帝国の大剣
もっと短い間隔で更新したいとは思ってはいるのですが……すみません。
それでも「読んでやっても良いよ〜」という方がいらしたら、お付き合い下さるとかなり嬉しいです。
「それにしても、大きくて長い剣ね。背中が隠れちゃいそう」
「これは皇族に伝わる国宝で、皇族にしか扱えない代物なのです」
船上からカントラに乗り移りながら、静加が感心したようにシャーリンに向かって言うと、シャーリンが誇らしげに答えた。
「でも、そんなに大きいと振るうのも難しくないですか」
実菜の問いに、シャーリンが首を振る。
「確かに、男性でも持ち上げるのがやっと、という重さですが、この剣は力で振るうのではありません……血で振るうのです」
「……血?!」
「実菜、血で振るうとは、皇族の血統で、って事だと思うよ?」
血で振るうとは、剣に血を吸わせるとか、そういう魔術的な事だろうかと、実菜が青くなっていると、見かねた静加が、口を挟んだ。
「あ、ああ。そういう事か……びっくりした」
「びっくりしたのは、こっちだわ。何を想像したのよ」
クラウドのした事が思い出されたので、考え方がそちら寄りになってしまったが、普通に考えたらそうよね。と、実菜はひとり納得した。
「でも、皇族でも持ち上げる事すら出来ない者も居たと聞いています。
なので、実際の所は分かりませんが、私は……気持ちで振るうのではないかと、考えています」
「気持ち……」
実菜が復唱した事で、恥ずかしくなってしまったのか、シャーリンは口を真一文字にして頬を染めた。
そこに、静加が口を挟んで話を変える。
「……ていうかさ、流石に三人て狭いよね」
港までは、静加は自分で飛んでついて来たのだが、この先はカントラに頼るしか無い。実菜と静加でシャーリンを挟む感じでカントラに乗ってみたが、流石に少し狭くなる。
「でも、キツイって程ではないわよね」
「……そろそろ、動いて良いか?」
三人で、わちゃわちゃと、安定する位置を探っていると、痺れを切らしたのかカントラが、うんざりしたような声を出す。
「うん、大丈夫よー」
実菜の元気な返事に、カントラが溜息を吐いたようだったが、異空間の入口を作ると、船体を軽く蹴り、その勢いで入口の中に入って行った。
「ここは……?」
シャーリンが、驚愕の表情で辺りをキョロキョロとしている。
異空間の入口をくぐった先は、海龍が軍勢を透明な風船に閉じ込めた海上であった。何故だが、海龍は見当たらない。
実菜達にとっては二度目なので、シャーリン程の感動は既にないのだが、シャーリンにとっては魔法的な事すら初体験である。
シャーリンが「これは……夢か」と、小さく呟いて自身の腕をつねっていたのを、実菜は見逃さなかった。
その気持ち、よく分かるわ〜。
実菜がそう思ったその時、風船の周りに不自然な波が立ち、中の船体が揺れた。
「遅かったではないか」
海龍がこちらに気付き、海の中から顔を出したのだ。
「大丈夫かしら兵士達、船酔いで死んでないかしら」
静加が、気の毒そうな声で実菜に囁いた。
もしかしたら、ずっと海龍に遊ばれていたのかもしれない。
そう思うと、実菜も兵士達には同情を禁じ得ないのだった。
「待たせたな。ヒトの……特に女という生き物は支度に時間がかかるものらしいぞ」
カントラったら、何て事を言うのよ。と、シャーリンを窺うと、海龍とカントラ、そして風船に閉じ込められた軍勢を、それぞれ見やり、固まっていた。
どうやら、脳内処理が追い付いていないらしい。
「おヌシが、現在の女帝か……ほう、おヌシ、その剣が扱えるのだな、気に入ったぞ」
そんなシャーリンに構うことなく、海龍が彼女に鼻先を向け、ふぁっはっは、と笑う。自然と、実菜と静加はシャーリンから身体を離した。
シャーリンは、未だ固まっている身体を無理矢理動かし、海龍を見上げた。
「角が……」
そう呟いて、シャーリンが目を見開いた。
シャーリンの呟きに釣られて、実菜も海龍の角を見上げた。
カントラの角は真っ直ぐだが、海龍の角は二股になっている。
あれ?でも、片方の角が欠けてるのかしら。
右の角は左と比べると、二股になっている短い方が更に短い。というか、無い。
「海龍様とは……あの海龍様の事だったのですか?!」
あの海龍様とは、どの海龍様なのか、実菜には見当が付かない、そもそも海龍という種族なのか、本人の名前なのか、それさえ知らない。実菜は目の前のやり取りを見守る事にした。
「あの海龍とは、どの海龍の事を言っているかは知らんが、その剣は儂の角で出来ている。
昔、とある集落の長に渡してやった物だ。
……今では、帝国などという国になっているようだがの」
「では、やはり、守り神の……いや、しかし、まさか、お目にかかれる日が来るとは……お目にかかれて光栄です」
シャーリンは、しどろもどろになりながら、興奮気味に海龍に向かって頭を下げた。
「ほう、そういえば、出会った頃より角が欠けていたな。
