静加、ライバル現る?
色々と脱線してしまって話が進んでませんが、よろしかったら続きをどうぞ。
結婚式当日。
式は昼からだが、午前中から準備でバタバタしていた。
婚姻の儀式は大昔の儀式を復活させたものを行うのだそうだ。その儀式とは神殿で海竜に誓う、というものらしいのだが、しかしその儀式を執り行う巫女がまだ到着していないという。
「まじないを生業にしている部族の長老らしいですが、かなりの老齢という事で……途中で何かなければ良いのですが」
シャーリンは忙しくしているが、ロイはそうでもないらしく実菜達と応接間でゆっくりとお茶を飲みながら儀式の説明をしていた。
山を一つ越え、更にその先の山の中にその部族の集落があるという。遠い地なので、こちらから迎えに行ったが準備に時間が掛かるから、と追い返されてしまった。それでも、前日までには到着する予定ではあった。
「……まじない?」
「祈祷で病気を治したりとか、そういった事です。まあ、ここ何十年とまじないは禁止されていたので、今は別の仕事を探して他の地に移住してしまった者が殆どらしいですね」
祈祷って、神社とかでやってるあれよね?それで病気を……魔法とは違うのかしら。
薬を使わないなら、少し私と似てる?
実菜は何となく、その祈祷に親近感を覚えていた。
「ところで、師団長はどうしてます?」
ロイは、祈祷に意識を飛ばしている実菜は放って、静加に問う。
「おめでとうだって。泣いてたわよ。
今回も来たがってたけどお留守番にしたわ」
セシルは例によって駄々をこねていたが、招待されていないという事で置いてきた。
上司を招待しないのもどうかと思ったが、1週間ほど空けることになるのだ、ただでさえ仕事が滞っているのだから致し方ない、と実菜は黙っていた。
「泣いていたのは、これからは仕事を全部しなければならないからでしょう」
ロイが呆れた顔で言うと、静加は笑って誤魔化した。
「ロイ、こちらの心配はしなくとも良い。それにやる者が居なければやるしかない。セシルもそこまで愚かではなかろう」
ケビンも苦い顔をしていた。
という事は、少し愚かだと思っていたという事ですよね。と実菜は突っ込みたくなったが、これも黙っていた。
セシルの父親は陛下と旧知の仲のようだった。セシルが師団長なのは親の力なのでは?と思わずにいられない。
どこの世界にもコネというものはあるのね。と実菜が世知辛い気持ちになっていると、静加が何かに気付いた様に部屋の入口に視線を向けた。
「出来るもんが側に居たら、いつまでも甘えてしまうというもんじゃろ」
不意に部屋に響いた聞き慣れない声に一同が驚き、声の主に視線を向けると、そこには荷物を背負った小柄な老女が佇んでいた。
一同が「誰?!」という視線を注いでいる中、その老女は気にする事もなく、側に控えた侍女にお茶を頼んでいる。侍女も「誰?!」と思いながらも、その老女に椅子を勧めた。
「こん中は広すぎじゃのう。何処へ行けば良いのか分からん……ところで、この部屋は茶屋かい?」
お茶を一服し、落ち着いたところで老女が一同を見回した。
見たところ、かなりのご年齢と見受けられる。もしや……迷子のお婆ちゃんか。と、実菜がロイを見やると、ロイも困惑している様に見えた。
「あの、失礼ですが、あなたはどちら様でしょうか」
「ああ、ああ。悪かったね。私は婚姻の儀式で巫女を頼まれた、メイメイという者だかね。神殿を探しているんじゃよ」
「あなたが!!それは……失礼致しました」
ロイは慌てて立ち上がると、メイメイに握手を求めた。
「ほぅ、お前さんが婿殿かぇ?」
メイメイは、すっかり瞳を隠してしまっている目蓋を持ち上げてロイを見上げた。
「あの……この部屋に来る前に誰にも会わなかったですか?」
ロイは迷子の老女に誰も声を掛けなかったのかと不思議に思い、そう問い掛けたのだがメイメイは「皆んな忙しそうで声を掛けられなかった」と飄々としていた。
