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聖女ですか?う〜ん、どうでしょう?

魔導師団棟と騎士団棟は渡り廊下で繋がっている。

外から見たことはあったが、中に入るのは初めてで少し緊張する。

騎士団棟に入ると廊下の両側に幾つも扉があるので、第ニ騎士団を目指してキョロキョロしてると後ろから声を掛けられた。


「何かお探しですか?」


振り返るとやはり短髪のガタイの良い男性に見下されていた。短髪は騎士団に入る為の条件なのかしら。


「はい。あの、第ニ騎士団の団長さんに用がありまして、第ニはどちらでしょう?」


私の質問には答えず、その騎士はポカンとしながらジーッと私を見ている。

もしかして不審者だと思われてるかしら。

あっ!魔導師団から来たって言えば良いのか!


「あ、あの…」

「あ、団長」


私が言い直そうとするのと目の前の騎士が呟くのが重なった。騎士の視線が私の後ろに向かったので釣られて振り返ると、そこに先程のカイルが立っていた。



カイルは私に気付くとビクッと肩を揺らし固まった。


「団長?どうしたんですか?あ、こちらの方が団長に用があるんだそうですよ」


カイルの様子を不審に思ったのか、私よりも先に騎士の方が声を掛けてくれた。


「ああ、あ?えっと、そうか。何だ?」


用があるのは私だと言っているのにカイルは何故か騎士の方を見ながら答える。


「あの、こちらを団長さんへ、とリードからです。今返事が欲しいそうです」


カイルの視界に入る様に封筒を差し出すと、カイルは封筒に視線を落とし受け取る。


「何だコレは?」


覚えが無いのか眉を顰めながら封を開けて中身を出そうとする。

えっ?良いのか?ここ廊下だけど…。


「団長。執務室にお通ししては如何ですか?」


騎士も同じ様に思ったのか、慌てたように執務室の方に手を向けた。





執務室の事務机でカイルは手紙?を読み始めると顔色を変え、チラリと私を見る。直ぐに視線を戻すが、その耳がみるみる赤く染まり口を手で覆うと目を泳がせていたが、執務室の隅に控えた騎士を見遣る。


「お前、訓練はどうした?」


「え、もちろん途中ですけど、でも、大丈夫ですか?」


急に矛先を向けられた騎士はしどろもどろになりながらも此方を気遣ってか、ちらちら見てくる。


結局、カイルの圧に押され騎士は訓練に戻って行き。二人になったところでカイルが口を開いた。


「貴女が聖女様なんですね」


「え?!」

「え?」


久しぶりに聞いた単語に驚いた私にカイルが驚く形になってしまった。そうだそうだ、ここの所毎日が平和で忘れていたが、私にはまだ聖女疑惑?が残されていた。セシルが討伐で忙しくしていて未だに音沙汰が無いから忘れてたわ。


「違うのか?此れにはそう書いてあるが?」

「いや、違わないです。いや、違うのか?」


カイルがリードからの手紙を手に眉を顰める。

聖女かどうか微妙なんです。とは言えない。


「セシルがまだ認定してないから秘密だ。と、騒いでいたからそういうことか?」


騒いでいたら秘密にならないのでは?


カイルは思わず苦笑した私に是と取ったようだ。



「ところで、この手紙の内容についてはご存知で?」

「いいえ、存じ上げません」

「なら、この内容については私は忙しい。とリードに伝えてくれ」


「承知しました」


私は何故かまた耳を赤くしているカイルに挨拶をし、騎士団棟を後にした。



「リード、カイル団長は忙しいそうです。そう伝えてくれ、と」

研究室に戻ると師団員達が三時のオヤツをしながら私を迎えてくれた。もちろん私の分もある。


「カイルの奴、仕方無いな」


リードは口をモグモグしながら苦い顔をしているが、一体どんな内容だったのだろう。まあ、今はそんな事より気になる事が私にはある。


「リード、少し良いかしら?話があるのだけど」

「いいよ、執務室へ行こうか」


研究室と続き扉で団長用の執務室がある。しかし、滅多に使われない。

内装はカイルのそれと変らない。応接セットのソファーに対面で座ると徐ろに話を切り出す。


「聖女の件はどうなったのでしょうか?」

「あ、やっぱり気になってた?」


忘れてたとは言えない。


「明日セシルが帰還する予定だから彼からまた言われると思うけど、貴女を聖女として認定して発表する事にするそうだ」


「ふぅぇっ?!」


変な声出た。


「発表は来週の建国記念の王宮パーティー」


来週?!王宮パーティー?!


「聞いてません!!!」

「ごめん、私も昨日セシルからの連絡で知った」


セシルーーーー!!!




