オトモダチ、はしゃぐ②
時間が経っていないという事は、皆まだ会議室に居るだろうと、実菜と静加は会議室に戻った。
「あれ?何か忘れ物?」
案の定、セシルが部屋に戻って来た二人を見て、キョトンとしている。会議室にいる者達からしたら、直ぐ戻って来たとしか思えないのだ。当然の反応である。
「いえ、違うのよ。もう行って来たの」
「もう?で、協力してくれるって?」
実菜の返事に、セシルが首を傾げる。
そうだった。カントラに協力をお願いしに行ったのだったわ。かなり話が飛んでるから説明しないとだわね。
「実菜、皆にきちんと説明しないと、シャーリン様を連れて行けないわよ」
そう言って、静加が実菜を小突いた。
静加に促された実菜は、静加に向かって頷くと、王陛下に向き直り、これまでの経緯を説明してから、今の所は攻め込まれる事はない、と伝えた。
「……それで、シャーリン様はどうしたいかを確認しに来たのです。足留めした軍勢をそのままにはしておけないので」
実菜の話を黙って聞いていたシャーリンは、王陛下を窺った。
「些か信じ難い状況ではあるが、この国に害が無いのであれば、余はシャーリンの思うようにして欲しいと思っておる。
兵士達を処分するにしろ、その……宰相を処分するにしろ、どうするか、余は口を出せる立場にないのでな」
シャーリンの視線を受けて、陛下はあくまで優しい口調で彼女に言う。
彼女にとって、断る理由などないのだ。シャーリンは頷くと、覚悟を決めた顔で実菜に向き直った。
「私を、そこまで連れて行ってはくれまいか」
素よりそのつもり、と実菜は意気揚揚とシャーリンを連れて演習場辺りまで戻って来たのだが、何故だか人だかりが出来ていた。
「何だろう」と、実菜が人だかりを掻き分けて、演習場の入口まで辿り着くと、その場に居た者に何があったか尋ねた。
「あっ、聖女様!演習場にドラゴンと見られる生き物がいるのです!」
あっ……姿を消しておいて貰えば良かったわ。うっかりしてたわね。
実菜は、慌てて演習場に入って行った。
「………」
実菜が演習場に入ると、カントラが演習場の上空を急旋回したり、口から炎を吐き出したり、姿を消して、移動してから姿を現したりと、まるで、ショータイムの様な状況になっていた。
しかも、遠巻きに見ている者達が、その度にどよめいたり、拍手したりしているので、心なしかカントラが得意気に見える有様だった。
実菜がいる事に気付いたのか、慌てた様にカントラが実菜の前に舞い降りると、しゅんとしたように頭を垂れた。
「あなたが、こんなにサービス精神旺盛だとは知らなかったわ」
実菜は、目の前の大きな鼻をぺしぺしと軽く叩きながら、呆れた声を出した。
「すまん、暇だったものでな、つい。怖れた者が騒ぎ出しても困ると思ったしな」
姿を消しておけば良いでしょうが!!と、実菜は思ったが、この様子を見てまた周りがどよめいている事に気付いて、それどころでは無かった。
「おお!流石、聖女様だ。あんな大きな生き物を完全に手懐けていらっしゃる」
そんな声まで聞こえて来た。
「不味いわ、注目され過ぎてる。皆には仕事に戻ってもらわないと……」
「我は手懐けられているわけではない。我の意思で主と認めているのだ」
焦る実菜を他所に、カントラが誇らしげに翼を広げ、胸を張る。
その姿に、完全に観客となった野次馬達がどよめく。
「どっちでも同じでしょ……」
「同じでは無い。全く違う。とても大事な事だ」
そう言って、再び実菜に鼻先を近付ける。
再び観客がどよめく。
どうしよう。収拾つかないかもしれない。
と、そこへ「はい!見世物じゃありません!見世物じゃありませんよ〜!!」と、静加が観客に向かって両手でバツを作り、ダメダメアピールをしながら入って来た。
「仕事に戻らないと、サボってるって、チクりますよ〜!クビになっても知りませんよ〜!!」
更に、静加が手を叩きながら追い立てると、渋々といった感じで観客達は去って行った。
静かな演習場に戻ると、静加は実菜達に仁王立ちで向き直った。
「もう、何を遊んでいるのよ!そんな悠長に話をしている場合?」
呆れ顔の静加の後ろにシャーリンが立っていたが、シャーリンはというと、初めて見るカントラに、オの口で見入っていた。
「ごめんごめん、カントラが調子に乗っちゃってて……」
「調子に乗っているとはどういう意味だ!
