイはバルコニーへと出て行った。


「月が綺麗じゃのぅ」


そう言い残し、次の瞬間には目の前のメイメイの姿は消えていた。


「え!!」


ここは二階である。慌てて実菜がバルコニーに出ると、月明かりに照らされて、獣が木々の上を飛んでいる姿が見えた。



扉から入ったのに、窓から出て行くって、どうよ?

それにしても、狐って空を飛べるのか……知らなかったわ。



「寒いから中に入るよ」


木々を見つめて呆然としている実菜の腕を静加が引く。


「帰るなら帰るって言って欲しいし、窓を開けたら閉めて行って欲しいわよね」


静加は文句を言いながら窓を閉めて、しっかりと鍵も掛けた。

お読み頂き有難う御座いました。

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