「荷物をお持ちしますよ」
ロイは腑に落ちないながらも、メイメイが背負っている荷物を受け取ろうとしたが、彼女は首を横に振った。
「許せ。これは大事な物ゆえ、人には任せられんのじゃ」
風呂敷のような布に包み、背負われているそれは箱の様に見えるが、そう言われては手が出せない。その前に何が入っているのかが気になる所だ。
「ロイ、神殿までお連れしてあげれば?皆んな待ってるんじゃない?」
静加がロイに話し掛けると、メイメイが目を丸くする雰囲気で静加を見やった。……残念ながら丸くなるほど目蓋は上がらなかったが。
「何じゃ、お前さん、若い娘さんかぇ?私と同世代じゃと思うとったわい」
メイメイはそう言うと、静加に近付いて更にまじまじと見つめた。
「妙な空気を纏っておるの。お前さん、どこかしらのお婆ぁに取り憑かれでもしとるんかぇ?」
「ぶはっ!!……痛っ!!」
メイメイの言葉に吹き出した実菜の足を、素早く静加が踏み、ロイはそっぽを向いて唇をふるふるとさせていた。ケビンは話が分からないらしく、眉を顰めていた。
「そんな事が分かるの?」
静加が取り繕うようにメイメイに問い掛けると、メイメイは「ふぉっふぉ」と笑った。
「90歳も過ぎると、色んな事が分かる様になるもんじゃて」
メイメイはそう言うと「さて、神殿に案内して貰おうかの」と、扉へと向かった。
ロイが先導し、メイメイが続く。実菜と静加も神殿が見たい、とついていく事にしその後に続く。
ケビンもついて行こうとしたが、メイメイに「お前さんはお偉いさんなんじゃろ?座って待って居ればええ」と言われ、黙って椅子に座り直していた。
「メイメイさんて……何者かしら」
ロイとメイメイから少し離れて神殿まで行く道中、実菜はこっそりと静加に話し掛けた。
特に紹介したわけでもないのに、ケビンが上の人間であると分かっていたような口振りだった。
「……負けたわ」
実菜の言葉を聞いていたのかいないのか、静加はそう言うと、壁にもたれ掛かりながらずるずると歩き、大袈裟に落ち込んで見せた。
「えーと……何を競っていたのかしら?年齢?」
自分よりも相手の年齢が上の事を言っているのかしら。と、実菜が聞くと静加に軽く睨まれた。
「違うわよ!……あの時……私が彼女の気配に気付いた時には、既に部屋に入られていたの。
実菜、油断ならないわよ、あのばばぁ!迷ってたなんて嘘。でも何で……ロイを見定めにでも来たのかしら」
よほど悔しかったらしい。最後は独り言のようになり、ぶつぶつと呟いていた。
メイメイが「油断ならない、あのばばぁ」なら、静加は「油断ならない、このばばぁ」である。実菜は「あなたも同じだからね」という言葉は心の中に留めて置くことにした。
王宮の建物の裏手に出ると石畳になっており、その先に神殿が建っていた。
「神社みたい」
そんなに大きくはなさそうだが、屋根の形とか回廊とかの感じが神社を思わせた。お賽銭箱があれば完璧だ。
「信仰は禁止されましたが、神殿は残されていたんです。まあ、多少の修繕は必要でしたが」
ロイはそう説明すると、近くにいた侍女を呼び止め巫女の到着を伝える。侍女は頷くとそのまま何処かへ去って行った。
神殿に近付くと中は思ったよりも広く、最終確認の為かあちこちで人が動いていた。
「うわ。彫り物が凄い」
神殿の大きな柱には立派な龍の彫り物が施されている。天井にも龍の絵が描かれていた。
「ふぉっふぉ。それが海竜様じゃて」
そう言うとメイメイは戸惑う事なく、ずんずんと神殿の中へと入って行き、中央の祭壇の所で背負っていた荷物を下ろした。
つられて実菜と静加もメイメイの後に続くと、ロイも慌てて後を追った。
「準備中なので、まだ二人は外で……」
「婿殿はケチじゃのう」
実菜と静加を止めに来たロイを、メイメイが逆に止めると風呂敷包みから出した木箱をこちらに見せた。
「これが見たいんじゃろ?」