……ところでミナ、その者が女帝とやらか?」
カントラが、大きな顔をシャーリンに向けた。
急に注目され、シャーリンはオの口を閉じ、緊張した面持ちでカントラを見据えた。
「今回は、協力して頂けるということで……あ、申し遅れました、私は……」
「あ〜、煩わしい事は良い。海龍が待ちくたびれているだろう、我に乗るが良い」
シャーリンの言葉を遮り、カントラがしゃがみ込む。
「やだ、カントラ、照れているの?シャーリン様は美人だものね〜」
「何を言っている?!そういう事ではない!早く行くのだろう?」
シャーリンは、実菜とカントラのやり取りを見ながら、何か言いたげにしていたが、意を決したように「あの……」と口を開いた。
「一度、船に戻らせてもらえないでしょうか?」
シャーリンが言うには、準備がしたいのだそう。
そんな理由で一度、シャーリンが乗せてこられたという船まで戻って来たのだが……。
「……凄い目立つ」
当たり前だが、王宮でなくともカントラは目立つ。しかも、ここは港だ。人目が多い上に、一度ここでカントラは目撃されている。
申し訳ないが、シャーリンの準備が済むまで姿を消しておいてもらうことにした。
カントラは、納得いかない、とでも言うように鼻を鳴らしてから、渋々消えていった。
「急いでいるのに申し訳ありません。
しかし、話には聞いていましたが、あれがドラゴンなのですね。ドラゴンを従えているとは……ミナ様は本当に凄いです。
……昔の話にはなりますが、帝国も龍に守護されていた国だったのですよ」
帝国では、恐らく小さいであろう船に乗船すると、シャーリンは先導しながら、そう口にした。
シャーリンは、その守護していた龍が、実菜が話した海龍であるとは思っていないらしい。
そういえば、その部分は省いて説明してしまったわ。
その説明をしようと実菜が口を開こうとした時、船室の扉が開き、男が顔を出した。
「シャーリン様!!ご無事で……て、あれ?」
シャーリンの後ろに続くのが、見知らぬ者である事に、その男が眉を顰めた。
「案ずるな、他の者は王宮に保護してもらっている。
こちらは、この国の聖女様と、魔導師団の方だ。
悪いが、直ぐ出なければならない。準備をする。
その間、もてなしてやってくれないか」
シャーリンは、男にそう言うと、実菜達に向かって黙礼し、部屋に入って行った。
「へ?え?保護?……あ、すんません。じゃあ、こちらへ」
状況が理解出来てない感じの男は、それでも実菜達を別の部屋へと案内した。
男はソファーに座らせた実菜と静加に、不器用丸出しの手付きでお茶を淹れると、気不味そうに二人に声をかけてきた。
「あの、聖女様って事は……俺等が迷惑を掛けた聖女様って事ですよね?……ここへも、その件で?」
「いいえ、違うわよ」
男はどうやら、その件で踏み込んで来た、とでも思っているようだ。今までの成り行きを知らないのだから致し方無いのだが、この男は果たしてシャーリンの本当の味方なのだろうか。
実菜は、変に詮索してしまいそうになるのを、必死に抑えていた。
「ねぇ、私は魔導師団の静加っていうのだけど、あなたは?」
そんな実菜を尻目に、静加は男に話し掛けた。
「俺はロンっていうんだ」
男は、警戒しているのか、それだけ言うと口を噤んだ。
しかし、静加はそんな事はお構いなしに、更に話し掛ける。
「シャーリン様って、格好良いわよね。凛としててさ……」
「そうなんです!分かりますか?!シャーリン様の格好良さが、あの姿からでも?!」
突然、饒舌になったロンに実菜は呆然としたが、静加は頬杖をついてお茶を飲みながら、うんうんと、相槌を打っていた。
「普段のシャーリン様も、格好良いですが、戦場での大剣を振るうシャーリン様は鬼神の如く……」
「ロン!!……何の話をしているのだ?」
更に語り始めたロンを、部屋へ入って来たシャーリンが止めたが、本気で慕っているのだろうという事は伝わり、心配が杞憂であったことに実菜は安堵した。
「待たせて、すまない」
シャーリンを見ると、皮の鎧を身に着け、大きな剣を背中に背負っていた。
「やはりシャーリン様には、その大剣がお似合いです!」
ロンが瞳を輝かせながら、シャーリンの姿を絶賛したが、彼女は苦笑いで返した。
私事ですが、家の電気が突然、点かなくなりました。
知り合いの電気屋さんが、サクッと直してくれたのですが。
持つべき者は、優秀な職人のオトモダチ……なんつって。
お読み頂き有難う御座いました。