***

パーティー当日。

あんなに平和な日々だったのに……今はかなり慌ただしい。主に精神が。一週間なんてあっという間だった。


セシルが帰還してから、あれやこれや試してみたが生活魔法すら使えるようにならない。原因も分からない。魔力は有るらしいのに何と宝の持ち腐れだろうか。


しかし公の場で私の事を発表されてしまったら取り替えしがつかなくなってしまうのではないか?

何も出来ない事がバレてしまったら、詐欺だとか王国乗っ取りの恐れありとかで私、罰されるんじゃ?

そもそも何故国王陛下はこれを許した?そう言えば、結局謁見すら無い。


「大丈夫だよ。魔力自体はあるんだから、これからどうとでもなる」


着替などの準備をしていた控室で、いつもの笑顔のセシルがケラケラと無責任な事を言う。

セシルのこれはポジティブと呼ぶべきか、それとも無謀と呼ぶべきか。恐らく後者だろう。


「師団長。それは放置、と言うのでは?」


口を挟んだのは副師団長のロイ・スティックマイヤー。彼も文献等を漁ったりしてくれて私の症状を調べてくれていた。


「失礼な!これからも試していくよ」


「いえ、討伐の予定がビッシリなんです!放置と変わりません!」


ロイにビシッと言われ、セシルは頬をぷぅ、と膨らませた。

ロイは少し歳上でしっかりしているので(セシルを見てるとそう見えてしまう)副師団長と言うよりマネージャーさんみたいだ。起きる時間から寝る時間まで管理しているのにはビックリした。ん?この国では執事になるのかな?




どちらにしても既に準備は終わってしまっているのだ今更何を言っても遅い。


改めて鏡の中の聖女っポイ自分の姿を見る。


全体的にピッタリした白いマーメイドドレス。胸は嫌らしくない程度に開かれていて、腕はゆったりフワッとしてるが、肘の所で絞られていてそこから指が隠れそうな程裾が長い。これまた白いベールの様なフードが付いたローブをその上に羽織っているので顔もドレスも殆ど見えていない。これ、あれだけ丁寧に化粧する必要があったのだろうか?




なるべく顔を見られないように、との配慮らしいが、詐欺を働いてる感がハンパない。取り敢えず今はフードを被る必要が無いし視界が悪いので脱いでおく。



「第二騎士団団長カイル・マスタング様ががいらっしゃいました」



私の支度をしてくれた王宮のメイドが笑顔で伝えてくれたが、何かしら?聞いてないけど。


「あ、リードが言ってたやつね。通してくれる?」


セシルが代わりに対応してくれたが、リードが言ってたやつとは?


程無くしてカイルが部屋に入って来たが、私を見るなり驚いた様に目を丸くして固まった。


何で?私が居るの知ってたよね?

もしかして!私、嫌われてる?私何かしたっけ?態度が悪かった?それ程接触もしてなかったと思うのだけれど?

考え始めてしまって、セシルとロイが顔を見合わせてから生温かい目をカイルに向けている事には気付かなかった。


「カイル団長、今日は聖女様の護衛宜しくね」


「リードの奴に押し切られたが、私がする必要があったか?セシル、お前がやれば良いだろうが」


この間の手紙はこの事だったのかも。断ってたし、少し怒ってる?あぁ、やっぱり、よっぽど私の事が嫌いなんだわ。


「あの、すみません!私なら一人でも大丈夫です!」


申し訳なさすぎて思わず大きな声が出てしまった。


「ほら〜、カイルが嫌がるから聖女様が嫌われたと思って泣いちゃったじゃん」


え?泣いてないけど?


セシルにフードを被されてしまった。

(面白いからこのまま本番ね)

耳に顔を寄せたセシルが呟いた。


は?


フードのレースの部分からこっそり覗くと、イタズラっ子のセシルがいた。


「えっ!俺!いや、違うんです!貴女が嫌だとかそういう事ではないんです。だから、あの、泣かないで下さい!」


明らかに狼狽えた様子で弁明している声が頭の上から降ってくる。

あの厳ついカイルが狼狽えている姿を想像して笑いそうになってしまい、思わず口元を両手で抑えたのが、より泣きの演技に拍車を掛けてしまったようだ。


「あぁあ!どうしよう。あの、すみませんでした!本当は貴女の護衛が出来て光栄なんです!」


カイルの方が泣きそうである。


「最初からそう言えば良いのに。

陛下の前に出るまでに泣き止ませないと陛下に怒られちゃうからね!」

セシルが楽しそうに揶揄った。



セシルーーーー!!!

お読み頂き有難う御座いました!

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