大事な角を預けるとは……どういう心境だったのだ?」
カントラが興味深そうに問うと、海龍は「ただの気まぐれだ」とだけ答えた。
「その剣を扱える者とは、どういう者なのですか?」
静加まで興味深そうに問う。
「それは、儂の好みか否かだ」
「………」
海龍の答えに、暫しその場に沈黙が流れた。
「あの……好み、とは?」
静加が沈黙を破り、恐る恐る再び問う。
「資質……信念、儂が力を貸すに値するか否か、だ」
ああ、そういう……そういう事ね。シャーリンが美人だから、そっちの好みかと思っちゃったわ。
でも、今まで男性もいたのだものね。
ん?でも、そんな歴史がありながら、信仰を禁止したというの?しかも、未だに剣は使用してるし……。
信仰を禁止した人って、随分と図々しいわね。
そんな事を考えている実菜の隣では、シャーリンが「私は、海龍様に認められていたのですね」と、感無量といった感じで瞳を潤ませていた。
「それよりも、コレはどうするつもりなのだ?」
話が進まないと思ったのか、海龍がこちらに問う。それと同時に、海の方でバシャバシャと激しい音がした。
実菜は嫌な予感がし、音のする方を見ると案の定、海龍の尾が海に浮いた風船を弄んでいた。
「海龍様!お止め下さい!中の人間が怪我をしてしまいます!」
シャーリンが慌てて止めに入ると、海龍が鼻から息を吐き、風船をちらりと見た後、こちらに視線を戻した。その視線はシャーリンを捉えているようだ。
「海龍様、捕えた人間と話をする事は出来ますか」
シャーリンも、海龍を見据えて問う。
「……出来るようにしよう。こちらに来い」
海龍が大きな手をこちらに伸ばすと、シャーリンは恐る恐る海龍の手に移った。
海龍はシャーリンを手に乗せたまま風船の正面まで行くと、逆の手の爪で風船を切り裂く。
切り裂かれた風船は、溶けるように左右に開いて、みるみるうちに、ただの海水となって海と同化した。
露わになった船の上では、兵士達が転がっていたがのだが、目の前に突然現れた海龍に驚き、フラフラになりながらも、叫び声を上げ、船上を逃げ惑う。
どうやら、風船の中からは外が見えない状態だったようだ。
彼等にしてみたら、何が何やら分からない状況で転がされていたのか。可哀想に。いや、海龍に船体を揺らされているという状況が分かっていても、恐怖でしかない。
「これで、意思疎通出来るぞ」
「有難うございます」
海龍とシャーリンは、先頭の一番大きな一隻の前に居た。
「この隊の指揮を取っている者は誰だ!!」
シャーリンは海龍の手の上から、船体の中に隠れてしまった兵士達に向かって、声を張り上げた。
その声に、恐る恐る一人の兵士が顔を覗かせる。
「陛下っっ?!」
その兵士の声に、他の兵士も出てくるが、海龍の姿を認めると、シャーリンに近付く事は出来ずに固まっている。
「陛下!!ご無事だったのですね?!」
海龍を気にしながらも遠巻きに、兵士が声を投げ掛けた。
「この通りだ。それよりも、この騒ぎは何だ?!指揮は誰だと聞いている!!」
兵士達は顔を見合わせ、後ろを振り仰ぎ、船体の部屋から出て来た男に気付くと道を開けた。
「まさか……陛下?」
他の兵士と違い、帝国の紋章の入ったローブを纏ったその男は、愕然とし、目を見開いている。
「総大将、お前が直々に出向いて来るとは……お前をこちらに仕向けたのは誰だ」
シャーリンとは付き合いは短いが、今まで見た事のない表情と声色に、これが女帝としての顔なのかと、実菜は違う人間を見ているような気がした。
「私は……ドラゴニアン王国が病気のシャーリン様を攫い、死なせたと……国王の首を取って来い、と宰相に言われ……」
「お前は、そんな戯言を信じたのか!!」
シャーリンの怒号に、総大将は大きな身体を縮めた。
シャーリンは、徐に海龍の手の上から、甲板に飛び降りると、背中の剣を取り鞘から抜いた。
「宰相は私の暗殺を目論んでいた。証人も居る。
もう、宰相の好きにはさせない。
私は、宰相を処分すると……決意した。誰が何と言おうと」
総大将は、シャーリンの所作を視線で追い、その剣を見据えた。
「私の決定に異を唱える者も……処分する。
お前は、私と宰相、どちらにつく」
シャーリンは、自身の身長程もある大きな剣の刃をゆっくりと総大将に向け、問う。
総大将は、じっとその刃を見据えていたが、その視線をシャーリンへと向けると、真一文字に結んだ口を開いた。
「私は、陛下が罹患した時点で、どうでも良くなってしまっていたのです。
どんな理由の戦で討ち死にしようと……ですが、陛下が生きていて、戦うというのであれば、私はついていきます。どこまでも」
「お前の自殺に部下を巻き込むな」
シャーリンはそう言うと、剣をおろした。
総大将は、シャーリンの言葉にハッとし、大きな掌で顔を覆うと、俯いた。
あと一回は年内中に更新出来ればと思っています。
お読み頂き有難う御座いました。




