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聖女として召喚されたので、期待に応えてみた結果  作者: 珠音


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そして、帝国へ

本年中は、駄文にもかかわらずお読み頂き有難う御座いました。

来年もお付き合いして頂けると嬉しいです。


皆さまに、幸せ溢れる一年が訪れますように✩☆

「しかし、船で2日……遠いね」


船内の執務室のソファーで、静加は声を上げていた。


「付き合わせてすまない。何かしてもらおうとは、思っていない。ゆっくりしていてくれ。

ただ、証人となって欲しかったのだ」


同じ部屋に居たシャーリンが、申し訳なさそうに言うと、実菜と静加の前にティーカップを置いた。


ドラゴニアンへ向かっていた軍勢は、そのままUターンし帝国に向かっているのだが、実菜と静加は暇を持て余していた。


「いえ、こちらこそ、すみません」


実菜は、そう言って、軽く静加を睨んだ。


「失礼します」


総大将の声がし、入口の扉から顔を覗かせる。


「全艦の意思確認が終了しました」


「ご苦労、中に入れ」


シャーリンが、ソファーに座るよう促すが、総大将は「それは無理です」と、拒否し続け、結局入口辺りで直立するに留まった。


軍人は皆、こんな感じなのかしら。


不本意ながら実菜は、カイルの事を思い出していた。


「それで?」


シャーリンは、視線で総大将の言葉を促した。


「はっ!皆、自分同様、陛下を支持します!」


「……そうか」


総大将の報告に、シャーリンはそれだけ答えた。


進軍して来た兵士達は、皆、シャーリンを支持すると、訴えているようだが、この状況で否を唱えられる者がいるだろうか。

実菜が、訝しんでいるとその時、総大将が手を挙げた。


「自分の考えを申し上げても宜しいでしょうか?」


「何だ?」


シャーリンが、興味深そうに視線を総大将に向けた。


「今回の、この隊は、この戦の為に編成されたものです。

……元々、陛下を強く支持している者達で編成されています」


話がキナ臭い方向へ向かっている気がするわ。

実菜は、じっと総大将を見据えた。


「先ずは、我々を送り出し、その後、援軍と称し、弱った王国を我々共々潰すつもりだったのではないかと」


それは流石に……それが本当なら、随分と自信過剰ではないかしら。

絶対勝てると思っているという事よね。


「私を暗殺しようとしたくらいだ、十分有り得るな」


有り得るんかーい!!

思わずツッコミを入れそうになり、実菜は慌てて両手で口を塞いだ。


「随分と壮大な口封じを目論んだものだが、しかし、奴の誤算は、神が私に味方した。ということだ」


脚を組み、頬杖をついたシャーリンが妖しく笑う。


「………」


先程から思っていたのだけど、シャーリンの雰囲気が変わったように感じる。

ホームとアウェイの違いかしら。ホームだといつもこんな感じ?何というか……妖艶だ。


総大将が報告を終え、部屋を出て行くと、実菜がちらちらと盗み見していた事に気付いていたのだろう、シャーリンが実菜に視線を向けた。


「何か?」


「いや、あの、何か、雰囲気が変わったなぁって、思いまして」


シャーリンの視線にドギマギしながら、実菜がそう口にすると、その言葉にシャーリンが微かに目を見開いた。


「吹っ切れました〜!って、感じがするわよね」


静加もお茶をすすりながら、口を挟む。


「吹っ切れた……そうかもしれません。

今まで何に囚われていたのか……最初からこうすれば良かった」


吹っ切れた……そうか、自分の思う方向へ向かっているという自信の様な物が、表に現れている、という事かしら。


「でも、今だから、支持してくれる部下がいるのかもしれないわよ?

それに、今、帝国にいる人達が宰相を支持しているとは限らないし、私達もいるし大丈夫よ。

だから……国を無くそうとか考えなくても良いと思うわ」


静加がそう言うと、シャーリンが瞠目し静加を見つめた。


「今は……考えてはいませんが、少し前まで本気でそれを考えていました。何でそれを……?」


「自分の手で終わらせるって言っていたあの言い方が、気になっていたのよ。

どう終わらせる気だったのかは分からないけど」


そういえば、そんな事を言っていた気もするけど、でもそれは今回の件の後始末の事だと思っていたわ。


実菜が、二人のやり取りを見ながら、その時の事を思い出そうとしていると、ふと根本的な事が気になった。


「あの、そもそもどうして宰相はそこまで帝国を支配したいのでしょうか」


宰相といえば地位も高いでしょうし、宰相のままでも、十分だと思うけど。

男性は支配欲が強いとは聞くけれど、それにしたって、ねぇ?