にやりとしたメイメイに実菜と静加はこくこくと首を縦に振った。
「これが無ければ祭壇は完成しないんじゃよ」
ふぉっふぉ、と笑いながら、メイメイはカポッと木箱の蓋を開けた。
「これが水の鏡じゃ」
そう言って木箱から取り出した物は、手の平ほどの大きさの御神鏡の様な鏡だった。
「他のまじないの道具は国に没収され、処分されてしもうたが、これだけは隠し果せたのじゃ。
じゃが、隠した場所を忘れてしもうて、到着が遅くなってしもうたがの」
メイメイはドヤ顔で鏡を見せて来るが、その価値が分からない。いや、その前に。
「自分で隠したのに忘れちゃったの?」
メイメイは角口を実菜に向けた。
「何十年も前の事じゃて、仕方なかろう?」
しかし、思い出せなかったらどうするつもりだったのだろうか。まあ、鏡であれば同じ物が作れそうだが。
「ふぉっふぉ。必要な事であれば思い出すもんじゃ。その証拠に間に合ったじゃろ?」
メイメイには実菜の心の声が聞こえたのだろうか。歳を重ねると色んな事が分かるというのは本当らしい。
「それに、他の鏡では駄目じゃ。これでなければ」
本当に聞こえているのだろうかと、実菜が目を丸くしていると、ロイがその鏡を覗き込んだ。
「何が違うのです?見たところ変わったところは無さそうですが」
「この鏡は唯一無二の物。これはの……海竜様の涙の結晶じゃ。じゃからの、海竜様は鏡を通してこちらを見ていらっしゃる」
「………」
ロイは些か信じられないようで、無言でメイメイを見やった。
「何じゃ婿殿、その目は。信じられぬと言うか?しかし、この鏡……即ち海竜様に認められなければ、この婚姻は御破算じゃ」
「えっ?!それはどういう……」
この婚姻が無かった事にされてはたまらない。鏡に認められるとは一体どういう事なのか。ロイは驚きメイメイに聞き返そうとした時、横から静加が口を挟んだ。
「この国の宝剣も海竜様の角で出来ているのよね?ロイが宝剣を振るう事が出来れば、それでも良いんじゃないの?」
「……ほぅ、お前さん、それをどこで?
まあ、宝剣でもその人間を感じ取る事は出来るがの、見る事が出来んようじゃ。ようは海竜様も婚姻を結ぶ二人を見たいんじゃろうて」
そう言うとメイメイは「ひゃっひゃっ」と、肩を揺らしながらいやらしく笑った。
「メイメイさん!!」
ロイが怖いくらい真剣な表情で、笑っているメイメイの肩をがしっと掴むと、メイメイの顔を覗き込む様に顔を近付けた。
「何じゃ、婿殿。私も独身じゃが、不貞を働けばシャーリン様とは婚姻は結べんぞぇ?」
そんなわけは絶対ないのだが、メイメイはボケたつもりなのだろうか。真剣な表情のロイとは対照的に、にやにやとした笑みを浮かべていた。
「鏡が承認しない事はあるのですか?!」
メイメイのおふざけは無視してロイは大きな声でメイメイに詰め寄る。そんな大きな声でなくとも十分聞こえる距離だが、それだけ必死だったのだろう。
だが、メイメイは変わらずにやにやとしたまま「さぁてね」とだけ返した。
メイメイさんの言っている事が本当なら、あの海竜様が認めないという事はないと思うけど……シャーリン様に甘そうだし。だけど……。
「あの、承認したとか、しないとかって、どうやって分かるのですか?」
鏡が光るとか、何か変化が起こるのかしら。と、実菜は首を傾げてメイメイに問い掛けた。
「ふぉっふぉっ。婚姻を結ぶ二人が同時に、この鏡に触れるのじゃがな、その二人を海竜様が良しとしたら……水が跳ねるのじゃよ」
半ば放心状態のロイを引き剥がしながら、メイメイは得意気に答えた。
水が……跳ねる??
実菜の頭にハテナが浮かぶ。
「あの……水が跳ねるとは?」
「百聞は一見にしかず。じゃ。
……まあ、あくまでも認めて貰う事が出来れば。じゃがな」
ロイはぶつぶつ言いながら頭を抱えてしまっていた。そんなロイを横目にメイメイは揶揄するように言って、肩をすくめた。
お読み頂き有難う御座いました。