「ああ、それは。宰相と私の祖父が兄弟だったのです。しかも宰相のお祖父様の方が、兄に当たるので本来であれば、皇帝候補だったのです。

ですが……」


そこまで言って、シャーリンが言い淀むと、静加がそれを引き継いだ。


「宰相のお祖父様は、大剣を振るえなかったと」


シャーリンが何とも言えない表情で頷く。


「大剣が扱える事も皇帝としての条件にあるのです。寧ろ第一条件と言いますか。

……そして、そのお祖父様が宰相の地位を賜わり、以来、宰相は世襲制ではないのですが、宰相を継いでいます。

周囲も、今の宰相が大剣を振るう事が出来れば、私ではなく、彼を皇帝に推したかもしれません」


という事は、宰相は大剣を振るえない、という事ね。だから、強引な方法を取ったのか。


「なるほどねぇ〜、お祖父様が……だから派閥も残っていて、力もあると。

……シャーリン様が居なくなれば、自分が。という事なのね」


そう言って、静加がしたり顔で顎に手を当てた。


「もしかして、皇帝の条件から大剣の事を無くす為に、海龍様を信仰する事を禁止したのかしら?」


そうすれば、大剣を振るえなくても問題はなくなる……かな?


「確かに、禁止にした時代にも、大剣を振るえなかった皇族が居たと聞いているので、そうとも考えられなくはないです。海龍様との繋がりでの大剣、という意味合いもあったと思いますので。

ですが、条件が無くなるまでは、まだ時間はかかるとは思います……力の象徴でもあるので」


ふむ。そこは、策略とは直接の関係は無かったか……。


実菜が自分の考えが、少し安直だったかと思い、頬を熱くしていると、突然、部屋の扉が開かれた。


「陛下!!」


総大将だった。総大将は血相を変えて部屋へ飛び込んでくると、動揺しているらしく、右往左往し口をパクパクさせていた。かなり挙動不審である。


「……落ち着け、どうした」


シャーリンも、そんな彼に引いている様子で、訝しげに問い質した。


総大将は、ゴクリと唾を飲み込むと口を開いた。


「後、数刻で帝国に着港します」


「……はっ?!」


総大将の言葉に、シャーリンは豆鉄砲を食らってしまったようだ。ポカンとして、総大将を見つめていた。


見張りをしていた兵士の話では、突然目の前に黒く、大きなトンネルの様な物が現れた。突然の事で、それを避ける事が出来ずに中に入ってしまい、気付いたらこの状況だったという。


半信半疑で甲板まで出ると、確かに大陸が肉眼で確認出来る。あれが、アンドロワ帝国なのだろう。

しかし、2日かかると言われていたのに、これはどういう事だろうか、シャーリンも驚いている事から時間がかかるのは間違いなかったのだろう。


そして、黒いトンネル。


と、いう事は……。


「カントラ!!」


カントラも、海龍も姿は消しているが付いてきているはずだ。何よりカントラは実菜が呼べば、出て来てくれるはず。実菜は、空に向かって名を呼んだ。


案の定、姿を現したカントラは、尻尾を海に浸け海水を弄んでいた。水遊びをしながら、併走していたのだろう、と思われた。


「どうした。血相変えて」


状況を知らないカントラは、のんびりと実菜に返事をした。


「2日かかるはずの帝国に、もうすぐ到着するのだけど、あなた、何かした?」


実菜の問いに、カントラが瞬く。


「我は何もしておらん。したのは海龍だ」


「へ?海龍?」


実菜と静加、そしてシャーリンが互いに顔を見合わせていると、話が聞こえていたのか、海龍が海面から顔を覗かせた。


「何だ、何を騒いでおる?」


「あ、いえ、あの、船の進みが予定よりかなり早くてですね。

……海龍様が何かされたのですか?」


実菜が遠慮がちに問うと、海龍は両手が海面から覗く辺りまで伸び上がった。その勢いで、飛沫が上がる。


「空間を、ヒトの空間に戻しただけだが、何か問題があるか?」 


「いえ……全然」


そういえば、アチラから戻って来てなかったわよね。すっかり忘れていたけれど。

コチラに戻る時に、帝国の近くに出て来るようにしてくれた、という事かしら。

ならば、最初からそうしてくれたら良かったのに……と、思うのは、罰当たりかしら。


船体に近付き、凄みのある海龍のアップに実菜が恐る恐る答えている隣で、静加が実菜にしか聞こえないよう小声で「海龍様、グッジョブ」と、サムズアップしていた。


ここにも一人、罰当たりがいたわ。


と、実菜は思った。

お読み頂き有難う御座いました。

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